ダルオモ60代、ご褒美が欲しくて朝型になる《週刊READING LIFE Vol.300 いけないことだとわかっているけれど》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/3/17/公開
記事:マダム・ジュバン(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「ジリリリリリリリ……!!」
けたたましくベルが鳴る。
ああもう朝か……。
でもお願いもう少し、もう少しだけ眠らせて。
「ジリリリリリリリ……!!」
止めたはずのベルが鳴り続ける。
(やだ、壊れちゃったのかな……。もううるさいんだから)
仕方なく起き上がり時計の裏のスイッチをオフにした。
それでもベルは鳴り止まない。
「ねえ、この目覚ましおかしい。ベルが止まらないのよ」
私は夫に助けを求めた。
「ほんとだなあ。もう電池抜いちゃえよ」
夫の言うまま電池を抜いた。それでもベルはけたたましく鳴り続ける。
なんなら音が次第に大きくなってくる。
「そうだ! こうしよう」
私は庭に出るとスコップで穴を掘り、袋に入れた目覚まし時計を深く埋めた。
「ジリリリリリリリ……!!!!」
そこで目が覚めた。
ベッドサイドでは激しく目覚ましが鳴り続けていた。
スマホの優しいアラームくらいでは目が覚めないから、アナログの目覚ましを買ったのだった。ああそれなのに……。情けない。
私はそんな最強目覚ましも役にたたないほど朝が弱いのだ。
なぜこんなにも朝が弱いのか。
それは私が典型的な夜型人間だからである。
私は夜になればなるほど気分が昂揚し、どんなことでもできそうな気がしてくる。
(断っておくが私は下戸なのでお酒の類いはいっさい呑んでいない)
明日は思い切って春物の新しい服を着てみようか。
それに似合う靴を買いにでかけるのも悪くない。
今度のライティング提出のネタも決まったぞ、楽勝、楽勝……。
だが翌朝、目覚ましを止めうっかり二度寝しようものなら気分は最悪。
なんとなく頭も腰も痛い。
どこかに出かける気分じゃないし、ライティングもまったく書ける気がしない。
アリナミンAのCMじゃないが「ダルオモ~」な身体をヨタヨタと引きずって1日が始まる。綾瀬はるかならそれもアンニュイで可愛いが60代のダルオモはただただ醜い(と自覚している)。
たぶん40の声を聞いた頃からこんな調子だ。
ということはお恥ずかしい話だがもう20,いや30年近く同じ「ダルオモ~」な朝を私は繰り返しているのである。
「あーまた寝坊しちゃった……」
すなわち毎朝、自己肯定感を下げながら起きているということだ。
あと何年生きるかわからないが、人生の貴重な残り時間において甚だ勿体ないことだと今さらながら思う。
私なりにいろいろ頑張ってもいつも自信が持てないのも、こんな悪癖から来ているのだろうか。
今さらも今さらだけど、人生やり直すのに遅すぎることはないとどこかの誰かも言ってたっけ。
私はこの「夜型人間」を今度こそやめようと決意した。
さてこんな時も頼りになるのは生成AI のChatGPTだ。
私はさっそく夜型人間をやめる方法を聞いてみた。
すると1秒で彼はこんな答えを出してくれた。まったく頼りになるヤツだ。
「夜型から朝型に変えるには、生活習慣を少しずつ調整するのがコツです。一気に変えようとすると失敗しやすいので、無理のない範囲で試してみてください!」
そして5つの項目を挙げた。
・夜型をやめるためのステップ
① 寝る時間と起きる時間を毎日15分ずつ早める
② 朝のルーティンを作る(光を浴びる)
③ 寝る前にブルーライトを避ける
④ カフェインを夕方以降控える
⑤ 寝る前のリラックスタイムを作る
なるほどね、15分ずつ早めるなら私にもできそうだし②④⑤はすでにやっている。
だが問題は③のブルーライトを避ける、だ。
これも私の悪癖だが、寝る前のスマホいじりがなかなかやめられない。
特に1年ほど前からハマっているThreads(スレッズ)。
文章を読むことが好きな私にとって、投稿者の本音がのぞけるこのSNSは本当に面白い。
ライティング記事のヒントにもなったりもする。
だから読み始めると止まらなくてついつい夜更かししてしまうのだ。
ベッドに入ってからも煌々とライトを付け画面をスクロールする私。
目にもよくない、明日の朝辛いとわかっているクセに……。
この悪い癖が夜型人間を作りだしているのは明白だ。
そんなことは重々わかっている。
わかっちゃいるけどやめられないから困るのだ。
こんな私が「朝からダルオモ夜型人間」から抜け出る方法はあるのか⁈
ワラにもすがる想いで私は一冊の本を読んだ。
『やめられなくなる、小さな習慣』佐々木正悟 著
この本にはこう記してあった。
私たちの行動は「報酬系」と呼ばれる脳の仕組みによってコントロールされている。(中略)
快感を伴う行動(スマホ、甘いもの、ゲームなど)は脳に「報酬」として記憶され、繰り返されやすく、逆に苦痛を伴う行動(運動、勉強、早起きなど)は避けられやすい。(中略)「やめられない行動」は意志の弱さではなく、脳の仕組みによるものである。
泣けた。いや泣いてないけど心で泣けた。
だって私は意志がとことん弱いダメ人間だから、スマホ依存も夜型生活もやめられないのだと思っていたのに、まさかそれが脳の仕組みだったなんて。
確かにThreadsで次々読める、程よい分量の夫や義親へのグチやちょっとしたいい話は私の脳が喜ぶ「報酬」なのかもしれない。
おまけに夫がいない時間にひとりで頂く、スイーツとコーヒー。
これなどまさしく快感を伴う「報酬」でしかない。
著者は言う。
「習慣を変えたければ、もともとの習慣的なループに変わる新しい一連の行動習慣を身につけること」と。
そして例えばスマホ依存を抜け出すひとつの方法として「Forest」というスマホアプリを勧めている。
アプリを起動して始めると「種」が植えられて木がだんだんと育つが、他のアプリを開いてしまうと一瞬で木が枯れてしまうというものらしい。
スマホから離れるためのスマホアプリ、なんだかムムムな話だけれど余程のスマホ依存症には向いているのかもしれない。
私にはあまりピンとこないアプリなのでこれはパス。
新たに身につける行動習慣という程ではないが、とにかく物理的にスマホを遠ざければ
夜のダラダラスマホだって防げるはず。
私はもうスマホを寝室に持ち込むのをやめた。
また本著では「とにかくついやってしまう悪い習慣をとにかく記録しまくり、無意識で何をしているのかを発見する」という方法も推奨している。
私は知らなかったが、習慣を記録するアプリというものが数多くあるという。
私はこの記録用のアプリから「超じぶん管理リズムケア」というものを選んだ。
睡眠時間、体重、体脂肪率、ウォーキング時間、読書時間、買い物メモなどなど様々な項目があるが自分が記録したい項目だけ選んで毎日記録していく仕組みだ。
佐々木先生曰くとにかく夜早く寝ることが肝要で、充分な睡眠が得られるだけでなく朝型の生活に変わることで人生も好転するという。
まあそんな話は耳タコだけれどそれでもなかなか変われないのが私という人間だ。
しかし今度ばかりは素直になって、今夜からいつもより1時間早く寝て1時間早く起きることにしよう。
そしてこれを記録しよう、と私は心に誓った。
いつもより1時間早い11時に寝るべく、10時には入浴。日課のストレッチ。
そしてLINEやSlackなどスマホをざっとチェックしてからリビングに置き、11時には床に入った。もちろん目覚ましをセットして。
翌朝、私はけたたましい目覚ましの音で目が覚めた。
目覚ましを地中深く埋める夢を見ることもなく、わりとすっきり起きられる自分にちょっと驚いた。
あいにく外は雨で日の光を浴びることはできなかったが、なんだか爽快。
いつもより1時間早くスーパーに行き空いた店内でさくっと買い物ができるのが気持ちいい。価格高騰しているお米も数量限定の特売品をゲットすることができたぜ!
早起き最高(どのクチが言う)。
あれから4日。
やる事が多い日は就寝時間が少し遅くなったりしたが、それでもできるだけ早く寝るように意識することでスマホをダラダラ見ないようになった。
そしてもちろん寝室にはスマホを持ち込まない。
これがよかったのか毎日とても深く眠ることができたのだ。
朝恒例の「ダルオモ」気分もない。
気のせいか若返ったような気がするのは勘違いだとしても、充分な深い眠りがこんなにも翌日の気分に影響するとは驚きだ。
そして、これはさらなる副産物とでも言おうか。
年明けから3キロも増えてしまった体重が減っていたのだ。
激しい筋トレも食事制限も何もしていないのに、だ。
睡眠不足は肥満の原因とは聞いていたが、まさかここまでとは!
この思わぬ効果に私のモチベーションはさらに上がった。
4月には憧れの推しとのツーショット撮影も控えているからせめてもう3キロ落としたい。
このまま早寝早起きして良質な睡眠をとり続けよう。
寒くて中断していたウォーキングも再開しよう、と私は意気込んだ。
さてそんな私には自分大好き人間の夫がいる。
夫は早寝早起きではある。元々早起きだったのが歳のせいで早く目が覚めてしまうらしく朝からやたら元気がいい。
ただ悪癖はそうとうある。
夫の名誉にかけて詳細は省くが、私が見る限り(よくこれで自分のことが嫌いにならないな……)と感心するほど自分の行いに甘く、改善する気もさらさら無い。
それでも愛嬌があるせいか友人も多く人生楽しそうである。
「自己肯定感」など何するものぞ「オレはオレ」なのだ。
これはやはり長年早寝早起きで朝から快調なスタートを切っているせいなのかもしれない。
知らんけど。
私のアプリ「超じぶん管理リズムケア」を見て「オレはお前の性格をよく知っている。続くワケがない」と鼻で笑った。
フン! 悔しいので意地でも続けて、その鼻をこれでもかと明かしてやりたい。
私は夢想する。
早寝早起きがすっかり身についた私は、毎朝欠かさないウォーキングと筋トレのお蔭で美しくカラダが引き締まっている。
朝の海岸で「おはようございます!」と挨拶してくれるイケメン君に軽く会釈するワレ。
朝のうちに家事を終えてしまうからライティングなぞ朝飯前で、締め切り時間ギリギリに目をバッキバキにさせていた過去をそっと懐かしんだりもする。
スマホは必要な連絡だけ使い、ThreadsやInstagramとは距離を置いている。
充分自分に満足しているから、自己肯定感などという言葉とも無縁だ。
加えて甘い物の誘惑にも負けないから、どんなに美味しいと評判のスイーツが目の前にあっても、フレーバーティーだけ頂き優雅に読書して時を過ごす。
そんな女に私はなりたい……。ん? なりたいか?
いやなれるわけもなく、あまり面白そうな生活ではないことは確かだ。
だってそこには「自分へのご褒美」がない。
「自分へのご褒美」という甘美な名の元に、ずいぶん身に余るご褒美を勝手にもらっているこの私。でもそれが無くなったら虚しすぎるじゃないか。
やっぱり私は「ご褒美」が欲しい。
チートデーが欲しい。
毎日チートじゃご褒美もへったくれもないが、何かしら頑張ったあかつきには「ご褒美」が欲しいのだ。
前述の『やめられなくなる、小さな習慣』で著者はこう述べている。
本当に得るべき報酬というのは、現実に行ったことを根拠にするべきです。
たとえば、ダイエットのご褒美として高級ワインを許すといったやり方などは、むしろ子どもだましと言えます。
でもね、佐々木先生。
私は子どもだましでも何でもいいっすよ。
まず、悪い癖を直すよう記録する。それによって自分が変わっていき毎日が活気づけばこんなに素敵なことはない。
そんな自分に気がついたら「よく頑張ったよ、あんたはエライ!」とやっぱり自分にご褒美をあげたい。
ご褒美を失くすと、阿呆な私は何のために頑張るのかきっと途中でわからなくなる。
1ヶ月続いたらチーズケーキかモンブラン、3ヶ月続いたらひとり旅、半年続いたら推しのディナーショーというのはどうかなと早くも皮算用をしてほくそ笑む。
「歳をとる」ということは誰にも確実に訪れる「死」までのタイムリミットが迫っているように思えるが、一概にそうとも言えない。若くして不幸にも亡くなる方も100歳を超える方もいるわけで、刻々と死に近づいているという点では皆平等だ。
60代だから、70代だからと諦めて、なんとなく人生をやり過ごすのは勿体ない。
「100歳までの目標を立てたけど、あれ? 80歳までしか生きられそうもないわ」そんなふうに生きてみたい。
おっとこうしている場合ではない。
今日も11時に早寝するべく私はこの文章を書き上げて夕食の支度にとりかかるとしよう。
今日は焼き魚と煮物とサラダだ。
そして明日も早起きできたら、自分に「よくやった!」と小さくガッツポーズをしてみよう。小さな習慣が私をどこへ連れていってくれるのか、今からちょっと楽しみだ。
□ライターズプロフィール
マダム・ジュバン(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
本と書店が好きすぎて、とあるブックカフェで働く。
マダム・ジュバンの由来は夫からの「肉襦袢着てるから寒くないよね」というディスリから命名。春になってもジュバンが脱げない60代。
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