そっと背中を支える手
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:藤田功(取材ライティング講座)
「本当に、自分は前に進んでいるのだろうか?」
たくさんの本も読んだ。アドバイスももらった。もちろん、自分でも考えた。そのうえで、試行錯誤し、行動もしてみた。でも、それが正しいかどうかが分からない。手ごたえを感じることができない。時間だけが過ぎていっているような感覚がする。どんどんと深い悩みの底に落ちていくような気がする。
そんななか、先日、ある人にそっと背中を押してもらえた。本当にやさしい背中の押し方だった。そっと背中を押された瞬間に、意識が研ぎ澄まされた感覚になった。そっと、背中押してもらえたことで、意識を一点に集中することができた。意識が研ぎ澄まされ、意識を一点に集中することで、今までの悩みが一瞬で消え去った感覚になった。
そっと、背中を押してくれたあと、さらに、その人はアドバイスをくれた。そのアドバイスは頭の中だけでなく、体中に染み込んでいくように私の中に入っていった。
「大丈夫だ。これで、自分は前に進んでいける!」
その優しい背中の一押しで、私は自信を持った。そして、確信を持った。
「これで、二カ月後には鍛えられたボディを象徴する、逆三角形のシルエットに近づいていく!」
これは、スポーツジムでラットプルマシンという機械を使って、逆三角形の背中のシルエットを作るために背筋を鍛えている一コマ。
そっと背中を押してくれたというのは、「鍛えたいと思っている筋肉を意識する」ために、ジムのスタッフさんが意識すべき背中の筋肉をそっと手で支えてくれたということ。
本当に、物理的に手で背中を押してくれたのだ!
筋肉を鍛えるためには、鍛えたいと思っている筋肉、部位を意識することで、効果的、効率的に筋肉を鍛えることができる。鍛えたい筋肉を意識しないで筋トレを繰り返しても、十分な筋トレの効果はない。これは、多くの研究で実証されている。
でも、そうは言っても、鍛えたい筋肉を意識するということは難しい。
私は鍛えたい筋肉を意識しようと思って、トレーニングに励んでいる。理屈で十分に意識することの必要性を知っているからだ。
でも、実際には意識できていないことが多い。意識することを忘れることもある。意識できていないこと、意識することを忘れていることは、私だけでは気付けないこともある。そんなときに、ジムのスタッフさんが意識すべき筋肉をそっと触ってくれると、そこに意識が集中できる。
スタッフさんに聞いてみると、私が鍛えるべき筋肉を意識しないで筋トレをしているということが分かるそうだ。すべてのスタッフさんが分かるということではないと思う。経験、観察力、そして、私とのコミュニケーションが取れているスタッフさんだからこそ、分かるのだと思う。
実は、この背中を押すという行為はとても大切だ。ここで言う、背中を押すという行為は、鍛えたい筋肉を意識するために、物理的に手で背中を押すということではない。言葉の力で背中を押すということだ。
私は税理士という仕事をしている。一般的な税理士の仕事は、税金の計算や節税のお手伝いをすることだ。でも、私は三年前に独立してから、それ以外の仕事をしようとチャレンジし続けている。その仕事の詳しい内容は省くが、「一人一人が自分で考えて判断する」という価値基準の元で新しい仕事にチャレンジしている。
しかし、なかなかその仕事は前に進まない。ずっと足踏みしている状態が続いている。前に進まない、足踏みしている状態が続いている理由としては、自分で考えて判断するということを面倒くさいと思う人が多いということもある。
しかし、それ以上に、前に進まない、足踏みしている状態が続いていることには、私自身に大きな原因がある。
それは、私には、その人の背中をそっと押すという行為が欠けていたからだ。正確に言うと、背中を押し続ける行為、適切なタイミングで背中を押す行為が欠けていたのだ。
自分で考えて判断することが大切だと思っている人もいる。また、私が自分で考えて判断することの大切さを伝えて、理解してくれた人もいる。
でも、私はその人の背中を押したけれど、押し続けることをしなかった。適切なタイミングで背中を押すことをしなかった。
背中を一度押して、押しっぱなしにしていただけだった。
その人たちは、自分で考えて判断できるようになろうと思っても、それが正しい判断なのかを迷うこともある。たくさんの本も読んで、アドバイスももらって、自分でも考えた。そのうえで、試行錯誤し、行動をしてみても手ごたえを感じることができないこともある。時間だけが過ぎていっているような感覚になり、どんどんと深い悩みの底に落ちていくような気になることもある。
まるで、私が筋トレで悩んでいるかのように……。
筋トレで悩んでいるときに、そっと背中を押してもらえるだけで、意識が変わることができる。そっと背中を押してもらえたことで、前に進んでいけると自信を持つことができる。
私の仕事は、ジムのスタッフさんのように、物理的に背中を手で押すということではない。
私の仕事は、言葉でそっと背中を押すことだ。
私の知識、経験、観察力、そして、その人とのコミュニケーションがあるからこそ、言葉で背中を押し続けることができる。言葉で背中を適切なタイミングで押すことができる。
自分で考えて判断できるようになったもらうために、背中を押しっぱなしにするのではなく、言葉で背中を支え続ける、言葉で背中を適切なタイミングで支えること。
それが、私がやるべきことだ。
そっと背中を支えてくれたスタッフさんの手が、私に足りていないことを気付かせてくれた。
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