派遣のお仕事でマインドリセット!娘を最優先させた先には何が?≪週刊READING LIFE Vol,319「私はこの仕事で救われた」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2025/8/14/公開
記事:中川 百(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「子どもが甘えすぎるのは、愛情不足の証拠なの。はっきり言って、もう手遅れだと思うけど、頑張ってね」
“手遅れ”
この言葉は、これから転職し、子どもとの時間を増やそうとしていた私にとって、胃を鷲掴みにされ強烈な吐き気と痺れが襲ってくるような、漫画で描かれる100tハンマーで頭をかち割られるような、衝撃的なものだった。
当時、私は、テレビの番組制作会社に所属し、子育てや教育に悩む親向けの教育番組に、フロアディレクターとして携わっていた。フロアディレクターというのは、スタジオで、出演者に番組内容や演出意図の説明をしたり、カンペを出したり、スケジュールを調整したり、物を出したりなどなど……、収録や生放送に関わる全てをスムーズに進行する役割を担う。
この時に担当していた教育番組は、小・中学生の子を持つ保護者の皆様に、スタジオに集まってもらい、教育評論家の先生と一緒に悩みを共有するという、保護者会仕立ての番組だった。
こちらの教育評論家は、長きに渡る教育現場の経験があり、女性的な言動と、優しいキャラクターで、「ママ」という愛称で親しまれていた。
冒頭の言葉は、転職のため、テレビ業界を去る決断をしたことを伝えに行った際に、この教育評論家の先生から投げかけられたものである。
今思えば、およそ4年間、共に番組を作ってきたスタッフに向け、力強く生きていってほしいというエールを込めて、あえて厳しいことを言ったのではないかと想像できるが、当時の私は、呆然としてしまった。
「ママ」が“手遅れ“と言うならば、本当にそうなのかもしれない。
しかし、“手遅れ“ってどういうことなのか。
どうしよう、仕事を辞めても、無意味なのかな。
私には、4歳になったばかりの娘がいた。
3月生まれの、おっとり、マイペースで、元気な女の子。
しかし、4歳になる直前の2月に、川崎病という全身の血管が炎症を起こす病気にかかり、10日間の入院を余儀なくされた。私の夫はテレビのカメラマンをしており、私も番組の収録や生放送に合わせた時間で働いていたため、病名が分かるまでの期間と入院期間は、私の実の母に頼らざるを得なかった。
居て欲しい時に、パパもママもいない。
それでは、娘は寂しいんじゃないだろうか。
仕事を“代われる人”はいるけど、ママを“代われる人”はいないよな。
私が大事にしなきゃならない最優先事項って、仕事じゃなく娘なんじゃないか。
そんな考えが、ニョキニョキと生え、モクモクと膨らみ、娘が入院した月の翌月、3月には転職を決意していた。
なかなかな急な展開ではあったが、私の決意は固かった。
久しぶりの就職活動を開始。
そして、運よく、4月始まりの事務職で正社員の仕事が決定! しかけたのだが、当時所属していた番組制作会社に、番組の引継ぎのために4月末まで残って欲しいと言われ、再度、職探しをすることとなる。とは言え、35歳からの転職活動は、そうそう上手く行くはずもなく、結局、最後に頼ったのは、大手の派遣会社だった。
派遣社員かあ。
有期雇用かあ。
一抹の不安を感じながらも、もう後戻りはできない。
こうして、5月から、某有名私立大学の理工学部キャンパスで派遣のお仕事を始めることとなった。転職活動を始めて2か月後のことであった。
これが、私のマインドリセットのきっかけとなる。
正直、“派遣”には、良いイメージではなかった。
2008年のリーマン・ショックを発端とする「派遣切り」は社会問題となり、一方的にクビを切られ、家も職も失った生活困窮者が年を越せるようにと開設された避難所「年越し派遣村」も、ニュースなどで大きく取り上げられていた。多くの人が、公園に用意されたテントで寝起きし、炊き出しをもらうために行列となっている映像は、とても印象に残っていた。
非正規労働者
会社都合でクビ
安い給料
全くと言って、良い印象はなかった。
では、実際は、どうだったのか。
私の時は、さすがに、一方的にクビになるようなことはなかったが、言うまでもなく、非正規労働者である。半年ごととか1年ごとに契約を結び直す必要があった。
だから常に、1年後に更新されるのかという不安は感じていた。
“不安定”という言葉がぴったりである。
また、2015年に改正された派遣法の「3年ルール」をご存じだろうか。同じ場所では、3年を越えて働いてはいけないという決まりがある。
法が求めているのは、
「3年経つ前に、派遣さんを、正規雇用にしてくださいね」
もしくは、「派遣会社で、派遣さんを、無期雇用として雇ってくださいね」と、
派遣社員に利のある結果を期待している。
しかし現場では違う。
3年経てば、辞めていくだけのこと。
当たり前に。にこやかに。
「お世話になりました」と去っていく。
3年という、仕事が上達し、面白くなってくる時に、同じ場所では働き続けることが叶わないというジレンマを感じた。
給料面も、時給はそこそこに良いが、あくまで「時給」なのである。
派遣先の大学が夏休みとなれば、事務室も閉室する。仕事に来なければ、その分、手取りが減る、という簡単な仕組みだ。
では、派遣として働くメリットは何か?
私にとっては、この1点のみだった。
先述の「ママ」に“手遅れ“と言われた子育てのやり直しに充てる時間が、グンと増えたことである。
私は、派遣を始めるまで、いわゆる「9時17時」という世界が本当にあると思っていなかった。定時に始まり、定時に終わるという状況が、心の安定を生んだ。
娘もまた然り。毎日、私と一緒に起き、朝ご飯を食べ、保育園へ送り届けられ、決まった時間にお迎えが来る。毎日の夕食も、ママと一緒に食べて、一緒にお風呂に入り、一緒に寝る。この変哲もない日常の繰り返しが、娘の心の安定も生んだ。
それ以外のメリットは……、ない。
でも、メリットは一つで良かったのである。
この時の私の最大の目的は、娘のことを最優先すること。
この目的のために、私は、私の心の中に沸くデメリットから感じる不安とバランスを取りさえすれば良かった。
その後、その時に派遣社員として勤めていた大学との直接雇用4年半を経て、今は、他大学へ転職し、晴れて正職員となっている。
実は、今も、この時の番組制作会社を辞めて派遣社員となったときの気持ちを忘れないようにしている。番組制作会社の仕事は、天職だと思うぐらい好きだったのだが、それを捨ててでも、娘との時間を大事にしたいと思い、派遣の仕事を選んだのだ。
その時から、“大事なもの”を見失いたくないという気持ちが、とても強くなった。
派遣という仕事があったから、私は、それに気づく事が出来た。
残業するか迷うとき、休日出勤するか迷うとき、つい仕事を優先させがちだが、少し立ち止まって、自分の気持ちに問う。
今、大事にしなければいけないのは何なのか?
仕事を選んでいい時もあるだろうが、娘の行事や、家族のこと、自分自身の勉強を優先した方がいい時もある。
その時々に大事なものを大事にできる選択ができるといいなと思う。
“その時”は、子供の成長などを考えてみると、貴重なタイミングかもしれない。
自分に正直に。そして、大事なものを掴むタイミングを逸しないように。
❏ライターズプロフィール
中川 百(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
山梨生まれ埼玉育ち。専修大学法学部法律学科卒。大学卒業後、テレビの番組制作会社に就職。12年間をテレビ業界に捧げる。子育てとの両立を図るべく、大学事務職に転職。現在、埼玉県狭山市にある西武文理大学の入試広報課で大学の魅力を伝えるべく奮闘中。
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