週刊READING LIFE vol.290

29年目のクリスマスツリー《週刊READING LIFE Vol.290 Winter, again》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/12/23/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「そうか、クリスマスツリーが欲しいね」
 
1996年の春、娘が誕生した。
結婚して、家庭を持ち、子どもが生まれて一番感じたことは、より季節感を感じる生活をするようになったということ。
季節ごとの行事は、子どもの成長を願ったり、子どもに寄り添ったりするものが多いので、長い間忘れていたような新鮮な気持ちを呼び起してくれた。
娘の成長を楽しみながら、その時々の季節の行事をすることで、あらためて日々の生活に幸せも感じたものだ。
 
そんな1996年の冬に、私たち親は、娘のために慌ててクリスマスツリーを用意した。
当時、車で10分ほどのところに、大型店舗のおもちゃ屋さんがあって、そこへ行くとたくさんの種類のクリスマスツリーがあった。
私が子どもだった頃のクリスマスツリーと言えば、小ぶりでテレビの上に飾れるようなサイズのモノが多かった。
ところが、その大型店舗のおもちゃ屋さんでは、様々なサイズのクリスマスツリーがあった。
広く、天井も高い店内で色々と見ていると、どんどんサイズ感がマヒしてゆくのがわかった。
大きい方が、絶対に見栄えがするし、子どもも喜ぶと思うようになっていったのだ。
そして、そのクリスマスツリーを飾るオーナメントもたくさんあった。
その当時、海外からの輸入品も多く、心惹かれるかわいいモノがたくさんあった。
私たち、新米の親は、あれもこれもと欲張ってオーナメントを購入した。
まだ赤ちゃんの娘に意見を求めることもできないので、完全なる親の趣味のクリスマスツリーが出来上がった。
 
ところが、大型店舗のおもちゃ屋さんの店内は、とてつもなく広く、天井も高かったので、私たちが購入したクリスマスツリーは、予想以上に大きいものだった。
家に持って帰ってくると、やたらとクリスマスツリーの緑の葉っぱが目立つのだった。
買い過ぎたかと思うくらいのオーナメントは、逆に足りないくらいだった。
オーナメントをたくさん買ったつもりだったのに、いざ飾り付けを終えると、なんだか寂しいクリスマスツリーに仕上がったのだ。
そこで再度、その大型おもちゃ屋さんへと車を走らせ、追加のオーナメントを購入したのだ。
 
子どものためには、フットワークの軽い親だった。
そんなエピソードも懐かしいものとなったが、ようやく私たち親が満足のいくクリスマスツリーが出来上がった。
 
クリスマスツリーは、わが家では毎年12月に入ると飾るのが習慣となっていった。
そして、12月24日の夜、娘が眠るのを見計らって、内緒で用意していたクリスマスプレゼントをクリスマスツリーの下にそっと置いて、私たち親も休むのが常となって行った。
翌日、12月25日のクリスマスの朝、目覚めた娘は一目散にクリスマスツリーのところへと走って行って、そのプレゼントをみつけるやいなや小躍りをして喜ぶのだった。
その姿が可愛くて、たまらなかった。
さらには、寒い朝、ベランダにでて、お空に向かって「サンタさん、ありがとー!」と、大きな声をあげてお礼を言うのだ。
その姿もまたすこぶる可愛くて、わが家のクリスマスの風物詩のようだった。
 
そこから娘は成長していって、クリスマスが近くなると、今年プレゼントに欲しいモノをサンタさんへのお手紙に書くのが恒例となっていった。
そのお手紙を書いたことを聞くと、娘が小学校へ行っている間に私は娘の学習机の中からそのお手紙を探し、そっと盗み読みするのだ。
そうでないと、欲しいプレゼントがわからないからだ。
そこから、大型店舗のおもちゃ屋さんや百貨店のおもちゃ売り場へと走り、前もって準備をしていた。
だんだんと娘が欲しがるモノが、その当時に流行っているモノになってゆくと、ゆっくりと買いに行ったら品切れになっていたりするので、その準備はどんどん早まって行った記憶がある。
 
娘のために手に入れたクリスマスプレゼントは、駐車場の車のトランクだったり、玄関の横のメーターボックスの中だったり、私のクローゼットの奥だったり。
その時の住まいに合わせて、色々と工夫をして12月24日の夜まで保管していた。
さらに娘が成長してゆくと、そのクリスマスプレゼントの包装紙が、近所の百貨店のモノだとわかると、「サンタさん、〇〇百貨店まで買いに行ってくれて、ありがとう!」と、お礼を言っていたのがおかしくて、これもまたかわいい思い出となった。
このようなサンタさんと娘のやり取りは、確か小学校の間ずっと続いたように思う。
 
でも、当時ママ友との間で話題になっていたのが、子どもたちはいつくらいから、サンタさんを信じなくなるか、ということだった。
上に兄妹がいるご家庭では、割と早くお兄ちゃん、お姉ちゃんからバラされて、あっさりとそのストーリーから離脱してゆくようだった。
問題は、そんなお友だちから、娘にも学校でサンタさんは親である伝説が伝わっていたとしたら……。
 
でも、きっと子どもの方も考えがしっかりとしてきて、どこかのタイミングで「親がせっかくやってくれていることだから、信じているフリをしておこう」と、思っていたのかもしれない。
そうなると、子どもに夢を与えるために親がやっていることも、子どもの方が親の夢を壊さないようにと気を遣ってくれていたのだとしたら、何ともおかしなことなのだが。
ただ、いずれにしても、そのようなサンタさんからのクリスマスプレゼントをもらうという行事は、子どもが小さい時のとても心が温まるストーリーをたくさん産んでくれることとなった。
 
私が、いまだにタブーとして聞くことを避けているのは、娘は一体、いつ頃、サンタさんが親だということを知ったのだろう、ということ。
どんな経緯で知ることとなって、どう思ったのか、そして、どうしようと思ったのか。
でも、それだけは私が一生娘に聞けない話題なのだ。
 
なぜならば、あの楽しかったサンタさんからのプレゼントをもらうシチュエーションを大切な思い出として持ち続けたいからだ。
こうなると、あのクリスマスのサンタさん役は、親の方が楽しくてやっていたのかもしれない。
誰が作ったストーリーなのかはわからないが、幼い子どもと親との間に生まれる、夢と希望の行事だったように思うのだ。
 
娘が生まれた時に購入したクリスマスツリー。
わが家では、29年目の今年も飾っている。
今では、娘がきれいに飾り付けをしてくれている。
150cmほどあるわが家のクリスマスツリー。
買って来た当時は、娘が見上げるほどの高さだった。
今では、娘の方が追い越して、クリスマスツリーの一番上の星のオーナメントも自分で飾れるようになった。
 
29年飾ってきたクリスマスツリーは、それなりに劣化してきている。
これまでに何度か、今の時代に合った、コンパクトで大人っぽいものに買い替えようかという話にもなったのだが、やっぱりこれまでのクリスマスのストーリーがそこにある、このクリスマスツリーがいいね、ということになるのだ。
ただ古くなってしまったクリスマスツリーではなくて、娘の成長とその過程のたくさんの思い出を含んでいる大切なクリスマスツリーと言える。
 
29年間、ずっと飾って来たクリスマスツリー。
取り出して飾ったり、しまったりする時には、葉っぱの緑のカケラがポロポロとよく落ちるようになってしまっている。
長い年月で、やはり劣化も進んでいるのだろう。
それでも、きっとまた来年も、このクリスマスツリーをわが家では飾るだろう。
さらに1年分の大切な思い出を刻み込んで、30年目を迎えるのだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
終活アドバイザー。

 
 

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2024-12-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.290

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