週刊READING LIFE vol.269

「ごめん」を「ありがとう」に言い換えると、あるがままの自分でいられる《週刊READING LIFE Vol.269 謝罪》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/7/8/公開
記事:松本萌(READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
私には心から謝りたい人がいる。そして心から感謝を伝えたい人がいる。相手は誰かというと、私だ。
 
数年前は小さかったはずなのにいつの間にか存在感を増してきたシミとシワ、いつまでも取れない頬についた枕の跡を見ると「私もそれなりの年齢になったのだ」と気づかされる。30代前半までは金曜の夜が一番元気だったのに、今では週の中で一番ぐったりしている日だ。急に誘われても飲みに行く気力は残っていない。平日は仕事をし、週末は家でのんびりすることなく遊んでばかりの私を見て「よくそんなに元気でいられるね」とあきれ顔で家族に言われていたのに、「疲れた」と感じるとすぐ体調を崩すようになった。
フィジカルは徐々に低下傾向にあるが、相反するようにメンタルは上昇してきている。日々上がっているというより、以前に比べると高いところで一定の基準を保っていると言ったところだ。
 
理由は「ごめんね」と「ありがとう」を自分に言うようになったからだ。若い頃は自分に対し「ごめんね」や「ありがとう」なんて言ったことはなかったし、自分にかける言葉だと思ったことはなかった。
 
30代後半に差し掛かるころ、仕事やプライベート、人間関係等様々な場面で「以前と違う」と思うようになった。気力でなんとか乗り切っていたことが乗り切れなくなり、今まで我慢できていたことが我慢できなくなり、そしてそれをリカバリーする気力さえ湧き上がってこないことに気がついた。その状態に一番影響が出たのが仕事と職場での人間関係だった。新しい仕事を覚えなければいけないのに頭に入ってこなくなり、そしてその状況に焦りを感じつつもどうにかしようという思いを持つことができなかった。当然のように仕事のパフォーマンスは落ち、上司からのあたりが強くなると同時に同僚との関係も悪化した。上司から「あなたのやっていることは周りの人に迷惑をかけている」とハッキリ言われたこともある。若い頃の私であればそんなことを言われたらカッとなって名誉挽回とばかりに猛然と仕事をしただろうが、そのときは「あぁそうなんだ」と人事のように聞いていた。
 
だからと言ってこのままでよいと思っていたわけではない。プライベートを差し置いて当たり前のように休日出勤をし、ガムシャラに仕事をしていた生活に戻りたいわけではなかったが、仕事にやりがいと生き甲斐をもって過ごしたいという思いは変わらずあった。
「何がいけないのか」「どうすればよいのか」と一人で悶々と悩んでも答えは出ない。考えや生き方に憧れる企業家のメルマガを読み漁るも、どうすればその人達と同じ思考に自分がなれるのかが分からない。悩んでいても時間が過ぎていくだけでもったいない。憧れの人と実際会って、その人自身に聞いてみるしかない。まずは外見を変えようとファッションの講座を申し込み、そして内側を整えるためにマインドの講座を受けることにした。学びのために自己投資をした経験がない私にとってどちらの講座も高額だったが、清水の舞台から飛び降りる気持ちで申込んだ。
結果申込んで本当によかったと思っている。いかに自分を省みず、傷つけることばかりしていたかを知ることができたからだ。
 
ファッションの講座はモデル事務所を経営する企業家が一般向けに行っている講座だった。
講座の中で自分の体型やどういったファッションが似合うかを学んだのだが、自分の体型を知ったときは衝撃を受けた。なんと女性らしいフェミニンな洋服が似合う体型と言われたからだ。
いつの頃からか私は女の子らしいファッションが苦手になった。幼いころはスカートを履いていたが、いつのまにか常にパンツスタイルになり、中学や高校では制服以外でスカートを履いた記憶がない。理由は「自分は女の子らしくない」という思いを強く持っていたからだ。
勝ち気な性格だったため人にからかわれると常に言い返していた。学校で男の子達がからかい半分で言うことに関しても真っ向から立ち向かっていくため「こわい」とよく言われていた。人から「こわい」と言われ続けるといつしかそれが本当の私だと錯覚し、どんなときも悪ふざけをする人を成敗するのが「私らしい私」とすり替わってしまった。優しさよりも強さを自分は持たなければいけないという思いが、いつしかふんわりとした「女の子」をイメージさせるものから自分を遠ざけるようになり、結果スカートを履かなくなった。かわりにシャツやパンツ、スニーカーという機能的なファッションを身につけるようになった。10年や20年も女性らしさから意識的に遠退いていた私が「絶対スカートが似合う」とか「モヘアニットとかふんわりしたフォルムの洋服を着てみよう」と言われても、最初は受け入れることができなかった。講座生から「かわいい洋服が似合う体型でうらやましい」と言われたが、お世辞にしか思えなかった。
そんな過去の思いに囚われていた私だったが、講師である企業家から「いつものファッションだと少年に見える。今は若いから少年だけど、年取ったらおじさん」と言われハッとさせられた。ボーイッシュなファッションが好きだからと言って、男性に見られたいわけではない。
そしてなんと言っても私は「変わりたい」からこの講座に申し込んだのだ。今までの自分から脱却したくて、その方法を学ぶために受講しているのだ。現状維持でどうする。何も変わらないじゃないか。「よしっ、私に似合う洋服だけが並んでいるクローゼットを目指そう」と決めた。まずは似合わない服を処分しようと整理したら、クローゼットがスカスカになった。似合わない服ばかり着ていたことに気づかされるとともに、スカスカになったクローゼットを見て「これからここに並ぶ洋服は全て私に似合うものばかりになるのだ」と思うとワクワクした。
講座が終わり少し経った頃、関西に住む幼なじみから「東京に行くから会おう」と連絡がきた。淡いピンク色のニットに白色のプリーツスカートで友達を待っていたところ、友人に「誰か分からなかったよ。いつもと雰囲気が違うから。似合ってるね」と言われた。くすぐったい気持ちになったが、褒められて嬉しかった。
 
講座を受けて数年、気がつけば毎日スカートを履いている。クローゼットを開けると私の体型に似合う洋服ばかりが並んでいる。職場やプライベートで「オシャレだね」「かわいい服着ているね」と言われるようになった。当初は「かわいい」と言われるとソワソワしたが、今では素直に「ありがとう」と言えるようになった。
「私は強くなければいけない。そのためにもかわいい格好をしてはダメだ」と自分に合うファッションをすることを禁じていた。似合うものを遠ざけてしまうとは、なんて自分に申し訳ないことをしていたのだろ。
自分ごめんね。これからは自分に合うファッションをするよ。そして女性らしいファッションの似合う体型でありがとう。
 
ファッションを変えて自分の外見に自信をつけるとともに、自分の内面と対峙するためにマインドの講座を受け始めた。
最初はとまどった。講座の中で「どんな自分も受け入れ、あるがままでいる」「自分の感じる感情はどれも大切。怒りや悲しみも大切な感情だから否定しない」と言われたからだ。あるがままの自分でいていいのは子供のうちだけで、大人になったら人の目を気にして発言したり、本音と建て前を使いわけなければいけないと思い込んでいた。ポジティブな感情を持ちそしてそれを表現することは好ましいが、ネガティブな感情は本来持ってはいけないものであり、それを持つことは人として未熟だと思っていた。ずっと私は自分を押さえ込んでいたのだろう。「あるがままでいていいよ」と言われても、自分のあるがままの状態が分からなかった。
 
まずは「自分はどうしたいのか」を考えることにした。当時は仕事に打ち込めず人間関係も良くなかったので職場環境を改善したいと思い、自分がどんな仕事をしたいのかを上司に説明し異動願いを出した。新卒以来同じ会社で働いていたが、自ら「私はこういう仕事がしたいです」と言ったことがなかった。会社勤めとは与えられた仕事に全力で取り組み結果を出すものと思っていた。やってみたことのない仕事を「やってみたい」と言うのはドキドキした。
数ヶ月後辞令が出て、新卒以来憧れていた企画の部署へ異動することになった。「自分が思ったことを口に出していいんだ。口に出したら叶うんだ」と思えた瞬間だった。異動後は「こんな仕事をしたい」と伝え続け、2年越しに多くの人の目に触れる企画に携わることができた。
「この人とは合わない」と思う人と距離を置くようになった。人との縁を自分から切ることは「やってはいけないこと」と思っていたが、自分の感情に正直に従ってみたところ心が軽くなった。
私は「○○しなければいけない」「○○でなければいけない」と常に自分の行動を縛っていることに気がついた。そしてそのべき論は勝手に自分がそう思い込んでいるだけで、誰も望んでいるものではなかった。
自分ごめんね。自分に正直に生きるよ。変化を恐れない勇気を持つ私でいてくれてありがとう。
 
毎朝すると決めているルーティンがある。起きたあとすぐ雨戸を開け、大きく伸びをする。そして自分を抱きしめるように手をクロスさせて「今日も朝を迎えられることに感謝します。自分ありがとう。愛してるよ」と心の中で唱える。気持ちよく目覚める日もあれば調子の良くない日もあるが、どんなときもルーティンは欠かさないようにしている。
何度も自分に「愛してるよ」と声を掛けることで、自分を肯定的に見られるようになった。以前は「自分の思うことをそのまま伝えたら嫌われる」と思っていたが、今では「思った事を伝えて嫌われるならその人と私が合わないだけ。合わない人同士が一緒にいても不幸。むしろ早く知ることができてよかった」と思うようになった。
以前に比べるとマインドは変わってきたが、それでも過去の遺物がひょっこり現れるときがある。そんなときは今までの自分に「ごめんね」と言いつつ、それでも何とかやってきた自分に「ありがとう」を伝えようと決めている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライティングX)

兵庫県生まれ。千葉県在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を絶賛受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。平日は会社勤めをし、休日は高校の頃から続けている弓道で息抜きをする日々。

 
 

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2024-07-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.269

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