ベンチャーの採用と、美味しいお寿司。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:山田裕嗣(ライティング・ゼミ平日コース)
ベンチャー企業は、常に何かが足りていない。
「お金」がないこともあれば、「時間」や「人脈」「実績」が足りないケースもある。何に一番困っているかは、そのときどきで移り変わっていく。
ただ、どんな企業でも、どんな時でも、必ず「足りない」と頭を悩ませるものがある。
それは「人材」が不足していることだ。
良い人材さえ揃っていれば、お金も時間も人脈も、どうにか解決できることが意外と多い。そのため、ベンチャーにおいて、採用活動の上手さは企業の成長の質やスピードを左右する、非常に重要なテーマである。
この「上手に採用をする」ことと、「最初から最後まで美味しくお寿司を食べること」というのは、実はとても良く似ている。
先に断っておくと、「優秀な人材を採るには美味しいお寿司をご馳走しよう!」とか「SUSHI Partyをやって人を集めよう!」とか、そういうことが言いたいわけではない。それはそれで大事なんだけど。
今回は、もう少し俯瞰して「上手に採用する」ことを考えてみたい。
まず、「美味しくお寿司を食べる」というがどういうことか。もうすぐ5歳になるうちの娘を例に挙げてみよう。
うちの娘はお寿司やお刺身は全体的に好きなのだけど、特にイクラは大好物。イクラがあると、ちょっと手に負えないくらい狂喜乱舞する。ただ、それだけ好きなイクラでも、さすがに4貫も5貫も食べ続けるのは見たことがない。どんなに好きでも、やっぱり味の変化があるほうが美味しいらしい。
あとは、お腹の具合もそろそろ丁度よくなってきたなというときに、最後のシメとして大盛りのちらし寿司とか出しても、全く食いついてこない。その頃には食べるのに飽きて、大好きなアンパンマンのオモチャが気になり始めている。
こんな風に、何に対して「美味しい!」と反応するのかは、「お腹の空き具合」や「食べている順番」によって、微妙に、繊細に、変化し続けている。
そして、ベンチャー企業で「良い採用をする」ということも、この微妙で繊細な感じが、とても良く似ている。
ベンチャーにおいては、事業も組織も、めまぐるしいスピードで変化し続けていく。
ある1つの案件、ある1社の顧客に巡り合ったことで、事業計画が根底から覆ることもある。良い意味でも、悪い意味でも……。
もしくは、事業がガラッと変わったために、それまではエース級だった人材が、ある日突然「組織のお荷物」になってしまうことだってある。逆に、発揮されていなかった才能がある日急に開花する「サクセスストーリー」みたいなことだって起こる。
他にも、想定を越えてお客さんから注文が来て手が回らない、大手企業が格安で似たようなサービスを始めた、大事なメンバーがインフルエンザで1~2週間は休みになった、などなど、色んな「事件」は毎日起きて、そのたびにちょっとずつ状況が変わる。
この微妙な変化を察知して、最適なタイミングで、最適な人材を採用できることが、「上手な採用」につながっていく。
言い方を変えれば、変わり続ける状況の中で、「今の自社にとって」の良い人材をきちんと理解していることだとも言える。
一例を上げれば、イクラを4貫も5貫も続けて食べないように、既に居るメンバーと同じタイプの人材ばかり集めても、チームは強くならない。事業がこれから向かっていく方向性を理解した上で、どんな「異質な強み」を補強することが必要になるかを見極める必要がある。
また、事業を早く伸ばしたいという意気込みから一気に人を採用することもある。そのときに、組織の側が「お腹いっぱい」で受け入れる余力がなければ、生産性もモチベーションも下がってしまう。今の自分たちにとって「適正な採用スピード」を保つことも重要だ。
そうやって、目の前で日々起こる色んな変化と、その先に実現したいことの両方を見据えながら、採用は進めていかなければならない。
では、どうすれば「上手な採用」が実践できるのか?
万能薬となる「絶対の正解」はないが、心がけるべきポイントはいくつかある。
一つ目は、「最新の状況」を常にアップデートしておくこと。
経営者の立場であれば、現場で起きている微妙な変化にキャッチアップすることであり、採用担当者であれば、経営陣が考える方針の変更や、その前提にある問題意識や考え方をきちんと知っておくこと。
二つ目は、人材の「伸び代」を重視すること。
過去の経歴が華々しいと、その人材は魅力的に見える。ただ、それまでに培った経験や実績が、状況が変わった中でどれだけ活かされるかは分からない。そのため、「過去の蓄積」だけではなく、「未来の伸び代」を見極めることも必要だ。
三つ目は、逆説的だが、組織の中で「変わらないこと」をぶらさないこと。
企業のビジョン、ミッションや、大切にしたい価値観は、基本的には変わらない。ど真ん中で大事にしたいこういった思想や価値観に深く共感している人材は、たとえ状況が変わったとしても、その変化に合わせて活躍する場所を自ら見つけられる可能性も高い。
そして、最後の最後、どうやって優秀な人を口説き落とすかというと、そこはビジョンに対する共感や、口説いている人の熱意や熱量といった一対一での人としての「つながり」が最後の決めてになったりする。
そんな深い話をするときであれば、奮発して「美味しいお寿司をご馳走する」というのは、それはそれで、やっぱり悪くない。
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