あなたの痛み、実は脳が原因かも? 理学療法士が教える解決法 ~本当は教えたくない話~《週刊READING LIFE Vol.264 本当は教えたくない話》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2024/6/3/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「なんか腰が痛いな、この前整体でマッサージしてもらったらよくなったんだけど、またしばらくしたら痛くなってきたな」
みなさんも痛みが良くなったり悪くなったりした経験がないだろうか?
僕は神奈川県藤沢市の鵠沼海岸で整体院を経営し、理学療法士として活動している。整体院に訪れるお客様は、日常生活で生じた身体の不調に悩まされ、痛みや不便を抱えている。僕の役割は、彼らの痛みを和らげ、生活の質を向上させることだ。しかし、その過程で得た知識と技術には、同業者には知られたくない「企業秘密」とも言えるものがある。本日は、その中でも特に重要な「脳の役割」についてお話しする。
僕が理学療法士として活動を始めた当初、注目していたのは筋肉や関節の問題だった。腰痛や肩こりなどの症状を持つお客様に対して、硬くなった筋肉をほぐし、動きの悪い関節を調整することで、痛みを和らげることに注力してきた。しかし、一時的に痛みは改善するものの、「あの時はよかったんだけど、また痛くなってきちゃったよ」と言われることもあり、自分の施術方法に限界を感じていた。この再発の繰り返しに、僕は深いフラストレーションを感じていた。
なぜ痛みを繰り返してしまうのか? それはそもそも関節や筋肉を動かしている脳の働きが重要であることに気付いた。筋肉や関節の動きを司るのは脳であり、無意識のうちに身体の動きを調整している。特に脳幹と言われる、身体の状態を維持するために働く部分は、姿勢保持などの無意識な動作に深く関与している。この「脳の状態」という新しい視点を取り入れることで、痛みの再発を防ぐための施術方法を見直す必要があると感じた。
これからお話しするのは、僕がどのようにしてこの気付きに至り、どのように施術方法を改善していったのかというエピソードである。これは同業者には「本当は教えたくない」秘密だが、一般の皆さんにとっては「今起きている身体の悩みの根本原因」に繋がり、痛みや動きの制限から解放される有益な情報の一つだと思うので今回公開する。
ある日、30代の会社員の男性が腰痛を訴えて僕の整体院を訪れた。彼は2週間ほど前から腰に痛みを感じ始め、特に前屈すると強い痛みが出ると話していた。初回のカウンセリングでは、現在の症状や痛みが日常生活に与える影響、さらに困っていることについて詳しく聞いた。加えて、彼の家庭環境や日常生活の動作パターンについても伺った。
カウンセリングで明らかになったのは、彼が仕事中に長時間同じ姿勢でいることが多く、特にデスクワークが中心であるということだった。仕事での長時間の座り姿勢が、彼の腰に負担をかけている可能性が高いと感じた。また、彼は腰痛のために趣味であるスポーツを楽しむことができず、その結果、ストレスが溜まっている様子だった。痛みが日常生活に及ぼす影響は大きく、彼の生活の質が著しく低下していることがわかった。
これらの情報を基に、僕は彼の身体の状態を詳細に評価することにした。痛みの原因を突き止め、彼の生活の質を向上させるために、全身のバランスや姿勢をチェックし、筋肉や関節の状態を詳しく調べる必要があった。
まず、彼の身体の動きを評価するために、前屈や後屈などの複合的な動作を行ってもらった。これにより、痛みが出る動作や部位を確認した。その後、関節単位で可動域や筋力を評価し、彼の腰部に硬くなっている筋肉や動きの悪い関節があることを特定した。最初の評価でこれらの問題を明らかにすることで、どの部分に施術を行うかを明確にしていった。
施術では、関節の問題に対して関節モビライゼーションを行った。これは、関節の可動域を広げ、正常な動きを取り戻すための手技だ。また、筋肉の問題には筋肉のリラクゼーションを行い、緊張している筋肉をほぐした。これらのアプローチにより、関節や筋肉は動きやすくなり、その場で彼の痛みは大幅に改善した。
施術後、彼は「腰が楽になりました!」と喜びの声を上げた。この瞬間、僕は大きな達成感と喜びを感じた。彼の痛みを和らげ、生活の質を向上させることができたことに満足した。しかし、この成功体験の裏には、痛みの再発というさらなる問題が浮き上がってきた。痛みが再発しないようにするためには、さらに深い理解とアプローチが必要であることに気づかされたのだ。
初回の施術で彼の腰痛は大幅に改善した。彼は「腰が楽になりました!」と喜んで帰っていった。しかし、次回の来店時に彼は「しばらくするとまた痛みが戻ってきました」と話した。この再発の報告を受けたとき、僕は無力感を感じた。もっと何かできたのではないかと思い悩んだ。
施術後の改善が一時的であったことに失望すると同時に、彼が腰に痛みが出るような動きを再びしてしまっていたのではないかという疑問も浮かんだ。僕は施術の方法やアプローチを再評価し、なぜ再発が起きたのかを深く考える必要があると感じた。
彼の生活習慣や動作パターンを見直し、無意識のうちに行っている動きが痛みの再発にどのように影響しているのかを探った。この過程で、単に筋肉や関節を治療するだけでは不十分であり、脳の反応や無意識の動きを考慮した施術が必要であることに気づいた。痛みの根本原因にアプローチするためには、新しい視点と方法を取り入れる必要があると実感した。
腰痛の再発に直面した僕は、身体だけでなく脳の役割についても深く考え始めた。脳は筋肉や関節の動きを司る司令塔であり、無意識のうちに身体の動きを調整している。特に、脳幹レベルの感覚システムが姿勢保持などの無意識な動作に大きく関与していることに気づいた。これまでの施術では、筋肉や関節の問題に注目していたが、痛みの再発を防ぐためには脳の働きを考慮する必要があると感じた。考えてみれば当たり前の話だが、どうしても症状を訴えている関節や筋肉に意識が向きがちだ。
この気づきを得た僕は、専門書や脳の機能についての書籍を読み漁り、新しい知識を積極的に取り入れた。脳の反応が身体の動きに与える影響について深く学ぶことで、より効果的な施術方法を見つけるための基礎を築いた。
僕が望んでいたのは、関節が動くようになったり、筋肉が柔らかくなるだけでなく、人生そのものが好転していく未来だった。痛みがなくなるだけでなく、日常生活での動作や活動がスムーズに行えるようになり、精神的なストレスも軽減されることを目指した。しかし、新しいアプローチが効果を示さないかもしれないという不安もあった。施術の結果が予測通りにいかない場合、再発が続くかもしれないというリスクも頭をよぎった。
それでも僕は、脳幹レベルでの無意識な動作が痛みの原因であるという理解に基づき、施術方法を根本から見直すことを決意した。これまでの施術経験を活かしつつ、新たに学んだ知識を組み合わせることで、再発を防ぐための包括的なアプローチを模索した。具体的には、脳の反応を改善するための運動療法を取り入れ、無意識の動作を意識的に訓練する方法を導入した。
この新しいアプローチにより、お客様の痛みが再発する頻度は劇的に減少した。彼らは「痛みが再発しなくなっただけでなく、新しいことに挑戦できるようになった」と話してくれた。これにより自分の施術方法が正しいと確認できた。この経験は、施術において脳の役割を無視してはならないという確信を僕に与えた。
運動療法では、特定の動作を反復して行うことで、脳が正しい動きを覚えるようにする。例えば、腰痛を持つお客様には、姿勢を正しく保つためのエクササイズや、日常生活での動作を意識的に行う訓練を導入した。これにより、痛みのない動きを身につけ、無意識のうちに正しい動作ができるようになった。
腰痛で来院した30代の会社員の男性は、運動療法を始めたことで、痛みが再発することなく、日常生活を送れるようになった。施術の効果を実感し、「腰の痛みが再発しなくなり、前屈や後屈が楽にできるようになった」と話してくれた。さらに、彼は「以前は諦めていた趣味のスポーツも再開できるようになった」と、話してくれた。
このように、運動療法の導入は彼の身体の症状だけでなく、精神的な悩みも解決する手助けとなった。痛みが改善されたことで、彼のストレスも軽減され、生活全般が向上したのだ。彼の成功体験は、僕にとっても大きな励みとなり、施術方法の有効性を再確認する機会となった。
僕の施術方法が正しいことを確認できたことで、自信を感じるとともに、今後もこのアプローチを続けていこうと思った。脳の反応に基づく運動療法は、他のお客様にも適用できると確信している。実際に、この方法を取り入れた他のお客様からも「痛みが減り、生活の質が向上した」との声をいただいている。
これからも、身体だけでなく脳の働きに注目し、個々の状況に応じた最適な施術方法を提供していきたいと思う。痛みの再発を防ぎ、日常生活をより快適に過ごせるようサポートするために、運動療法を積極的に取り入れていくつもりだ。この新しいアプローチが、多くの人々の生活をより良くする手助けになることを願っている。
この経験を通じて学んだことは、身体の問題だけでなく、脳の反応にも着目することの重要性だ。痛みの原因は単に筋肉や関節の問題だけではなく、脳が無意識のうちに行う動作の中にも潜んでいることがある。この気づきにより、痛みの改善だけでなく、精神的な悩みも一緒に解決することが可能となった。無意識の動きに問題がある場合、できない自分を責める必要はない。その代わりに、専門家に相談し、意識できない部分を客観的に見てもらうことが重要だ。
僕の経験から言えることは、できないことの原因を自分の意思の弱さに帰す必要はないということだ。僕たちの身体の動きのほとんどは、脳の指令に従って無意識に動いている。そのため、問題の根源は意識できない部分にあることが多いのだ。悩まずに専門家の助けを借りることで、より効果的に問題を解決することができる。
さらに、痛みや生活の質の低下から解放されるには、マッサージやリラクゼーションだけでなく、運動を取り入れて脳を鍛えることも重要である。脳を鍛えるのは運動が一番最適であり、これにより無意識の動きを改善し、痛みの再発を防ぐことができる。
このエッセイを通じて、読者の皆さんに伝えたいのは、「できないのは自分の意思の弱さのせいではなく、意識できない部分の問題だ」ということだ。正しいアプローチを取ることで、痛みから解放され、生活の質が向上する。
自分を卑下せず、前向きに問題に取り組むためには、まずその原因を正しく理解することが必要だ。そして、必要ならば専門家の助けを借りることを躊躇しないでほしい。自分一人で解決できない問題でも、他人の助けを借りることで解決の糸口が見つかることがある。
痛みや不調を感じた時には、自分を責めるのではなく、その原因を冷静に見つめ直し、必要なサポートを求めてほしい。問題の根本にアプローチすることで、身体だけでなく心の健康も取り戻すことができる。この文章を通じて、皆さんが自分の身体と心に向き合い、より良い未来を築くための一歩を踏み出す勇気を持てることを心から願っている。
□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
神奈川県藤沢市出身。理学療法士。2002年に理学療法士免許を取得後、一般病院に3年、整形外科クリニックに7年勤務する。その傍ら、介護保険施設、デイサービス、訪問看護ステーションなどのリハビリに従事。下は3歳から上は107歳まで、のべ40,000人のリハビリを担当する。その後2015年に起業し、整体、パーソナルトレーニング、ワークショップ、ウォーキングレッスンを提供。1日平均10,000歩以上歩くことを継続し、リハビリで得た知識と、実際に自分が歩いて得た実践を融合して、「100歳まで歩けるカラダ習慣」をコンセプトに「歩くことで人生が変わるクリエイティブウォーキング」を提供している。
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