週刊READING LIFE vol.131

人生のハーフマラソンの先に見える光《週刊READING LIFE vol.131「WRITING HOLIC!〜私が書くのをやめられない理由〜」》


2021/06/06/公開
記事:田盛稚佳子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
まさか、毎週5,000字を書く生活をすることになるとは、昨年の今頃は1ミリも想像していなかった。
特別に読書が大好きというわけでもなく、毎日欠かさずブログを書いているわけでもない。
しいて続けていると言えば、10年前から始めたFacebookに気が向いた時だけ、自身が好きなものの投稿と、3年前から使い始めた「CITTA手帳」に毎日数行、自身の思いや日記のようなものをつらつらと書き綴っていたくらいである。
もともと書くということは嫌いではない。
実は「ライティング・ゼミ」を受講する1年ほど前に学生時代からの親友から言われた言葉が、ずっと頭の片隅に引っかかっていた。
無印良品の店内で、お互いに新しいベッドカバーを探しながら、友人がぽつりと言った。
「チカって、ライターとかエッセイストみたいに文章を書く仕事とかやってそうだよね。
やってみたら、できるようになるんじゃない?」
 
うーん、と私はしばし考えた。
会社員として働く以外にもそういう手もあったか、と。
通勤ラッシュに揉まれながら会社に行かなくてもいい、時間に縛られなくてもいい、だったらそれは魅力的だな、といろいろな思いが逡巡した。
そして、無印良品の心地よいベッドにもたれながら、友人に返した。
「そりゃ、できるならやってみたいという気持ちはあるよ。
でもさ、ちゃんとした書き方とかを習ったこともないよ。今からの年齢じゃ、ちょっと無理じゃないかなぁって思うのよね……」
そこで一旦、私はその夢にフタをした。
「やってみたいけれど、きっと自分には無理」という壁を自ら作ってしまったのだ。
きちんとしたノウハウを習ってきたかと聞かれれば、「NO!」と言うしかなかったからだ。
 
そして、昨年の年末。
親の介護にしばらく専念しようと契約期間で仕事を辞め、少しだけ自分の時間もできた。
ふと、目に入ってきた「ライティング・ゼミ」の案内を見て、フタをしていた自分に問いかけてみたのだ。
「ねぇ、4か月分を4日間でやるんだって。やらないで後悔する? やって後悔する?」
1週間悩んで、思いきってフタを開けた。
ここでやらなかったら、たぶん私、後悔する。
こうして、天狼院書店の「ライティング・ゼミ冬休み集中講座」を受講した。
 
しかし、私の考えは甘かった。
昨年の年末は恐ろしく寒く、私の部屋はエアコンが効きにくい古い二階建ての北側。
エアコンをつけていてもなかなか温まらないので、分厚いセーターを着て、さらに毛布をグルグル巻きにして4日間の講義を聞いていた。
1日2回の講義を経て、毎日2,000字の課題提出がある。
フィードバックも細かい所までみっちり返ってくる。
慣れない毎日の課題提出にうんうんとパソコンの前で頭を抱えていた。
それでも、WEB天狼院書店に初めて掲載されたのを見た時は、本当にうれしかったし、講師の方の言葉に後押しされたのは非常に大きい。
「課題に対するフィードバック、初めは厳しく感じるかもしれませんが、あなたを否定しているわけではありません。こうしたら、もっと良くなるということをきちんと伝えたいからです。だから、めげないでください」
そうだ、一喜一憂しないで、日々書いていけばいいんだ!
自分で壁を作らなければいいんだ! と確信した瞬間であった。
あの年末年始は、私にとって人生の転換期になったと思っている。
 
あれから約半年。
私は現在、派遣社員として働く傍ら、こうしてライターのタマゴである一面と、カラーセラピストという3つの顔を持っている。
先日、ある共通の友人を通じて、御年80歳の現役ジュエリー作家のTさんとお知り合いになった。
緊急事態宣言中のため、オンラインでお話をすることになったのだが、とにかく驚くことの連続の1時間半だった。
まず、画面を通してあふれんばかりのTさんのパワーが伝わってくるのだ。
血色が良く笑顔が眩しい。キラキラしている。実年齢よりひと回り以上は確実に若く見える。
「いやぁ、この年になるとスマホの操作もなかなかねぇ」
なんて言いながら、サクサクと操作をしているではないか。
この人、すごいかも。私の直感がTさんに全集中する。
 
話をお伺いしていると、今までの苦労話も交えて、笑いながらTさんは言う。
「実はね、同世代とはぜーんぜん話が合わんとよ。だって病気とかお孫さんの話ばかりやん。
それよりも、私は食べることが大好き!! 美味しいもの、新しいことを探すことが毎日毎日、楽しいもんね」
とにかく、アンテナが高いのである。
私もそこそこ新しもの好きなほうではあるが、「自称アンテナ高めなオンナ」とか言ってすみませんでした! と謝りたくなるほど、足元にも及ばないくらいである。
コロナ禍で昨年から、特に芸術・エンタメ界では、自粛ムードが漂う状況が続いている。
お客さんを呼んでイベントを行うにしても、いまだに何かと制限は多い。
しかし、そんな中でもTさんは自身の作品を、日々一つ一つ心を込めて制作し、ご自身の世界観を表し、今月は個展も一週間開いたそうだ。
さすがにお客さんは例年より少なかったとのことだが、本人はわりとケロッとしている。
「あー、疲れた疲れた。でも、おかげで昨日はよく眠れたのよ。今日は元気元気! あっはっは」
まさに行動力の塊のような方である。
 
巷では、人生100年時代という言葉をよく耳にする。
私は現在45歳なので、フルマラソンに例えれば、ようやくハーフの距離に届こうとしている、折り返し地点の手前である。
それでも、結構しんどい思いをしてきたと思っている。
転職も両手で数えきれないほどしているし、転職先ではなぜかお局様や同僚のあからさまな嫌がらせのターゲットになることが多く、それに耐えられなくなって逃げたこともある。
また30代では過重労働でメンタルを病んでしまい、トイレと食事以外、数か月ベッドから出ることができない経験もした。
40代になると、今度は親の長期入院、検査通院の付き添い、介護等も重なり、仕事との両立にも悩む日々を送ってきた。
「これが人生のまだ半分だなんて……」と言い知れぬ虚無感と孤独感に襲われたことも、正直一度や二度ではない。
私はセラピストでありながら、セラピーの既定の時間を過ぎると、ついTさんに自身の人生相談をしてしまっていた。
「私、今45歳なんですけど、もう結構自分なりには頑張ってきたし、年金をもらえる前には、別にこの世からいなくなっていいかな、って思っているんですよ」
すると、Tさんは私の言葉を見事に一蹴してくれた。
 
「えー! なーに言ってんの。40代なんてね、まだ、ひよっこよ。ひよっこ! わかる?」
その言葉を聞いて、今まで抱えていたものがフッと軽くなった気がした。
 
「そっか、ひよっこなんだ……」
同級生の40代は、結婚・出産をして、子どもをきちんと育て上げ、なおかつ仕事もバリバリしている仲間もいる。
そういう仲間と比べると、私は結婚も出産もしていない。彼女たちにはないものばかりだし、きっと苦労もしていないほうなのだという負い目や引け目を長い間感じていた。
でも人生の大先輩からすれば、どんな苦労をしていようが、私たちの年代はひよっこなのだ。
 
Tさんとお知り合いになれたことで、私は女性として一つの生き方のロールモデルを知ることができた。
仮に寿命が延びたとしても、病気もせずに元気に暮らしているか、それとも病床に伏しているかによって異なるかもしれない。
しかし、生きていることの喜び、それを分かち合う楽しさを発信することができるではないか、ということに気づいた。
Tさんの人生は本当にドラマチックで、ぐいぐいと引き込まれてしまう。
「Tさんの人生って、本になりそうですね! 映像化しても面白いんじゃないですか?」
と思わず口から出てしまった。
「ホントホント! 私の人生、話し足りないほど波乱万丈。
けっこうドラマになると思うわよ。よかったら、誰か書いてくれる人を紹介してちょうだい」
とTさんは、コロコロと鈴のように笑いながら言う。
書けるものなら、私がそのストーリーを本にしたいと思っている。
 
私が書くのをやめられない理由が、わかってきた。
それは、目の前に魅力的な人がたくさんいるから、ということだ。
世の中には世界的な名声やありあまる富を手に入れて、いわゆる「勝ち組」と言われる方がいるし、記事もたくさん見ることができる。
ごく一般人の私から見ると「うわぁ、すごいなぁ」とは思う。
ただし、そういった有名人の方はあまりにも手の届かない人であるがゆえに、別物と感じてしまう傾向にある。
これをお読みの方は、一体どのように感じられるだろうか。
私が実際にココロを揺さぶられるほど動かされるのは、「ごく一般の方」なのである。
 
仕事柄、いろんな方とお会いしてお話させていただくことが多いのだが、優しい笑顔の裏で驚くほどの人生の荒波にもまれた方や、早くに親御さんや身内の方を亡くされてご苦労をされてこられた方もいる。
でも、今生きているからこそ、その時の思いを伝えることができるし、こちらもその体験を聞くことができる。
そういう話をたくさん伺う中で、私の人生にとってのロールモデルがいくつも増えている。
「仕事を一つだけに絞る必要はない。できるならいくつでもやってみたらいい」
「転職はいくつでもOK。波乱万丈カモン!」
「人生はくよくよ悩まなくていい。いつも今をしっかり生きていればいい」
 
私にとっては、書くことが生きていることの証であり、こういう5,000字の壁すらも、生きているから味わえる感覚なのである。
これからも、日々悩みながらも書き続けていきたい。自ら何かを発信していきたい。
すべてのドラマが日常の生活の中にこそあり、ゆっくりと走り続けるマラソンのような日々を送っていたら、ゴールが見えてくる気がしている。
人生の先輩方が照らしてくれている一筋の光を感じながら。
 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
田盛稚佳子(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

長崎県生まれ。福岡県在住。
西南学院大学卒。
主に人材サービス業を経験する中で、人の生き方に大いに興味を持つ。
天狼院書店の「ライティング・ゼミ冬休み集中コース」をきっかけに、事務として働きながら、ライティングの技術を学んでいる。
自分から発信できる記事で、一人でも笑顔になってほしいネタを探す日々。
本業以外にカラーセラピストとしても活動しているアラフィフ独身。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-06-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.131

関連記事