福澤諭吉ゆかりの宿~明治を生きた偉人はなぜこの旅館を訪れたのか~(神奈川県足柄下郡 福住楼)《偉人ゆかりの宿を巡る旅》
記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部公認ライター)
今度の旅は、「日本屈指の観光地であり、温泉の泉質も多彩を誇る箱根に行こう!」と決めた。
箱根といえば、今では海外から多くの観光客が訪れるほど、観光の街として古くから栄えた土地である。さらに、年始になれば箱根駅伝があり、数々の名ドラマを生んできた。
寒暖差もあり、とても紅葉が綺麗で、芦ノ湖もあり、日本の四季を感じることができる。
そんな日本の魅力を感じさせる箱根、その中でも今回、訪れた宿は、誰もが知っている偉人も愛したと言われている。
その偉人とは? 福澤諭吉である。
まさに、一万円札に書かれている人物であり、著書「学問のすゝめ」は多くの人が読んだことがあるのではないだろうか。
今回、訪れた宿は福澤諭吉だけではない、多くの明治を代表する文豪が訪れ、この宿で作品を執筆している。(※現在ある建物に福澤諭吉が訪れているかは不明)
明治時代を生きた多くの偉人とゆかりのある宿が今回の「偉人ゆかりの宿」を巡る旅の舞台、
「文化財の宿 福住楼」である。
今回は息子と義父と一緒に訪れた。
少し雨が降りそうな天気の中、秋の訪れを感じさせる雰囲気を肌で感じながら、招かれるように旅館の中へ入っていた。
入り口の扉を開けて、中に入った瞬間、時空を越えてタイムスリップしてしまったのではと錯覚させてくれるほど、昔ながらの姿が残されていた。
もちろん、コロナ禍になり、感染予防対策は厳重にされて、検温から荷物のアルコール消毒までしてもらい、息子は子ども用のスリッパを履いて、仲居さんに部屋まで案内してもらった。
仲居さんもベテランの方で、館内をゆっくりと案内してくれた。
中でも、中庭にある池には鯉がいることを教えてくれた時、息子の目が一段と輝いた。
少し寒いからだろうか、何匹もいる鯉が体を寄り添うように集まっている姿は日常の慌ただしさを忘れさせてくれるほど、素敵な光景だった。
歴史を感じさせてくれる廊下を抜けて、階段を登った場所にある部屋が僕らが泊まる部屋だった。部屋に入った瞬間、広さに驚かされた。
さらに、まさに明治時代を感じさせてくれる匂い、天井、壁、畳、机まで殆どが昔のまま残されていて、この部屋にいるだけでも、どこか懐かしい、心休まる空間が広がっていた。
部屋に荷物をおいて、座敷に座ると仲居さんがお菓子とお茶を出してくれた。
このお菓子が絶品だった。四角い形をしていて、白くて柔らかい、甘いだけでなく、ほのかに柚子の香りが口の中に広がり、一緒に緑茶を飲むとより、甘みを感じることができた。
少し寛いだ後、浴衣に着替えた瞬間、息子のテンションは上がり、早速、温泉に向かうことにした。
この宿の温泉は家族風呂、大丸風呂、小丸風呂、岩風呂があり、いくつものお風呂を楽しむことができる。
温泉が大好きな息子と一緒に少し小さめの家族風呂に入りにいった。
ちょうど子供でも入ることができるくらいの深さで、温度も身体を温めるには丁度良い41度くらいで、アルカリ性単純温泉で源泉は塔之沢、かなり古くからある地層から湧き出ている温泉。
身体も温まった所で、一緒にこの旅館の一番の目玉でもある「大丸風呂」に向かった。
「大丸風呂」を見た瞬間、あまりにも綺麗なお風呂で、光の入り具合も良く、窓を見ると光に照らされた葉っぱが輝きながら歓迎してくれていた。
そのお風呂は竹をモチーフにしており、お風呂に入りながら、自然と一体になっている感じが味わえる。肩まで浸かって、ゆっくり入っていると、このお風呂に入りながら日本の四季の移り変わりを味わえたらどんなに幸せかなと想像が広がって行った。
(ホームページ写真)
お風呂から出て、部屋で少しゆっくりした後に、館内の探検をすることに。
この宿には、見つけると幸せを運んでくれるという蝙蝠が建物中に隠されている。
ただ、廊下を歩いているだけでは、中々見つけることができなかった。
館内の奥にある広間に向かって歩いている時に見つけた階段の上で蝙蝠を見つけることが出来た。見つけた瞬間、そう簡単に見つけられる場所にはやはり無いなと思った。
息子と一緒に見つけたことを喜んでいたら、廊下をすれ違った背の高い仲居さんが、「蝙蝠見つけられました?」と聞いてくれた。
そして、「これじゃないんですか」と聞くと、「それもそうなんですが、有名な蝙蝠は違う場所にいるんですよ」と教えてくれて、道案内までしてくれた。
それを見た瞬間、なんて、ラッキーなんだと思った。
おそらく、ただ、館内を歩いているだけでは見つけることすら出来ない、意外な場所にその蝙蝠はひっそりと隠れるようにいた。(是非、この蝙蝠は訪れて見つけてもらいたい)
部屋に戻る途中に、福住楼の歴史が書かれている写真を見つけた。そこには、この福住楼と福澤諭吉との関係。災害にあいながらも、立ち直ってきた福住楼の歴史と偉人との関わりを垣間見ることができた。
無事に蝙蝠をみつけて、福住楼の歴史を感じながら、部屋に戻ったら、待ちに待った夕食が始まった。
この宿では、なんと、コロナ禍に関係なく、今の時代になっても部屋食で食事をすることができる。
コロナ禍で、料理を運ぶ回数を減らすなど、工夫されているとの事だったが、仲居さんから料理についての説明もしてもらい、より料理を楽しむことができた。
中でも、この時期ならではの「土瓶蒸し」はとても美味しく、胃袋まで温めてくれた。
希少和牛みすじの炙り焼きなど10品もあり、どれをとっても美味しく、胃袋を満たしてくれた。さらに、部屋呑みだからこそ、義父と一緒に日本酒を飲み交わし、古き良き時代を感じながら、話に花が咲いた。
お腹も一杯になり、岩風呂に向かうことにした。
この温泉もまた、大丸風呂とは違った雰囲気があり、少し時代が進んだような感覚を味わうことができ、ちょっと温度も高いように感じ、寝る前にはとても気持ちよかった。
岩風呂にも入り、身体を温めて、部屋に戻ると綺麗にお布団が川の字に敷かれていた。
その川の字になった布団に入った瞬間、気がついたら眠ってしまった。
朝起きると少し肌寒さを感じた。
箱根は山も近いので寒暖差もある。自然の営みを肌で感じることができた。
朝食ももちろん、部屋食で焼き魚やだし巻き卵をお腹一杯に食べて、部屋でゆっくりしながら、窓枠に座りながら中庭を見ると、すべて木造であることがわかり、木々を囲むように宿が立っていることにも気づかされ、この宿がいかに大切に守られてきたのかがわかる。
その後、予約制の小丸風呂に息子と入りに行った。
大丸風呂とは違った、良さと朝を味わうにはとても良い空間が小丸風呂内に広がっていた。
その時、窓から見えている木々の美しさとお風呂の表面にも同じように反射していて、幻想的に思えた。
お風呂を出て、部屋に戻り、荷物をまとめてチェックアウトをして、日の光を浴びた廊下を歩きながら、中庭を見た瞬間に写真を撮りたいという衝動に駆られてしまった。今の時代になっても、このような綺麗な中庭が残されている事に心が打たれた。
外に出た時、仲居さんに宿の入口で記念写真を撮ってもらった。
そして、来た時は気が付かなかった大樹が植えられているのに気がついた。
その大樹の表面には緑色の苔が付いていて、何年にもわたり、この地でこの宿と共に来る旅人をそのままの姿で見守り続けていた。
その大樹を見た時に、ふと、なぜ明治の偉人達がこの宿を訪れたのか、少しわかったような気がした。そこには、変わらずに待っていてくれるという安心感を味わっていたからかもしれない。
今後は、春の風が吹く温かい季節に訪れたいなと思いを馳せつつ宿を後にした。
▼今回のお宿
【文化の宿 福住楼】
公式ホームページ:https://www.fukuzumi-ro.com/index.html
住所:神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢74
電話番号:0460-85-5301
❏ライタープロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部公認ライター)
島根県生まれ、東京都在住、会社員、奈良先端科学技術大学院大学卒業。父親の仕事の影響もあり、今までに全国7箇所以上で暮らした経験がある。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーチングとライティングを勉強中。休みの日を使って、歴史ある温泉旅館に泊まりに行く事が、家族の楽しみになっている。
この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いてます。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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