週刊READING LIFE vol.316

気付いたら人生の4分の1、少しはお役に立てたかな……。《週刊READING LIFE Vol.316 私は最強》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2025/7/24/公開
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「どうして、あいつは来ないんだ! 何やってるんだ、お前ちゃんと朝、電話したのか!?」
と、ご新郎お父様の怒りは爆発! お母様は、おろおろしていた。
 
「おめでとうございます、今日が始まりの日ですね」
この仕事を始めた頃、ご披露宴のおひらき後にはいつも、ご新郎・ご新婦様を二次会に送り出すとき、こうしてお声を掛けていた。
 
今日の夕方にはこうしてお声がけし、無事に滞りなく結婚式を進めて、送り出すことが出来るのだろうか……。
 
ブライダル・プロデュースの仕事を初めて、2年目の突然の出来事……。
朝8時。1時間後に、挙式前撮影が始まる。それなのに、ご新郎様はまだここに現れない。
「このままご新郎様がいらっしゃらなかったら、どうしよう。結婚式は、どうなっちゃうんだろう」と、私は内心とても焦っていた。が、なるべく冷静に、平静を装っているフリをしていた。
ご新婦様は、まだ現状を聞かされていなくて、何も知らずにお仕度中だ。
私は「なんとかしなきゃ」と、ご新郎様に何度も電話をかけたが反応はなく。居ても立っても居られなくなり、すぐにスタッフを、ご新郎様の家に向かわせた。
ご新郎様の自宅に、8時30分。
スタッフが到着し、玄関のインターフォンを、しつこく何度押しても反応がないらしい。いよいよ私の頭は、大パニック!
 
その後、数分してスタッフからの連絡がきた。
ご新郎様は、結婚式前夜に飲み過ぎたらしく、さらに寒い夜だったので高熱を出し、自宅で倒れていた。とのこと。
ご新郎様とやっと、直接お電話で話せた。
「大丈夫ですか? 結婚式にはいらっしゃれますか?」
と尋ねると、かすれた声で「なんとか、行きます」と答えたので、スタッフに救急病院にご新郎様を連れていき、大急ぎで受診し熱を下げてもらい、すぐに結婚式会場に来るように指示した。
 
挙式前撮影の開始9時の直前。
ご新婦様に状況をお伝えすると「どういうことですか! こんな大事な日に、私にも何も連絡なくて、来ないなんてひどすぎる!」と、泣き崩れた。
「ご新郎様の体調は、心配ではないのかしら?」と思ったが、まずはご新婦様をなだめて、ご披露宴には何とか間に合うように、到着していただく。という約束を取り付けたことをお伝えし、
「イレギュラーではありますが、今回のご新郎様の到着時間と体調を考慮して、ご披露宴を先にはじめて今回の遅刻を皆様の前で、ご新郎様から正直にお話して頂き、ご了承いただいたらチャペルで挙式を執り行うという事でいかがでしょうか?」
と提案した。とりあえず、ご新婦様は納得した。しかし、会場の支配人や担当プランナーさんは目を白黒させて
「ご披露宴の途中でチャペルに移動しての挙式は、難しいです。できません」とあっさり言われてしまった。
がなにとか説得し「ご披露宴のおひらき後であれば、チャペル挙式はやって頂いてもなんとかOKです。上司にも掛け合いました」と、渋々承諾いただいた。
 
こうして、ご披露宴が先でチャペル挙式はおひらき後に。というパターンが成立し、ご新郎・ご新婦様やご家族様、ご友人など、参列の皆様は驚かれたり、珍しがられたが、結果的にはとても喜んでいただけた。
朝の突発的な出来事から、ご新郎・ご新婦様の一生が台無しになるかもしれなかったが
「よかった、なんとかできた」私には、とても長い1日だった。
 
始まりとかスタートのお祝いの気持ちを込めて。
「おめでとうございます、今からが始まりですね。行ってらっしゃいませ」
この言葉に適しているのは、やっぱり! 結婚式(挙式)に送り出す、扉が開く直前だ! と確信した。
なぜか?
今回は結婚式とご披露宴の順番が変更になったが、それでも「ご新郎・ご新婦様が結婚式で、愛を誓う前の覚悟が肝心なのよ!」と、結婚の本来の意味である‘愛を誓い、スタートしていくことが重要’と強く思ったからだ。
今回、ご新郎様の覚悟がなくて逃げだした。という事では、もちろんないが……。気持ちが緩んでいたのか?
結婚式の直前が、ご新郎・ご新婦様にとって、最終覚悟を決める瞬間。
きちんと、覚悟していただいて結婚式へ……。私の送り出しの言葉には、結婚式はただの儀式ではないという強い思いと、私自身の“未来に向かっての新たな人生のスタート”を見守る覚悟と、ご新郎・ご新婦様が「ずっと幸せでありますように」という願いが込められている。
 
こうして25年もの間、ブライダルの仕事を続けてこられたのは、覚悟と願いがあったから。そして、幼い頃から誰かと比べられることが大嫌いで、勝ち負けを決められるのが嫌いな、のんびりした子供だったからかもしれない。
だんだんブライダルの仕事に慣れて楽しくなり、病みつき(笑)になり、どんどんのめり込み、人生をかける! ところまで歩んできたのは、1つ1つ武器を増やしながら‘私は最強’! と、成長してきたからかもしれない。
そして、こうして‘最強’になれたのは、周りの人たちに支えられ、スタッフに恵まれ、環境がここにあったからだと思う。こうして振りかえってみると、「私の人生、感謝しかないなあ」と強く感じるのだ。
『ご新郎・ご新婦様の人生に寄り添いながら、“はじまり”を支え続けて、全くブライダル未経験のど素人からこれまで……。』
ブライダル業界に初めて足を踏み入れた時、まったく専門知識もなければ、ドレスの種類も、引き出物も、挙式の流れさえもよく分からなかった。
たまたまご縁があり、興味もなかったブライダルの業界で、
「未来の幸せに向かってのスタート地点を、ともに創り出す。お2人の幸せの瞬間に立ち会う仕事って、すごくいいかもしれない」
そんな漠然とした想いだけが、最初の一歩だった。
 
人生100年の4分の1、私の25年を振り返ると本当に色んな事が、これまでたくさん起こった。
私は最強! の武器、1つ目は
「一瞬」を「一生」に変える目と心を、持っている。ということ
結婚式はほんの数時間。でも、その一日を一生の記憶にするには、一瞬のこのような状況。ご新郎・ご新婦様の表情、空気感や言葉を逃さない力。
私は、ご新郎・ご新婦様が気づいていない本音や願いをくみ取り、これまでも形にしてきた。この観察力と共感力こそ、最強の武器だ。
 
人数の少ない結婚式が多い、30名ほどの小さな人前式。
会場のスタッフがてんやわんやしているなかで、ご新婦様が不安そうに袖口を握りしめていたのを、私は決して見逃さないからこそ、
「大丈夫ですよ。今日もずっと、私がそばにいますから」
そっと近寄って声をかけた。その瞬間、彼女はふっと笑った。
式が無事に終わった後、新婦から手紙をもらった。「あの一言で、安心できました。私たちの結婚式は、あたたかくて、大切な記憶になりました。」
そのとき私は、これからは「式をつくる」人ではなく、「心を支える」人になりたいと強く思った。
私は最強! の武器2つ目は、
結婚とは? 夢の世界であると同時に、予算・時間・親族・文化的背景など現実の課題に満ちた世界だ。
その中で、ご新郎・ご新婦様の“理想”と“現実”の間に橋をかけ、時にはご両家を取り持ってきた経験は、誰にも真似できない知的柔軟性と現場力の証だと自負している。
 
ブライダル業界には、常に流行がある。フォト婚、オンライン婚、ガーデンウェディング、サプライズ演出。次々と新しいスタイルが生まれ、淘汰されていく。
でも、どれだけ形が変わっても、変わらないものがある。
それは、「人と人が、想いを交わす」という本質。私はカタチや流行に流されることなく、つねに「お2人にとっての幸せとは、何か?」を、軸に提案を続けてきた。
それは、未経験だったからこそ築けた哲学だった。 最初から何も知らなかったからこそ、固定観念に一切にとらわれなかった。 誰かの“当たり前”を鵜呑みにせず、目の前のご新郎・ご新婦様にとって何が一番大事かを、いつもゼロから考えた。
「あなたの提案は、どこか“やさしい”ですね」 と、何人ものお客様に言われた。
その“やさしさ”は、決して甘さではなく、幼い頃から自由奔放にのんびり過ごしてきた結果、想像力の豊かさが身についたからかもしれない。
そんな武器3つ目は、
人生と社会の変化を乗りこなす力だ。
平成から令和へ。世界も、価値観も、テクノロジーも、大きく変わるなか、常に私は「いまの花嫁」に向き合い続けてきた柔軟性とアップデート力がある。
Z世代のカップルにも寄り添える感性を保ち続けているなら、それはまさに「最強の経験 × 最前線の感度」だといえる。
 
そして、決していつも、順風満帆ではなかった。
時には理不尽なお客様に頭を下げ、思い通りに進まない現場で涙をこらえながらスタッフをまとめ、寝る間も惜しんで台本や進行表を直した。“プロとしての壁”にぶつかった時もあった。
結婚式をご両家のご両親が大反対し、友人との確執、予算もギリギリで、ご新郎・ご新婦様の準備は何度もストップした。
「もう結婚式を、やめようかと思ってます」 と打ち合わせにお1人で来たご新婦様は、ポツリと言った。
“お2人の気持ちが、何より大切です。 結婚式は、立派じゃなくてもいい。 誰かに見せるためではなく、おふたりが『一緒に生きる』と決めるための儀式です。”
と、書いたお手紙を帰り際にお渡した。
数日後、ご新郎・ご新婦様は、涙ぐみながら会場に突然やってきた。
「結婚式は、もうどうでもいいと思っていました。でも、私たちには“気持ちを言葉にする場所”が必要だったんです」
と言った。そこで、私はご披露宴の時に、ご新郎・ご新婦様がそれぞれの両親に手紙を読むことを提案した。
 
お2人がそれぞれ、お手紙を読み上げたとき、会場全体が静まり返っていた。
ご新郎のお母様が、こぼれる涙をそっとハンカチでぬぐっていた。
その瞬間、「これが、私のやりたかったこと」と確信した。
結婚式の当日を迎えるまで、どれほど大変でも終わった瞬間、ご新郎・ご新婦様が目を潤ませながら「ありがとう」と言ってくれる。その一言が、すべての苦労を吹き飛ばしてくれた。
ブライダルの世界には「正解」がない。だからこそ、毎回が“ゼロからの創造”だった。
その不確かさこそが、私の楽しみの理由であり、頑張れる理由だった。
そんな武器4つ目は、
“愛”という感情を、言語化・設計・演出できる力だ。
人のもっとも素敵な感情「愛」を扱うプロ。それは、誰にでもできることではないと思うし、目に見えない感情を、会場・演出・進行・言葉にまで落とし込める、数少ない一人だと思う。
 
私の強みは過去を振り返ると、年齢やたくさんの経験とともに“しなやかさと強さ”が積み重ねられていたように感じる。共感力を持って、つねに相手の立場に立って物語を描き、言葉を選び、結婚式を‘想いをカタチに’と創り出してきた。
美意識の面からは、季節による花の色やドレスのライン、音楽の選曲も「感性」で統一された世界観を、どんどん創っていた。内省力は、感情を噛み砕き、過去を見つめ、未来のために再構築できる力を培ってきた。
言葉の力は、誰かの心を揺らす台詞を、たった一言で届けることができた。
 
継続と信頼は、25年間会社を続けてこられたことが、何よりの証。
今も現場に入ることがあるが、気持ちはご新婦様に「大丈夫ですよ。今日もずっと、私がそばにいますから」と、声をかけた時の緊張のままだ。
この気持ちを次世代に継承していき、ウエディングプランナーとして、ブライダルプロデューサーとして、スタッフには、さらに成長し続けて欲しいと思う。
一組一組の人生の「はじまり」に、そっと寄り添うこと。 それこそが、私の人生を彩ってくれてきたのだ!
と、胸を張って言える。だからこそ、スタッフにもいつか仕事をしている自分の事を、心から褒められるようになってほしい。
「“最高の結婚式”をつくりたいんじゃない。 “お2人らしい人生”を始める為のお手伝いがしたい」
この言葉に、すべてを詰め込んで。その一歩の先に、ずっと幸せが続くことを信じて……。
また今日もご新郎・ご新婦様の背中をそっと押し「おめでとうございます、今からが始まりですね。行ってらっしゃいませ」と、静かに送り出す。
私は誰かの物語を、そっと照らす光であり続ける。さらに、私は最強であり続ける。
「お2人の新しい人生の物語、どう紡ぎますか?」心の中の声に耳を澄ませると、また新たなご新郎・ご新婦様の未来に向かう人生が動き始めるのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。さらに、大好きな旅行を業務として20年。思い立ったら、世界中どこまでも行く。知らない事は、どんどん知ってみたい。 と、即行動をする。とにかく何があっても、切り替えが早い。
ブライダル業務の経験を活かして、次の世代に何を繋げていけるのか? をいつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。

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2025-07-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.316

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