やはり私は、経営者に向いていない 《週間READING LIFE Vol.325 「リーダーの資質」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/10/3/公開
記事:山田THX将治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
先に記すが、私の社会的肩書は“会社経営者”である。
このところ受託している主たる業務は、事業再生支援(コンサルタント)だ。
しかしその反面、つくづく私は、会社経営に向いていないと感じている。
確かに、自他共に認めるリーダータイプだし、その素質も持ち合わせていると感じている。
だが、会社経営と謂うリーダーポジションだけは、避けて置いた方が良かったと感じる次第だ。
先ず、私がリーダータイプである要因は、声と態度がデカく何事にも動じないメンタルだからだ。これは決して自慢しているのではなく、少し鈍いのだ。少し前に流行った語彙で“鈍感力”が在ったが、私は正にそれなのだ。
リーダーたる者、周りの雑音に惑わされてはいけない。
但しこれには注意が必要で、自分に反する意見に対しても、リーダーは耳を傾ける必要が有ると思う。
それに同意し動かされるのではなく、自らの考えとは違うアプローチが有ることを知った方が有効であるからだ。
これは決して、頑固であれと言っているのではない。
異なる意見も、理解する必要が有ると思うからだ。
肝心なのは、他の意見を理解しようとするばかりに、自分の意見を変えてしまうことは避けねば為らないと謂うことだ。
要するに、リーダーたる者、他者の意見は大切に理解しなければ為らないが、簡単に同意してはいけないと謂うことだ。
日本語はややこしく‘理解した’も‘同意した’も、同じ“わかった”と表現される。
然し英語では、前者は‘understand’、後者は‘agree’と、別の単語が用意されている。リーダーには、楽な筈だ。
言い換えれば、英語圏に優れたリーダーが出やすい背景には、この辺りも有るのではと思われるのだ。
‘understand’と‘agree’の使い分けと、その違いを瞬時に判断出来ることこそ、リーダーには必須の資質だと思うからだ。
私がそう考えるに至った背景には、現在の事業再生支援業務で、相談に来られる多くの経営者が、往々にして‘understand’と‘agree’の使い分けが出来て居ないからだ。
そして必ずと謂って良い程、両者の意味合いを混同して捉えているのだ。
然し、かく謂う私も、的確に‘understand’と‘agree’を使い分け、判断出来ていると胸を張る自信が無い。
もしかするとこの辺りは、日本人独特のメンタルなのかもしれない。
又その混同は、日本に於いて決して悪いことばかりではなく、何事も喧嘩腰に為らずに済むことにも貢献していると謂えよう。
但しこうした不確かな経営者の態度が、現在、数百万とも謂われる“ゾンビ企業”を生み出している原因の一つであることは確かだ。
“ゾンビ企業”とは、負債が売り上げを超えている様な、いわゆる、本来なら清算して然る冪企業のことだ。
これも、他人(ひと)のことだけではなく、私にとっては自らの戒めでも有るのだが。
ところで、私の決断力不足は、別の処でも明白に為って居る。
それは、“断・捨・離”を迫られる場面だ。
私は、この10年間で、二階の引っ越しを経験した。
引っ越しの際には、多くの物を処分するケースが多い。
元々、住まいがかなり広めだった私は、多くの荷物を処分する必要に迫られた。
一回目の引っ越しで、特に多く処分したのは本と雑誌だった。どの位だったかと謂うと、1tトラック一台分位だった。
それだけの書籍を処分したのだから、大分身軽に為ったのは事実だ。
ところが私は、身軽に為った効果は有ったが、反動も大きかった。
いわゆる‘ロス’が襲って来たのだ。
多くの書籍を処分した後、一年程は後悔が残って仕舞った。折角購入し、蔵書として溜め込んでいた本や雑誌を、維持し続けられなかった自分が不甲斐無く思えたのだ。
どうしても精神的に立ち直ることが出来なかった私はその二年後、もう少し蔵書を増やすことが出来る現在の住まいへ、引っ越すことを決断したのだ。
簡単に申せば、元の木阿弥と謂うことだ。
然し私も、何もしない訳にはいかない。
何しろ大元の住まいは、広く為った現在の住まいの倍ぐらいの広さ(但し、使い勝手が悪い)だったからだ。
私は次に、異常な数の衣類を減らすことにした。してみた。
先ず、シャツ類を次々と普段着に下ろした。必ずクリーニングに出していたシャツを洗濯機で洗い、アイロン掛けも自分ですることにした。
当然、消耗が激しく、この4年間で30枚以上のシャツを処分した。自分で洗濯すると、襟や袖口が黒ずんできて、みっともなく為るからだ。
これには思い立った原因が在る。
或る時、箪笥の引き出しの奥から、御気に入りの一枚を取り出してみたのだ。上質の生地で仕立てて貰った、プレーンな白いシャツだ。
その御気に入りのシャツの襟が、仕舞って居る間の経時変化で黄ばんで居たのだ。
幾ら御気に入りと謂っても、黄ばんで仕舞ったら御洒落着として成り立たない。
そこで私は、衣類の“断・捨・離”を決意するに至ったのだ。
ところがだ、
箪笥に余裕が生まれ始めると、無性に不安に為って来始めたのだ。
書籍の処分をした時は、単なる‘ロス’だったが、衣類の処分を始めると、私に別の感情が芽生え始めたのだ。
それは、根拠の無い不安だ。
出掛け様と思った時に、着て行く服が決まらない不安だ。
今のところは堪えているが、箪笥を開ける度に新しい服を買いに行きたく為る衝動が、私に走るのだ。
もうこれは、病気としか言い様がない。
私には、“断・捨・離”をする決断力が備わって居ないのだ。
いい歳をして。
実は、“断・捨・離”が出来ないことでも、私は改めて自らが経営者に向いていないと痛感したのだ。
「企業経営者には、必要なことが有る」
と、普段私は、事業再生支援案件の中でクライアントに忠告している。
その必要なこととは、黒字化出来ない事業を切り捨てることだ。いわゆる、事業の“断・捨・離”だ。
一般的には、“損切り”と謂われる決断だ。
これは企業経営以外でも、例えば、株式の売買等で使われている。
もう上がることは無いと判断できる持ち株を、損した状況(買値よりも低い価格)でも、売却して手放すことだ。
言い換えれば、黒字化が望めない事業に、そこに投資した資産ばかりを気にして、欠損(赤字)を出し続けることはせず、一気に切り捨てることだ。
これを、一般の生活に例えると、不幸にも怪我をして仕舞った場合、傷口を元通り綺麗にすることよりも、命を落とす前に出血を止めることが先決と謂った塩梅と同じだ。
文字を理解して頂くことは難しいとは思わない。然し、同意して頂くことは難しいかもしれない。
何しろ、元を取りたいと考えて仕舞うのは、人間の性(さが)なのだから。
“損切り”を簡単に決断出来ないことこそ、“ゾンビ企業”が増え続ける一因なのかも知れない。
えッ?
私ですか?
勿論、“損切り”は苦手ですよ。
それはそうでしょう。
何しろ、“断・捨・離”をする為に、いちいち能書きが必要な位ですから。
それにしても、
改めて考えると、私はつくづく、経営者には向いていないと考える次第だ。
しかも、
私がリーダータイプなので、事情がややこしく為って居るのが事実であり、
原状なのだ。
経営者なんぞに、為りたくはないものだ。
《終わり》
〈著者プロフィール〉
山田THX将治(天狼院・新ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を45年に亘り務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
続けて、1970年の大阪万国博覧会の想い出を綴る『2025〈関西万博〉に伝えたい1970〈大阪万博〉』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion
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