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裏返ったパンツが私に教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:木暮裕加里(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「ねえ、脱いだパンツを裏返しにしたまま洗濯機入れるのやめてよ。
干すとき、毎回裏返さなきゃいけないんだよ。手間なの、わかる?」
 
そう文句を言うと、コタツに入ってテレビを観ていた旦那は
バツの悪そうな顔をしてヘラっと笑った。
 
いつもそうだ。裏返ったパンツだけじゃない。
洗面に残った髭の残骸、洗い忘れのお皿たち、ソファに脱ぎっぱなしの靴下。
私は、旦那の行動のすべてにイライラしていたし、目を光らせていた。
 
ぶつぶつ言いながら、洗濯を干していたら
テレビを見ていた彼が、ボソっと独り言のように話し始めた。
 
「自分だって同じだよ。出したもの、
出しっぱなしにするじゃん。ちょっとは片づけなよ」
 
プツン。
私の中の何かが切れた音がした。
 
手に持っていた濡れた洗濯ものを旦那に投げつけ、
ドスンドスンと大股で歩き、そのまま寝室に駆け込んだ。
 
そのまま勢いよくベッドに突っ伏し、枕に顔をうずめる。
ドクドクと高く鳴る心臓の音が聞こえる。血が昇った顔が熱い。
耳を澄ませてみても、旦那が追いかけてくる様子はない。
呆れている顔が目に浮かぶ。
 
ショックだった。
あまり文句を言わない旦那だからこそ、
心の中にずっと不満を持っていたのだろう。
 
なんで言ってくれなかったのか。さらに顔が熱くなるのが分かった。
 
このまま数時間、冷戦は続き、どちらから謝るわけでもなく
お腹がすいた私が寝室を出て、自然にいつもどおりの生活に戻る。
 
最近の我が家のよくある光景だ。
 
いつからだろうか。
結婚して1年、一緒に住んで2年。
同棲を始めたあの頃、彼の裏返ったパンツを洗うことさえ楽しかったあの頃。
脱ぎ散らかされた靴下を、「もう、しょうがないなあ」と文句を言いながらも
笑いながら拾い集めていたあの頃。
 
いつからだろうか。彼がだらしなくなったのは?
いや、もしかして彼は以前から「だらしなかった」のではないか?
 
彼は変わっていないとしたら、何が変わったのか?
答えは簡単だった。
 
私だ。私が変わったのだ。
私の彼に対する接し方が変わったのだ。
 
「奥さんは少しくらい気が強い方が、夫婦関係は長続きするからね!」
 
そう結婚式で、親戚のおばちゃんに言われた。
私の両親を見ても、強気な母親と無口で優しい父親。
その関係性こそ「夫婦たる形」だと信じていた。
 
でもなんだか違う。
 
私の両親は、確かに母親は強いけれど、とっても仲が良い。
休日は犬を連れて、2人でいろんな場所に遊びに行く。
言い合いはするけど喧嘩なんてほとんどしない。
 
私達と何が違うのだろう。
 
私たち夫婦のことを両親に相談するのはなんだか恥ずかしくて
両親を観察することから始めてみた。
 
朝、早く会社へ行く父は1人で朝ごはんの支度をする。
コーヒーを水筒に入れ、パンを温め、
帰りにジムに行くための服を用意し……。
 
その時、夜型の母はまだ深い眠りについている。
本来、妻というものは旦那の朝ごはんの支度をするものではないのだろうか?
夫より早く起きて、化粧をして……さだまさしの歌にもあったように。
 
「なんだ、結局私の母も私と同じだ! きっと父が優しいだけなんだ!」
 
そう思った。
 
だったら私も、旦那に変わってももらえばいいだけ。
怒らせないような、完璧な旦那になってくれればいいだけの話だ!
 
そう思った。
 
自分の父をちょっと哀れにも思いながら、ふと父に質問をしてみた。
 
「お母さん、朝も起きないし何にも用意してくれなんだね? 嫌にならないの?」
 
すると父は、ガハハと笑いながらこう言った。
 
「夜のうちにね、コーヒーやパンを朝温めるだけで良いように
お母さんがセットしてくれているんだよ。ありがたいよね」
 
びっくりした。
 
きっと、私の旦那のように、父も不満を持っているものだろうと思った。
 
だけど違った。
 
私と同じ、気の強い母だけど、母の愛情はきちんと父に伝わっていたのだ。
 
母親も朝から晩まで仕事をしている。
どれだけ忙しくても、いつも父の朝食べるパンを買うのを忘れない。
口では父に強く言うこともあるけど、もっと深い部分で想いあっているのは分かる。
 
きっと夫婦には様々な形があるのだと思う。
ただコーヒーとパンをセットするだけを良しとしない旦那も居ると思う。
 
「俺より遅くまで寝ているなんて、主婦失格だ!」
 
なんて言う人も居るのかもしれない。
 
でも少なくとも、私の両親はもう40年も一緒に生活できている。
それが、何より夫婦がうまくいっている証拠なのではないか。
 
母親に比べ、私はどうだろうか。
彼を変えることばかり、考えていた。
「どうして旦那はいつもいつも……」と不満ばかり口にしていた。
 
そんな私は、彼に何をしてあげられていただろうか。
仕事を頑張ってくれている彼に、
最近感謝を伝えたのはいつだろうか。
 
最後に「ありがとう」と言ったのはいつだろうか。
 
もしかすると、ありがとうと言うタイミングは「今」なのではないだろうか。
 
そのことに気づけた私は、もしかしたら変われるのかもしれない。
 
裏返ったパンツも、愛おしく思える日がまた来る気がした。
 
 
***

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2017-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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