週刊READING LIFE vol.274

ナマケモノになんてなれない私たちは環境を守る事ができるのだろうか? 《週刊READING LIFE Vol.274 環境を守る》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/8/19/公開
記事:亀子美穂(READING LIFE編集部ライティングX)
 
 
名古屋の夏は暑い。今年の夏はとりわけ暑い。
テレビで天気予報を見ると、気温37度、38度……見ただけでクラクラきてしまいそうな猛暑の日が続いている。体温だったら、「すいません。熱が38度もあるので……」と、仕事を休んでしまうレベルだ。
この暑さは名古屋だけではない。多少の差はあるけれど、全国的に35度を越える猛暑が続いていて、
天気予報に出てくる日本地図は高温をあらわす赤でほとんど塗りつぶされている。
 
猛暑は年々そのレベルを上げているような気がする。
10年ぐらい前には、36度を記録しただけで「人の体温並の気温なんて、もう暑くて死にそう」
とかぼやいていたのに、今では「36度? まあ、夏だし。普通かな?」と感じてしまう。
35度を下回る日があると、「今日は涼しい」とか思ってしまう。いやいや、33度とか34度は夏として十分高い気温なのに。
 
こんなに暑くなってきたのは、地球温暖化の影響によるものかもしれない。
 
森林伐採により森林が減ったことや、石炭や石油・天然ガスを大量に燃やすことによる二酸化炭素などの温室効果ガスの発生により、地球全体の温度が上昇しているということは、今世紀に入ったころから地球全体の問題として取り上げられるようになっている。
北極や南極の氷が溶けているニュースは、小さな氷の上に乗って流されているシロクマの映像とともに私の脳裏に焼き付いているし、溶けた氷によって海面が上昇して、南国の小さな島が沈んでしまう危機に瀕しているというニュースもあった。
言葉ではわかっていた。温暖化のしくみもなんとなく理解した気がしていた。
でも、どこか他人事のような気もしていた。
シロクマはかわいいから絶滅してほしくないし、海面上昇で住んでいる島が沈んでしまう島民は気の毒だ。でも、それらは自分の普段の生活からは関係ないことだった。
 
しかし、今年の夏のこの暑さは他人事ではない。
このまま、気温が上がっていったら、数年後には命の危険すら感じるようになってしまうかもしれない。
さらに、ここ数年、毎年起こっている土砂災害を引き起こすほどの豪雨などの異常気象も、地球温暖化が原因らしい。
こうなると、地球温暖化の問題は、一気に自分の身近な問題に感じられた。
温暖化を防いで、地球環境を守らなくては。そんな気持ちにかられた。
 
でも、どうやって? 私たちはどうやって地球の環境を守っていけるのだろう。
 
ネットで調べてみた。
この地球温暖化は、産業革命以来、人間が石油や石炭などの化石燃料から作られるエネルギーを使いまくったために起きたのだ。エネルギーを作るために化石燃料を大量に燃やしたので、二酸化炭素が大量発生したのだ。産業革命前の1750年頃と比較すると、現在の地球の二酸化炭素量は50パーセントも増加しているそうだ。保温効果が高い温室効果ガスである二酸化炭素が増えたために、地球が温まっているということらしい。
 
ということは、温暖化を防ぐにはエネルギーを使わないのが一番だ。
エネルギーを使わなければ、化石燃料を燃やす必要もなくなる。
 
エネルギーを使わないという事で思い浮かぶのはナマケモノという動物だ。
ナマケモノはその名の通り、全力で怠けている。
カギのような爪を木の枝に引っかけて、ぶら下がったままほとんど動かない。
動かないので体に藻が生えてしまっている。
動かないので、エネルギーを使わない。
エネルギーを使わないので、エサも少量で済む。
1週間に葉っぱ1枚で十分生きていけるらしい。
体に生えている藻も食料になる。ものすごくエコな生き物だ。
こんな風にエネルギーを極力消費しない生き方で、生存競争が激しいアマゾンのジャングルでちゃんと生き延びている。究極の省エネによる生存戦略だ。
 
しかし、究極の省エネを極めたが故の弊害もある。
ナマケモノはエネルギー消費を最小限に抑えるため、体温調節機能を捨ててしまったのだ。
さらに食べたものを消化する機能も、体内に常駐する腸内細菌に任せてしまった。
そのため、気温が下がり、腸内細菌の活動が抑えられてしまうと、胃の中に食物が入っていても、消化できず、餓死してしまう事もあるらしい。
命がけの省エネ。
 
私は、そして多分人類は、そこまでの省エネを進めることはできないだろう。
もし仮に、このままどんどん温暖化が進んで、究極の省エネをしなければ生存の危機をむかえることになるとしても、生存の危機のほうを選ぶだろう。
エネルギーを消費することにより、様々な恩恵が得られることを知ってしまった私たちが、あえて不便な生活に戻ることは難しい。命がけとまでいかないまでも、今の生活水準を下げてでもエネルギー消費を抑えて地球温暖化を防ごうという覚悟をもつことすら、かなり難しいと思う。
 
いや、そんな高尚な話ではない。
今年の夏の暑さの中、家の中でエアコンをつけないで過ごすことができるだろうか?
エアコンをつければ結構な量の電力を消費する。
家の中でエアコンをつければ、外にある室外機からは熱風が出る。
それがさらに外気を温め、建物がひしめき合っている都会の気温はさらに上昇する。
エアコンをつけなければ、家の中でもそんな高温にさらされることになり、熱中症による命の危険すら危ぶまれる。
我々はナマケモノのように省エネに命をかけられない。
だから室内ではエアコンをつける。
エネルギーが使われて、地球温暖化が進み、室外機の熱風で外気温はさらに上昇する……悪循環だ。
この悪循環の無限ループで、エネルギーを使わないなんて、無理だ。
 
それなら、化石燃料に頼らないエネルギー源を活用するのはどうだろう?
 
地方に旅行に行くと、使わなくなったかつての田んぼや畑に一面ソーラーパネルが敷き詰められている光景を目にすることがある。地球温暖化対策としても、土地の有効活用としてもいいことなのかもしれないけれど、黒々とした無機質なソーラーパネルが並べられた風景は、自然の景色を損ねているようにしか見えないし、真夏の暑さの中ではさらに暑苦しく感じてしまう。環境を守ることと、自然の景観を守ることは共存できないのだろうか? 緑の草で覆われていた場所をソーラーパネルで覆うことが環境を守ることだと感覚的に思えないのは私だけだろうか? 化石燃料の代わりに太陽光発電を活用するには、どれくらいの太陽光パネルを敷き詰めることになるのだろう? 何か、すごく殺伐とした風景になってしまいそうだ。
 
風力発電は、景観的にはそれほど悪くないけれど、近隣の住民は風車の出す騒音に悩まされていると聞く。確かに、あれだけ大きい羽が強い風でぶんぶん回っているのだから、うるさくないわけがない。また、風が常に吹いているような所でなければ一定の電力が得られないから、調整なども大変そうだ。それに、日本中に風がビュービュー吹いているわけでもないので、化石燃料によるエネルギーに代わるほどの風力エネルギーを得られるとも思えない。
 
原子力発電は、得られるエネルギーは膨大だけど、それゆえに危険が大きすぎる。
 
結局、環境を守る決定に有効な手立ては見つからなかった。
現状の生活レベルを守りつつ、環境を守るなんて調子のいい方法は見つからないのだ。
人類は膨大なエネルギーを消費して得られる恩恵に慣れきってしまっていて、それを手放すことなんてもう不可能なのだ。現にこの原稿だって、電力を使ってパソコンで書いている。
 
そもそも環境を守るなんて、おこがましいのかもしれない。
 
それでも、何かはやらなくてはいけない。
たとえ守れなくても、温暖化が進む速度を少しでも遅らせるため、できるだけの事はしなくてはいけない。
それは、地球温暖化の原因を作ってしまった人類の責務なのだ。
 
そんなことを考えながら、私はエアコンの設定温度を1度上げた。
それがどれほどの効果があるのか、わからないけれど、できるだけの事はしなくては。
何もしないよりはいい。
こんなちょっとしたことを日々積み重ねていくしかないのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
亀子美穂(READING LIFE編集部ライティングX)

東京都生まれ。愛知県名古屋市在住。
2024年7月にライティング・ゼミを修了し、同年8月よりライティングXに途中合流。

 
 

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2024-08-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.274

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