三浦くんと幸田くん《天狼院通信》
天狼院のお客様の中に「影武者」と呼ばれる男がいる。
幸田くんである。
3月22日の映画・舞台『世界で一番美しい死体〜天狼院殺人事件〜』のときには、大変なお客様の数になって天狼院のスタッフが足りずに、幸田くんはお客様なのに「最後列はこちらです」のプラカードを持ち、誘導をしていた。
その際に、幸田くんは、3人以上の方から、こう言われたという。
「店主の三浦さんですか?」
いや、違う。
店主は、僕だ。
なぜ、幸田くんが3度以上も僕に間違われたかといえば、ハゲているからだ。
おそらく、そのお客様は、テレビか雑誌か新聞で僕の風体をみて、とりあえず「ハゲ」だけをインプットして、それらしき幸田くんを見つけたから、あ、店主だと思ったのだろう。
そうやって、幸田くんに声をかけたのが3人以上いたということは、もっと大勢が幸田くんを僕だと間違えたに違いない。
土日とか、結構、幸田くんは天狼院にいるから、むしろ、店主の僕よりも天狼院にいるから、いつしか「影武者」と呼ばれるようになった。
この幸田くん、とても、いいやつなのである。
お客様に向ってこういうのもあれだが、本気でいいやつなのだ。
とても、読書家で、歴史小説から、少女漫画までも読む。
ファナティック読書会の常連であって、まあ、天狼院のほとんどのイベントの常連だ。
実は、僕は幸田くんに恋愛相談を受けたことがある。
本気モードで、ある人が好きになって、どうしたらいいのかわからなくなっていたのだ。
まあ、僕も案外忙しいのだけれども、風貌的にもなんだか他人のような気がしなかったので、閉店の後、僕は真剣モードでアドバイスした。
幸田くんと違って、僕は、女の子が得意だ。
残念ながら、あんまり女性に困ったことがない。
それが、幸田くんにとって、きっと、ミラクルにも希望にも見えるんだろうと思う。
なぜなら、同じハンディキャップを背負っているからだー
そう、ここが今日のポイントなのだ。
僕と幸田くんの大きな違いは、僕はハゲを「進化」と捉えて、幸田くんは恋愛における「ハンディキャップ」だと捉えているところだ。
それは、まあ、ハゲているほうが恋愛においては不利に決まっているが、僕の場合はハゲてからのほうがモテるようになった。
正直いってしまえば、恋愛において僕はハゲであることをまるで気にしていないのだ。
僕にとっては、相手を好きなったという自分の気持ちが最重要であって、自分がどうしたいかを貫き通そうとする。
自然、自分の気持ちは、相手に堂々と伝えるし、まあ、伝え続けるし、あとは相手がどう思うかは相手次第だと割り切っているところがある。
わがままだから、仕方がない。
ところが、幸田くんは違う。
幸田くんは、やさしいのだ。
だから、相手のことを、まずは考えてしまう。
幸田くんに恋愛相談されたあの夜、僕は幸田くんの恋愛を成就させるべく、頭をフル回転させて、どうすればうまくいくかを考えぬいた。
詳しくは言えないが、自分はあなたが好きで、いつでも受け入れられる準備をしているということを男らしく伝えたほうがいいとアドバイスした。
そう、機を逃すとまずいと思ったのだ。
ところが、次に会ったとき、幸田くんはダメだったと言った。
「は? なんで? ちゃんと伝えたの?」
でも、幸田くんは優しい目をして首を横に振るのだった。
僕はちょっと頭に来たけれども、幸田くんの目を見ていると、怒る気にもなれなくなった。
きっと、幸田くんは、相手のことを考えて、告白することを思いとどまったのだろう。
緊張しながら、意を決して告白しようとしたそのとき、幸田くんの脳裏にはこんな想いがよぎってしまったのではないか。
もし、自分が恋人だとしたら、彼女の友だちはどう思うだろうか。
彼女の両親に、彼女は自分をどう説明するだろうか。
彼女の兄弟は、自分を連れてきた彼女をどう思うだろうか。
恥ずかしい想いをするにちがいないと、優しい幸田くんは、思ってしまったのかも知れない。
優しいからこそ、そして、相手のことを思うからこそ、幸田くんは、思いとどまったのではないか。
恋愛とは、愛とはなんだろうかと僕は最近、よく考えている。
幸田くんに告白を思いとどまらせたことこそが、もしかして、本当の愛情ではないかと僕は思うのだ。
もしかして、更に、こう思うかもしれない。
自分よりも、きっと彼女を幸せにしてくれる人が現れるに違いない。
彼女は、自分といるよりも、その人といるほうが、笑顔でいられるに違いない。
彼女だけでなく、彼女の友だちも、両親も、兄弟も、きっと安心して、その男性を迎え入れて、幸せになるに違いない。
優しいだけじゃ物足りない、というのも、わかる。
けれども、幸田くんは優しいだけじゃない。
あの日、3月22日、映画と演劇の公開日に、大勢の人が訪れた豊島公会堂で、そして、その前の準備段階で、もっとも男らしく振舞っていたのは、幸田くんだった。
映画の完成が遅れて、様々な問題が噴出して、奔走している僕の代わりに、スタッフやお客さんを束ねて、しかも自ら一番しんどい最後列での案内を勝ってでて、大きな体から大声を出して、列を整えていたのは、幸田くんだった。
もし、幸田くんがいなければ、あの日、もっと会場は混乱していたに違いない。
女性の皆様は、どこを見ているのだ。
ああいう男を、一人にしておいてはいけない。
幸せとは、なんだろうか?
もちろん、人それぞれあっていいと思う。
他人の目を気にして、着飾るような恋愛をすることにどんな意味があるだろう。
金や地位や名誉よりも、数段価値があることが世の中にはあって、僕は幸田くんがそれを具現しているように思えるのだ。
きっと、幸田くんは一度チャンスを掴めば、女性を幸せにするだろう。
誰よりも愛情を注ぎ、しかも、それは自分勝手な愛情ではなくて、相手を思った愛情であって、その女性も、その女性の家族も、そして後から生まれる家族も、大切にするに違いない。
もし、あなたが天狼院に来て、店主の僕と見紛う頭をした大きな男を見かけたら、声をかけてみるといい。
優しい目で、答えてくれるだろう。
人のことより、自分はって?
まあ、僕のことはいい。
僕は、案外、うまくやる笑。
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