話を食べる生き物
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記事:猪瀬祥希(ライティング・ゼミ平日コース)
先日、宇宙飛行士・若田光一さんの講演に行った。
現在の国際宇宙ステーションで、同時に滞在できる飛行士の数はわずか6名だということ。
滞在中の仕事は多岐にわたり、例えば、世界中の政府や企業から依頼される様々な分野の実験、宇宙ステーションの維持管理、地球からの物資の受け取りなどがあること。
そのため、一人がいくつもの分野の専門家として訓練されていること。
閉鎖空間で数少ないメンバーと共に仕事を成功させるには、技術的な専門知識はもちろんのこと、人間関係とチーム作りも同じくらい重要であること。
若田さんは、このような話をときおりユーモアや例え話を交えて、わかりやすく伝えてくれた。
そして、これまで見聞きした講演者の誰よりも、一つひとつの仕草や言葉が丁寧だった。
「これ、美味しいね」
講演後、若田さんの話を一緒に聞いた知人と二人で、会場近くのレストランで少し遅い時間帯の夕食を食べた。食事を食べることの最大の効果は、言うまでもなく空腹が満たされることだろう。二人とも、次々に提供される肉料理を夢中になって食べた。
食事中の話題は、さっき聴いたばかりの若田さんの話だ。
さっき聴いたばかりの話を肉を食べながら話しているとき、ふとある考えが頭をよぎった。
人間という生き物は食べ物だけでなく、人の話も食べて生きているんだな、と。
特別な事情がない限り、身体の健康を維持するために食事は欠かせないものだ。
ちゃんとした食事を食べれば、病気になりにくい身体になり、毎日を健康に過ごすことができる。でももし、身体に悪いものを食べ続けてしまうと、逆のことが起きる。
だから、なるべく身体に良いとされる良質なものを選んで食べたい。毎食それを実現することは難しいかもしれないけど、理想があるに越したことはない。
食事が身体の健康維持に役立つのと同様に、人の話は心の健康維持に役立つ。
自分の心が喜ぶような話を聴けば、それは心の安定をもたらしてくれる。不安や心配が軽減され、前向きに物事に取り組めるようになれる。そのような状態なら、きっと心の病気になりにくくなり、さらに心が喜ぶ話が集まるという好循環が生まれるに違いない。
一方、人の噂話や悪口、あるいは愚痴といった話ばかり聴いていると、その逆のことが起きるだろう。
また、食事には空腹を満たす他にも重要な役割がある。
それは、人間関係をつくること。
美味しい料理を食べると、自然と笑顔が生まれる。その笑顔で場が和み、一緒に食べている人との距離が縮まるのだ。
いい話や楽しい話を聴いたときに、黙っていられずに周りの人につい話してしまった経験はないだろうか。あるいは、そういう話を嬉しそうに話す相手の顔を見て、幸せな気分になった経験はないだろうか。いずれにしろ、いい話が伝播していくときには、相手との距離が縮まる効果があるものだ。
人間は、話を食べる生き物。
だから、食事を選ぶように、自分に聴かせる話を選ぶ。それは、とても大切なことなのだ。
もちろん、食事に好みがあるように、人の話にも好みがあるだろう。
でも聴かないうちから拒絶してしまう、「聴かず嫌い」はもったいない。もしかしたら、それまでの価値観が見事に打ち砕かれてしまうような、そんな出会いがあるかもしれないのだから。
何が嫌いなのか。それがわからないと、何が好きなのかもわからない。
食わず嫌いの人生では、自分は何が好きで何が嫌いなのかは、わからないままだ。
挑戦した結果、もう二度と味わいたくないと感じることもあるだろう。
でもそれは、その先の「好き」を味わうための過程に過ぎないのだ。
それは、料理でも人の話でも同じだ。
だから、少しでも興味があるなら味わってみるといい。味見程度でもいい。
味わった結果、自分に合わないと判断したときにやめればいいだけのことだ。
人間の身体は、悪い食べ物だと判断すれば吐き出す仕組みが備わっているではないか。人の話だって、聴きたくない内容なら聴いているふりをして、聞き流しているはずだ。
だから料理にしろ人の話にしろ、味見することを怖がる必要は何もないのだ。
「宇宙飛行士になったきっかけは、何ですか?」
講演の最後は、来場者の質疑応答の時間が設けられていた。若田さんは、わざわざ檀上から降りて、質問した人の目の前に移動する。そして、相手の目を見ながら「新聞に掲載されていた宇宙飛行士の募集広告でした」と、答えた。
興味があるなら、まずやってみる。
時間とかお金とか体力とか、言い訳を考えている暇があるならまずは行動する。
好き嫌いを判断したり、その理由を考えたりするのは、行動してからでも遅くない。
これまで食べたことのない美味しい肉料理を頬張りながら、そんなことを思った夜だった。
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