メディアグランプリ

野草を食べたら、人生が何倍もおいしく豊かになった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大国沙織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
あなたは「野草(やそう)」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか?
 
「ただのジャマくさい雑草じゃないの?」
「毎年、だれかが毒草と間違えて食中毒になってるでしょ、まったく食べる人の気がしれないわ」
「スーパーに行けば野菜がいくらでも売ってるのに、なぜまたそんな貧乏くさいことを……」
 
大方、こんなところかもしれない。
かくいう私も当初は、野草というものに対する印象はこんなものだった。
いや、興味すらなかったというのが正直なところだ。
 
そんな私が野草と出会ってからというもの、すっかり日常が変わってしまった。
おかげで間違いなく、毎日が何倍も豊かに、充実したものになったのだ。
この素晴らしき野草の世界に足を踏み入れて、まだ一年と少ししか経っていない。
しかし、もう十分過ぎるほどその恩恵に預かっている。
私だけ独り占めしていては、あまりにももったいない……!
さあ、魅惑の野草世界へ、ようこそ。
 
私がはじめて野草に興味を持ったのは、有川浩の恋愛小説「植物図鑑」を読んだことがきっかけだった。
主人公さやかの家に一文無しで転がり込んできた青年イツキは、いわゆる「植物オタク」で、
道端に自生している食べられる草を摘んできては、どんどん料理していく。
ノビルのパスタとか、フキの混ぜごはんとか、おいしそうな野草料理の数々が登場し、食いしん坊の私は「いったいどんな味がするんだろう〜!」と悶絶させられた。
「こんな彼氏ほしい! 野草摘みデートしたい!」とは思ったものの、それは憧れに終わってしまった。
専門的な知識がない素人が趣味にするには、ちょっとリスキーではないかという懸念もあったのだ。
それから野草と接触することなく、数年が過ぎた。
 
二度目の出会いは、突然に。
野草のことなんてキレイさっぱり忘れてしまっていたが、軽い気持ちで参加した料理教室で、私は完全にその虜となってしまった。
めくるめく野草の世界に誘ってくれたのは、「若杉ばあちゃん」の愛称で親しまれている、若杉友子さん。
長年かけて培われた圧倒的な経験と知識量、可愛くてお茶目でさばさばしたキャラクターが大人気で、今も野草料理を教えながら全国を飛び回っている。
もう80歳なのに、見るからに全身からエネルギーがほとばしっていて元気いっぱい。
聞けばなんと、「一晩寝れば疲れはとれるし、老眼もなければ髪を染めたこともない」という。
実際に若杉ばあちゃんの食の教えを実践して、長年抱えていた病気が治ったり、ずっと妊娠できなかった人が子供を授かったり、というケースも後を絶たないそうだ。
 
講座は想像以上に、終始驚きの連続だった。
これまで庭や畑の草取りで捨ててしまっていた、あの草やこの草が、料理すればおいしく食べられるなんて……!
野草を料理して食べるなんて無理があるのではないか、苦みやえぐみも強そうだし、という思い込みは、いともカンタンに裏切られた。
たんぽぽ、よもぎ、つくし、ゆきのした、はこべ、つゆくさ、ふき、くずの芽……。
摘みたての野の草を次々においしく変身させていく若杉ばあちゃんは、まるで魔法使いのようだった。
和え物や天ぷら、佃煮などシンプルな調理法ばかりだったが、どれも香りよく、噛むほどにしみじみ味わい深い。
「自分は、身近にあり余る宝をみすみす見逃していたのか……」と思うと、世界がこれまでよりも輝いて見えてきた。
 
それからというもの、せっせと野草を摘んでは料理する日々がはじまった。
これまでまったく無縁の世界だったので、一回見たぐらいで見分けがつくものだろうかと心配していたけれど、
実際に生で見て触って、香りを嗅いで覚えた草は、間違えようもなかった。
若杉ばあちゃんも「確実にわかる草以外は食べないように」と言っていたし、それを守っていれば大丈夫そうだ。
 
教わった料理をアレンジして作ったりするうちに、クセの強いものは天ぷらやチヂミにすると食べやすいなとか、つくしはやっぱりきんぴらが一番おいしいな、という風に「野草料理のコツ」のようなものがなんとなくつかめてきた。
濃いめの味付けに仕上げれば、酒の肴にもよさそうだ。
それまで草もちやお茶にするぐらいだったよもぎも、胡麻和えや磯辺和えにすれば立派なおかずになる。
これが、なんとも香りがよくて実においしい。
それぞれの草の個性をいかした味付けを考えるのも、クリエイティブな作業で面白い、面白すぎる。
こんなに楽しい遊びがあったとは……、と私はすっかり夢中になった。
野草料理って、ひょっとしたらどんなグルメよりも贅沢なんじゃないだろうか?
 
野草を食べるメリットは、そのエンタメ性だけではない。
まずなんといっても、お金がかからない。
費用ゼロでお腹を満たせるなんて、それだけで魅力的だ。
うわさでは、野草ばっかり食べて1000万円貯金した人がいるとかいないとか……。
私も、野草料理があまりにおいしくて楽しいので、滅多に外食をしなくなった。
日常的に野草が摘めるような環境に住んでいれば、食費の削減も期待できるに違いない。
 
もちろん、育てる手間もかからない。
当然ながら野草は、野菜のように水や肥料を与えたりと世話をしなくても、勝手にどんどん生えてくる。
その繁殖スピード、たくましさには毎度のことながら圧倒されてしまう。
若杉ばあちゃんがいつもパワフルでいられるのも、この野草パワーが源なのかもしれない、と思うと納得である。
 
栄養学的に見ても、野草は優れた食材らしい。
ビタミン、ミネラル、その他さまざまな栄養素がバランス良く含まれていて、
とりわけその季節に生えてくる野草は、体にとってもプラスに働くものが多いそうだ。
「旬のものを食べると身体にいい」なんていうけれど、自然界って理に叶っているなぁ、なんてうまくできているのだろう、と思う。
 
野草は、いざというときの貴重な食料や薬にもなる。
災害時など食料が十分手に入らないとき、食べられる野草とそうでない野草を見分けることができれば、かなり役に立ちそうだ。
実際に熊本で大きな地震があったとき、その数日前に若杉ばあちゃんの講座を受けた人達が、野草料理の炊き出しをして多くの人が助けられたというエピソードもあるらしい。
そういえばキャンプに行ったとき、友人が切り傷を負ってしまったことがあった。
「よもぎをすりつぶして傷口にすり込むと治りが早い」と教わったばかりだったので、試してみたらすぐ痛みが引いたようで喜ばれた。
いつ何があるかわからないから、野草の知識は身に付けておいて損はないなと思う。
 
野草は、ありのままの姿でそこに生えている。
田舎の野原でも、都会の片隅でも、どんな場所でもたくましく育っていく。
よもぎが頑張ってたんぽぽになろうとしたり、私はつくしに生まれたかった……なんてことなく、そのままの個性をただまっすぐに発揮している。
彼らの生き様には、心から惚れ惚れしてしまう。
野草たちから学ぶことは、本当に計り知れない。
 
かの昭和天皇は、「雑草という名の草はない。草にはすべて名前があります」という御言葉をのこしている。
私はまだまだ初心者の身ではあるが、野草の可能性や偉大さを思うと、ひょっとしたらそこにはとてつもなく深いメッセージが隠されているのではないか、と思いを馳せずにはいられない。
 
(参考文献:有川浩「植物図鑑」、若杉友子「野草の力をいただいて 若杉ばあちゃん食養のおしえ」)

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2018-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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