週刊READING LIFE vol.281

幸せの味付けは自分次第《週刊READING LIFE Vol.281 日常の中の幸せ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/10/7/公開
記事:ひーまま(READINGLIFE編集部ライティングX)
 
 
「オラオラ~家におるんはわかっとるんじゃあ! さっさと玄関あけえや!」そんな怒号で朝から玄関先で怒鳴ぜる大人。
「いま、お父さんもお母さんもいませ~ん」と大きな声で言い返す9歳の私。65歳になった今でもときどき玄関に出るのが怖くなる。そんな幼いころの体験を持つわたしは最近でいう「ヤングケアラー」だったのだろう。
 
だったのだろう、というのは自分では最近までそんな自覚がなかったからだ。子供のころの苦労は苦労としてとにかく私は「転んでもただでは起きぬ」の精神で人生を歩んできたからだ。
 
その反面、自分は苦労の連続でただ生きていてよいものだろうか?  と心の奥底で不安がいつも首をもたげてもいた。
だから、娘に「最近ヤングケアラーという言葉があってね、それはママのことだと思ったよ」と言われて、自分の人生を振り返ってみたのだ。
 
確かに私はヤングケアラーだった。小学校2年生の7歳のころに両親が夜のお店を開いて、それ以来夜は私と二歳年下の妹と二人での留守番。夜が怖くてなかなか眠れない。それでもお姉ちゃんは泣くことも怖がるそぶりも見せないで頑張ってきたのだ。
 
大阪生まれで2歳半からの広島育ち。脳内は河内弁のノリつっこみの構造で出来上がっている。だからなのだろう、怖いおじさんが玄関先で大声でどなったとしても(なにゆうてけつかるねん。みみから手えつっこんで奥歯がたがた言わせたろか?)と脳内でいきがっていたような気がする。
 
とにかく辛いこと苦しいことは笑い飛ばすに限る。
これはおばあちゃんに教わった数々のことわざから身についたことだ。「苦あれば楽あり」「笑う門には福来る」とにかく笑うのがいいのだ。楽しく生きていけば大概のことは何とかなる。
おばあちゃんは明治生まれで読み書きができなかったが、たくさんの事を「ことわざ」と言う短いフレーズにして聞かせてくれたのだ。
 
今思い出せばそのフレーズを聞かせてくれたのが、私が幼稚園に入るまでの短い期間だったことに驚く。
 
「短気は損気」「慌てる乞食はもらいが少ない」「負けるが勝ち」
どのフレーズも今の私の土台になっている。
 
そんな気持ちで怒声のおじさんに言い返していたら、そのおじさんは何回も大声で言い返す私に「じょうちゃんえらいのお。 明日は親を出すんで」と根負けして帰っていった。
 
その場面を65歳の私が見ていたとしたら何と思うだろうか?
(えらいえらい! 立派立派! よく泣かないで返事ができたね。よく頑張ったね)そう言って9歳の私をぎゅうっと抱きしめてあげたい。(そしてその頑張りがそれから後の人生とっても意味があるよ)と話してあげたい。
 
と、頑張ってきた自分をほめてあげられる心境になれたのは、天狼院の「ライティングゼミ」の講座を受講してからなのだ。
このライティングゼミではまず2000文字の文章を最後まで読んでもらうにはどうすればよいのか? いろいろなテクニックや文章の構成方法などを丁寧に教えてくれ、そのうえで毎週の課題文の提出とフィードバックが、これまた丁寧に返されてくる。
 
自分の人生を振り返る、というより私は、30年前に天国へ旅立った父親からの宿題のような人生の課題を何とか整理したくてこのライティングゼミの受講を決意したのだった。
 
その課題を何とか頑張って提出していくにあたって、私はどうしても今まで蓋をして見ないようにしていた、苦労の幼少期を見ざるを得なくなったのである。
 
「恥ずかしながら」のフレーズが理解できるのは昭和生まれの人だけだろうが、本当に恥ずかしながら自分の人生を振り返って書いてみた。つらかったこと苦しかったことを書くのは本当に苦しい作業だった。
 
それでも2000文字を読んでくれる人に対して、最後まで読んでもらえるように書く。 ことがライティングの修行だった。
そして、書きながら見えてきたことがある。
 
「私の人生、捨てたもんじゃないな」
「苦労だと思ってきたことは実は天からのプレゼントなのでは?」
「のろまで出来損ないだと思っていた自分は、結構頑張ってきてる」
そんな風に思えてきた自分にも驚いている。
 
文章の力ってこんなにすごい自己治癒力があるんだ。
 
そんな風に子供のころからの出来事を振り返ってみると、しみじみと2歳半からは一緒に暮らすことができなくなった母方のおじいちゃん、おばあちゃんからの私への半端ない愛情に気が付いた。
産まれてから広島へ来るまでの2年と半年。おじいちゃんの着物のふところにすっぽりと包まれて眠っていた時の安心感。
 
おばあちゃんが毎朝おくどさんで薪で炊いてくれたお粥さん。
真剣な表情で教えてくれた数々のことわざ。
いのちはこんな風につながっていくんだなと感じることができた。
 
私が子供のころはおじいちゃんもおばあちゃんも家にいるときは着物姿だった。今ではとても想像がつかないかもしれないが、洗濯機もない時代、おばあちゃんは季節が変わると着物をほどいて一枚の布になった着物を丁寧に洗っては干していた。
 
そのころの風にたなびく布を今でもはっきり思い出すことができる。
夏の生地の着物が一枚の布になってはたはたと揺れている。
傍らでおじいちゃんは縁側に座って、キセルで煙草をくゆらせている。
 
なんて平和でのどかな光景だろう。
時間はゆっくりと流れて(なにしろご飯はかまどで、薪をくべながら炊くのだから)おかずだって品数も少なく質素なご飯だったに違いない。 それでもお腹も満たされて、幸せだった記憶がある。
 
現代は便利を通り過ぎて、かえって不自由を感じるくらいに機械の都合に人間が使われているような気がする。
 
幸せの定義は私にははっきりと明言できないが、あの頃の幸せはとってもわかりやすかった。
 
風が吹き抜けて、美味しいにおいがしていて、大人たちは怒りたいときに時には怒り、泣きたいときには泣き、ケンカしたいときにはケンカをしていた。
 
最近の私のことだが、怒りたいときに怒れなくなっている。
たくさんの情報があふれて、誰かを傷つけることも怖いことだし、何より自分が傷つくことも恐ろしい。
 
振り返ってみた子供時代の社会の空気は、今とは比べ物にならないので、自分の子供や孫にもアドバイスをすることさえはばかられるのが現状だ。
 
テレビをみてもネットを見ても、不安や恐れから離れることが難しい。現代は幸せを見つけることが簡単ではなくなっているのだなと感じる。
 
では、不安や心配をどうすれば「幸せ」に切り替えることができるのだろう?
 
もしかしたらその本質はどんなに時代が変わっても変わらないのかもしれない。 わたしがおじいちゃんやおばあちゃんからもらった愛情に今でも癒されているように、その愛情を感じるたびに幸せを感じるように、わたしも目の前のただ一人の人を大事にしよう。
 
家族でも友達でも、またすれ違う知らない人にでも。
そんな気持ちで接するようにしたい。 幸せな気持ちはきっと伝染するから。 日常の中の幸せは、そんな日常の繰り返しから生まれて、子供たちや孫たちにもつながっていくような気がする。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール

大阪生まれ。2歳半から広島育ちの現在広島在住の65歳。2023年6月開講のライティングゼミを受講。10月開講のライターズ倶楽部に参加。様々な活動を通して世界平和の実現を願っている。趣味は読書。書道では篆書、盆石は細川流を研鑽している。

 
 

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2024-10-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.281

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