週刊READING LIFE vol.283

自分の居場所は遠い所ではなかった《週刊READING LIFE Vol.283 バラ色の日々》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/10/28/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「さてと、本でも読みに行くか」
 
朝から、ルーティンの家事が終わると、私は読みたい本を抱えて、駅前のカフェに行くのが日課だった。
私が住む街は、関西でも「住みたい街ランキング」の上位に名を連ねるような街だ。
なので、最寄り駅前には、おしゃれなカフェや焼きたてのパンを売るお店、美味しいスイーツのお店など、生活に潤いを与えてくれるようなお店はたくさんあった。
良く晴れた平日の午後、そんなカフェで美味しい珈琲を飲みながら好きな本を読んでいたのだ。
その当時、私にはそれが私の日課であって、ちょっとしたお楽しみだというくらいの認識でしかなかった。
でも、今思うと、私にはお家に居たくないという気持ちが潜在的にあったのだ。
 
私は、物心ついた頃からお片づけが勝手に出来る子どもだった。
自分の勉強部屋の机の引き出しも、お菓子の空き箱などを工夫して文房具をきれいに収納していた。
タンスの中のお洋服も、きれいにたたんでしまうことが出来ていた。
子どもの頃から、親にも、学校の先生にも、「整理整頓が出来ている」と、褒められていたのだ。
それは、誰からも教えてもらうことなく、勝手に出来ていたことだったので、特技だとか、私の取り柄だとか思うことなどなく大人になって行った。
 
ところが、結婚して、家庭を持ち、子育てをするようになって、ママ友たちとのお付き合いが始まると、気づくことがあった。
ママ友とのお付き合いでは、子どもが小さいので、よくお互いのお家を行き来することがあった。
そうすると、子育ての話から始まって、やがては、「片づけが出来ないのよね」という、お片づけのお悩みの話になるのが常だった。
そんな時、私は勝手にお片づけが出来たものだから、ママ友のお家でおしゃべりをしつつ、手は動かして片づけをするようなことが多くなった。
そうすると、ママ友たちは、「ありがとう! スゴクきれいになったわ」と、誰もが喜んでくれたのだ。
私にしてみると、何も特別なことではなくて、勝手にサッと出来ることばかりだった。
そんな経験をするうちに、このお片づけが出来るのは私の特技なのだと自負するようになっていったのだ。
 
ちょうどその頃は、「整理収納」のブームで、テレビ番組にも、整理収納アドバイザーの先生方が出演して、個人のお宅を片づけてbefore、afterを見せるような番組がよくあったのだ。
私は、そんな番組が大好きでよく見ていた。
しかも、その先生方は本も出版されていたので、よく書店で立ち読みをしては、今はどんな収納グッズが旬なのか、Tシャツのたたみ方は、どうしたらコンパクトになるのか、などを興味津々で情報収集していた。
 
そんな時、偶然に出会ったのが、「断捨離」の本だった。
どうやらお片づけの本のようだったのだが、お片づけが得意だったわたしには、目からウロコのような内容が書かれていた。
その本を読んだ時、私の中でずっとモヤモヤしていたことに気づかせてくれた。
そう、私自身は、物心ついたときからお片づけが勝手に出来ていて、子どもの頃からお片づけだけはみんなに褒められてきた。
ママ友たちにも、お片づけを手伝うととても喜ばれ、自分自身の自慢できることでもあったのだ。
 
ところが、そんな片づいたお家なのに、私は家にいるのが実は好きではなかったのだ。
駅前のカフェへ、本を持って行って読んでいたのも、お家では落ち着かなかったからだった。
それだけ片づいたお家なのに、お友だちを招こうと思うこともなかったのだ。
しかも、お家にいると常にイライラしてしまい、よく娘にも当たっていたのだ。
周りの人、つまり外側からはいつも褒められているのに、自分自身、つまり内側の私はそんなお家が好きでなかった。
このギャップに、ずいぶん長い間モヤモヤしていたことにも気づかされたのだ。
 
そこで、私は「断捨離」という所へいくと、このモヤモヤの答えがあるのではないかと思い、そこから断捨離をすることとなった。
お片づけが得意だった私がやっていたのは、整理収納というものだった。
私は、手元にやって来たモノは全て、上手に収納することが出来ていたのだ。
なので、生活をしていて、年月が経ってゆくと、どんどんモノが増えて行った。
それでも、人よりもずっと上手にモノを詰め込むことが出来たので、上辺では何ら問題がないようだったのだが、内面ではもういっぱいいっぱいに達してきていたのだろう。
そんな頃、断捨離に出会い、私は初めて自分が使いたいモノを選ぶという行動をすることとなった。
私が今使いたい、好きなモノは何だろう。
そんなことを、これまでは考えたこともなかったのだ。
あるモノを使う。
もらったならば使う。
そんなことしかやってこなかったのだが、目の前にあるモノを一つずつ見てゆくと、私が好きなモノは本当に少量だったのだ。
 
そのために、私は断捨離をすることで、トン単位でモノを出してゆくこととなった。
不思議なことに、モノが減ってゆくごとに私の気持ちは軽くなっていったのだ。
例えば、買ったのに着ていなかったお洋服も大量にあって、それらを見るたびに、私は無意識に自分を責めていたのだろう。
モノを手放すことで、自分を責めるという行動も手放すこととなって行った。
それで、気持ちも軽くなっていったのだ。
 
使えるから使っていたということは、私の意志がどこにもなかった訳で、そんなモノばかりのあるお家では、自分が主役ではなかったこともわかった。
さらには、過去に遊びに行った旅行のパンフレットや資料など、過去に完結してしまって、別に思い出品でもないようなモノが大量にあった。
それらは、今の私にとってはもう何の関係もないようなあかの他人のようなモノだったのだ。
そんな「他人」のような関係のモノが大量にお家にあったので、私はその家に居ると落ち着かなかったのだ。
だって、他人がウジャウジャ居るなんて、気持ち悪いことでもあるのだから。
 
そういったモノたちも、全て手放してゆくと、やがてわが家には私が好きで、お気に入りのモノだけになっていったのだ。
お気に入りのモノというのは、いつ見ても気分がいいし、使いたいモノなのだ。
なので、お家にいる時間がこれまでとは180度違って、心地良いものとなっていったのだ。
空間が心地良いと、そこで過ごす時間も心地良いのだ。
 
モノが大量にあって、それが豊かだと思っていた私だったが、残念ながらそう感じることはなかったのだ。
むしろ、大量のモノは良い関係のモノばかりではなかったので、お家という空間から私の居場所を奪ってしまっていたのだ。
なので、その頃の私は、カフェへ出かけたり、旅行にもしょっちゅう行っていたりしたのだ。
日常の舞台であるお家が居心地悪かったので、非日常であるカフェ、旅行へと逃げていたのかもしれない。
 
今、自分にとって好きで、お気に入りのモノだけを必要なだけ持つ家で暮らしていると、日々の生活がとても豊かに感じられるのだ。
良く磨かれたリビングの窓から射す太陽の光に喜びを感じ、庭で咲いていた名も知らないお花を一輪でも飾って見ると、こころが温かくなったりするのだ。
そこで、美味しいコーヒーを自分のために丁寧に淹れて飲んでいると、思わず「幸せ」という言葉が漏れてくるのだ。
 
いつも居心地の良い場所を外へ外へと求めていた私だったが、心地良い居場所というのは、日々の生活の中にあるものだとようやくわかるようになったのだ。
人生の中で、一番多くの時間を過ごすのは、お家の中の日常の生活。
そのお家を整えることで、私は日々の生活に喜びを見出し、感謝出来るようになったのだ。
 
明日への希望を抱き、幸せだと思えるようになるのは、生活の、人生の基盤であるわが家を整えることから出来るのだと私は信じている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
終活アドバイザー。

 
 

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2024-10-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.283

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