週刊READING LIFE vol.278

その時間を私は取り戻したいのだろうか《週刊READING LIFE Vol.278》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/9/16/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ごめんね~、待った?」
 
「ううん、ちっとも」
 
友だちとの待ち合わせは、大体こうなるのが常だった。
走って駆け寄って来るのが友だちで、笑顔で待っているのが私。
 
私は、ずっと昔、多分、子どもの頃から、とにかく待ち合わせなどの時間にはいつも早めに行動するようなところがあった。
友だちとの待ち合わせも、学校へ行く時間も。
明日の予定の準備は、前の日の晩に済ませ、朝は目覚まし時計通りに起きて、余裕で身支度をしていた。
持ってゆくモノはカバンに入れて、着るお洋服もたたんで机の上に用意していた。
ちなみに、忘れ物をした記憶もあまりないくらいだ。
待ち合わせに遅れそうになって、焦って走ったとか、朝の身支度の何かをすっ飛ばして必死になって出掛けたというようなことは記憶にないのだ。
家族で出かける時も、一番に用意が終わり、他の家族の準備を待っているような子どもだった。
 
そこから成長して、バスや電車などの乗り物を利用するようになったら、その行動はさらに早くなっていった。
徒歩や自転車ならまだしも、バスや電車に乗り遅れたら大変なことだし、自分の力ではどうしようも出来ないからだ。
いつも、予定している電車よりも、2,3本早めの電車に間に合うような時間には駅に到着していた。
 
そんなこれまでの自分の行動を振り返って、ある時、ふとそんな時間ってもしかしたら無駄な、もったいないものだったのだろうか、というような疑問が湧いてきたのだ。
というのも、時間は大切、時間は命、というような想いが年々強くなってきたからだ。
確かに、寿命というのは生きている時間であって、それがそっくりそのままその人の人生、命の時間となるのだ。
その時間は学びや仕事、家族と過ごしたり、趣味に没頭したり、自由に使えるのだ。
ところが、私の子どもの頃からの行動を振り返ると、何かの約束事があったら、その準備に時間をかけていたり、とにかく行動をいつも早めに始めていたりすることに、ふと疑問を抱いたのだ。
こんなことに、これまで私はたくさんの時間を費やして来たんだ、と。
 
例えば、旅行に行くとなると、海外旅行ならば1週間くらい前からスーツケースを開けて、そこに持って行くモノを入れて行って、出発前には何度も確認をしていた。
空港のチェックインも、予定よりも遥か早くに到着するように準備していた。
もう準備が整ったならば、何も家で待っていなくても、早めに空港へ行けば安心だし、空港でゆっくりと過ごして出発を待てばいいじゃないかと思うほうなのだ。
だって、もしもリムジンバスや電車が遅れていたら、もうアウトになってしまうのだから、早め早めが良いに決まっていると思うのだ。
確かに、電車や旅行の出発に遅れることもなく、滞りなくこれまでの旅行、待ち合わせはスムーズにこなして来られたのだが。
 
でも、一方で、気になるのが自分のこれまでの時間の使い方だ。
子どもの頃からの早めの行動、約束時間のずいぶん前に出発して、友だちを待っていた時間。
出かけるために、準備も1時間くらい前からやっていたこと。
これまでの、これらの時間を積み重ねてみると、私はずいぶんとそこに人生の大切な時間を費やして来たことに気づいたのだ。
これって、ひょっとしたら、もったいないことだったんじゃないだろうか。
もっと、他のことに使ってきてもよかったんじゃないだろうか。
 
もちろん、私だって完璧ではないので、寝坊もしたし、勘違いして遅れたこともあった。
ただそんな時の自分が、本当に嫌で、嫌で仕方なかったのだ。
時間がなくて気落ちが焦ったり、出かける準備が思うようにできなかったりすることが、とにかく気持ち悪いのだ。
これは、きっと几帳面な性格も関係していたり、何ごとも正確でありたいと強く願う思いがあったりもしたのだろう。
そんな自分自身の性格を、時にはしんどいと思ったこともあった。
いつも、ギリギリの時間行動はイヤだけど、適度に、程よい時間を使って、サッと準備出来たら、どんなにいいだろうとも思った。
でも、それは私には出来なかったのだ。
やっぱり、そうなるとこれはもう私自身が持って生まれた性格だと、言うしかないのだろう。
 
例えば、友だちとの約束で、もう少し若かった頃に、私は早い時には15分くらい前に到着することが多かった。
そこで、友だちが15分遅れて来たとしたら、私はそこで友だちを30分待っていたことになる。
昔は、今のように携帯電話やSNSのツールなどがない時代で、遅れる連絡だって出来なかったのだ。
何かあったのか、電車に乗り遅れたのか、とにかく理由が全くわからない中、ひたすら相手を待つ時間は何とも言えないものだった。
ようやく到着した友だちは、まさか私が15分前からそこにいるとも思っていないので、
「ごめ~ん」と、笑いながら走って駆け寄って来るのだ。
私も、30分待っていたとは絶対に言わないから。
 
それでも、それだけの時間を待っていたり、あれこれと友だちが来ない理由を想像していたりするどんよりとした時間も、私が選んでやっていたことだったのだろう。
待ち合わせ時間よりも、早めに到着するのは、そうしなければいけないという思いではなくて、もしかしたら私がそうしたいと思い、何ならば待ちたい時間だったのかもしれない。
待たせることが嫌いで、自分が待つ方が気持ちがラクだったのだろう。
「ごめんね」と謝ることで始まる、友だちとの時間はイヤだったのだろう。
そういえば、例え30分待っていても、私にはイヤな思いは少しもなかったのだ。
むしろ、待っている方の自分が好きだった。
 
それならば、これまでの人生の中で、私が出かける準備に費やして来た長めの時間、早め早めの行動の時間は、私にとって有意義で必要な時間だったと言えるのかもしれない。
空港にギリギリに到着して、焦ってチェックインをして何とか飛行機の出発に間に合ったとしても、余裕のない行動は気持ちのゆとりを奪ってしまう。
そういう行動がきっと好きではないんだろう。
 
ふと、無駄な時間だったのか、せっかちな自分の性格がどうなんだろうと、自分のこれまでやってきたことを否定してしまいそうになっていた。
でも、きっとこれらは私の心からの想いでやってきた行動だったのだ。
 
バブル期の会社員時代、私は毎朝、7時代の電車でゆったりと出勤していた。
会社までは、ドアツードア、45分ほどで行けて、会社の始業時間は9時15分だった。
それなのに、ラッシュアワーに電車に乗るのがイヤで、8時には会社についていた。
電車で、他のお客さんと身体が触れることもなく、座れることも多かった。
余裕で会社について、同期の友だちと始業時間までモーニングを食べたり、お茶をしたりしていた。
だから、始業時間には、涼しい顔ですぐに仕事に取り掛かれた。
周りの人たちは、たいてい駆け込みで席に着いていたのに。
もっと、ギリギリまで寝ていたいと思う人もいるだろう。
それは、寝ることが優先されて、そうしたい人はその選択もありだろう。
ただ、私が優先したかったのは、満員電車を避けること、だったのだ。
だから、あの時の私の行動は、自分の望むことであって、快適だったのだ。
 
これまで、自分が選択してきた行動は、人と比べると違いがあるかもしれない。
それでも、その時々、私は間違いなく自分の望む方を選んでいたのだ。
自分のプライベートの行動に、強制されたり、イヤイヤやっていたりしたことはなかったはずだ。
それらのどの選択も、そこには正誤はなく、これで良かった、いや、これだから良かったのだろうとようやく思えるようになった。
 
なんだか、ずっと心の奥にあったモヤモヤした想いが、ようやくこれで払拭出来たような気がする。
どんな時間の使い方も、自分の想いでやっていて、それが人と比べてどうであろうと、私自身が心地良いのであればそれでいいんだ。
それは、私の人生において、決してもったいない、無駄な時間ではなかったと今は心から思えるし、これからもそうしていくだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

 
 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸二丁目18-17
ENOTOKI 2F
TEL:04-6652-7387
営業時間:平日10:00~18:00(LO17:30)/土日祝10:00~19:00(LO18:30)


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
 Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



2024-09-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.278

関連記事