週刊READING LIFE vol.85

メルカリで積読を売り捌いたら、自分にとって何が大切か見えてきた《週刊READING LIFE Vol.85 ちょっと変わった読書の作法》


記事:金澤 鮎香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は決して読書が好きなタイプではない。
「本は読んだほうがいい」そう一般的に言われているから、読んだ方がいいから読む。読みたいから読むのでなく、なんとなく世間一般的に沢山本を読んでいた方が、えらい人っぽいし、人間的に成長できそうだし、だから読む。
世間で話題になっていたベストセラー、インフルエンサーがオススメしていた本、S N Sで話題になっている本、友達に「これ面白いよ」と勧められた本。参加したイベント登壇者の著作本。「なんだかこの本は世間一般的に、読んでいた方が良さそうだ」そんな本は一先ず購入する。なんとなく背表紙を眺め、目次を見て満足する。「面白そうだな、週末読むか」お分かりだろうか、そうなると結局読まない、どんどん積み重なっていく積読。自分が純粋に「読みたい!」と思って購入するわけではないから当然っちゃ当然である。多かれ少なかれ皆さんも経験あるかもしれない。(私だけだろうか……)。
読みたい気持ちはない訳ではないのだ。面白そうだし、自分のためになりそうだし。でも少しでもしごとやプライベートが忙しくなると「本を読む」ことが自分にとって労働になってしまう。
「なんとかならないかなぁ」積読で溢れかえる本棚を日々見ながらもやもやした気持ちを抱えていた。
 
そんな時、知り合いのFacebook投稿が私にとっての転機になった。
それはこんな投稿だった。
 
「私の積読解消法。
積読を全て一旦Amazonに出品して売れたら急いで読む。本棚もすっきりするし売れたら焦って読めるし、めっちゃいい!」
 
正確な文章は覚えていないが大体こんな感じの投稿だった。
 
「なるほど!! その手があったか!」
読書好きの人には大変申し訳ないが、私は元々読書がそこまで好きでないので、本に対して執着もそこまでない。一度読んで読み返すこともほとんどなかった。シェアハウス住まいなので、部屋もそんなに大きい訳でもなく次の引っ越しを考えた時、なるべく本は減らしたかった。でも積読を古本屋に売りにいくのは気が引けるし、そもそも読みたくない訳じゃない、読む時間が、読む気力がないだけなのだ。
そんな私にとっては、「一先ず積読を出品し、売れてから読む」という読書法は目から鱗、神からのお告げのようだった。
 
Amazonは少し難しそうなので、私は元々利用していたフリマアプリ、メルカリを使うことにした。
 フリマアプリとは、自宅で要らなくなったものをアプリ上で簡単に売れる仕組みのこと。
値段が変動するヤフオクといったオークションアプリとは違い、決まった値段で即決できることが特徴だ。
 
一先ずメルカリに積読を恐る恐る出品してみたら、まぁこれが素晴らしい積読解消法だったのだ。
というのも
「人間二度と読めないとなったら意外と読む」
私は何でも先延ばししてしまう豆腐のような根性の人間なので、〆切がないと何もできない。仕事で疲れて帰宅して「さぁ、本を読むぞ!」とはならないし、朝読書のために早起きするより、1分でも長く寝ていたい。目の前の誘惑に弱い、ある意味人間らしい人間なのである。
でも「やばい、いつか読もうと思っていた本売れちゃったよ! 来週には発送しないと!」
だと意外と読むものだ。発送期日は自分で設定できる(最長1週間)ので、期日内に読めなかった……。ということは案外少ない。そして期日が迫り、尻に火が付くと焦っているので集中して読める。
多い時は毎日本が売れるので、一日1冊本を読んでいたこともあった。
 
「そんなこと言ったって、出品とか発送とかめんどくさいんでしょう?」
私もそう思っていた。これまで読んでいてお察しの通り、私はマメなタイプではない。できれば面倒なことはしたくない側の人間だ。だが最近のアプリはすごい。
本は、バーコードを読み取るだけで情報が自動的に入力される。そして売れやすい価格まで設定してくれる。(全てのフリマアプリに適用されるかは分からないが、少なくともメルカリはそうだ)。
別に高く売りたい訳ではないので、アプリに言われるがままやれば自然と売れた。あっけないほど簡単だった。
 
「そんな簡単に売れなさそう」と思う方もいるかもしれない。
私も思っていた。だがミーハーな私は話題の本を多く持っていたので、意外と売れた。もちろん売れない本は売れないけれど、なんせ積読は沢山あるものだと思うので、少なからずは売れるとは思う。
発送も梱包してコンビニに持って行ってQRコードをかざして終わりである。送料は自動で売り上げから差し引かれる。面倒な住所も書かなくていい。
 
「ここまで手間を省いてやっているのに、お前らそれでも面倒というか??」
そーんなアプリ開発者の心の声が聞こえて来そうなくらい、「ああめんどい、やめよう」と思わせない工夫がされてある。本当にすごい。めんどくさがりのツボをとことん抑えている恐ろしいアプリなのだ。
 
そして、ついでにおこづかいもゲットできる。
ここが重要で「売れる」ということは、お金をもらえるということだ。お金が嫌いな人はあんまりいないと思う。そんな儲かる訳ではないが、毎日のコーヒー代の足しにはなる。私は低俗な人間なので、売れるとやっぱり嬉しい。初めて一冊売れると楽しくなってしまい、どんどん出品したくなった。
面白いことに売れれば売れるほど、本を読まざるを得ないので、本を読むのに慣れ、本を読むのが以前より好きになった。
そして稼いだお金でまた新しい本を買う。新しい本も出品し、売れたら読む。アプリ内でぐるぐる経済を回している。掌で転がされている気もしないでもないが、便利なのだからしょうがない。
かなり低俗だけど意外と有効な積読解消法だった。
本を売れば売るほど、買う本も読む本も増えた。
 
そんなこんなで本を売っては読み、買ってはまず売って読む日が続いていた。
 
だがそんな中でも「この本は売りたくないな」
そう思う本がたまにあった。
「他のメルカリで売ってもいい本と何が違うんだろう」
別に明確な基準がある訳ではない。なんとなくこの本は売りたくないな、手元に置いておきたいな。という本があるのだ。売ってしまって、読んでから初めて気づく本もあるし、売る前になんとなくこれは売りたくない。と思う本もある。
 
「メルカリで売りたくなかった本」だけを詰め込んだ本棚をぼーっと眺める。
そうすると何となく傾向が見えてくる。
 
①自分の人生や考え方が変わるきっかけとなった本
②1回読んだだけでは理解できず、でも大事だな、理解したいなと思ってもう1回読み直したい本
③デザイン本など、仕事や作業をする時に参考にする本
 
①や②の本のテーマで多いものはコミュニケーション、多文化理解、対話や自分の主観を大切にすることだったり。③だって参考書と言えども、デザイナーでも何でもない趣味程度にデザインをかじっている私が、売らずに残しているのはデザイン関係の参考書ばかり。
積読で溢れかえっている時の本棚は、もっとごちゃごちゃしていた。仕事効率化の本、バズを起こすための本、投資の本……何となくかっこいい文言が並ぶ流行りのビジネス書で溢れかえっていた。
 
積読を売ってから読むという読書法を始めてから気づいた「なんとなく大事にしたい、売りたくない本」
残った本は流行った本もあれば、知名度がない本も様々だ。
でも私が今最も大切にしたいと考えていることは「コミュニケーションとか対話とか他文化理解とか、他者理解に関することなんだな」と本棚を眺めていて気付かされた。
そしてデザイナーでもないのに溢れかえるデザイン関係本を見ると、「どうやら私はデザインが思っていた以上にとっても好きらしい」と改めて実感。元々デザインは好きでデザインソフトのイラストレーターやフォトショップは趣味でかじっていたけど、所詮趣味程度と思っていた。意外とそうでもなさそうだ。
 
人生に迷った時、「自分が死ぬまでにやりたいこと」を100個書き出せ! という話を聞いたことはないだろうか。よく言われるので聞いたことがある人は多いと思う。それと同時に「自分のやりたくないこと」も、100個書き出した方がいい、とも過去誰かから聞いた。
聞いた時はふーん、200個も書き出すなんて大変だなぁなんて思っていた。だけど案外まず「自分がやりたくないこと、必要のないもの」が分かっていた方が、やりたいことを100個頭を捻って探すよりいいのかも? やりたくないことが見えてくると、自然とやりたいことがはっきりするのだと思う。
実際、自分にとって手元に置いておかなくていい本が分かっただけで、何だか自分の大切にしたいことが見えてきたのだ。本だけで。
 
元々はただただ積読を解消したい、本棚をすっきりさせたい、ついでにお小遣いもゲットしたい。そんな低俗な欲求だけで始めたメルカリ出品読書法。思いがけない形で「今、自分にとって何が大切か」気付かされる良いきっかけになった。
 
今「売りたくないな」と思っている本だって何ヶ月かしたら「売っても良い本」に変わっているかもしれない。売ってしまった本をまた読みたくなって「売りたくない本」にするために買い戻すこともあるかもしれない。「売りたくない本」の本棚の中身だって少しずつ変わるはずだ。その時は「なぜ私はこの本を売っても良いと思っているんだろう」「何でこの本は売りたくないんだろう」定期的に本棚を見直して考えてみた方がいいのかも。その時は「自分が大切にしたいこと」が変わっているということだから。
 
そんな変動の激しい本棚の中に何年間もずっと残り続ける「売りたくない本」があるとしたらそれこそ「私の人生そのもの!」な本に出会えたということなのかもしれない。そう思うとわくわくして、もっと沢山の本を買って売って読んで、また買ってたまに売らないで、読もうと思うのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
金澤 鮎香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2020-06-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.85

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