仮想通貨天狼コインの使い方《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中野 篤史(プロフェッショナル・ゼミ)
うちの親父、武雄は心臓にペースメーカーが入っていますが、いまだに大酒を飲み、ハイライトをぷかぷか吸っています。節制ができず、「毎日、毎日、飲んだくれて!」と、母親の里江(さとえ)から、やっつけられてしまっています。これは山梨の実家では、私が幼い頃から変わらない光景で、もう40年以上つづく立派な伝統行事とも言えます。今年武雄は74歳になりましたが、二人の行事は多分死ぬまで続くでしょう。ちなみに、親父を「武さん」と呼ぶと、「武蔵みたいだな」といって喜びます。残念ながら剣豪にはなれませんでしたが、酒豪にはなれたようです。
武さんの話は、これからの時代に現れてくる職業? 「百姓2.0」の話につながっていきますが、その話をする前に、百姓の原型である百姓1.0の武さんの話をさせて頂きます。そして、最後にはなぜか天狼院のビジネスの話へと展開していきます。
早速ですが、武さんの趣味は畑仕事です。近所に25mプール半分程の広さの畑を借りて、えんどう豆やら、トマトやらを育てています。取れた野菜は、家でも食べますが、町の小さな共同販売所で売ったりもしています。武さんは、販売所に出ているときは、自分で売り、自分でレジ打ちもします。右手の人差し指で、ポチポチとレジを打つ様は、危なっかしいかぎりですが、彼のその人柄ゆえか、お客さんをほのぼのとした気分にさせてくれます。
それから、武さんは実家のガレージを自分で改装して、秘密基地のような場所をこしらえています。里江に怒られた時は、そこへ逃げ込みます。1人テレビを見ながら、タバコをふかすのもこの場所です。
また、趣味なのか、なんなのかわかりませんが盆栽も育てています。基地の棚にはそれら盆栽が並べられていて、欲しい人がいれば(多分いないと思いますが)、言えば売ってくれると思います。
そんな武さんですが、定年までは大手の時計メーカーに勤めていました。団塊世代のサラリーマンです。武さんは、サラリーマンも農業も盆栽も日曜大工もいろいろやる人なのです。基本自分でやる。この武さんの百姓スタイルは、小田原の百姓の家に生れ落ちた武さんにとって、自然と染み付いた性なのでしょう。
百姓というと農民をイメージする人も多いと思いますが、実はそれだけではありません。百姓は、百の姓(かばね)を意味し、一般の人々を指す意味もあったりします。また、百の仕事をこなす人という意味もあります。それから「百姓をする」という、動詞として使うこともあります。昔の人は学校の先生も、お坊さんも、百姓をしました。そういう意味では、百姓とは職業というよりは働き方に近いです。もっといってしまえば、様々な仕事をこなすという在り方そのものとも言えます。
そして、これから世の中は百姓の時代へ移っていきます。名づけるなら「百姓2.0」の時代です。それには2つの側面があって、世の中の人々の働き方が変化してきたことと、それを可能にするテクノロジーが進んできたことによります。
そのポイントとなるのが、最近みなさんも良く耳にするビットコインやブロックチェーンといわれるものです。ああ、大丈夫です。小難しい話をしようってんじゃありません。この言葉を聞いただけで、アレルギー反応を起こして耳にふたをしてしまう人も少なくないはずです。よくわからない人は、どうかわからないままにしておいてください。それでも大丈夫です。世の中の流れが進めば、知らないうちに使うようになっていますから。
ここでちょっと思い出してみましょう、インターネットが普及し始めた頃を。当時も同じような状況ではなかったでしょうか? その頃、ネット通販は「こんなの、普及するわけがない」と言われていました。私だって始めはネットで買い物をする方法など、よくわかりませんでした。それをするには不安というより、むしろ恐怖すら感じていたと思います。それが今ではAmazonで、サクサクと買っています。一方では、ネット通販の裏側の決済システムのことなんて、これっぽっちも理解していません。それでも、ショッピングは出来るのです。
おそらく、仮想通貨のビットコインも同じなのです。うわさの仮想通貨取引所、コインチェックの事件があったりして、仮想通貨って「ちょっと怪しい」とか「危ないんじゃないの?」という見方が大半かと思います。私も今はそう思っています。しかし、世界的な潮流としては、もう逆らえない流れがきているように見えます。だから仮想通貨のビットコインのことも、裏側の仕組みのブロックチェーンことも、よくわかっていなくても大丈夫です。おそらく、気づいたら使っていたという状態になっていますから。
例えば、エストニアという国があります。この国はテクノロジー先進国を目指して、電子居住権を外国人に与え始めています。そこでは、エストコインという仮想通貨が発行され、ネット上の自国民が、その通貨を使えるようになる予定です。もっと身近なところでいうと、琉球コイン(仮)の構想が沖縄で始まっています。これは、沖縄県が独自の仮想通貨をつくって、観光客を呼び込もうという目論見です。琉球コインを使うメリットとして考えられるのは、沖縄の商品やサービスが現金で買うより安く手に入ったり、琉球コインでしか買えないモノやサービスが出てくると想像されます。
いわば、既存の経済圏とは別に、小さな経済圏をそこに出現させることになるのです。
もし仮想通貨がわかりにくければ、Tポイントみないなものだと思ってください。これはTSUTAYAを運営するカルチャーコンビニエンスクラブという会社が、独自で発行しているポイントです。Tポイントはコンビニでも使えます。ほらね、知らない間に使っていたでしょ。別にTポイントの仕組みについて、詳しく知っている必要はないのです。
じゃあポイントと仮想通貨の違いは何ですかと聞きかれれば、一番の違いは譲渡性があることです。それから、社会的な信用のもとに価値の単位を提供できることです。もう少し簡単にいうと、仮想通貨はそれ自体をあげたりもらったり、貸したり借りたりしてできる(ようになる)。それから、それと同等の価値がある表品やサービスと交換できる(ようになる)ことです。Tポイントは、譲渡が出来ませんし、換金も出来ません。また商品やサービスに交換できる場所が限られています。
まあ、仮想通貨もいまのところ使えるところは限られているので、これはお金なのか? という疑問符がつきますが、近いうちに高い確率で一般化すると思っています。そして仮想通貨であれば、銀行の口座を通さず個人と個人の間で、スマホなどを使って仮想通貨のやりとりが出来るのです。
仕組みのことはともかくイメージとしては、個人間でTポイントのやり取りが出来て、そのポイントで買い物が出来たり、換金が出来ると思っていただければOKです。
そして「この仮想通貨が百姓2.0と、どう関係してくるのさ?」ということです。それは、通称オタキングで有名な岡田斗司夫さんがその著書「僕たちは就職しなくてもいいのかもしれない」の中で、わかりやすく評価経済と百姓の話をしていました。確かこんな話だったと思います。
東京在住のあなたは、用事があって東京から大阪へ行く必要が出てきました。この時、大阪へ行く方法として、2つ方法が考えられます。まず現金を使って新幹線などの交通機関を利用する方法。これは普通のやり方です。もう一つは、現金を使わずに行く方法です。例えばFacebookであなたの友達や知り合いに「車で大阪まで乗せてくれる人いませんか?」と呼びかけます。そして「いいよ」と上げてくれる友人がいれば目的達成です。友人があなたを載せてくれる理由は色々あるとして、ここでのポイントは、あなたがあなたの友人にとって、大阪まで車で乗せていく価値があると評価してもらえているということです。
もしくは、あなたが超有名人で、無料でもいいからあなた車に乗せたいと思ってくれる他人(ファン)がいれば成立します。これも評価です。この、お金を使わない方法は、なにもやり取りが発生していないように見えますが、実はやり取りは発生しています。「評価」という価値のやり取りがあって成立しているのです。
そして、そんな見えない評価経済と仮想通貨が結びつくと、百姓2.0の世界が出現します。
趣味がお金に変わるといったほうが、わかりやすいかもしれません。
例えばあなたが、音楽をやっていたとします。プロとしてそれだけで稼げるほどの実力ではありませんが、それでもYouTubeに動画をアップしたら、それなりのファンがつきます。仮想通貨を使えば、金融機関を通さなくても、YouTubeを通さなくても、ファンはあなたに仮想通貨というチップを直接送ることができるようになります。あなたが熱中するものが、収入を生み出しやすくなるのです。もしくは、人が簡単に出来ないことで、でもあなたなら比較的簡単に出来ることがあれば、人のお手伝いをすることによって収入を生み出すことも、しやすくなります。
天狼院という書店を例にしてみましょう。
2022年、「READING LIFE」も、創刊から10巻を超えたころ。天狼院ではオリジナル仮想通貨「天狼コイン」通称“天”を発行していた。土曜の昼過ぎ、店内には5、6人の客がいた。店の奥では、代表の三浦と社員の川代がテーブルを挟んで打ち合わせをしている。メディアの新たな企画についてだ。企画の内容はこう書かれていた。メディアグランプリに掲載された記事を書いたライターに対して、天狼コインをもつ読者(ファン)が、送金できるコンテンツ評価システムを設ける内容だ。
企画書には、天狼コインを持つメリットが書かれていた。まず、天狼院で安く書籍の購入や飲食ができる。それから天狼コインでしか買えないコンテンツが買えるようになるなど。天狼院にとって、天狼コインの発行量が増えるということは、独自の通貨でまわる小さな経済圏が作られるということになる。
ドアのあいた音で、三浦がドアの方へ顔を向けると、ちょうどプロ・ゼミ出身の中野が入店して来るのが見えた。
私は、ぬれた傘をたたみながら、東京天狼院への階段を登った。店に入ろうとすると、入り口のドアに貼られたPOPが目に留まる。そこには「6月30日まで、天なら全ての書籍が10%オフ」と書かれていた。ドアを開けると三浦さんと川代さんが、なにやら話しこんでいるのが見える。三浦さんと視線が合ったので軽く会釈をした。そしてレジでメニューを覗き込む……。
【FOOD】
《PANINI》580円(464天)
・BLTパニーニ
・サラミとモッツァレラのパニーニ
・ベーコンチーズのパニーニ
《HOT DOG》
・ホットドック 380円(304天)
・チーズドック 420円(336天)
・レタスホットドック 400円(320天)
【DESSERT】
・ジャーパフェ (ベリー/チョコバナナ)580円(464天)
・アイスクリーム(キャラメルナッツ/チョコバナナ)280円(224天)
【DRINK】
単品450円(360天)
〈CAFE〉
・アイスコーヒー
・カフェラテ(ICE/HOT)
・カプチーノ
「ホットコーヒーください。支払いは天で」といって、スマホを取りだしリーダーにかざす。「リン」という音で支払いが完了した。スマホには、前号の「READING LIFE」に寄稿した時にもらった原稿料5,000天の残りがまだ入っていた。私はIT系の会社でサラリーマンをしているが、趣味で始めたライティング・ゼミが高じて、プチ収入を得ることができていた。今日来店したのはある本を買うためだった。それは、天でしか買えないという「READING LIFE 特別号」だ。しかし、本来目立つところに置いてあるはずのそれは、どこにも見当たらなかった。
そんな私を見て「中野さん、もしかして特別号っすか?」と、三浦さんが声をかけてくれた。
「そうなんですよ。もしかして売り切れですか?」
「いやー、ちょうどさっき最後の一冊が売れちゃったんですよねー」
「あ、そうなんですか」とポーカーフェイスで応える私だったが、内心は激しく落胆していた。
そんな私の様子を察したのか、川代さんが「私、個人で2冊持ってますら、1冊あげましょうか?」と、助け舟を出してくれた。
「えーー! マジですか! ありがとうございます。でもさすがにタダではもらえないです。天と交換にしてください」といって、私は上着のポケットからスマホ出した。そして川代さんのスマホへ近づけ、送金のボタンを押す。5秒ほどるすと「リン」という、送金完了の音がした。
1人コーヒーを飲みながら、カウンターで特別号を読みふける私。気がつくと店内には、三浦さんと川代さんの姿はなく、外は暗くなりかけていた。集中したせいか小腹が空いたのでので、下の店でそばを食って帰ることにした。最近、この界隈の飲食店では天狼コインでご飯が食べられるようになっていた。
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