唎酒師が最強のコミュニケーションツールである理由
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記事:石山 祐己(ライティング・ゼミ朝コース)
「石山さんは、きき酒の免許を持っている、日本酒のプロなんですよ」
酒の席などで、今まで何度このように紹介されてきたことだろう。本当のところは微妙に違うのだが……そこは酒飲みである。あまり細かいことは気にしない。
唎酒師。いわゆる日本酒ソムリエだ。「ききさけし」という響きにはインパクトがあり、そのイメージは根強く残る。ここ5年以上、本業とはまったく関係ない肩書き「唎酒師の石山さん」で通っている私が言うのだから、間違いない。
若い頃から日本酒が好きだった私は、幾多の日本酒を味わい、それなりに知見を蓄えてきた。日本酒愛をこじらせ、通信講座で勉強して資格も取得した。これまで最多60名以上参加の日本酒イベントも開催してきた。公にはしていないが、今でも「シークレットきき酒会」の引き合いは多い。
そんな私が断言する。唎酒師という資格は、最強のコミュニケーションツールだ。あまり積極的にコミュニケーションを図るタイプではない私が、完全アウェイの福岡という地でたくさんの友人を得ることができたのも、多く唎酒師のおかげだったように思う。
唎酒師とは本来、日本酒の品質を判定し評価するための資格だ。
それがどのように、コミュニケーションにおいて役立つのだろうか。
ポイントは二つある。
唎酒師という響きが持つ「適当な印象」と、そこから切り出せる「適当な話題」だ。
まず、コミュニケーションにおいて最初にして最大の課題は「初対面の人と話すこと」だろう。この段階を乗り越えるために最も重要になるのが、第一のポイント「適当な印象」だ。
そもそも、私は特に飲食業や酒造業界に関わっているわけではない。そういう人間が「唎酒師なんですよ」という話になれば、ほぼ確実に「なんでやねん」という反応が返る。
唎酒師は、大人がその気にさえなれば、通信講座などで誰にでも取れる民間資格だ。ただ生々しい話をすれば、取得に10万円ほど、年間更新料に1万円ほどかかる。ネタとして投じるには少々お高い。しかしだからこそ、「こいつ面白いな」という印象が生まれる。冒頭に書いたように、そのイメージも根強い。
これが難しい資格だったり、先生と呼ばれるような肩書きだと、恐れ多い印象を与えてしまう危険性がある。仮に初対面の場で、仰々しさをもって、固苦しい話題から入ったら、どうだろう。相手は身構えるだろうし、心を閉ざされてしまったらそこで試合終了である。
権威など、円滑なコミュニケーションのためには阻害要因にしかならない。逆にその「適当さ」において唎酒師という資格は、まさに最適なのだ。適当な印象により、相手は警戒心を解き、心を開いてくれる。コミュニケーションの入り口として、これは必須条件とさえ言えるだろう。
さて、適当な印象でコミュニケーションの場をつくることができたら、さらに相手との距離感を縮めたい。そこで必要となるのが、第二のポイント「適当な話題」だ。
初対面での話題として、出身地を聞き、職業などを尋ね、そこから共通の話題を探る、といったことが一般的だろう。しかし、それではあまりに普通すぎる。共通点があったとしてもあまり盛り上がらないし、共通点がなければおしまいだ。
そこで日本酒の話題である。まずは相手の好みのお酒を尋ねる。日本酒の銘柄まで出してくれる人であれば、こんなに嬉しいことはない。それを軸として話題を広げよう。
お酒の味わいをはじめとして、純米酒、吟醸酒などの区分から、精米歩合、原料米にまで言及したら、そこから連想される銘柄を挙げる。また地域と歴史に根付いた話として、九州、東北、北陸など地方別に地酒を考えていけば、話題は尽きることがない。
ここで気をつけたいのは「自分視点で日本酒を語らない」ということ。
そして、話題は特に日本酒でなくてもいい。
話の流れとして他のお酒が自然なのであれば、頭と舌を迅速に切り替えよう。
相手がそのお酒を好きであり、それについて盛り上がることができれば大丈夫。
焼酎、泡盛、ビール、ワイン、ウィスキー、なんでもいい。
お酒は楽しむもの。悪意からかけ離れたものだ。その性質上、話題に挙げる内容として差し障りがなく、実に適当だ。そして「唎酒師です!」などと言いながら、日本酒だろうが日本酒以外だろうがとにかくお酒を楽しむ姿勢もまた、絶妙な「適当さ」を醸し出す。
「ききさけ」の正式な表記は「唎き酒」だ。
そこを私は、敢えて「聞き酒」と表現したい。
知っている人にオススメのお酒を「聞く」。
実際に味わってみて、自分の心の声を「聞く」。
そして一緒にお酒を楽しみ、みんなの感想を「聞く」。
味覚や嗅覚など人それぞれの感覚であって、それを寸分違わず言語化することなど不可能。ならば、それを無理に表現することにこだわるべきではない。相手がどう感じるのか、というところから始める。コミュニケーションにおいて大切なのは、とにかく「聞く」スタンスなのだ。
適当な印象で場をつくり、適当な話題で盛り上がる。
そのために唎酒師は、最強のコミュニケーションツールとなる。
最後にこっそり白状しておくと、私は唎酒師の資格更新を失念してしまった「元・唎酒師」である。そもそも日本酒のプロでもなんでもない、ただの酒飲みだ。
しかし別に唎酒師でなくとも、上に書いたポイントは実践できるはず。
なんならもう「聞酒氏」でいい。
細かいことは気にせず、適当にコミュニケーションを楽しみたい。
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