週刊READING LIFE vol,103

まったく、自己肯定感ってヤツは……。《週刊READING LIFE vol,103 大好きと大嫌いの間》


記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「Yちゃんっていいな、色が白くてかわいいな」
 
「Kちゃんっていいな、いつもかわいいお洋服着ていて」
 
小学生の頃、思い出してみると、私はいつも周りの友だちをじっと見てばかりいた。
どの友だちのことも、うらやましくて仕方なかったのだ。
 
顔がかわいくて、スタイルも良い友だち。
勉強がよくできる友だち。
走るのが速い友だち。
かわいい洋服を着ている友だち。
きっと、自分以外の人はすべてうらやましかったのだ。
自己肯定感などカケラもないような時代だった。
 
物心ついたころから、私は自分自身のことが嫌いだった。
色が黒くて、太っていて、その上、目も悪く4歳からメガネをかけていた。
勉強が好きでなく、運動神経も悪い。
良いところが一つもなく、本当に自己嫌悪の塊のような小学生だった。
当時は、今のようにメガネをかけている子どもは、そうたくさんいなかった。
珍しさと、遠視のためにレンズが虫メガネ状なので、よくからかわれたものだ。
太っていること、メガネをかけていることが、特に私のコンプレックスだった。
そうなると、自分の身体を見ることも、自分について考えることもイヤになっていた。
私はいつも自分以外の周りの友だちを眺めてばかりいたのだ。
そして、友だちの良いところばかりが目につき、それと自分をいちいち比べては、「いいなぁ~、〇〇さん」
そんなことばかりを思っていた。
 
そこから、中学校へと進学し、私の状況は少しずつ好転していった。
三人兄妹の真ん中で、兄を見ながら育った私は中学校とは勉強が大変なんだと早くから感じ、親に頼んで塾に通うようになったのだ。
すると、興味がなかった勉強も楽しくなり、成績がメキメキと上がっていったのだ。
勉強って、つくづく思うのだが、成績が悪いとキライになるが、成績が良くなってゆくと、その面白さがわかりさらに成績は上がるのだ。
見た目に自信がなく、人前で目立つことも避けていた私だったが、成績が良いことで一目置かれるようにまでなっていったのだ。
当時、私が通っていた公立の中学は、班を作って学習するスタイルをとっていた。
いわゆる、机をアイランド型にして授業を受けるのだ。
班学習では、少人数だったため、引っ込み思案の私も意見が言えるようになり、やがては私の人となりを知ってもらうことができて、友だちも出来て行った。
関西に生まれ育ち、三人兄妹、兄がいる身としては、その普段の会話にも、ノリ、ツッコミが組み込まれていたのだ。
正確に言うと、兄のボケにはツッコまなくては怒られたのだ。
これは、本当に関西人特有の習慣かもしれないが、家庭でも十分笑いの技術は身に着く環境にあった。
そんなこともあって、私の班学習での存在感は、「成績が良くて面白い」という評価となっていったのだ。
それでも、メガネをかけていることや太っているというコンプレックスは残っていた。
友だちからの評価に内心喜びつつも、「いや、でもこんな私なんて……」という思いは常に持っていた。
他人からの承認だけで、気持ちは上がったり、下がったり。
自己肯定感からは、程遠いものしか持ち合わせていなかった。
 
そんな私の人生における大きなターニングポイントの一つは、社会人になった時のこと。
初めて、自分のお給料でコンタクトレンズを購入したのだ。
物心ついたときから目が悪く、幼稚園時代からメガネをかけていた私。
メガネというのは、その枠の中の世界が私の見えるすべてだった。
自転車に乗るときも、階段を降りるときも、ボールが飛んできたときも、その小さな丸い世界の中で私は生きて来たのだ。
生まれて初めて、コンタクトレンズを目に着けた時のことを今でも覚えている。
私の真横の世界までもが、自分の手に入ったのだ。
つまり、180度の視界が得られたのだ。
 
「何、コレ!」
 
これまでの20年間、私は何か損をしてきたような、得られるべきものを得ることなく人生を送ってきたようなそんな気にさえなったのだ。
まるで、ずっと何かから束縛されていた人が、やっと自由の身になって世界へと羽ばたいていったような、そんな感覚だった。
さらには、コンタクトレンズを装着していると、自分の目で見開かなくては、ものが見えないのだ。
メガネだと、まぶたにさほど力を入れなくても、良く見えたのだ。
だから、メガネをずっとかけ続けていた私は、目も小さくなっていたのだ。
そこから、意識して目を見開くようになってゆくと、これまでの私とはまるで別人のような顔になっていった。
社会人になり、お化粧もするようになり、それなりに化けていったOL時代。
ちょうど、バブル期ということもあって、遊びにも、買い物にも浮かれていた時代だった。
お金を得て、着飾ること、お化粧をすることで、外見を取り繕うことはそれなりにできた。
それでも、心の中にある自分への自信のなさは消えることはなかったのだ。
誰かと自分を比べるクセは、小学生の頃のまま心の中にずっと存在していた。
 
やがて、結婚し、子どもを授かり、主婦として母として過ごす時間が始まった。
自分のこと以外にも、考えなくてはいけない存在やしなくてはいけない役割を持ち自己嫌悪に陥る材料は増える一方だった。
もう、自分の頭と自分の身体、それから自分の夫や子どもという部分がすべてバラバラで、それらが容赦なく心の中をチクチクと攻撃したいたような、そんな時間を過ごしていた。
 
そこから、断捨離というメソッドに出会った。
お家の片づけだけは、誰にも負けない自信があった私が、なぜか引き寄せられるように出会わせてくれたのだ。
断捨離は、モノを捨てる片づけ術ではなく、モノを通して自分に向き合う行動技術。
自分のことが大嫌いだった私は、自分の内面になんて興味がなかったのだ。
それでも、初めてゆっくりと自分の心の内側に向き合う機会をもらい、あらためて気づくことがたくさんあった。
物心ついたときから、人とは違う部分ばかりが沢山目につき、そのことによって小さな心は傷ついてきた私。
そんな幼いころからの自分の姿をあらためて見るようになり、気づいてあげることとなり、私の心の内側が少しずつ明るく、温かくなっていったのだ。
 
こんな私だけれど、頑張って生きて来たよね。
 
そんな自分自身を初めて自分で認めることができたのだ。
これまで、見たくなくて目を背けてきたことの一つひとつには、その時その時、一生懸命だった私自身の姿も投影されていた。
そこに気づいてあげることが、私自身の内面から小さな自信の芽を育ててゆくことにつながったのだ。
今では、人と比べることも多少はあるけれど、それよりも自分の中の良いこと一つを褒めることができるようにもなった。
そうすると、心の中がまたほっこりと温かくなり、気持ちがとても穏やかになるのだ。
 
人知れず、誰かのことばかりを羨ましく思っていた幼少期。
少しずつ自信を持てるものが出来てきても、人からの評価を受け入れることができなかった学生時代。
誰かから褒めてもらうと、有頂天になっていたOL時代。
自己嫌悪の塊が最大級になってしまった、結婚時代。
人一人の人生にも、様々な心の内面の変化、成長があるものだ。
 
まったく、自己肯定感ってヤツは、無いとズタズタの心で過ごす時間が長くなり、それでもそれを育むのはトレーニングが必要だ。
 
そして今、私は誰かの評価だけで浮かれることもなく、誰かの言葉を鵜呑みにして落ち込むこともなくなった。
 
少しは私自身の自己肯定感は育っていっているのかもしれない。
 
大嫌いだった幼少期の私。
そして、少しずつ自分を認め、好きになっていった今。
自分のことが大好きと言いたいところだが、これからもさらに成長してゆく予定だ。
だから、今の私のことは、大好きと大嫌いのちょうど間くらい。
そんなポジションに自分を置くことが、さらに輝く未来へと向かう原動力になるに違いない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2020-11-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol,103

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