作れる分だけ買いましょう《週刊READING LIFE Vol.300 いけないことだとわかっているけれど》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/3/17/公開
記事:亀子美穂(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「なんじゃこりゃー!?」
我が家の冷蔵庫は異次元空間とつながっているらしい。
時々、謎の物体が発見される。
野菜室の奥から出てきたのは、謎の植物。
森の中に生えるシダの葉を小型にしたようなのが一つの所から何本も生えている。
その根元には、シナシナになって干からびた物がつながっていた。色と形から推測されたそれは、ニンジンのなれの果ての姿らしかった。
「ニンジンの葉っぱが生えてきた?!」
またしてもやらかしてしまった。
昨年夏の猛暑の影響からか、少し前にニンジンの値段が高騰した時期があった。
テレビでもしきりに、野菜が不作というニュースを流していた。
そんな折に近所のスーパーのチラシでニンジンが超目玉商品として載っているのを見て、買った時のものらしい。
それは目玉商品ということで、何本も入った大袋で売られていた。
1本あたりにしたら、大分お値打ちだったと思う。
しかし、我が家は2人家族。大量のニンジンを持て余してしまった。
料理上手な人なら、ニンジン料理のレパートリーも多く、大量に買っても消費しきれたのかもしれない。実際、
「ニンジンだったら、いくらあっても、色々使えるわよね」
なんて会話を、職場のパート仲間のおばさんたちとした覚えがある。
あの時は話題に取り残されたくなくて、相槌をうっていたけれど、私のニンジン料理のレパートリーは、カレーかシチューぐらいしかなかった。
そう、私は料理が苦手なのだ。
息子がまだ幼い頃、「何が食べたい」と聞かれて、「ママが作ってないもの」と答えたぐらい、その息子が高校生になった時には「手作り弁当じゃなくて、コンビニで弁当を買わせてください」とお願いしてきたぐらい、料理下手だ。
苦手なので、あまり料理をしない。
それなのに、なぜかスーパーの特売品のコーナーに行ってしまう。
そして、お値打ち品の言葉に誘われ、買わないと損してしまうような気がして、使い道も分からない大袋の野菜を買ってしまうのだ。
過去にも、我が家の冷蔵庫の野菜室の中で、数多の野菜が変わり果てた姿で発見された。
ジャガイモは芽が出ているどころか、葉っぱまで生えて、しわしわになっていた。
ピーマンは緑色だったのが変色して、オレンジとか黄色になっていた。
玉ねぎは、てっぺんからねぎのようなものが生えていた。
「たくさん買ったら、冷凍しておくといいよ」
と、職場のパート仲間から教えてもらった。
大量に買った野菜はしたごしらえをして、冷凍用の保存袋などに入れておくと、料理の時短になっていいらしい。
玉ねぎを大量に買ってしまって、早速試してみようと意気込んだものの、肝心の下ごしらえの方法がわからなかった。
ネットであちこち検索した。
料理の作り方などを解説している動画もたくさんあって、下ごしらえの方法も見つかった。
しかし、私がやると動画のようにはうまくできなかった。
動画ではいとも簡単にやっていた、玉ねぎをみじん切りにする作業も、私にとっては相当な難行だった。四苦八苦しながらようやく何とか1つみじん切りにしたものの、相当な時間がかかってしまった上に、みじん切りとは言い難いぶつ切りのような出来栄えだった。
「まあ、いいか。どうせうちで使うんだから」
そう自分に言い訳をして、ぶつ切りの玉ねぎを冷凍用の保存袋に入れ、冷凍庫を開けた。
「冷凍庫、パンパンで、入れるところがない!」
料理が苦手な私が頼りにしているのは冷凍食品だ。
最近はいろいろな冷凍食品が販売されている。
ハンバーグや餃子など、1種類の料理が入っているものもあれば、弁当のようになっていて、1パック丸々レンジにかければ、1食分のメニューが出来上がるものもある。
料理の種類も、和食、中華、洋食からタイ料理のような珍しいものまで。レンジでチンしたら世界各国の料理が我が家の食卓で食べられる。
こんな便利なもの、利用しない手はない。
おいしそうな冷凍食品があると、賞味期限が長いので、別に差し迫った食べる予定がなくても、「いつかは食べるだろう」と買ってしまう。安く売っていたら、まとめ買いもしてしまう。アメリカ資本の会員制スーパーに行くと、もともと1パックの分量が2人で食べきれるはずがないぐらい大きい冷凍食品を山のように買ってしまう。そんな食品で冷凍庫の中は一杯。ぶつ切りの玉ねぎなど入り込む余地もなさそうだった。
それでも、奥の方に押し込める余地があるかもしれないと、手前の食品をかき分けてみると、
「え? こんなの、いつ買ったっけ?」
というような冷凍食品が次々と発掘されてしまった。中には賞味期限を1年以上過ぎたものまで……
ああ、やっぱりやらかしている。
私は何年かぶりに冷蔵庫内の片づけをした。
出てきた、出てきた。
野菜室からは干からびて元が何だったかわからない野菜。
冷凍庫からは賞味期限を大幅に過ぎた冷凍食品。
冷蔵室からは1度使って放置された調味料など。
何でこんなにため込んでしまうのだろう?
これは私が親から引き継いだ食品に対する意識が関係しているように思う。
私たちの親の世代は第二次世界大戦とそのあとの、食料がない時代を体験している。このため、子供は食べ物に困らないようにという願いが何よりも強かったのかもしれない。
「食べるものが無くなる」という恐怖は、親世代にとって強大なものだったに違いない。そして、それはしつけなどの形で私たちの世代に引き継がれたのだろう。
ニュースなどで「野菜が不作だ」とか「コメが取れない」などという報道があると、今、その食品が十分にあっても不安になって買いだめに走ったりしてしまう。
私たちが親世代から引き継いだ食品に対する意識は、とても強力だ。
私が食品を冷蔵庫にため込むのも、同じように親からの影響なのかもしれない。
食品を冷蔵庫にため込んだって、食べなければ何にもならない。
いくら特売をしていても、大量に買ったら割安になる計算でも、食べきれないのなら無駄遣い以外の何物でもない。でも、足りなくなるよりはましだという気持ちがどこかにある。
その一方、私は「食べ物を粗末にしてはいけません」とも教えられてきた。
足りなくなるよりはましという気持ちで備蓄した食料が、時間経過とともに食べられなくなってしまっている。それはもう、廃棄するしかない。
粗末にしているつもりはないけれど、結果として私は食品をどれだけ無駄にしているのだろう?
世界的にSDGsが大きな目標となって広く叫ばれている昨今、食品ロスの問題は、もはや私個人の問題ではない。農林水産省によると、2022年度の食品ロスの総量は約472トン。このうちの約半分が家庭から出る食品のロスだという事だ。これは日本人1人当たり年間約38キログラムと推計されている。
一方で、世界には、飢餓に苦しむ人々もいる。食品を捨ててしまえば、それはただの廃棄物で、環境を破壊する原因にもなる。
私の軽率な買い物が、環境破壊にまでつながっているのだ。
今は、直接店にいかなくても、ネットで注文したらその日のうちに届けてくれるサービスや、1食分の料理の材料をセットにして届けてくれるサービスなど、食品を買う方法も増えて、便利になっている。
それは無駄な買い物をしてしまう機会が増えるということでもあるのだ。
食べ物を無駄にするのはいけないことだとわかっているけれど、それを改めるのはなかなか難しい。
それでも、買い物をするときにはもう少し考えるようにしよう。
よく「食べきれる量だけ、買いましょう」というけれど、私の場合は「自分が作れる料理の分だけ買いましょう」にした方がいいかもしれない。
冷蔵庫から取り出した大量のかつて食品だったものたちをゴミ袋に入れながら、そう思った。
□ライターズプロフィール
亀子美穂(ライターズ倶楽部)
東京都生まれ。愛知県名古屋市在住。 2024年4月よりライティングゼミを受講。その後ライティングXを経て、新ライターズ倶楽部受講中。昨年60歳を迎え、体力の衰えを感じながらも、これからの楽しい生き方の追及中。
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