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ミニシアターのある街、東京

「お堅い」はもう古い? ドキュメンタリーの面白さを再定義するミニシアター《ミニシアターのある街、東京》


記事:遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
映画はエンタメだ。
いつの時代も私たちの生活の側にあり、非日常の世界を楽しませてくれる。宇宙にだって、海の底だって、地球の反対側にある国にだって飛んでいける。
 
一生かかっても体験することのできないほどの物語がこの世には用意されている。
ファンタジー、S F、ラブストーリー、コメディ…etc。膨大なジャンルの中で何を選ぶかはもちろん自由。きっとお気に入りの作品もあるだろう。
 
ここで一つ聞きたい。
その選択肢の中に、「ドキュメンタリー映画」は含まれているだろうか?
ドキュメンタリー…? なんだか堅苦しそう…。つまらなさそう…。わざわざ映画館で観るものじゃない?
 
色んな意見が聞こえてきそうだけれど、ドキュメンタリーだってれっきとしたエンターテイメントになりうる。ここ数年、映画の製作本数が急増しているのに伴い、ドキュメンタリー映画を鑑賞する機会も増えている。
今、何かしらのマイナスイメージがあるなら、少しだけ楽しみ方を知っておくいいかもしれない。今後、フラットな目線で作品を鑑賞できるはず。
 
今回は、日本で唯一、ドキュメンタリー映画を中心に上映するミニシアター「ポレポレ東中野」にお邪魔し、支配人である大槻貴宏さんにお話を伺った。
 
 

大槻貴宏さん

 
 

面白さ”はお墨付き


JR中央線東中野駅から徒歩1分、線路沿いに面した雑居ビルの地下にポレポレ東中野はある。
 

「やっぱり堅いとか、とっつきにくいとか、そういう風に見られるだろうとは思ってます。だからこそ作品選びはとても重要なんです」
 
ポレポレ東中野は、2003年まで存在したミニシアター「BOX東中野」を引き継いで今に至る。BOX東中野は元々ドキュメンタリーを中心に上映する劇場として既にカラーが確立されていた。
2003年に契約上の問題により一時閉館。
その後、新たなオーナーを募集していた時に大槻さんが公募し、支配人に就任した。
 
支配人である大槻さんは、大学を卒業後アメリカで映画製作を学び、帰国してからもプロデュース業なども手がけるなど、幅広く映画業界に携わる。
 
そんな大槻さんが上映作品を選ぶ基準は、まず何よりも「面白い」ことが大前提。
では、面白いドキュメンタリーとはなんだろう?
 
「一見敬遠されがちなテーマを、興味を持つような作り方で伝えてくれるような作品ですね。情報量の多さだけでなく、そこにいる人の心情が分かるものはより面白いと思います」
 
取材中、話題に上がったのは昨年公開された映画『主戦場』。
現在も議論が絶えない慰安婦問題を、識者たちの意見を交えながら多角的に検証するドキュメンタリーだ。
多くの専門家たちの対立する主張を交互に紹介しながら問題の本質に迫ろうとする構成になっており、さながらサスペンス映画のような緊迫感がある。
 
 

『主戦場』ポスター

 
「この作品は誰の意見が正しいともハッキリとは明言していないですし、どちら側にもなるほどと思える部分があるんですよ。今の世の中って全てグレーですからね。グレーの中の白と黒の濃度をどうするかっていう話だと思ってます」
 
世の中は全てグレー。
学校で習う数学のように、明確な答えは提示されていない
そんな複雑な社会を私たちは毎日生きている。
 
それでもいわゆる世論ってやつは善悪や真偽の二元論で分けられ、境界線が引かれているように思える。
けれど、それらも結局誰かの意見の一部が強調されて滲み出ているに過ぎない。
 

地下へ降りるまでの階段には溢れんばかりのポスターが

 
簡単には見つけられないからこそ、大切なのは自分の中で答えを育てること。
その始まりとして、ドキュメンタリー映画はとてもいい手段に思える。
 
「ドキュメンタリー映画にできることって第一歩目を示してあげることなんです。そのテーマに気づく事や知ること。こういう人がいる、こんな出来事があるのか、というプロセスを経て、興味がある人は自然とそこから深堀りしていきます。その道筋の存在を知らせることが役割なんだろうと思います」
 
大槻さんが語るドキュメンタリーにおける面白さとはつまり、”funny”のように笑いや滑稽さを連想させるものではなく、”interesting”の自らの興味関心を掻き立てる面白さのこと。
 
まだまだ知らないことだらけの世の中。
自らの知識の外側に手を伸ばしてみる経験は大切だ。
 
ただ、興味関心は誰もが共通して持てるものではないはず。
ましてや今まで触れたこともないようなテーマにいきなり関心が持てるかと問われれば、はっきりとYESとは言い難い。
 
そのハードルに関してはどう向き合えばいいのだろう。
 
「人間関係って第一印象がすごく大切ですよね。ドキュメンタリーも同じで最初に何を観るかがすごく肝心なんです。最初で違和感を覚えたり分からなかったりするとそれ以降観てもらえない可能性が高い。だから『なんでも観てください!』とか、『是非劇場へ来てください!』とは簡単には言えないです(笑)。いきなり映画でなく、テレビでも配信でもいいので、手を出せるところからドキュメンタリーに触れてほしいです」
 
 

 
 

自分が感じたことが全て


ドキュメンタリーを楽しむコツは、世の中の、そして自分の知らないことを「面白がる」ことができるかどうか。大槻さんの話を聞いているとそのように感じた。
それは、自分が予想だにしなかった意見や考えがあっても、否定せずに一度受け入れることから始められるのではないだろうか。
 
「そうですね。異なる意見が来て、『それは違うよ』って言っちゃう時ってあると思うんですが、それはあくまで意見なので何も違わないですよね。言い切ってしまったらさっきの話のように、白か黒だけになっちゃう。一度受け止めて、そこからさらに新しい考えや提案に昇華させることを目指した方がいいです」
 
取材中、よく飛び出した「白か黒か」という言葉。
映画をはじめとする映像表現は、元を辿れば人々の思想を誘導する、つまり白と黒にハッキリ分けるためのプロパガンダとしての役割が大きかった。それくらいに映像というものは、フィクションだろうとドキュメンタリーだろうと人々の考えに大きな影響を及ぼす。
 
そのため、特にドキュメンタリーに関してはやらせであったり過度な演出によって厳しい意見が出ることもしばしば。
 
しかし、カメラで被写体を映している以上、多少なりとも演出は入るのはよくあること。ドキュメンタリーは事実を客観的に伝えるものと思われがちだが、もちろん全て真実だとは限らないし、作り手の意図が反映されるのはフィクションも同じだ。
 
そうなると、ドキュメンタリーとフィクションの境目は思った以上に曖昧でぼやけており、明確な違いはないとも捉えられる。
だからこそ大槻さんは、その映像を観た自分こそが答えなのだと強く語る。
 
「感想は自分がどの立場から観ているかによりますし、中立なんて事は絶対にないんですよ。疑惑とか周りの声に流されずに、一人ひとりが『自分はこう思う』と表明することが大切なんだと思います」
 

ロビーの壁には上映中作品の紹介記事がビッシリ
 
「入ってくる情報を全て疑えというわけではなく、『そうかもしれない』と考えることで、1回揺れるわけですよね、自分の中で。疑念を一度持った後に、『これだ!』という自分の中の芯が作られる。その過程をドキュメンタリー映画で経験して欲しいですね」
 
 

機会は用意されている


近年、ミニシアターの閉館が相次ぐなど、暗いニュースが多いように思えるが、大槻さんはむしろ鑑賞機会は増えていると話してくれた。
 
「確かに座席数の多い大きな映画館は減っています。だけれどスクリーン数自体は増えていて、シネコンでも100席以下の劇場は確実に増えてるんですよ。それはなぜかと言われれば多様性です。大きな劇場で単発で勝負をかけるより、小さな劇場でリスクを分散して多くの作品を上映した方がいいという方向にシフトしています」
 
1作品ごとの公開期間は短くなっているが、製作本数に比例して公開される本数は右肩上がり。そのため、作り手のためにも鑑賞の機会獲得を重視するのは今や自然な考えだそう。
 

「映画の宣伝で大事なことって興味のない人をどうやって取り込むかなんですよ。コアなファンだけで成り立ったらそんな楽なことはないですし」
 
そのためにも、ドキュメンタリー映画を中心に上映する意義は非常に大きい。
開館から16年を迎えたポレポレ東中野。
最後にこれからのビジョンをお聞きした。
 
「映画館を運営する上で一番怖いことは、上映する作品がないことです。幸い、今は色んなところから上映してほしいという声がかかっているので、この状態をずっと継続させたいなと思っています。もし作品が無かったら自分一人でも探しに行きます(笑)」
 
「ポレポレ」とは、スワヒリ語で”ゆっくり”という意味。
価値観は一朝一夕で浸透するものではないからこそ、劇場の名のように、ゆっくりと少しづつでもいいので、ドキュメンタリー映画で新たな視点を取り入れていって欲しいと思う。
 
 
 
 

ポレポレ東中野
住所:〒164-0003 東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下
TEL:03-3371-0088
公式HP
公式Twitter

◽︎遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
1994年兵庫県出身。関西学院大学社会学部卒。
都内でエンジニアとして働く傍ら、天狼院書店でライティングを学ぶ。週末に映画館に入り浸る内に、単なる趣味だった映画が人生において欠かせない存在に。生涯の一本を常に探している。Netflix大好き人間。

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