想定外のことが起こったとき
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記事:姫蝶(ライティング・ゼミ 特講)
「また、停電!?」
私が感じた二度目のスリランカは、前回と印象が全く異なった。
スリランカとは、シンハラ語で「光り輝く島」を意味する。
スリランカは、北海道ほどの大きさのインド洋に浮かぶ小さな島国だが、緑豊かな大自然に恵まれた動物王国で、世界遺産がたくさんある。セイロンティーと、インド発祥の伝統医療・アーユルヴェーダが人気で、ヨーロッパからたくさんの観光客が訪れる。
アーユルヴェーダの施術を受けるため、私は、スリランカの古都・キャンディに滞在していた。そこで、停電は毎日のように起こった。
スリランカは水力発電のため、川の水が少なくなると、計画的に停電させるそうだ。しかし、昼間ならともかく、夜間の停電は、さすがに怖い。
水回りもかなり悪く、シャワーをしているときに水が出なくなったり、トイレの水が流れないのは、あたり前の日常だった。トイレで水が流れないというような経験のない日本人は、申し訳ないが、とてもストレスを感じる。
風の強い日の晩のことだった。夕食を食べていると、バリバリバリッ! という雷が落ちたかのような激しい音とともに、突然、電気が消えた。部屋の中も、外も真っ暗になった。
滞在していた施設のスタッフが、すぐ部屋にロウソクを持って来た。スタッフは全く慌てることなく、私が夕食を食べていたテーブルにロウを垂らし、テーブルに直接ロウソクを立てた。
どうやら、こちらの人はかなり停電に慣れているようだ。
さすがに部屋に1本のロウソクの火だけでは、夕食の残りを食べるのがやっとの明るさだった。
停電がどれくらい続くのか、見当もつかなかった。
心細かった。洗面所は段差があり、暗くて足元が危なかったが、なんとか洗面所で歯を磨いた。
ロウソク程度の火の明るさでは、何もできないので、寝るしかなかった。
ゆらゆらと揺れる炎を見ていると、太古の記憶がよみがえってくるような感覚があった。
人間は火を使うことで進化した。夜間に動物に襲われないように、火を灯した。
火を奪われたら、私たちはあまりにも無力だ。
そして、3月7日、キャンディからコロンボに移動する途中、ドライバーの携帯が鳴った。
「キャンディに非常事態宣言が出されたようです。Facebookも使えないそうです!」
非常事態宣言? 何それ?
日本では聞きなれない言葉だ。そういえば、海外のニュースで聞いたことがある。
3月4日にキャンディで仏教徒とイスラム教徒が衝突するという事件があった。
その件で怒った仏教徒が、イスラム教徒の商店やモスクに火をつけて、襲撃したのだ。
私がキャンディで滞在していた部屋にはテレビがなく、英字新聞もなかったので、このニュースは、ドライバーから聞いて、初めて知った。
スリランカ政府は、この事件が収束するまで、キャンディに夜間外出禁止令を出したようだった。
そして、同時に、Facebook、インスタグラムなどのソーシャルメディアを10日間禁止した。インターネットの通信速度を制限し、フェイクニュースが国内に広まらないように策を講じたのだ。
私が詳細を知ったのは、キャンディからコロンボに移動した日の翌日、3月8日の朝だった。
ホテルの部屋に届けられた英字新聞を読んで、ようやく事件の全貌を理解すると同時に、スリランカ政府の素早い対応に感心した。メディアにも報道規制がかけられた。
テレビでBBCニュースや、NHKワールドニュースで、詳細は報道されなかった。この事件は、スリランカの新聞にしか載らないような、ローカルなニュースだったからだ。
そして、コロンボから約30km南に位置するビーチリゾートエリアのワッドゥワという町に移動した。
私がワッドゥワのホテルにチェックインしたとき、ホテルに滞在していた観光客が、「急にwifiが繋がらなくなった!」とロビーで騒いでいた。
ロシア人のおばさんに、ロシア語のスマートフォンを見せられて、私も困った。
私は、現地の友人と、Facebookで連絡を取っていたが、3月8日以降、全く連絡が取れなくなった。
スリランカのニュースはシンハラ語なので、テレビから情報を得ることはできなかった。
そこで、ホテルのフロントに頼み、3月9日の朝、英字新聞を取り寄せてもらい、今回の事件にかかわった容疑者が捕まり、事態が収束したことが分かった。
すぐに簡単に情報が取れる便利な恵まれた環境にいた私たちが、急に情報から遮断されたとき、私たちはパニックになる。火や水も情報と同じで、あるのが当たり前で、私たちの生活を豊かにしている。
それらが、急に使えなくなったとき、私たちはあまりにも無力だ。
しかし、スリランカの人たちは、急に使えなくなるという事態に慣れているからだろうか。全く慌てることがない。
慣れは強さにつながる。私たちより精神的にタフでバイタリティーがある。
そして、彼らはとても豊かである。
あらゆるものに満たされている状態は、豊かな状態と言えるだろうか?
「余白の美」というように、余白部分があった方が、実は、人生は豊かな状態なのかもしれない。
スリランカの人はたくましい。それは、リスク管理ができているからだ。
彼らは生命力にあふれている。にっこり笑うときに黒い肌から見える白い歯、きらきら輝く鋭く大きな目、私たち日本人が忘れてしまったものを、彼らは今もたくさん持っている。
日本人にとっては想定外のことでも、彼らにとっては日常であり、想定外のことではない。
日常のことだから、常に冷静でいられ、慌てることがない。
そこに彼らの強さがあると感じた。
私たちは仕事のリスク管理は慣れているが、生きることにとって、大切なことへのリスク管理ができていないのかもしれない。
リスク管理ができていれば、今回の私のスリランカでの体験なんて、大したことはなかっただろう。でも、私にとっては、かなり衝撃的だった。
今回、スリランカで様々な体験をしたが、また、スリランカに来ることがあれば、きっと、今回とは違う印象を感じるだろう。それは、私が成長したということだ。
どんな印象を感じるのか、とても楽しみだ。
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