人生を好転させる「ルーティン作業」のつくり方《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》
2021/06/07/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「この漫画いつまで続くんだろう?」
あなたにもこう感じる漫画はないだろうか?
実は私は集め続けている漫画がある。
「キングダム」「宇宙兄弟」「バガボンド」「リアル」だ。
「キングダム」は中国の春秋戦国時代、秦の始皇帝が敵国である六カ国を倒し中華統一までを書いた漫画で、今日現在(2021年5月)で単行本は61巻まで出ている。実は30巻ごろに作者は「だいたい60巻までには書き終わると思います」と言っていたが、現在60巻を超えたが、倒した敵国は「ゼロ」。
なんと六カ国中まだ一カ国も倒していないのである。
「60巻には終わるっていったじゃん!!」
「60巻まできて、まだ一カ国も倒してないってどういうこと!?」
もちろん、メチャクチャ面白い漫画であることは間違いないが、それでもこのまま行ったら終わるまでに200巻くらい行くのではないかと内心ビビっているのである。
しかも最近は本筋とは関係ない話しも挟まれるようになり「なぜ無駄に話しを長くするんだろう」と首をかしげたくなることが増えてきた。そして家の本棚もそろそろいっぱいになってきたし、家族の冷ややかな視線を感じながら集め続けるのも大変になってきた。それでもここまで集めておいて辞めるのもそれなりの決断がいる。
そして、実は極めつけにヤバいのが「バガボンド」という伝説の剣豪「宮本武蔵」を描いた漫画である。これは青春漫画の金字塔と言われる「スラムダンク」を書いた井上雄彦さんが書いている歴史時代劇だ。もちろんメチャクチャ面白い。最初に始まったのは1998年だから既に20年以上の月日が経っている。現在単行本は37巻まで出ている。
ところが、なんとそれを最後に6年間休載中なのである。
未完のまま休載、これはキツイ。
頼むから最後まで読ませてくれと何度も思った。もちろん作者にも都合があるだろうし、私たち読者は作者に素晴らしい漫画を読ませていただいている立場であるから、そんなに偉そうなことを言う権利はない。しかし「読み終わりたい」という欲求を止めるのが大変なのだ。
このように連載が終わらなくて、気持ち悪さが残っている漫画や小説、映画など、あなたにもあるのではないだろうか。
ただ、ここで一つ疑問として挙がるのが「人はなぜ続き物が終わらないと気持ち悪いと感じるだろうか?」ということである。
実はこれには人間の心理が大きく関係している。
人は自身の決断、行動、発言、信念に対して「一貫させたい」という心理が働くようになっている。
この心理を「一貫性の原理(法則)」という。
人は自分が決めたことは最後までやり遂げたいと考える生き物なのである。
そしてこれにはおおきく2つの要因が絡んでいると言われている。
一つは「自分が言ったことは最後まで貫き通すのが正しいこと」という社会的なバイアスが働くため。
もう一つは「自分の行動をシンプルにすることができる」ということである。
例えば、ダイエットに関していうと、自分の頭の中だけで「3か月で5kgダイエットする」と考えて始めるのと、周りの人に「私は3か月で5kg痩せるからね」と言って始めるのでは、どちらの方が成功する確率が高いだろうか。おそらく後者の誰かに宣言したほうが達成できる可能性が高いはずだ。
これは自分が周囲の人に約束したことで「言ったことを実現できない意志の弱い人間だと思われたくない」という心理が働き、一貫した行動を続けることができるためである。これも「一貫性の原理」が働いている証拠である。
また「一貫性の原理」が働くもう一つの理由として「自分の行動をシンプルにすることができる」という理由もある。例えば通勤経路や自分が普段食べている食事、一日の生活サイクルなど、おそらく毎日変えているという人はほとんどいないはずだ。
多くの人は、毎日同じような時間に起き、同じような食事をして、同じ通勤経路で会社に行き、同じ時間に仕事を終わらせ、家に帰ってくればソファーでホッと一息つき、そのあと夕飯を食べて、お風呂に入り、スマホを少しいじったら寝る、というようなサイクルで生きているのではないかと思う。
これは一貫した行動をとることによって脳が使うエネルギーを「省エネ」しているのである。つまり一貫性を保つことによって、本来なら複雑な判断が都度必要になることを簡単に処理することができるということなのだ。
実はこれは脳を省エネする以外にも「成功パターンの再現性を高める効果」もあると言われている。
有名な話だが、元メジャーリーガーのイチローさんは、シーズン中はほぼ毎日同じ行動をとり続けたと言われている。
起きる時間や食べるモノ、球場に入る時間、試合が始まるまでの準備運動、バッターボックスに入った後の仕草など、正確に同じ動作をくりかえしたそうである。これは脳科学者の茂木健一郎さんがイチローさんとの対談で話していたが、人間が最高のパフォーマンスを発揮するためには、脳にスイッチを入れるための一連の動作が必要になるそうだ。つまり「ルーティン作業」を行うことによって、余計な思考を排除し、試合で成果を出すための集中力を高めているというわけだ。
これは私も思い当たる節がある。企画書の作成など集中して作業を行いたいときには、まずコーヒーを用意し、短時間の瞑想をして、タイマーで時間を区切ってスタートすると一気に仕上げることができる。これも集中力を高めるための一連の動作となっている。
このように「一貫性の原理」は私たちの普段の生活や行動に大きな影響を及ぼしている。
裏を返せば「一貫性の原理」を上手に使えば、私たちの人生にとって有益な結果をもたらす可能性を高めてくれることになる。
そして、私が「これは自分の将来に有益な結果を出してくれる」だろうと思って続けていることが2つある。
一つは「毎日走る」こと。そしてもう一つが「毎日書く」ことである。
私は8年ほど前からほぼ毎日走ることを続けている。
それまでの自分は仕事のストレスを食事と煙草やお酒で発散していたため、体重は100㎏を超え、とても健康的な身体とは言えない状態だった。定期健康診断でも「体重を落としましょう」「血圧が高いです」「タバコ、お酒の量を減らしましょう」と書かれ、総合評価も「C判定(やや危険)」「D判定(危険)」、時には「E判定(要再検査)」が出ることもあった。
それが、たまたま友人から誘われトレイルランニングという山を走る競技に参加したのをきっかけに、その魅力にどっぷりとハマってからは、毎日朝起きて走るようになった。最初は3km走るのもしんどかったのが、今では朝10km走るのは何の苦も無く習慣化されてしまった。
その結果、体重も落ち、煙草も止め、お酒もほとんど飲まなくなってしまった。おかげで健康診断ではほとんどすべての項目で「A判定(良好)」となっている。
(ただし、今度は運動しすぎて一般人ではありえないような数値が出るときがあり、たまにE判定(要再検査)が出るようになってしまった)
こうしてすっかり健康体となったいま、走ることを止めるという選択肢は全くなくなってしまった。たまに仕事が忙しくて運動できない日があったりすると「一貫性の原理」が働き、「あ~、今日は身体動かしてない。気持ち悪い~」と運動しないことに身体が反応し、逆にイライラしてしまうので、運動することは今となっては身体的にも、精神的にも健康な状態を維持するための「ルーティン作業」となっている。
そしてもう一つ続けていることが「書くこと」だ。
実は私は1年前まで何かを書くということは殆どしたことが無かった。ところがこの1年間はほぼ毎日1,000~2,000文字を書き続けている。きっかけは「コーチング」の勉強を始めたことだった。
自分が効率的にコーチング技術を身に着けるために、学んだことをアウトプットすることで、よりに質の高いインプットができるようになるだろうと考えブログで学んだことや気づいたことを書くことを始めた。最初は毎日書くとは決めておらず「気が付いたことがあったら、その都度発信すれば良いかな」と軽い気持ちで書き始めたのだが、気づいたら一週間連続で書いていた。するとそのブログサイトから「一週間連続投稿おめでとうございます!!」というアナウンスが出てきて、自分が連続で書き続けていることを自覚した。
その時から「毎日続けたらかなり学びが深くなりそうだな」「1年間続けたら、相当スゴいな」と考え「毎日投稿をする」と自分の中で決断をした。この瞬間に「一貫性の原理」のスイッチが入った。
それから私は毎日ブログを書き始めた。最初のころは書くことが習慣化されていなかったので、毎日書くネタを考え、時には書くことが全く思い浮かばずに夜中の23時50分ごろに「ヤバい、あと10分で連続が途切れる」と焦りながら必死で書く日もあった。
またそれまで「書く」ということをしたことが無かったので書くこと自体にもとても時間がかかった。1件の記事を書くのに1時間、2時間とかかることもあった。
そのため当初は書き続けることがとても苦痛で「何で連続投稿なんてやろうと思ったんだ」と自分の決断を後悔することも多かった。それでも一か月、二か月と続けてくると「もう今日は疲れたし、別に書かなくてもいいや」と思い、寝てしまったとしても23時頃に突然目が覚めて「やっぱり気持ちが悪い」と思い、急いでブログを書き始めたりした。
本当に「一貫性の原理」というものはスゴイ力を持っているものである。
半年続けたころには、毎日書くという作業は全く苦ではなくなっていた。むしろ意識しなくても書くネタを探すようになり、仕事や生活の中で「あ、これブログネタになるな」と思うことが浮かぶようになり、自然と毎日書けるようになった。
今では1,000~2,000字の記事もだいたい30分ほどで書けるようになった。当初はネタ探しに苦労し、2時間もかけて書いていたのが嘘のように楽に書けるようになった。
そして毎日書くことが苦ではなくなってきたら、今度はもっと上手に文章を書けるようになりたいという、新しい欲求もでてきた。そして「いずれは書けることを自分の強みにしたい」と考えるようになり、天狼院書店の「ライティングゼミ」の門をたたいた。
「素人がバズる文章を書けるようになる」
という謳い文句に惹かれ「自分の文章がバズったらスゴイな」と淡い期待を胸に生まれて初めて「書く勉強」を始めたのである。
ライティング・ゼミで勉強する「人に読んでもらえる文章の書き方」についての知識は想像している以上に面白かった。これまではやみくもに自分の考えていることを書くだけだったのが、人が時間を費やして読んでくれる文章を書くための理論があることを知り、その理論を駆使して書くと、確かに反響が得られることが実感できた。
そして自分が書いた記事を読んでくれた方から「こないだの記事面白かったです」「文才ありますね」なんて褒められたら、自分の承認欲求まで満たされ、さらに書くことが面白くなってしまった。
こうして全く書く習慣がなかったところから、書くことを勉強し、気がついたらブログの連続投稿は400日を超えていた。また天狼院書店で毎週課題記事を提出するようになってから半年がたち、こちらもWEB天狼院に掲載された記事は20本を超えた。
今では書くことは自分の頭の中を整理し、上質なインプットをし続けるための「ルーティン作業」の一つとなった。ただし、本当に読者が読んでよかったと思う記事を書くことには頭を悩ませている。しかしそれを考えている時間も含めて自分の頭の中や普段の生活の小さな出来事に敏感になり、それを体系化できるようになったことがとても楽しい。
仕事でも書くことや、自分の頭の中にあることを可視化し、相手に伝えることが自分の強みであると感じられるようになってきた。
もしあなたも何か達成したいことや、自分の強みを作りたいのであれば「一貫性の原理」を上手に使って「ルーティン作業」を作ってみてもらいたい。最初は大変かもしれないが、その先には止めたくても止められない状態が待っていて、無意識で行動できるようになっているはずだ。
□ライターズプロフィール
佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。
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