あの時、遠くに見えた花火。それは過去の私から今の私へのプレゼントだった 《週刊READING LIFE Vol.321「フリー」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/8/28/公開
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「わたし毎日、何してるんだろう。こんなふうで、本当にイイのかなあ?」
何だか分からないけど、モヤモヤして満たされない日々。
毎日同じ事を、ただただ繰り返して、過ぎてゆく時間。
無駄だと思えるような、主婦の時間。
当時の私にとっては、おめでたく? さっさと仕事を退職し、22歳で結婚し仕事をするわけでもなく、ずっと専業主婦にどっぷり浸っていた。
私が望んだ事なのだから、幸せなはずだった。
それなのに、毎日何も変わらない、何の刺激もない。退屈な日々の繰り返しに、たった3ヶ月でとうとう飽きた。
そんな空っぽな日々を、過ごしていると、
「あれ? 何だろう? どこからこの音楽聞こえてくるのかな」
と窓の外、はるか遠くから何かの音が風に乗って、かすかに聞こえてくる。
その音が始まって、ほんの数十秒後。突然! 何もない空に光が広がった。
「あっ、花火だ! こんな季節に珍しいなあ。どこから上がっているんだろう?」
と思った。
その翌日も同じ時間に、遠くから音が聞こえてきて、また! 花火が上がった。
その日から私は一人ぽっちで、自宅のベランダから見える花火を見るようになっていた。
どこから上がっているのか?
気にはなるけど、実際の場所が分からないまま、数日が過ぎた。
もともと私は「今の仕事よりも、もっと他にやりたいことがある」と考えながらも何をどうしたらいいのか分からず、たまたまのタイミングで出会いがあり、私は突然!
「とりあえず、東京に引っ越せるし、結婚しちゃおう」と半ば現実逃避のように、結婚を決め名古屋から東京へ引っ越したのだった。
そして数ヶ月、結婚当初は幸せだったが、いつも心のどこかで
「専業主婦としてではなく、何か他の事がしたい。もっと、たくさんやりたいことがある」
と思っていた。
さっさと仕事を辞めて、専業主婦になりたくて結婚したくせに、手に入れたいものを手にしたら、また満たされない思いになっていたのだ。
そんな悶々とした日々の生活の中で、何もない空に突然、光が広がる。
夕食の支度の手を止めて、毎晩それを見上げた。ベランダからの眺めは、私にとってささやかな楽しみだったのだ。
後で分かったのだが、その花火は舞浜の地から上がる、ディズニーランドの花火だった。
当時の私は東京ディズニーランド近くに住んでいても、それまで一度も東京ディズニーランドに行ったことがなかった。
なぜなら、夫は仕事が忙しかったし、‘Disney(ディズニー)’には、それまでフロリダとアナハイムに何度か行ったこともあったし、
「東京ディズニーはいつも混んでるし、アナハイムとほぼ同じって聞いた事あるし、どちらかというと子ども向けの場所なんでしょ」
と、自分は実際に出かけた事もなく、実際に見た事もないのに、聞いた事と思い込みだけで判断して、東京ディズニーランドへ出かけずに、斜に構えていた私だった。
しかし、ベランダから見えるその数分の花火は、どこか何か違っていた
夫の帰りを待つ、たった一人の夜に“夢のかけら”が、静かに降ってくるようだった。
当時、東京ディズニーランドでは
「ファンタジー・イン・ザ・スカイ(Fantasy in the Sky)」という花火ショーが行われていて、夢と魔法の音楽に乗せて、毎晩パークの夜空に花火が上がっていたのだ。
ちょうど、ベランダから見えたディズニーランドの空。
あの時の‘東京ディズニーランド’花火は、
「また、明日もがんばろう」と私に毎晩、思わせてくれた。
それから数か月間、私は‘東京ディズニーランド’に、友達や夫と何度も何度も通って、どんどん‘夢と魔法の国‘の魅力に引き込まれて入った。
あの花火をベランダから見るたびに本気で
「今を、何とかしたい。何かしたい、何かできるはず!」
と考え続けていた。
そんな思いの強さから引き寄せなのか? ある日友達に
「‘東京ディズニーランド’のキャスト募集があるから、一緒に応募しようよ」
と誘われ、私は未知の世界に一歩踏み出した。想いが叶い、いよいよ春キャストとして、働く事となったのだ。
「これで、大好きなディズニーランドのキャストになれた!」
まずは、ディズニー・ユニバーシティ(Disney University)で学ぶこととなった。
ウォルト・ディズニーの精神や真髄を学び、単なる“接客研修”を遥かに超えた「生き方」や「在り方」にも繋がる深い学びが、ここには詰まっていた。
マニュアルよりも“想像力”と“心”を大切にすることを教えてもらった。
ディズニー・ユニバーシティでの学びが私の今を創り出し、今の仕事やこれまでの生き方に、大きく影響しているのだ。
「あなたが笑えば、きっとお客様も笑います」
「キャストはNOを言わないこと」
この2つには最初驚いたが、今に至るまで私の基本であり、原動力となっていると感じる。
“笑顔”の本当の意味……。
「笑顔は自分のためじゃなく、目の前の誰かのためにある。」
この言葉は、心の奥深くに突き刺さった。作り笑いでは通じない、心からの笑顔でなければ、ゲストは安心しない。
そして、ゲストの安心感が「また、ディズニーに来たい」という気持ちを生むのだ。
“夢と魔法の国”の“魔法“とは、人の心を動かす力。それは、笑顔ひとつから始まることを知った。
さらに、「サービス」と「ホスピタリティ」は違うということ。分かっているつもりだった。が、しかし「サービスは動作、ホスピタリティは心」と言う事。
例えば、レストランでお水を出すのは“サービス”であり、
「今日は少し寒いから、ゲストが寒くないか?」
に気づき、温かい飲み物を勧めるのが“ホスピタリティ”。
その違いに衝撃を受けた、自分の“動作”だけでなく、心の奥にある“意図”まで問われていたからだ。
アッという間の学びの期間を経て、私はフード・サービス・キャストとしてワールド・バザールのレストランに配属された。
敷地内やレストラン内では、扉一枚で‘夢の世界(舞台、ステージ)と現実の世界(バックヤード)‘は完全に区切られていた。扉を押して、パーク側に一歩入ると私たちは‘キャスト’として‘ゲスト’を迎える。
キャストとは、東京ディズニーランドという舞台でショーで役を演じる1人の役者である。ただのレストランのお姉さんではないのだ。
ある日、夕方から勤務する日があった。
レストランの受付で入口に立ち、シーターとしてお席へゲストを配置する役割だったこの日。
目に飛び込んできたのは、もやもやしていた数ヶ月前、ずっと毎日ベランダで見上げていた花火の本物! “この日が、私の本当の始まり”だった。
「私は、あのベランダからの花火に、導かれていたのかもしれない」
とふと気づいた。
数分間の花火をチラ見しながら、コスチュームに身を包み、キャストとしてこの場にいられる事に感動したのだった。
その時、4歳くらいの小さな男の子が、声を上げて泣いていた。
どうやら、ぬいぐるみを無くしたらしかった。ついさっきまで一緒にいたミッキーが、突然視界から消えてしまったのだ。
どうやらそのぬいぐるみは、男の子が「今日、お家に一緒に帰る」と決めていたミッキーだったのに、どこかに置いてきてしまったのか無くしてしまったらしかった。
私はすぐに、一番近くのベンチをいくつか見た。
「あった!」という言葉よりも先にベンチに向かって走り、ミッキーを迎えに行った。それを手にして、ダッシュで男の子のところに戻った。
そして、彼の目線に合わせてこう言った。
「ミッキーも、あなたを探してたよ。やっと会えたね!」
男の子はピタッと泣き止み、ニコッと笑った。
「ミッキー、もう迷子になっちゃだめだよー!」
とミッキーを男の子に渡した。するとそれを見たご両親が、私に深くお辞儀してくださった。
でも私はただ、ディズニーユニバーシティで教わったことを“自分の言葉で”届けただけ……。
そして今、私はブライダルの世界に25年以上いる。
「ゲストの夢を支える力」の基本を学べたことが、1組1組のご新郎・ご新婦様に寄り添い、人生で最も大切な1日をつくる仕事として、今も本質はあの頃と全く同じだ。
結婚式も、ディズニーも、“魔法”のように思える時間をつくる。夢をカタチにし、夢を叶える。
その裏側には、たくさんの気づき、学び、仕掛け、想像力と優しさがある。
あの頃、毎晩花火を眺めて、専業主婦として何か物足りなさを感じ「主婦としてではなく、何かしたい。他に、もっとやりたいことがある」
と、勇気を出して一歩踏み出してくれた。23歳の私へ心から「ありがとう」と伝えたい。
それは、過去の私から今の私へのプレゼントだった。
ディズニーキャストとしての2年間で学んだ事や身に付けた事が、今の私を創っている。あらためて、あの頃ベランダで空を見上げていた私へ……。
あの時、「ただのアルバイト」ではなく、何かに向かって一歩を踏み出していたのだと、今なら分かる。夢をあきらめずにいてくれて、本当にありがとう。
「しかし、私は未完成だ」そう言い切れる、まだまだな今の自分。
Disneyland will never be completed. It will continue to grow as long as there is imagination left in the world.
‘ディズニーランドが完成することはない。世の中に想像力がある限り進化し続けるだろう’
一番好きなウォルト・ディズニーのことば。
この言葉は、まるで未来の私に語りかけられているような気がした。
私はきっと一生、未完成。
ディズニーユニバーシティで“魔法の正体”を学んだ。
笑顔も、気配りも、立ち居振る舞いも、すべては「人を幸せにするため」の演出だった。
その後アパレルの世界を経て、今はブライダルの舞台で、人生の最良の日に立ち会い、寄り添う日々を過ごしている。
だけど私は、ここで満足していない。「今が最高!」という言葉には、まだ甘えたくない。まだ想像しきれていない「明日、その先の未来」を見てみたいから。
世の中に想像力があり、私の中に夢や想像力がある限り、もっと進化し続けるだろう。これからがますます楽しみだ。
そんなとき、必ずそこには“誰かの笑顔”がある。私はその笑顔に支えられ、
「世界で一番幸せ」と言ってくれる新婦の涙。
「この人となら、乗り越えていける」と語り合う新郎の決意。
こんな瞬間に立ち会うたび、私は自分自身の希望を、何度も成長させてきた。そして、私は思う。
「私は、まだまだ未完成だ」私の人生、この先の未来に向けて
「経営者であり、ブライダル・プロデューサーではあるが、私の想像力はまだまだ続き、まだまだ進化し続ける」経営者という肩書きだけでは終わらない。と思う。
もしかしたら、数年後。
次世代に向けて、繋げるという目的で書籍を出しているかもしれない。
若い人たちに「夢をカタチにする喜び」や、まだまださらに「結婚することの喜び」などを伝えているかもしれない。
そんな想像するだけで、心が少しあたたかくなる。
私の“未来の地図”は、まだ完成しないけど、止まりもしない。想像力がある限り、私は変わり続ける。
今まで出会ってきた人たちの笑顔を胸に、これから出会う人たちの未来に寄り添うために。
遠くで花火が上がる音がした。
「あッ! 今、8月だった」あちこちで、花火が上がる。
あの時の花火のように、夢のかけらが空に舞うのを感じながら、
「わたし、まだ完成しなくていい」
その言葉こそが、私の生き方を肯定してくれる。
そうだ! 私は、これからも未来に向けて、想像力全開!
夢とともに、さらに進化し続ける存在でいたいのだ。
最後にこれまで関わってくださった全ての人々に
「ありがとう!」を心から伝えたい。
そして、これからさらに関わる全ての人々に、これからも私は過去も今も未来も……。
誰かの物語を、そっと照らす光であり続ける。
《終わり》
❒ライタープロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。さらに、大好きな旅行を業務として20年。思い立ったら、世界中どこまでも行く。知らない事は、どんどん知ってみたい。 と、即行動をする。とにかく何があっても、切り替えが早い。
ブライダル業務の経験を活かして、次の世代に何を繋げていけるのか? をいつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸二丁目18-17
ENOTOKI 2F
TEL:04-6652-7387
営業時間:平日10:00~18:00(LO17:30)/土日祝10:00~19:00(LO18:30)
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00