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メディアグランプリ

生産性を上げたければ落ち葉を拾え


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Minami(ライティングゼミ・平日コース)
 
私が通っていた高校には弓道部があった。
30年以上も昔の事、「アイコ16歳」というテレビドラマが流行った。
弓道部を舞台にしたドラマの影響を受け、弓道部への入部希望者は100名を超え、私もその中の一人だった。ところが体験入部が終わった1か月後には3名になった。理由は簡単、厳しかったからだ。

テレビドラマで見るような世界とはかけ離れていた。
憧れの袴は夢のまた夢、白い体操着に制服のスカート、頭には鉢巻を巻くスタイルだった。その鉢巻もカチューシャのようにかわいらしく巻いてはいけない。まるで丑三つ時にわら人形を打ちつけにいく女性が頭に巻いているスタイルがルールだった。自分たちは練習できず、先輩が練習するための下働きに明け暮れる日々が過ぎていった。

先輩が放った矢のそばに陣取り、結果を伝えるのは新人の重要な役割だった。大声で「あぁ~たぁ~りぃ~」と叫ぶ、外れたときは小さな声で「ざんねん」と言う。先輩達が次々と矢を放つとどの順序だったがわからなくなってしまうので、後ろに組んだ両手を使い、右手は当たり、左手ははずれ、それを後ろで交差しながら絶叫していた。

一番鍛えられたのは、そうじだった。
お昼は1時間しかないが、この時間に弓道場の床、部室、弓・矢の磨き、芝に落ちているゴミの清掃を行うことが日課だった。先輩は15名いたが、私たちは3名しかない。3時間目が終わった休み時間にお弁当を食べ、4時間目のチャイムが鳴ったら、弓道場に超ダッシュ、分担してそうじを行った。誰かが早く終われば誰かを手伝うのは自然なこと、私たち3名はあうんの呼吸で動き、何とかやり遂げていた。決められた通りにできていなかったり、手順の一部を忘れれば連帯責任。40分正座の罰も待ち受けていたから必死だった。

夏が過ぎ秋を迎えたころ試練が待ち受けていた。
「落ち葉」だ。木々で囲まれている弓道場の芝は、秋になると落ち葉でいっぱいになる。これが一人の担当では取りきれない。ゴミ一つ落ちていない芝の状態を目指しているのに拾い切れない。それどころか、お昼に完璧に拾っても部活が始まるころにはまた「落ち葉」が落ちている。そしてお決まりの連帯責任の正座が続いた。

「そうじ」と侮るなかれ、だ。
どうしたら、先輩と比較して1/5しかいない人数で、1時間という限られた時間で、正座を免れるためにそうじを全うできるのか。最初からハードルが高いとあきらめてしまいそうだが、夏にはできていたことが「落ち葉」のせいでさらにハードルが上がった。

人・時間・利益と考えれば、ビジネスそのものだ。

生産性と品質の両方を追いかけ始めた高校一年生の秋。
この状況を何とかしないと焦った私たちは、部活が終わった後に学校近くの駄菓子屋で、セブンティーンアイスを食べながら、緊急会議を開いた。その話し合いは、真剣そのものだった。

「体育館で見かけたんだけど、巨大な扇風機で枯葉を飛ばすというのはどう?」と三上ちゃんが話し始めたのをきっかけにどんどん意見が出てきた。「家にあるゴミ袋を切ってガムテープでつないで芝に引いておくのはどう?」と私は言った。いくつかの意見が出て、「いいね」というものの決定打がないまま時間ばかりが過ぎていった。しばらくの沈黙の後、きぃちゃんが「もう周りの木切っちゃう?」と真顔で言った。一瞬、3人のまじめな視線がぶつかり合った沈黙の後、「ないよね~」と大笑いした。

追い詰められると人間は知恵を絞り始める。
結局、私たちが出した答えは、部活が終わった後にできるそうじはしてしまう、落ち葉拾いが必須なら3名の総力戦で戦うしかない、というシンプルな結論だった。意を決し、主将である一番怖い先輩に伝えに行くと、「わかったよ、明日から私たちも手伝う」と言ってくれた。

私たち3名は拍子抜けしたが、先輩へ心から感謝した。今までやり切っていたことを手伝ってもらうのは正直嫌だったからだ。だから一切手を抜かず、今まで以上に集中してそうじをした。弓道部にいることを忘れるほど「落ち葉拾い」と格闘した。

そうして初めての冬を迎えた12月、ご褒美が待っていた。はじめての袴、自分の矢と弓、鉢巻もカチューシャ巻が許され、テレビドラマで見た世界が待っていた。私たち3名のチームワークは抜群で、その後の試合にも効果を発揮した。

私たちは、見習い期間中のそうじを通して、段取りとチームワークを教えてもらった。よく武道で言われる心・技・体の「心」を学んでいたのだと思う。そしてこの修行時間がなければ、スキルやテクニックに走り、大切なものを学べなかっただろう。

ディズニーランドのそうじをする役割の人をカストーディアルという。
配属先がこのカストーディアルに決まったある新人は落ち込んで「私はゴミを拾うためにここにきたんじゃない、もうやめたい」と言った。上司は、「ディズニーランドに来てお客様と最初に会うのがあなたになる、お客様に夢を与えることができる仕事」と伝えたところ、その人は退職せずに働き続け、伝説のカストーディアルになったという逸話がある。

今、人手不足が深刻だ。
逆に考えれば景気が良くなってきており、売上・所得が上がるチャンスにいる。何かを通して「心」を学ぶことができれば、その働き方はずいぶんと変わってくる。高度経済成長期は知らないが、その時点も深刻な人手不足だったそうだ。その危機を乗り切ったのが生産性向上であり、人間の知恵だ。

人手不足解消の鍵は、今いる従業員の知恵と言えるだろう。
いろいろな制限があるほうが人は燃えるのだ。チームが団結し斬新なアイデアが出てきやすい。今でも落ち葉を見ると拾いたくなるが、あの頃を思い出しながら、2018年は生産性向上に取り組もうと思っている。
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2018-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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