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たずねてみると意外な答えが返ってきた趣味のこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吹田ログ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「あなたの趣味はなんですか?」
この質問にはいつも困っていた。会話が途切れると、こんな質問がよく出てくる。あいても、何か面白いことを期待して質問してくる。しかし僕にはこれと言った趣味というものはなかった。いや、正確には気づいていなかった。毎日当たり前すぎて、言われるまで気づかなかったのだ。
趣味があれば、会話を広げるキッカケになるし、人に面白く説明したりすればその場をさらに盛上げることもできるだろう。その人からは想像できない意外な趣味を持っていれば、それまた意外性だけで会話をひっぱれるものだ。ただ、別に会話のために趣味を持ちたいわけではない、没頭できる何かを持っているのはとても素敵なことだし、羨ましい。趣味によってはお金も必要なものもあるだろうし、言えない趣味なんていうのもあるだろう。ただ一介のサラリーマンにそんな時間もお金の余裕もない、僕は一生趣味を持たない人間になってしまうのだろうか、ただの仕事人間になってしまうのだろうか。そんな不安もどこか頭の片隅に、ちらついていたような気がしていた。
 
ある日妻にきいてみたのだ。趣味が無いから、何か始めたいんだけど……。
すると意外な答えが返ってきた。
「趣味って、あるじゃない? 料理でしょ?」
料理? 料理が趣味? あ、そうなの? あ、そうかなるほど……。うーん、でも毎日のことだしなぁ。
そう、僕はほとんど毎日の家の料理をつくっていた。だから趣味と呼ぶような感覚ではない。二人目の子供がができると多少その回数は減ってはきていたが、今でも朝食、土日の3食、常備菜などは仕込んでいる。
「どこらへんが趣味と思うの?」とまだ腑に落ちない僕はさらに突っ込んできいてみた。
「カタマリ肉のローストじゃないかしら?」
あそうなんだ。へー、でもどこがだろうか。僕にはわからなかった。
「カタマリ肉焼いてる時点で、普通じゃないんだけど、焼き色とか、中への火の入り具合とかかなりこだわってるよ?」
いや自分では特にこだわってるわけではなくて、ごく当たり前の所業なわけで……。
「だーかーら、その時点で趣味って言っていいと思う。しかも、そのためにハーブを何種類も育てて、庭から摘んできたりして肉に挟んで、それってさ、普通じゃないでしょ? 完全に趣味の領域よ」
そ、そうだったのか! 普通じゃなかったのか! 僕は砥石でぶん殴られたような衝撃が走った!
そうだったのだ。あまりにも日常になりすぎていて、もはや趣味として感じなくなっていたのだった。自分では趣味を持たないつまらない人間だと思っていたが、なんだかずいぶんこだわりのある趣味を持っているように思えてきた。全く気づかなかった。料理が趣味。いい響きではないかぁと感傷に浸っていると、妻はさらに続けた。
「……それと、朝から、煮干しと昆布で出汁とって、味噌汁作ってる一汁一菜な男そんなにいないと思う、あとオーブンでホットケーキ焼いてフルーツでデコレーションしてヨーグルトソースかけてその上、庭からミントを摘んできて飾るオトメな男子そんなにいないと思う。いや女性でもいないと思う」
そうだったのかー! 毎日のこと過ぎて、わからなかった。褒められてんのか、変態扱いされているのか、もうよくわからないが、とにかく趣味と言っていいということで妙に嬉しくなってきた。
 
ところが、趣味は料理と答えられるようになると、喜びも束の間、次の質問が待っていた。
「得意料理は何ですか?」というものだった。
何が得意料理ですか? ときかれても、特に無い、一番困る。レシピはネット上にあふれるほどあるからなんだってできるのだ。ましてや看板料理を背負って店を出してるわけでもないので、そこまでではないものに得意ですと答えるのがとても気恥ずかしい。バスケが趣味だったら、どんなシュートが得意ですかとか聞くのか? いや絶対その質問はない。これは料理に特有のとても聞きやすい質問なのだ。何か小難しい豪快な料理や手の込んだ料理を期待しているのだ。
じゃぁ何か気の利いた答えを用意ぐらいはしておきたいが、今のところなそんなものはない。ならばこの際つくっておこう。「家族の笑顔が見える料理です……」クサイ、徹底的にクサイ、クサヤの干物よりクサイ。そんなクサイ答えはいやだ。プロの料理人じゃないし、店を越えるほど突出しているわけでもない。じゃぁどんな答えだろうか。自分ではわからないので、またも妻にきいてみた。
「料理っていうか、味噌とか?」
僕はハッと目が覚めたように驚いて妻を見た。まるで唐辛子を目に突っ込まれたように目を見開いた。
「っていうか、毎年ミソを10キロも仕込んでいる人いないから。得意とかじゃないけれど、ラッキョウ漬けたり、梅干し漬けたり、白菜漬けたり、パン発酵させたり、普通じゃないから……」と妻は続けて、
「醗酵でいいんじゃない?」と最後は半ば呆れたような顔で締めた。
なるほど!!! それは答えとして、意外性があってちょっと面白い。
醗酵するものにハマったのは、市販のものでは飽き足らず自分で作らないと気がすまなくなってきたのだ。子供も生まれ安全なものというのもあったが、何しろ自分で、それも化学調味料を使わずに美味しくできるところに惹かれたのだった。
僕は答えを用意できて、いつの間にか自分の趣味に誇りを持てるようになってきていた。
 
僕が料理を始めたのは、一人暮らしの学生の頃からだった。
はじめは腹いっぱい大好きなパスタを食べたいとか、ベチョベチョのチャーハンはいやだとか、とにかく、毎度うまいものを食べたかったのだ。どうせ食べるなら美味しい方がいいし量が多い方がいい、と自分を喜ばせるためにつくっていたのが始めの頃だ。
だが結婚すれば、喜ぶ相手が増えた。喜んでもらいたくて、どんどん内容も凝ってきてエスカレートしてくる。二人の友人や家族を呼べば、おもてなしのためにフルコースでつくるし量も増える。家族が増えれば、子供用の味にしたり、食べやすい大きさにしたり、素材にも気を使う。そんなライフワークだったものがいつの間にか趣味のような、そして日常のようなものになっていたのだ。
 
どこからが趣味でどこからが家事で、などという境はない。ただ単純に好きだからやっている。それを趣味と呼ぶのなら、余計なお金もかからない素晴らしい趣味を僕は既に持っていた。
だが、何がいいって、みんなが一心不乱にバクバク楽しく美味しく食べているのを見られるのがいい。
そして、クサイと思ったが、やはりみんなの笑顔が見えるのが料理の醍醐味なのだ。
 
 
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2018-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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