週刊READING LIFE vol.290

与えられるより、与えることで、幸福感が増すことを、冬が教えてくれた《週刊READING LIFE Vol.290 Winter, again》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/12/23/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズX)
 
 
「スキ、キライ、スキ……」
まるで、花びらを一枚ずつちぎって判断する花占いのように、私の冬に対する印象は、変わってきた。好きな時は「やっと冬がやって来た!」と待ち遠しく思い、その澄んだ空気や初雪の美しさに心が弾んだ。嫌いな時は「また冬がやって来たか……」と到来を敬遠し、寒さや灰色の空に心閉ざしたくなる気分だった。
 
子供の頃は、冬の再来を心待ちにしていた。12月に入ると、「クリスマスのプレゼント、サンタクロースに何をお願いしようかな!」と考え、毎朝、早起きしては、朝刊と一緒に届くオモチャ屋さんのチラシを見ながら、手に入れたいモノを選んでいた。
 
目当てのオモチャをサンタさんが持ってきてくれた後は、「今回のお年玉、幾らもらえるかな!」と、お年玉の総額を皮算用していた。私がもらったのと同じくらいの金額が、両親の財布から出て行くのも知らずに。クリスマスプレゼントを手にした喜びは、どこか遠くへ行っていた。
 
冬になると、私は、模範的な子どもを演じた。早寝早起き、外から帰ったら手洗い・うがい、冬休みの宿題を年内に終える、毎日お手伝いをする。いい子にしていれば、クリスマスには欲しいプレゼントが、お正月には前の年以上の金額のお年玉が手に入ることを知っていたからだ。
 
また、冬休みが終わって3学期になり、雪が積もると、授業が中止になった。そして、校庭でクラスメイトと雪合戦や雪ダルマ作りを楽しんだ。耳や手足の指が霜焼けになろうが、お構いなしだった。目の前に広がる真っ白な銀世界は、楽しく、顔や手足の冷たささえも忘れさせてくれた。
 
このように、小学校を卒業するまで、私の中で冬は1番好きな季節だった。しかし、年齢を重ねるにつれ、次第に嫌いな季節となっていった。
 
クリスマスは、サンタクロースからプレゼントをもらう日ではなく、恋人にプレゼントを渡し、一緒に過ごす日となった。お正月は、お年玉をもらう時期ではなく、受験勉強で自分を追い込む時期となった。また、社会人になってからは、典型的な帰省客として、高いチケットを買い、満員の新幹線に揺られ、何時間もかけて実家に戻る時期となった。そして、2月になるとバレンタインデーは、母親からではなく恋人からチョコレートをもらう日になった。
 
私は、一人暮らしで、恋人ができない時期が長かった。クリスマス、街は煌びやかなイルミネーションで彩られ、カップルたちが楽しそうに手を繋いで歩いている。一方、私はコンビニで飲み慣れないワインと、普段は食べない一人分のケーキを買って、自宅で一人寂しく食べて飲んでいた。もちろん、プレゼントを渡す相手も、貰う相手もいなかった。
 
年末年始に帰省すると、「いつになったら結婚するの?」や「身体が元気なうちに孫を抱っこしたい……」と両親から、お年玉ではなく小言をもらうことが増えた。高い新幹線代を払って実家に帰ってきたにも関わらず。そして、実家の自分の部屋に閉じこもり、食事の時以外は親と顔を合わせないようになった。一人暮らしと変わらない生活をするのに、何故、帰省したのだろうか? と自問自答する時間が年末年始には増えた。
 
バレンタインデーには、義理チョコすら期待することもなくなった。この日だけは、甘党の私も、チョコレートを食べる気にならなかった。コンビニへ行くと饅頭や大福などの和菓子を買って、「今年中に恋人を作るぞ!」と自分に言い聞かせて、食べることが恒例になっていた。
 
このように嫌いだった冬を、再び好きになったのは、40歳になった秋の終わり頃だった。やっと彼女ができたのだ。そして、イベントの多い冬の到来が、楽しみになった。「クリスマスプレゼント、何にしようか!」、「クリスマスのディナー、どのお店を予約しようか!」と考えるだけで、心が弾んだ。
 
付き合って間もないため、元旦を一緒に迎えることは無かった。しかし、彼女の誕生日が元日の翌々日であったため、二人ともそれぞれの実家から早々に上京して、誕生会を開いた。その日、彼女の喜んでくれた笑顔が、私にとって冬をより待ち遠しいものにした。
 
付き合って次の冬が訪れる前に、私たちは結婚した。そして、私にとって冬という季節は、特別なものになった。クリスマス前になると、「何をプレゼントしたら、妻が驚き、喜ぶかな!」と考え、プレゼントを購入することが、私の楽しみになった。ある年のクリスマスには、妻が好きな建築家とジュエリーブランドがコラボレーションしたネックレスを、百貨店で見つけた。私は、値札も見ずにそのネックレスを購入し、妻にプレゼントした。ネックレスを目にした妻は、私の予想以上のリアクションだった。
 
妻のおかげで、クリスマスだけでなく、お正月にもケーキを食べることが習慣になった。お正月を迎える場所、私の実家や自宅に、ケーキが届くよう手配するのは、もちろん私の役割だった。ケーキ屋さんが年末年始の休業に入っているため、毎年オンラインショップで購入していた。パソコンの画面で、数多くある中から、たった一種類、妻の喜びそうなケーキを選ぶことが、私の冬の楽しみの一つとなっていた。
 
そして、今年は、さらに冬を好きになる出来事が訪れた。妻の誕生日から6日後、待望の娘が産まれたのだ。病院の窓の外を見上げると、いつ雪が降ってもおかしくない程の分厚い黒い雲が一面に広がっていた。病院の中は、新たな命の誕生を待つ人たちに包まれていた。
 
妻の胎内から取り出され、産声をあげた娘を目にした瞬間、私にとって冬という季節がより深い意味を持つものになった。「これからは、二人ではなく三人一緒に、冬の到来を楽しめる!」と。
 
娘の誕生以来、冬は私たち家族にとって、さらに多くの記念日が詰まった季節になった。クリスマス、お正月、妻の誕生日、そして娘の誕生日と。イベントが盛りだくさんである。ほんの数年前まで、孤独と小言に悩まされた同じ季節とは思えないほど、冬は大好きで、温かさを感じるものになった。
 
幼い頃の私と今の私は、共に冬という季節が好きである。そして、冬の再来を待ち望んでいる。しかし、「好き」の種類が違うことに気づいた。幼い頃の私は、クリスマスプレゼントやお年玉といった「誰かから、お金やモノをもらう」ことに喜びを感じていた。いわば、Takerの立場として冬を好きだった。
 
クリスマスの朝に目を覚まし、枕元に置かれたプレゼントを見つけたときの興奮や、お年玉の入ったポチ袋を手にしたときの満足感。それらは、確かに楽しかった。しかし、今振り返ると、その喜びは一時的なものであり、周りに人から与えられることに依存した「好き」であった。
 
一方、今の私はGiverとして冬を好きになっている。クリスマス、妻の輝いた瞳や、嬉しそうな顔を想像して、プレゼントを選び、渡す。また、妻は、誕生日に届いたケーキを見て、感激し、満面の笑みをみせてくれる。
 
そして、次のお正月は更なるGiverになれる。規制すれば小言ばかり言っていた両親が、今度は孫を抱っこしながら年末年始を過ごすことができる。お正月が終わった後、家族三人で娘の誕生日を祝うことができる。
 
このように自分がGiverとなり、妻、娘、そして両親に幾つもの喜びを与える。そして、その喜びが、何倍にも膨れ上がった幸せとなり、自分に返ってくる。与える幸せには、相手の笑顔や感謝の言葉を通じて、より深く、より長く、自分の心に喜びが刻まれる。
 
Takerとしてクリスマスプレゼントやお年玉をもらっていた時は、喜びは浅く、短いものだった。そして、すぐに次のプレゼントやお小遣いが欲しくなっていた。
 
これは私だけが持つ幸福感であろうか? いや、全ての人に当てはまる感情である。例えば、誰しもがプレゼントを欲しがるTakerばかりなら、世の中からプレゼントが消えて無くなってしまう。なぜなら、プレゼントを作る人や買って渡す人、つまりGiverが、存在しないからである。お年玉も同様である。お年玉を渡すというGiverがいるからこそ、受け取るというTakerが存在するのである。
 
では、何故Giverは存在するのであろうか? それは、どこかのタイミングで、与えられる喜びより、与える喜びの大きさに気づいたからではないだろうか。与えられることに飽きたのかもしれないし、私のように孤独と小言に耐え忍んだ後に、やっと運命の人に出会えたからかもしれない。いずれにしても、「与える幸せ」という魅力に取り付かれた人たちである。
 
私にとって、冬の再来は、ただ寒いだけの季節がやって来るのではない。冷たい風が吹き始めることが、私にとって今の自分を振り返るきっかけとなる。昨年以上のGiverになっているだろうか、いつの間にかTakerに戻っていないだろうかと。そして、昨年以上のGiverとなるべく、妻、娘、両親を喜ばせる方法を、冬の再来とともに考え始めるのである。そして、それを考えるだけで、幸せを感じ始めるのである。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

 
 

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2024-12-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.290

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