週刊READING LIFE vol.285

秋祭りで女子はおみこし担げないって!?《週刊READING LIFE Vol.285 懐かしさの正体》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/11/11/公開
記事:ひーまま(READINGLIFE編集部ライティングX)
 
 
「女子はねえ、もう小学校6年生になったらお神輿はかつげんのよ」
子供会の世話人のおじさんが、小学校6年生のわたしに残念そうな顔で話してくれた。
 
あんぐりと開いた口のふさがらないわたし。
 
「なんでなん? なんで女子はお神輿担がせてもらえんの?」
困ったような表情のおじさんは(あたりまえじゃろ? 6年生の女子がお神輿担ぎたいわけないじゃろ?)と心の声が聞こえてくるような雰囲気で「何ででもよ。 ふうが悪いけえ」と言った。
 
これは出直してきたほうがいいな。 と心の声が聞こえたので、「は~い。 わかりました~」といったん反論の言葉を飲み込んで家に帰ることにした。
 
家に帰る道々、がっかりしてとぼとぼ歩いていると、どこからか金木犀の良い香りが漂ってきた。
鼻の奥がつう~んとして、ちょっぴり涙があふれてきた。
 
毎年毎年、この時期の秋祭りを心から楽しみにしてきたんだ。
誰もわかってはくれないが、秋祭りのお神輿を担ぐと、心の底から勇気と元気が湧いてきて、両親が夜のお店で仕事をしている間の妹と弟を世話しながらの怖い気持ちやさみしい気持ちがドーンと吹き飛ぶような気がするからだ。
 
そして、家のすぐ裏山の上に建っている「朝日山神社」まで細くて長い階段を「そ~りゃ! お~りゃ!」「わっしょい! わっしょい!」と掛け声をかけながら一歩一歩上がっていって、神社の前で神輿をねりねりすると本当に神様が喜んで力を授けてくれる気がするのだ。
 
この一年に一度のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
 
わたしは金木犀の香りを深く吸い込んで、気合を入れたのだった。町内会長さんに直談判だ!
 
子供会の集まりが終わったころには、もう夕焼けが空を染めていた。
急がなくっちゃ。 と私は小走りに山道を登っていった。
すこし緩やかな坂道を登ったところが町内会長さんの家だった。
 
もう外は薄暗い。 玄関の格子のガラスの引き戸はまるで誰も入ってくるなよ。 とでも言いたげな威厳を放っていた。
 
玄関先の電球が「ぱっ」とついた。
一瞬、どきんとしたが、ここまで上がってきたのだ。 勇気を出すんだ。 と自分を励まして、玄関横のチャイムを押した。
 
「は~い どなたですか?」と女の人の声がした。
すこしほっとして、「子供会のものですが、町内会長さんはおってですか?」と小さな声でやっと言えた。
玄関に出てきたのは小柄なおばあさんで優しそうな笑みで「どしたんかね?」と聞いてくれた。
 
「会長さんにお願いがあってきたんです」と言うと、奥のほうから「誰かいね?」と会長さんが出てきてくれた。
 
「はい。 わたしは子供会のいなとめひろみです。」
「どうしてもお願いがあってきました」とがんばって少し大きな声で伝えてみた。
 
「どうしたんかいね? なんのお願いかゆうてみんさい」と話を聞いてくれたので、私は、いかに秋祭りを楽しみにしているのか。 お神輿をどれほど大事に思っているのか。 切々と話してみた。
 
「どうしてもお神輿を担ぎたいおもうてお願いに来ました」
「小学校5年生まではお神輿を担げたのに、6年生になったら担げんゆうのはさみしすぎるんです。どうか担ぐ人数に入れてもらえんですか?」涙をこらえながらもお願いしてみたのだった。
 
町内会長さんは、ふんふんと話を聞きながら、「ほうね、頑張ってきたんじゃの。」と言って頭をポンポンとたたいてくれた。
 
「ほいじゃけどなあ、女子は5年生までゆう決まりなんよ」
「あんただけをいれたんじゃ神様にも顔がたたんけえのお」
 
(ああ~神様がダメなんじゃゆうとってんなら、それは無理なんだ)
 
頑張って話に来たのだけれど、これ以上無理は通らないんだ。 と痛い心で納得した。
 
「はい。 お願いだけしにきたんで、ほんまにありがとうございました」涙を流さないようにそれだけ言えた。
 
帰ろうとしたその時、会長さんが手のなかに小さな飴を持たせてくれて「ほいじゃが、よう頑張って言いに来たの。 ほいで、神輿を担ぐことはできんのじゃが、小さい子供らの世話をして、神輿の先頭を歩く言うのはどんなかの?」と会長さんはにこにこしながら提案してくれた。
 
「ほんまに?! それならやりたいけえやります」
としょげていたわたしはいっぺんに元気が出てそう答えた。
 
「ほうか、ほうか。 ほんなら頑張って歩くんよ」と玄関先からゆるやかな坂道まで見送ってくれて、何回も振り向くとまだ手を振ってくれていた。
 
帰り道の金木犀は、それはそれはよい香りで(よかったね。 よかったね)と一緒に喜んでくれてるみたいだった。
 
そこまで思い出して現在65歳のわたしは、この数日、なんだか気持ちがうきうきするなあって思っていたことの答えを見つけたような気がしている。
 
あの頃の「朝日山神社」は今もしっかりと地域を守る氏神様で、細く長く山の上まで続いていた石段は、大人になってみると本当に急な石段で、今では一息で登ることは難しい。
 
こうして振り返ってみると半世紀も前ではないか?!!
 
小学校6年生、女子。それでもお神輿を担ぎたかったわたしのあの日もリアルに思い出せる。秋晴れの真っ青な空がきれいな朝だった。
 
「お~ようきたねえ!」町内会長さんが子供会のみんなをお神輿の周りに集めていた。 今年小学校に入った1年生から3年生まで、まだ小さい子供たちが集まっている。
 
みんなかわいいお祭りのはっぴをきて、飛んだり跳ねたりと元気いっぱいだ。同級生の男子が、なんでお前がここにおるんか?みたいな顔で見てきたが、それは軽く無視して、小さい子供たちを二列の列に並ばせ、竹で作った棒の先に、5色の色紙でポンポンのようなものが付けてあるものを一人一人に持たせた。
もうみんなそれだけで大興奮だ。 わたしも一本手にして号令をかける。この地区をぐるりと回って、家々の前を通過しながら神社を目指すのだ。わたしは笛を吹きながら「ピーっ! わっしょい! わっしょい!」と威勢の良い掛け声をかけた。
 
子供たちはお神輿を引っ張る綱を両方からもち、お神輿をぐいぐいと引っ張っていく。子供神輿だからそんなに大きくはないが4年生から6年生の男子が神輿を担いで、なんだか偉そうな感じ。
 
ちょっと胸が痛んだが、今年は4年生、5年生の女子の参加はない。 
6年生女子はわたしひとりだ。 だが、小さい子供たちを引き連れているので全く違和感なく参加できてる。
 
会長さんの思いやりに胸がいっぱいになりながら、お神輿を引っ張て行く。 とうとう神社の階段だ。
 
狭くて長い石段は一番上が見えないくらい。 子供たちはさすがに町内を練り歩いて疲れたのか元気な声が出てこなくなっている。
「ピーっ! わっしょい! わっしょい!」と声をかけながら足元に気をつけて一歩一歩上がっていく。
 
今年は上町の子供神輿が一足先に神社についていた。
「お~! 負けるな西町!」大人たちも声をかける。
 
一歩一歩みんなで力を合わせて階段を登る。
 
一番上で神様が待ってるんだ。
「頑張れ! 頑張れ!」と大勢の大人たちの声が聞こえる。
 
階段を登り切った小さな広場で「お~!!!」と鬨の声をあげた。
 
まるで神様か「ようきた! ようきた! 頑張った!」と喜んでいるようなパワーを感じた。ここでも金木犀の香りがお神輿を包んでいっしょに練り歩いていたような気持がする。
 
満面の笑顔の会長さん。 「ようがんばったのう。 みんなにお菓子がもらえるで」と一人一人にお菓子を配ってくれ、よう頑張ったからの。と、わたしには2つ! お菓子の袋をくれた。
青空にはぽっかり真っ白い雲が浮かんでいた。
 
秋祭りの思い出が、金木犀の香りとともにこの半世紀。わたしを励ましてくれていたんだな。なつかしさの正体に気が付いてなんとも幸せな気持ちでいっぱいになった今年の金木犀との再会だった。 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ひーまま《READINGLIFE編集部ライティングX》

大阪生まれ。2歳半から広島育ちの現在広島在住の65歳。2023年6月開講のライティングゼミを受講。10月開講のライターズ倶楽部に参加。様々な活動を通して世界平和の実現を願っている。趣味は読書。書道では篆書、盆石は細川流を研鑽している。

 
 

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2024-11-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.285

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