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週刊READING LIFE vol.89

おじさんとおばさんが店員のアパレルショップ「原宿パイルドライバー」《週刊READING LIFE Vol,89 おばさんとおじさん》


記事:篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
若者の街・原宿はいつでも流行の発信源だ。今ではすっかりブームが終わったタピオカ店が何十店も軒を連ねてお互いに若者に向かって存在をアピールしていたのが今ではほとんどが閉店をしているらしい。そんな移り変わりの早い街・原宿におじさんとおばさんが店員を務めているアパレルショップがある。
 
その名もパイルドライバー。
 
名前を聞いてピンとこないだろうか? そう、プロレスラーが5年前に原宿に開いたお店だ。社長はレスラー生活32年目に入った鈴木みのる。現在52歳と立派なおじさんだ。他の店員もおじさんとおばさんばかり。
 
店でのあだ名がテンチョーの松本浩代は34歳の現役女子プロレスラー。「破壊する女」「女人間発電所」のニックネームを持ち、世界最大のプロレス団体・WWEのマットにも登った経験がある人気プロレスラーだ。
 
カチョーがあだ名の佐藤光留(ひかる)は、鈴木みのるが作った総合格闘技団体からプロの総合格闘家としてデビューを果たし、鈴木の弟子としてプロレスでも大暴れ。現在はジャイアント馬場が作った全日本プロレスを中心に活躍をし、自らも興業を手掛ける40歳。こちらも立派なおじさんである。
 
他には鈴木の作った団体で審判部長を務めるブチョーこと梅木義則は45歳。ロッキー川村こと川村亮は39歳。見事におじさんとおばさんばかりである。
 
だが、全員原宿の街に溶け込んでいて違和感を覚えることはない。
 
どうしてか?
 
まずは現役の、しかもトップクラスのプロレスラーなので激しい練習をしているから肉体が年齢よりも若いという点が大きいかもしれない。新陳代謝が激しいおかげで肌もきれい。写真を見るとシワが目立つことはない。
 
もう一つ大きいのはなんと言っても店での格好が無理なく原宿の街に溶け込んでいるからだ。
 
これはシャチョーこと鈴木みのるの考えが大きい。その考えを知るために少し開店したときの経緯について説明をしておきたい。
 
パイルドライバーが開店したのは2015年。鈴木が所属していた格闘技団体から完全に独立してフリーのプロレスラーになったときのこと。プロレスラーは試合でのギャラの他に自らのグッズを作って売り上げの一部が入ってくる。鈴木も自分のグッズを作って販売することになった。
 
しかし、試合がないときにグッズを売ることはできないためオフの期間が勿体ないということでカチョー・佐藤に相談してネットショップから始めたのがスタートだった。
 
当時は実店舗を出すなんてまったく考えてなくてネットからグッズが売れたらいいや程度の副業に近い感覚だったという。実際にプロレスファンがたくさん購入してくれて売り上げも好調。結構な収入になっていたそうだ。だが、原宿に知り合いが店を出すと聞いてお祝いに駆けつけたときに運命の歯車が動き出す。
 
ケーキを持って駆けつけると明治通り沿いにあるビルの地下で回りには何もなくシャッターが閉まっていて寂しい雰囲気が漂っていたそうだ。売っているのはサッカーファン向けのアパレルグッズ。
 
鈴木は友人に「こんなところで経営成り立つの?」と聞くと「逆転の発想だよ。もう一店舗は味の素スタジアムがある飛田給にあるけど平日は誰もいないから売れない。原宿のお店は店舗だけじゃなくて事務所も兼ねているから少しでも売り上げがあったほうがいい」と答えたそうだ。
 
それを聞いた鈴木はピンとくる。
 
「そういえばウチもプロレスで巡業するときは会場内で店舗出しているようなもんだな。ネットでも売ってるけど在庫を倉庫に抱えるくらいなら店舗で売った方がいいか」
 
辺りのシャッターを見渡すとそんなに広くはない。
 
「これくらいなら俺の金でもできるな」
 
頭の中でシミュレーションをしていたらビルの管理事務所の人が横切った。
 
「すいません。ちょっとこのシャッターが閉じている場所見せてもらっていいですか?」
 
そう話しかけて空き店舗を見せてもらう。
 
「これだ」
 
鈴木いわく「ひらめいた」という。
 
「なんかね、シャッターが開いてここに入った瞬間、自分の店の画がぼわっと見えたの。お客さんが話している声まで広がってきてさ」(鈴木みのる著:ギラギラ幸福論・黒の章より引用)
 
その場で契約。僅か3週間で開店にこぎ着けた。
 
販売しているのはプロレスグッズ。それだけ聞くと原宿には似つかわしくないダサいのしかなくて格闘技のメッカ・後楽園ホール界隈でしか見ないような服しか置いてないと想像する人もいるだろう。
 
しかし、パイルドライバーは今までのプロレスグッズとはちょっと違うコンセプトがあるのだ。
 
それは、シャチョー・鈴木みのるが「自分が持ちたいもの、自分が着たいと思うものしか商品化しない」というものだ。
 
一見すると単なるワガママのように映るが自分が着たいと思うというのはプロレス観戦以外に着ていくのが目的に作ったものではないということ。プロレスグッズは想像の通りに如何にもなものが多い。業界ナンバーワンの新日本プロレスもグッズに力を入れているが一目見て「プロレスグッズです」とわかるものも多い。
 
しかし、パイルドライバーは普段鈴木みのるが着ているものを商品化しているので如何にもなものはない。看板商品であるTシャツや靴下はすべてシャチョーの鈴木が手掛けている。如何にもなプロレスグッズも原宿のお店にもあるがあまり売れていないという。プロレス会場では一番人気なので在庫を持って巡業へと向かう。
 
売れる商品を把握して販売先を変えるのは経営では当然なのだが18歳からプロレスラーだった鈴木が実践しているのは驚きの一言。しかし、パイルドライバーを開店するに当たって分析をしたという。
 
それは、大晦日の特番でビンタをする人として有名な蝶野正洋が開店したアパレルショップ「アリストトリスト」のことだ。蝶野がテレビ出演するときや講演に出かけるときの服装はすべてアリストトリストで販売しているものだ。デザインと経営は蝶野の奥さんがやっていて蝶野は所属するレスラーとしてモデルをしている形だ。洗練されたデザインはプロレスグッズとは思えないデザインで銀座にも進出するほど大成功を収めている。
 
鈴木は蝶野が着てる服を見て何となくわかったそうだ。
 
「プロレスファンだっておしゃれをしたい。でも、プロレスグッズも身に付けたい」
 
そんなファン心理があって蝶野が着ている服を買ってプロレス会場に足を運ぶ「蝶野もどき」がたくさん表れたのを分析して見つけたのだ。
 
「もともとネットショップ始めたときから、俺が現役だから売れているというのはわかっててね」(鈴木みのる著:ギラギラ幸福論・黒の章より引用)
 
もちろん自己分析も忘れない。だからこそファンの心理を突いたグッズ展開をして普段使いもできるプロレスグッズがパイルドライバーのコンセプトだ。
 
「このショップに置いてあるのは原宿の街を歩けるものしか置いてない。俺がそれをいつも考えながらデザインしているからさ」
 
僕も鈴木みのるから直接聞いたことある。他にもパイルドライバーには店員に課している掟がある。それは常に最新のTシャツを着て店に出ること。既に販売していない服を着ても仕方ない。なんと言ってもパイルドライバーは鈴木を筆頭に現役のプロレスラーが店番と接客をするのが売り。
 
好きなレスラーと同じ服を着たいと思うのはファン心理として当然だ。接客してくれるレスラーが着てる服がないとなれば悲しいと思うのは当然。店員は動くマネキンなんだから常に新しいものを身に付けて店に出る。アパレルの基本をしっかりと抑えて経営を続けているのだ。
 
しかし、そこでふと疑問が湧くのが接客しているときの鈴木みのるの姿だ。鈴木は「世界一性格の悪い男」と専門誌の記者のあだ名を付けられるくらいの悪役レスラーだ。リング上ではファンの女性に「うるせえ、このブス!」と怒鳴り、試合中は鬼の形相で相手を潰し、
試合開始前は無愛想に鈴木軍グッズを手売りしている怖い姿しか見せない。
 
もし、パイルドライバーで欲しいグッズがあって鈴木が店番をしているならば店に入った瞬間ににらまれ、商品を手に取ってみようとすると「何勝手に触っているんだよ」と悪態をつかれ、商品を床に落としてしまったらお客の胸ぐらを捕み「テメー俺の大事な商品を汚したな!?」と脅しているのではないか? と不安に駆られるファンもいるだろう。
 
そんな心配は無用だ。
 
僕は、まだ緊急事態宣言が出される前の3月にパイルドライバーに来店をして鈴木みのるの接客を受けている。
 
その日はお店のツイッターで「シャチョーが店番しています」というツイートを見つけて気がついたら電車に飛び乗っていた。原宿に着くと明治通りに出て店があるビルの地下へと向かった。
 
1階から地下へと向かう入り口には液晶画面のパネルがあってパイルドライバーの宣伝をしていた。思わずスマホで撮影をしてから階段をしずしずと降りると一面白い壁に囲まれた閑散としている地下のアーケード街。中へ進むとバイルドライバーの看板が見えてくる。
 
中に入ると聞こえてきたのは鈴木みのるの弾んだ声。
 
「これはチャリティ品だから現金だけなんだ」
 
青のTシャツを着て紺のベースボールキャップを被った鈴木みのるとカチョーこと佐藤光留
ひかる)が女性と談笑をしていた。
 
「店を出て、左に少し歩くとコンビニのATMあるから」
 
笑顔で場所を案内しているシャチョー鈴木とカチョー佐藤が笑顔で送り出す。
 
「じゃあ行ってきます」
 
女性が店を離れると6畳くらいの狭い店内には僕と鈴木みのる、佐藤光留(ひかる)だけになった。緊張しながら何を買おうか店内を見渡し商品を探す。冷やかしではないと悟ったのかみのると光留は雑談に入った。するとネットショップでもグッズが売り場でも見たことないTシャツが目に入ってきた。
 
鈴木が着ているものと同じデザインで白、黒、赤の三種類が並べてあった。手に取って大きな鏡で合わせてみるもピンとこない。なんか違うんだよなあと思いつつ向かいの売り場にあるプロレス会場での売り上げナンバーワンのTシャツが目に入った。
 
「これじゃあない。普段着られるのがいいんだよな」
 
小声でブツブツと呟きながら元の場所へと戻って色違いのTシャツを合わせる。さっきは黒で今度は白。これもちょっと違うなと思いつつ再び黒を手に取って鏡で合わせる。すると後ろから声が聞こえてきた。
 
「色で迷ってるんだ?」
 
なんと! 鈴木みのるが話しかけてきた
 
ドクドクドクドク
 
心臓の鼓動が早くなる。音が聞こえていないか心配になりながら僕は返事をする。
 
「白か黒で迷ってまして」
 
すると鈴木は棚に並んだTシャツを指すと柔らかい笑みを浮かべて話し始めた。
 
「それは今日出たやつ。これは明日出るやつ」
 
そう言ってみのるは自分の着ているシャツをつまみ上げて僕に言葉をかけた。
 
「そうなんですね。でも赤は似合わないからなぁ」
 
少し上ずった声で鈴木に話しかける。
 
「そんなことないだろ? 普段から黒系が多いの?」
 
「はい。うちにあるのもほとんど黒か茶色です」
 
「パンツも黒なら赤合うよ、きっと」
 
「えっ?」
 
意外な言葉に驚きを隠せない。
「年齢なんで関係ないよ。黒ばっか着ていたら気持ちも沈んちまうだろ? きっと似合うよ」
「はい! じゃあ赤にします」
 
当時新作のTシャツを抱えてレジへと向かう。いつの間にか僕よりも先に商品を選んでいたおじさんのお客さんが会計をしていて鈴木に話しかけてくる。
 
「写メお願いします」
 
プッとみのると光留の表情が崩れた。
 
「写メって何年前の話だよ」
 
「最近聞きませんね」
 
「確かあれはソフトバンクが名付けたんだよな。他は違う名前だったんだよ」
 
二人はにこやかな表情をして店先に向かう。商品を買ってくれた人に無料でツーショット撮影のサービスをするのもパイルドライバーのお約束だ。撮影を終えた二人がレジに戻ってくると僕は思わず会話に割り込んでしまった。
 
「写メってソフトバンクが商標登録していたんですよね」
 
鈴木はにらみつけて胸ぐらを掴むどころかイヤな顔一つせず
 
「そうだよな、そうだよ、そうだよ」
 
納得したトーンで返事を返してくれた。「4300円です」
 
光留が僕に声をかける。
 
「カードでお願いします」
 
カードの読み込みを待ちながら僕はカバンに忍ばせておいた鈴木みのるの著書「ギラギラ幸福論・黒の章」を出す。
 
「おっ、1万円の本が出てきたぞ」
 
レジの隣にいたみのるが声を上げる。
 
「あの……」
 
モジモジしていた僕に鈴木は「サインね。ちょっと待ってて」とマジックペンを手に取り、口角を上げたまま答えてくれた。
 
「あの、僕も写メいいですか?」
 
少し調子に乗ってお願いをするとサインをしているみのるが笑いながら「写メね、いいよ」と快諾。先ほどのおじさん同様、僕も店先でツーショット撮影をして握手を交わす。カメラマンはカチョー佐藤光留(ひかる)。実はお正月に全日本プロレスの試合を観戦したときにタイトルマッチで敗れたのを覚えていた僕はカチョー佐藤にも握手をお願いして話しかける。
 
「お正月の試合見に行きました。惜しかったです」
 
佐藤ははにかみながら「三ヶ月も前のことを」と言って強く握り返してくれた。恐れることはない。原宿のパイルドライバーにはがたいのいいおじさんとおばさんがプロレスファンもそうでない人も来店するのを待っている。
 
もし欲しいものがなかったらシャチョー鈴木みのるがいるときに話してみよう。きっと答えてくれる。
 
だって鈴木みのるはお客さんとの会話から何が欲しくてどんな心理状況でグッズを買っているのかリサーチしているのだもの。社長が売り子をしているからこそできる対応。それが原宿パイルドライバーなんだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって都内に仕事で通うほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーライターとして日々を過ごす。

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2020-07-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.89

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