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プロフェッショナル・ゼミ

オヤジさんから学んだプロフェッショナルとは《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:島田弘(プロフェッショナル・ゼミ)

「弟子入りさせてください」

塾講師のフリーターをしていた私が、
意を決して飛び込んだ世界。

それはラーメン屋さんである。

ラーメンが好きな日本人はとても多い。

私もその一人である。

20歳の時、中洲の屋台でラーメンを食べるまでは
好きな食べ物を聞かれてラーメンと答えることは1度もなかった。

中洲でのラーメンが色々な意味で私の人生を変えた。

「こんなに美味しいラーメンを食べたのは初めてです」
と伝えたことで会話が盛り上がり、

「本当は教えたくないんだけど、ウチが目指している味のお店があってさ。
兄ちゃん、食べてから東京に帰れよ」

とメモを渡してくれた。

明日東京に帰る私はそのメモを頼りに、
すぐにお店を探し始めた。

あった!

お店に入ってラーメンを注文する。

博多のラーメンは麺が細いから出来上がるのが早い。

スープを一口すすると、

「うまーい!」

店主と思われる男性に、

美味しいこと、そしてお店を教えてもらったことを伝えた。

すると、

「それは嬉しいね。じゃ、俺も教えちゃおうかな」

と地図をかきながら1軒のラーメン屋の場所を説明してくれた。

3軒目以降でも同じようなやりとりが行われ、
最終的に私は一晩で7軒のラーメン屋をハシゴし、替え玉を入れると11玉を食した。

7軒、全部が味が違い、麺が違う。

博多ラーメンと言いながら、
こんなにも奥が深いのかぁ。

博多には何百というラーメン店がある。

「全部の店に食べにいくにためには一体どれだけの時間がかかるんだろう?」

そんなバカなことも真剣に考えている自分がいた。

私の人生はその日を境に、1日3食がラーメンでも大丈夫な体になってしまった。

地方に行くことがあれば、その地で必ずラーメン。
どこか行くときは必ずラーメン屋のチェックをするようになった。

食べまくって5年ほど経ったときに、
自分でもラーメン屋をできないかと考えるようになった。

それからは食べに行くラーメン屋が美味しいかどうかという評価をするのはもちろん、
「この味で自分がお店をやりたいかどうか?」という新しい評価をするようになっていった。

食べ歩くたびに色々なことを学ぶことができ、自分なりの考え、意見を持つようになった。

たとえば、自分で店をやるときは
・カウンターのみ
・メニューはラーメンだけ、サイドメニューは一切やらない
・券売機導入
・食洗機導入
・営業時間は短く
・自家製麺(製麺機購入)
・スープと麺を茹でる以外は営業時間に火を使わない
という基準が出来上がっていったことなどである。

カウンターのみにするのと、ラーメン以外はやらないのは回転率をあげるため。

券売機と食洗機の導入は、アルバイトを雇わないで済むように。さらに食洗機は、洗剤による体への負担を減らすためだ。

製麺機は、利益率を上げるために必要で初期投資はかかるが計算上2年で元は取れるはず。

火を使わないのは、味噌ラーメン屋さんなどで鍋で野菜を炒めたりしていて食べる側としては嬉しいが、提供する側としては時間的にも肉体的にもやりたくなかった。

営業時間については、一人で100食から150食を売ることができたら、
目標とする十分な利益が出せる計算(当時)だったので、長くやる必要がないとの判断からだ。

店をやりたいと思うようになってから300軒くらい食べたあたりで、

「この店で修行させてもらいたい」

と思うところが2軒。

味は全く違う。

共通しているのは、何度食べても美味いし、飽きがこない。

色々とリサーチをしたところ、
A店は弟子を受け入れているが、B店はそれまでに身内以外の弟子はいないことがわかった。

店を持つ視点で食べ歩きを始めて2年半、私はA店に弟子入りをする決心をした。

それからは毎週2回必ず、閉店間近のA店に伺いラーメンを食べるようにした。

世間話をしつつも、弟子を取っているのかどうかのリサーチ。

3ヶ月くらい通ったある日、

「ラーメン屋やりたいのか?」

とオヤジさんに聞かれた。

「はい」

「お前仕事は?」

「塾講師のアルバイトをしています」

「そうか。最低週3来れるか?」

「もちろんです」

塾講師をしながらの弟子入りが認められた。

膝まである長靴、エプロンを準備して修行初日を迎えた。

洗い物だけをさせられるのかと思ったら、
「ノートあるな」と言われ、いきなり製麺機の前に連れて行かれた。

小麦粉の種類、製麺機にどうやって入れるのかをメモにとったら
「言われた通りにやってみろ」と。

「えっ、もう麺を作らせてもらえるの???」

驚きとともに、予想外の展開を喜んだ。

オヤジさんが見ている前で人生初、自分が作った麺が出来上がった。

「合格。この麺の感じを覚えておけよ。次、また同じものが作れるように」
とオヤジさんは言った。

「レシピを教えてもらっているんだから、次もできる」
そう考えていたのが甘かった。

次に行った時も、その次も、同じ麺ができない。

同じように材料を製麺機に入れたら、あとは機械がやってくれるだけなのに。
なぜなんだろう?

「なんで同じものができないかわかるか?」

「同じようにやっているんですが」

「違う、やってねーからだよ。お前、製麺機の前になぜ温度計と湿度計があるのか塾の先生をやってんのにわかんねーのか。
時事刻々と温度も湿度も変わっているんだよ。
それなのに、同じように入れてるから違うものが出来上がるんだ」

驚いた。

そんなこともやっているんだ、と。

スープも同じだった。

私が修行をしていた時代に、ラーメンのスープを濃度計で測定し、
調整を行なっていた店があるのかどうか知らない。
オヤジさんは、他の奴らはやってねーと思う、と言っていた。

火加減、時間、濃度、色などのデータを取っていた。

オヤジさんは自分のお店のスープだけじゃなく、目指していたお店、ライバル店、新しい店ができると、その店のスープのデータもとっていた。

他の店のスープの出たをどうやって?と思って聞いて見たら、
店員の目を盗んで、スープを飲むふりをして、隠していた容器に入れてきていたのだ。

そのスープを例えば顕微鏡で見て、使っている隠し味の野菜を見つけたりしていた。

見た目はガサツなオヤジさんだったが、ラーメンに対しては科学者のようであった。

修行して3ヶ月くらい経ったある日、
「出かけるぞ」
と言って車に乗せられた。

全く知らない道を進んでいくと、白衣を着た人たちがたくさんいる場所についた。

車を降りた時の音と匂いは忘れることができない。

豚の鳴き声と血の匂い。

屠殺場だった。

「ちゃんと見てこい」

私はそこで働く男性に場内を案内してもらった。

各工程において、みんなプロだとわかる無駄のない動き。

みんな黙々と自分の仕事をしている。

目の前の豚の頭が並んでいるテーブルでは、
ナイフを片手に手際よく豚の頭蓋骨だけにしていく工程が行われていた。

この骨を使わせていただいて、ラーメンのスープを作っているんだ。

豚に感謝。ここで私の代わりに大変な仕事をしてくださっている方々に感謝。

帰りの車の中で、

「一流のラーメン屋店主である前に、一流の人間を目指してもらいたい。
ここに来なくてもラーメンは作れるが、これを知っているのと知らないのとでは心に響くラーメンが作れるかどうかに違いが出るんだ」

ということを教えていただいた。

オヤジさんの見た目はお世辞にもキレイとは言えない。
お店も同様。

それなのにお客さんがたくさん食べにくるし、店が休みの日には
超有名店の店主たちが札束を持って「教えてください」と頭を下げてくる。

最初はわからなかったが、このオヤジさんのすごさ、
プロフェッショナルとはここまでやるんだ、
というレベルを見させてもらった。

だからこそ、超有名店が頭を下げてまで教えを請うんだなと。

そして、この差に気づく人は少ないんだろうなと思った。

みんな目に見える部分での違いを探し、真似する。

もちろんそれも必要なことである。

しかし、目に見えない部分で大差がついていることを知る人は少ない。

オヤジさんも、これが企業秘密の1つだと言っていた。

企業秘密はあと2つあると聞いた。

その3つのうち2つは修行中に聞くことができた。

もう1つはもう聞くことができない。

オヤジさんが亡くなっていた。

まだ私は味を引き継いでいないが、
たくさんの人が引き継いでくれている。

しかし、オヤジさんと同じ味のラーメンは誰も作れていない。

そのもう1つを誰も聞いていないらしい。

オヤジさん、あと1つがわからないとオヤジさんと同じラーメンを作るプロフェッショナルになれないっすよ。

***

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