アメリカで一人になったらノドをあけて歌おう ~一発で通じた発音のしかた
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記事:山内英治(ライティング・ゼミ平日コース)
大人になってから、語学を学ぶのはとてもキビしい。
ネットの世界で20年働くうちに、暗記する、という動作をすっかり捨ててしまっていた。パソコンで検索してすぐ出てくることは覚えないという訓練をしすぎたのだ。すんなりと覚えていく若い人たちを横目にみると、とてもツラい。効率をもとめて英語学習の本を探すと、「1日3時間以上勉強せよ」などと書いてある。どうやって3時間も……相当な根性が必要だとわかって、なえる。
10代のころは、英語の歌をよくうたっていた。
バンドブームまっただ中、男の子はみなギターがうちにあって、洋楽がよく流れるFMラジオの放送を、カセットテープに録音して必死で聞いた世代である。大学生になるとバンドを組んで、本屋で買った楽譜のコピーを見ながら、一生懸命練習した。
当時はなぜだか歌詞の意味にまったく興味がなく、単なる音として聞いていた。オームのようにマネをして歌っていただけだ。いまは意味がわかるので、当時の歌詞をふと思い出したりすると、一人で赤面してしまうほど恥ずかしい歌詞もある。
社会人になってバンドもやめてしまい、時間がたつにつれ、英語にふれる機会がなくなっていった。ネット業界でもアメリカ発の技術はすばやく日本語に翻訳されるようになり、英語を使うことはどんどんなくなっていった。専門用語はカタカナとして理解すればよくて、何かを伝えるための英語は使わなくなった。
そんな中、人事異動とともに突如アメリカで研修を受けるというチャンスがめぐってきた。英会話は、ベルリッツの一番下のランクをやっとの思いでクリアしたレベルだった。TOEICというテストでは、ビジネスには860点必要(当時)と言われていたが、自己ベスト725点。部長と話すと、
「なんとかなるでしょう!」
と、軽い感じで1ヶ月半の1人アメリカ滞在が決定した。
それでも、オフィスの中はまだよかった。
ネットの技術はほぼすべてアメリカ発なので、プログラムなどの専門知識は万国共通でそのまま使える。周りの人たちは英語のうまくできない日本人だということは理解してくれているし、メールでのコミュニケーションもできるので、英語がすぐに口に出てこなくても、英語の発音がかなり下手でも、カバーする方法があった。教えてもらう立場だったので、メモっておいてあとで意味を考えることもできた。
キビしかったのは、むしろ日常生活のほうだった。
マクドナルドでは、セットの番号を言えばよかったので、指を3本たてて「ナンバースリー!」と言えば済んだが、普通のメニュー名を言うと、ことごとく通じなかった。サラダ屋さんで「SouthWest」と3回言っても通じなかった。スーパーではレジに行くと「Hello」と声をかけてちょっとした世間話しをしなければならなかったが、こちらの言っていることはあまり通じていない感じだった。
さらなる難関だったのは、セミオーダー風の店だった。アメリカにはメキシコ料理の店がたくさんある。日本にもある「サブウェイ」のように、ショーケースを見ながらいろいろな野菜や肉を順番に選ぶと、その場でつくってくれるシステムが多い。まず最初に入れ物を選ぶが、「Bowl」と言っても通じなかった。マメの色は「White」「Brown」の2択なのに、「Brown」が通じなかった。ついに、指差しですべて済ませる技術を覚えると、週に1~2回は通うようになった。安くてボリュームがあり味もよかったのだ。
逆に、日常生活で相手の言いたいことがわからない、ということはあまりなかった。大人なので、こういう場所でこういう場合にはこういうことを言われる、ということがだいたい想像がつくのだ。チップをどうやって払うかとか、美術館や博物館の入り口で寄付を要求されるとか、日本でなじみのない風習をのぞけば、とまどうことはあまりなかった。だからますます、こちらの言っていることが通じない、一方通行のコミュニケーションがツラかった。
研修先のオフィスには、現地で20年働いている日本人のプログラマが1人だけいた。彼に愚痴をこぼすと、自分もアイスクリーム屋さんで「ストロベリー」と注文しているのに「チョコレート」が出てくるということが何年も続いたと聞かされ、少しなぐさめられた。みな経験することらしい。
研修も終わりに近づいたある日、アメリカ人は声の出し方が違う、ということに、ふと気がついた。
個人差はあるものの、ほとんどのヒトが、ノドを縦に広げる感じで、声を低くひびかせて話すのだ。人種のため、つまりカラダの構造が日本人と違うからだろうと、なんとなく思っていたのだが、よくよく聞いてみると、アジア人、黄色人種の人たちも、アメリカ人は同じような発声をしていた。
文化的な違いなのかもしれない。アメリカ人は比較的小さい頃から、大人になること、自立することを求められる。日本人は、若くいること、幼い感じのままでいることが、むしろよいこととされる。だから、無理に声を低くする必要はないのだが、アメリカ人はおそらく幼いころから大人っぽい声を出すよう仕向けられるのではないか。
「ん? ということは、これはマネできるんじゃないか」
昔歌っていたときのように、ノドを広げて声を鼻までひびかせる。毎日聞いていたから、気がついたらカンタンにマネできた。少し気恥ずかしいが、とってもそれっぽい発音になった。
これはためさねばならない。
ランチタイムになって、近所にあるいつものメキシカンに行く。
指差しをぐっとガマンして、おそるおそる言ってみた。
「Brown」
なんと、茶色のマメをすばやくすくってくれたのだ。喜びをかみしめながら、いつもよりおいしいランチをいただいたのだった。
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