週刊READING LIFE vol.320

「たまるかー!」な中二の娘の成長とママが感じた敗北感《週刊READING LIFE Vol,320「この夏一番の〇〇」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2025/8/21/公開

記事:中川 百(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「たまるかー!」

ついつい、そう言いたくなる程、この夏の娘の成長は目を見張るものがある。

 

「たまるか」は、中学2年の娘も私もはまっている、NHKの連続テレビ小説「あんぱん」の中で、頻繁に出てくる言葉である。

ドラマでは、娘が大好きな3人組バンド、Mrs. GREEN APPLEのボーカル大森元貴が、ようやく登場し、以前にも増して気合いを入れて、毎日欠かさずにチェックしているのだが、この頻出ワード「たまるか」は、「やばい」とほぼ同じ使い方だと理解している。高知県の方言“土佐ことば”のひとつで、驚きや喜びなどのポジティブな気持ちも、怒りや困惑などのネガティブな感情も、どちらも示すことができる言葉である。

 

この夏、何度、このセリフを心の中で叫んだだろうか。

とにかく、今年の夏は、娘の成長が「たまるかー!」なのである。

 

 

 

娘は、中学2年生。今年は7月19日から夏休みに突入。

部活に、塾に、習い事にと忙しい毎日を送っているのだが、そもそも、子どもの夏休みは、働くママたちにとって、大問題である。

 

振り返ってみれば、保育園は、働く親のために考えられたスケジュールで稼働し、お盆以外の平日は子どもを預けることが可能だったので、本当に有難かった。

しかし、問題は、小学校からだ。夏休みが約1か月半もある。小学校に併設された学童は、親の仕事がある平日でも閉室になることもあるし、そもそも、3・4年生になると、定員オーバーの為、学童に入所できないなどの問題が発生する。

娘は娘で、夏休みだと、学童に通ってくる子どもも少なかったりするので、「学童に行きたくない」などと言い出す始末。

 

そこで、登場するのが、私の実家の母である。

「夏休みは、おばあちゃんの出番よね」

喜ぶ孫の姿に“甘々なおばあちゃん“が絆されるのを良いことに、毎年、数週間に渡って、娘の面倒をお願いしてきた。

何よりも、私が安心して任せられる唯一の人である母の存在は、本当に有難かった。

お母様様である。

 

しかし、今年の夏は、お母様を呼んでいない。何故か。

 

 

 

「一人で大丈夫だと思う」

娘の力強い一言。

 

たまるかー! である。

 

 

 

 

娘の言い分は、こうである。

私には、やらなければいけないことが、山ほどある。

週2回のオンライン授業に、オンラインの夏期講習があるでしょ。

それと、週1回の英会話に、英語スピーチコンテストの準備。

更に、週1回のピアノのレッスンに、ピアノの発表会に向けての練習もある。

個別指導塾の夏期講習も、短期集中で10コマも増やしっちゃったし。

吹奏楽部の練習もある……。

おばあちゃんが来てくれたとしても、話をしている暇がないと思う。

だから、今年は、一人で頑張ってみる。

たぶん、大丈夫だと思う。

 

たまるかー! である。

 

娘の表情を見ていると、少し不安も感じているのではないかと思えた。

大丈夫、と言いながら、本当に大丈夫かなという不安が見え隠れしていた。

しかし、娘は優しいのである。おばあちゃんが、つまらない思いをしたら悪いなと思ったのか。

そして、同時に、強い決意も感じられた。

中学校の勉強や、自分が興味のある習い事、部活などに真剣に向き合う気持ちを感じた。

来年は、中学3年生。いよいよ受験なのである。既に、行きたい高校があるようで、第一志望の高校に入るためには、自分は今年、何をやらなければいけないのかなど、よく考えているようなのだ。

 

少し、大人に近づいたのかな。

 

 

 

 

さて、私の母に、娘を頼まないとなると、それなりに、私も大変なのだ。

出勤前に、毎朝の朝食づくりに加えて、娘の昼食の準備もしていかないとならない。結局、夏休みの間は、20分程、早く起きるようになった。

 

眠い。

私は、通勤に1時間45分かかるため、7時には家を出る。家事などを逆算すると、毎朝5:30には起きなければならない。

夏休み中は、これを前倒しし、5:10に起床。

本当に眠い。

 

しかし、私にとっては、心地よい疲労という感覚なのだ。

娘が頑張ろうというときに、私ができることは、昼食づくりだけなのである。

時間も無いし、手の凝ったものは作れないけれど、せめて、レンジでチンだけの冷凍食品は避けたい。そして、娘が寂しくないように、少しでも応援しているママの存在を感じられるように、と考えている。

職場で仕事をしながら、もうそろそろ、お昼ご飯食べたかな? と考える。

家に帰ると、空っぽのお皿が、キッチンの流しにポンッと置かれている。

今日も完食だ。

 

私の役割など、もうそのくらいなのだ。

 

先に書いた通り、娘の夏休みは、結構忙しい。夏期講習など、夏季限定の時間割が組まれ、通常の曜日や時間と異なるため、余計に把握しづらい。

朝に、1日のスケジュールを一緒に口頭で確認はするが、行動するのは、娘自身である。

仕事の合間に、メールやその他の防犯ツールで居場所を確認しながら、無事にやっているか追う事もあるが、仕事が忙しいと、どうしても後回しになることもある。

 

それでも、娘は、自分のスケジュール通りに行動し、学び、家へ帰っている。

「ただいまー!」

というメールを見て、ほっとする。

今日も、無事に、行って帰ってこれたんだな。

 

いつかは、普通になるんだろうけれど、

私にとっては、これも、

たまるかー! なのである。

 

 

 

 

娘の行動範囲が広まり、娘が“個”として、充実した生活を送ろうとするとき、親は、限界を感じずにはいられない。英会話のネイティブの先生も、個別指導塾の数学の先生も、面談などで会った事はあるけれど、どんな授業をしているのかまでは、私は知らない。部活動での先生や友達との会話も、中学校での委員会活動も、断片的に、娘から話を聞く程度にしか知らない。

今までは、親が全てを把握していられたけれど、もう、限界なのである。

中学2年生になって、娘の興味関心はとどまるところを知らない。

一気に、娘自身の世界を広げてきたな、という感覚なのだ。

 

寂しくもあるのだが、やはり、凄い良いことだと思う。

娘の成長に、やはり、

たまるかー! なのである。

 

 

 

 

 

もう一つ、娘が、この夏に初めて参加したいと言ってきたのが、ボランティア活動である。市の、数あるボランティア活動の中から、娘が選んだのは、知的障害を持った方々が活動するパン工房のボランティアだった。保育園の時に、月一回、このパン工房のパンが給食で出ていて、娘は、そのパンが大好きだった。その記憶があったからなのかもしれない。

 

ボランティアをするには、事前の個人情報の登録と、事前の説明会に参加しなければならなかった。友達も誘ったが、面倒くさいと断られてしまったようで、娘は、一人で事前説明会に行き、本番当日も、参加者は、一人だったとのことだ。

 

「たくさん、話しかけてくれたよ」

 

50代の男性で、知的障害を持った方が、娘に、話しかけてくれたらしいのだ。

ご自身の年齢や、この工房で何年間働いてきたのかだとか、男性自身のことを詳しく話してくれたという。

娘には、少し聞き取りにくかったようだが、今まで、障害を持った方はコミュニケーションを取るのが難しいと思っていたけど、気さくにお話ししてくれる方もいるんだと、感じたと言う。

 

私にとっては、これも、たまるかー! なのである。

 

 

ボランティア活動に関しては、事前登録は手伝ったし、事前説明会の会場への行き方を一緒に確認したり、準備の声掛けをしたりはしたが、そこまでである。

私が一度も会った事のない人の中へ、一人で行き、その場にいる人たちと交流して、自分なりに何かを感じて帰ってきた娘の姿を見たのである。

 

やはり、たまるかー! なのである。

 

 

 

 

 

今までも、私は、娘には娘の考え方があり、私とは性格も違う、個人として尊重してきたつもりである。しかし、この夏は、それとは別に、娘を取り巻く世界の広がりを感じたのと同時に、親としての限界を感じた夏でもあった。

ただ、これも、心地よい敗北感なのだ。

 

さあ、これから、私は、どんなスタンスで行こうか。

 

まだ、手放しにはできないが、補助輪を外したばかりの自転車の練習の様に、後ろからそっと手で支えてやる感覚で居たい。

こちらが手を離すのが先か、あちらが勢いよくペダルを漕ぎだすのが先かは分からないが、いつかは、この手を離れる予感がしている。

 

その時は、大きい声で、後ろから声をかけ続けよう。

 

応援し続けよう。

 

この声が枯れても、娘が強くペダルを漕ぎ続けられるぐらいに。

 

 

□ライターズプロフィール

中川 百(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山梨生まれ埼玉育ち。専修大学法学部法律学科卒。大学卒業後、テレビの番組制作会社に就職。12年間をテレビ業界に捧げる。子育てとの両立を図るべく、大学事務職に転職。現在、埼玉県狭山市にある西武文理大学の入試広報課で大学の魅力を伝えるべく奮闘中。

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2025-08-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.320

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