私をコミケに連れてって

最終回 私をコミケに連れてって――次回のために――《WEB READING LIFE 連載「私をコミケに連れてって」》


記事:黒崎良英(READING LIFE公認ライター)
 
 
C 98、すなわち2020年の夏コミは中止となった。
しかしそれは、コミケそれ自体の中止を意味するものではなかった。
「エアコミケ」と言ったインターネット上でのイベントの開催。
初めての試みではあるが、それはコミケがさらなる一歩を踏み出すための、勇気ある試みであると思う。
 
ならば、我々ができることは何か。
それはすなわち、いつも通り次回に備えることである。
ある人は出展するための作品を作り、ある人は会場を回るための計画を立てる。
そのようないつもの行動が、同人誌即売会の火を消さないことにつながることとなると思う。
もちろん、まるっきり同じにはできないだろう。住居の中だけでできることは、やはり限られたものがある。
我々同志は、その中で最大限のパフォーマンスができるように、皆で協力しあって行きたいものである。
 
では、最終回は持ち物や計画について振り返り、次回のコミケにつなげたい。
 
ご存知の通り、コミケと同じく東京オリンピック・パラリンピックも延期となった。それに伴い、ビッグサイトの東館は、準備はそのままということで引き続き使用不可となる。
したがって、もし次回以降コミックマーケットが現地で開催されるなら、今年の冬コミ、来年の夏コミ、と東館が使えないこととなる。
それに適応した計画を組んでおくべきであろう。
 
特に西館から南館への動線は、一方通行なども多く、膨大な数の参加者数と相まって移動に苦労することは目に見えている。
なるべく一筆書きのように回り、往復のないようにしたいところだ。
その点で言えば、企業ブースがある青海展示棟に行くならば、それ相応の計画が必要となるだろう。
C97では行けなかったが、こちらはこちらで大変おもしろい。コミケに参加する企業といえばゲーム会社やグッズ関連の会社が多いが、中には都営バスなどの交通機関、水や菓子などの食品会社も出展していることがある。どのようなグッズやコンテンツでコミケに参加しているのか、それぞれの工夫が見られておもしろい。次回はこちらへの参加も計画したいところだ。
 
メイン会場外といえば、お隣の「東京臨海広域防災公園」は、コスプレエリアとして使われている。こちらは例の東京オリンピック・パラリンピック準備のため、会場のコスプレエリアが少なくなってしまったため、代替地として使われるようになったらしい。
ということは、オリンピック・パラリンピックが終了すると、また事情も変わってくる可能性がある。
ともかくこちらでも撮影が可能で、よくネット上やテレビ番組の特集を賑わすあの巨大サークル(レイヤーさんを中心として撮影者が輪を作って撮影している)は、大体がこちらで撮られたものである。
C97での撮影は、メイン会場のエントランスと屋上に限った私だが、次回はぜひ、こちらでも撮影したいものである。その際三脚やレフ板は使用できないようなので、こちらも合わせて覚えておきたい。
 
コスプレ撮影の際、カメラマンの方々は実に多様な機材をお持ちだ。
レフ板はもとより各種オプションのついたフラッシュなど、一見何の道具か分からないものもあった。
コミケでの写真撮影を極めたいならば、やはり持ち物やそれを入れる鞄類のことも考えなければならない。
 
私はC97では、一眼レフを1体メイン機として持って行った。しかしレンズが複数ないので、50mmの単焦点のみ。その代わりマクロから超望遠まで撮影できる、いわゆる「デジカメ」の類を一つ持っていった。ただ結局、公園での巨大サークルで撮影ができなかったので、この汎用カメラはあまり出番がなかった。漠然とではなく、撮影プランにあった機材を持っていくべきであった。
 
その2つをまとめてカメラバッグに入れ、一緒にこまごまとしたもの(チケットや小銭など)を入れておいたわけだが、ここらへんは皆さん実に多様な形態をしているので、いろいろと参考にさせていただきたい。
 
私はこのメインバッグ以外に大型の手提げ鞄を肩にかけ、リュックを一つ背負っての参加だった。
リュックの中には100円ショップで買った、A4サイズが入る底の厚いクリアケースとクリアファイルが入っている。
戦利品の冊子はファイルに入れ、手提げの中に一旦納め、頃合いを見つけてリュック内のクリアケースに入れようとした。しかし手提げの中だけでも十分な防護性があるので、極端な行動をしない限りクリアファイルは不要であろう。
 
3日目の戦利品はそこまで多くはなかったので、リュック一つにまとめることができた。ただ翌日にそれを背負って歩きまわるのはキツイと思ったので、さて、どうするかと悩む。
 
最終的に出した答えは、駅のロッカーを使うことだった。
しかしこれは賭けでもある。コミケの時期の駅ロッカーはほぼ塞がれているが、それでも小さめのスペースなら、逆に使われないだろうと考え、賭けに出た。
幸いそれは成功し、本当に一番小さいロッカーが一つだけ空いていたため、そこにねじ込むように入れた。クリアケースがあるので、ここでも防御は万全だ。
やはり可能ならば戦利品はリュック一つにまとめたいところである。
 
服装についても考えなければならない。
第3回にも言った通り、寒暖差が激しすぎると、かなり辛い思いをする。
個人差があるかもしれないが、中と外との温度差や、早朝と日中の温度差は、かなり激しい。
自分で調節できることがもちろん前提となるが、極端な厚着や薄着はよろしくないようだ。
特に夏コミはどこもかしこも灼熱の中。水分も十分に持っていかなければならない。
暑さ寒さは我慢をすれば何とかなる程度であったが、水分は命にも関わる。これは気をつけて用意したい。
 
服装や持ち物については、なんだかんだ言ってここの視点が最も大事なのであろう。すなわち自分の体調は自分で管理する、という点だ。
会場内で倒れたら元も子もない。自分が楽しめないだけでなく、スタッフを初め多くの方々の迷惑になってしまう。
もちろん具合が悪くなったら我慢してしまうのも考えものなので、スタッフなどに相談することが良いだろう。
つまりはそうなる前に、体調は整えていくことが最優先事項となるわけだ。
私の知人も、皆、マナーと同列にそのことについて述べていたが、今回、暑さと疲労に苦しめられた時に、改めてこのことが思い浮かんだ。
 
言うまでもないことだが、コミケは大勢の協力で成り立っている。
スタッフだけではなく、参加者一人一人のマナーや情熱や、成功させようという意思で作られているイベントだ。
一人の都合で台無しにしてしまうわけにはいかない。だが悲しいことに盗難事件なども出てしまっていることも事実だ。
初めて実地でのコミケが中止された今年、私たちは改めて、このイベントに参加することの意味を考えなければならないのかもしれない。

 

 

 

コミケとは器である。
それは、何者もどんなジャンルも拒まない、全てを受け止めてくれる柔軟な形の器である。普段は忌避されているようなことも、人から見ればバカにされるようなことも、ここでは肯定される。
 
もちろん、秩序もマナーもある。恐ろしいほどの人の多さに、ただ疲れるだけかもしれない。ただ待つだけで成果がないかもしれない。
確かに目的がなければその通りであろう。
だが、目的があり、意識があれば、ここは最高の楽園である。自分の大好きなもののために生きることを肯定される場所なのだ。
 
それらさえあれば、楽しみ方は人それぞれ。
C97に参加した人も、まだコミケに参加していない人も、ぜひ、同志となってこれからのコミケを盛り上げていこうではないか。もちろん2020年のエアコミケも、だ。
 
まだ不安があるならば、経験者にいろいろ聞くといい。もちろん私でも構わない。
そしてその時は、やはりこう伝えた方がいいだろう。
 
“私をコミケに連れてって”、と。

 
 
 
 

❏ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨で、国語と情報を教えている。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2020-04-27 | Posted in 私をコミケに連れてって

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