ウォーズマンからの大逆転劇! 気づけば最強、おばちゃんライフ《週刊READING LIFE Vol.316 私は最強》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/7/24/公開
記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
顔見知り程度の他のクラスの男子が、わざわざ教室から出てきてこう言った。
「おーっす! ウォーズマン!!笑」
周りの男子もクスクスと笑っている。
……やはりか。やはりなのか。
私はバーナーの勢いで顔から火を噴き出しながら、足早にその場を立ち去った。
ひどい、ウォーズマンってキン肉マンに出てくるヘルメット被ったロボ超人やないか!!
時は平成八年、私は若さと体力以外、他に自慢することがないようなごくごく平凡な高校生活を送っていた。その頃の全国的な流行といえば、アムラーやルーズソックスなどで都会に住む女子高校生たちがテレビのインタビューなどで、そのあか抜けた様子などを見せつけるたび私はため息をついた。
私が通う高校は、山のてっぺんにある田舎のダサダサ高校だったからである。
ダサ高は、他の進学校に比べると偏差値も中途半端で、挑戦より安泰を求めた結果、みなが受験をしてくるような学校だった。それでも先生たちは上のレベルの進学校に追いつこうと必死だったのか、やたら校則だけは厳しくルーズソックスなど夢のまた夢……という感じであった。
前髪は眉毛にかかるな、スカート丈は膝下10センチ、バッグは指定の芋バッグ、靴も指定の芋シューズ、雨の日はこれまた指定の芋ガッパを着るよう指示があった。
そんな中でも、カースト上位のイケてる女子たちが、アムラーがダメなら「これじゃ!」と次々手を出し始めたのが「ぱっつん前髪」なるものであった。これは眉毛のすぐ上あたりで直線的に前髪を切り揃えた髪型であり、こちらもまた若い女子たちの間で大変人気があった。
イケ女子たちがぱっつん前髪でその可愛さを加速していくのを目の当たりにし「ほえ~、いいっすな~」と口を開けてみていたのだが、ふと、魔が差した。
私もやってみようかな……。
これが地獄の始まりになるとも知らず、私は通っていた美容室でお願いしてみた。
美容師さんにはその未来がハッキリ見えていたのであろう。散々止められたが「大丈夫です! やってください!!」
若さゆえの向こう見ずエネルギーほど、怖いものはない。
私のぱっつん前髪は無事、大失敗に終わった。
あの、言っときますけどね?
ぱっつん前髪はロングやボブの子が前髪だけ短くすることでそのアンバランスな幼さが可愛らしさを演出するのであって、決してショートカットが手を出していい髪型ではないのですよね。
私ですか? はい、ショートカットでした。
というわけで、美容室の鏡に映った自分に泣きそうになりながらも、自分で言った手前クレームを出すわけにもいかず、目を白黒させながら退店したのであった。
そして、花のような時代に何の罰ゲームか「ウォーズマン」と呼ばれてしまう羽目になった。
これをきっかけに私は「人にどう見られているか」ばかりを気にする暗黒の自意識過剰時代へと突入することになるのだった。
教室に行くまで長い廊下を歩くとき、授業で当てられたとき、昼休みに弁当を口に運ぶとき……いや、別に誰も注目してないってば! 理解はできても自意識は天より高く昇るばかりで、向けられてもいない視線を勝手に感じるばかりだった。
田舎のダサ高を卒業して、晴れて女子大生となった私は髪を伸ばしパーマをかけ、メイクを覚えた。カースト上位は目指せなくてもウォーズマンから脱したことにより少し調子に乗っていたが、やはり「人にどう見られているか」という視点はまだまだ健在だった。
そのうちに就職活動が始まり、言われるがままに『自己分析』などをやってはみたものの客観的に自分を見つめることなどできず、結局自分は何者かわからないままに社会人になった。
30代が近づき、周りが結婚したりキャリアを積んだり変化していくなかで、全然変わらない自分に自信が持てず、自己啓発系の本ばかり手に取る日々が続いた。自由で楽しい反面、この先どうなっていくのかの不安がいつもつきまとう。
「私はどうなりたいのか」
「私はどう生きるべきなのか」
「私はどういう存在としてみられているのか」
寝ても覚めても、私、私、私……。
意識が自分に向けられ過ぎて、それがまるで鋭いビームみたいに自分の心を焼き尽くすようだった。私はいつか楽になるのだろうか。
「大丈夫ですか!? ちょっと待ってて! お水買ってくるから!!」
つい先月のことだ。子供を習い事に送る途中、道端で今にも倒れそうなおばあさんを発見した。何のためらいもなく声をかけた私におばあさんは「なんだか急に気分が悪くなっちゃって」と目をギュッと瞑った。おばあさんの手を取って誘導し、近くの植え込みに座らせたあと、コンビニに走る。きっとこの急激な気温の上昇で熱中症になったのだろう。塩分が入ったスポーツドリンクを買うとまたダッシュしておばあさんの元に戻った。キャップを外して渡す。ゴクッとドリンクを一口飲んだおばあさんは「はぁああ美味しい」と言って少し笑った。
いつからだろうか。
誰かに何かのアクシデントが起きた時、スッと体が動き、声をかけられるようになった。
若い頃は電車で席をひとつ譲るのにも躊躇して(声をかけるの恥ずかしい、断られでもしたら嫌だし……)などとあくまで自分に向いた矢印だけで気を揉んでいた。
年齢を重ねて自分に刺さっていた矢印は抜け、代わりに周りがよく見えるようになった。誰もそんなに自分に注目していないことに気付いたからかもしれない。
また妊娠出産を経験し、自分以外の誰かのために生きることは私を強く逞しくした。世話を焼かないと死んでしまう赤子のために奔走することで、他者へエネルギーを分け与えることを覚えたのかもしれない。
必死な毎日を過ごすうち、気づけば自意識過剰の暗黒時代はもう終わっていた。
年齢を重ねたことで図々しさも武器として持つようになった私は、必要なことはハッキリ主張することができるようになった。それが出来るとストレスは激減するのだ。なんとありがたい武器!
飲食店のパートを始めてすぐの頃、厳しくて有名な教育係のNさんが言った。
「4時間くらいのシフトだと、普通は休憩無しなんだけどね!?」
子供のお迎えの関係で最高でも4時間しかシフトに入っていなかった私はギクリとした。だが、次の瞬間、満面の笑みで、口からはスラスラと滑らかな言葉が流れ出していた。
「ですよね~!! ワガママ言ってすみません、でも、このあと子供のお迎えがあって、場合によってはお昼食べ損ねるんですよぉ~。15分でも休憩時間頂けたらとても助かるなと思って!!」
Nさんは一瞬黙ったが「あっそう……じゃあ仕方ないね」と言った。
自分でも驚きだが、何の争いも起こさず、パート先で昼食を食べる休憩時間をにこやかにゲットしたのだった。
おばちゃんの図々しさ、最高である。
若い頃に同じことを言われていたが、(怖い!)とか(休憩は取らない方がいいのか)などが頭をグルグルしてきっと押し黙るか、納得いかないまま「あ、はい……」というのが関の山だっただろう。
子供ができてからというもの、私は「おばちゃん」という生物に擬態することができるようになった。
「あ、それ、おばちゃんがやってあげよう」とか何とか言って小さい子供のお手伝いをするとき、自我は宇宙の彼方へ飛んでいき、「おばちゃん」という生物として世界に溶け込んで生きることができる。
もう自分が何者かであるか、大それた事を考えて悩む必要がない。
では、自分がゼロになったかというとそういうことでもなく、肩の力が抜けた「おばちゃん」という生物としてこの世を以前より気楽に生きることができる。
誰にどう見られているかではなく、自分が何をしていれば幸せで楽しいのか。
シンプルに考えられるようになった。
だから、おばちゃんになって行く推しのライブなどは、若者の頃より何倍も楽しい。
今考えたらアホみたいだが、若い頃はライブハウスで縦ノリをしながらも、このノリ方は果たしてかっこいいのかなどとつまらん事考えていたのだから笑える。今は推しを好きなだけ見つめ、気づいたら「キャアー!」と黄色い声援を送り、好きなだけ踊ったり歌ったりしている。
おばちゃんって、気ままで自由だ。
20代や30代の頃は、40代の自分が全然想像出来ていなかったし、人生後半に向かって下降線をたどるのか、なんて思っていた。
おい! 若い頃の私! 冗談じゃないぞ??
何かを諦めるにはまだ若すぎるし、体力がありすぎる。
他者からの視線を気にしなくてよくなった今、存分に楽しまなくてどうする。
しかも、だ。
以前受講した東洋医学講座では先生がこんな事を言っていた。
「女性っていうのはね、更年期越えたら、男性より元気になりますからね」
なんという朗報!
定期的に血液不足に陥る「生理」というマンスリーゲストをもうお迎えしなくてよくなり、睡眠や食事などにそこそこ気を遣えば、体力は回復しかしないという。
また、更年期の最中にいるときでも「遊び」が重要で、それにより良い気を体に巡らせることができると聞き、俄然やる気が沸いた。
なーんだ! 私の青春って、これからじゃん!!
いらない自我を捨てた代わりに経験もユーモアも、おまけにまだ体力もある40代って、もしかして最強なんじゃない??
完璧じゃないし、ピチピチでもないけど、そんな自分を許せる。
ライブに行って、好きな文章を書いて、美味しいものを食べに行って、好きなひとやモノに積極的に会いにいく。
これからの人生もますます面白くなりそうだ。そう思えた自分に、私は静かにガッツポーズをした。
□ライターズプロフィール
パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます! 押忍!!
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