週刊READING LIFE vol.325

 あなたがやれと言ったからやるよ 《週間READING LIFE Vol.325 「リーダーの資質」》 

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/3/公開

 

記事:宮藤紳(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

この世の中にはリーダーと言われる人は五万といる。遠く内閣総理大臣から身近のマンション自治会長まで至る所に。

その役目に就く過程も様々で選挙だったり、じゃんけんだったり。

役割の重さや責任も千差万別だが共通する事もある。

その役割に就くにあたり自分の意志があることだ。立候補や乗り気で無くてもじゃんけんに参加するには自分の意志が働いている。

 

しかし自分の意志に関わらず、リーダーと言う立場に立たされることがある。

30年以上サラリーマン生活を過ごした私が数多見てきた社内の人事異動。

今では立候補制で役職を決める会社もあるかもしれないが、一般的には選考過程がよく分らないままその役職が回ってくる。

新しい役割に意気揚々としていると思いきや、希望していない勤務地や部署だったりしてがっかりしているのに「おめでとう!」と声を掛けられ白けている人を何人も見てきた。

結局会社の人事異動は、本人の意思に関係なく役割を勝手にあてがうものだから仕方が無い。

 

私の経験

かなり若い年齢で年上の部下も多い部署の部門長に登用されました。

急に部下を持たされて右往左往しているのに社内外からは勝手に役職に似合う仕事を期待されました。

新設部署は別にして普通リーダー職には前任者がいて、新任者は必ずその前任者と比較されるので、私もその比較を非常に気にしていました。

また私は前任者よりかなり若かったので、いろんな好奇な目に晒されました。

特に社外に対して私の紹介をする時に「前任者よりかなり若い」と言う枕詞を必ずというほど付けられました。

相手からあからさまに「実力拝見」と口にされた事もあれば、相手の反応からどう見ているのかを推し量る事も多かったです。

社内も同じ様な目で見られていたと思います。

営業部署のリーダーだったので実績で見せるしか無いと割り切るようになりましたが、好成績さえも前任者の遺産と思われていないかと気になりました。

私が一番戸惑ったのは、それまで自分自身が汗をかき営業成績に繋げていたものが、部下の活動が成績に繋がるので部下のサポートや成長を促す指導といったこれまで自身の経験がない事でした。

自身が営業マンだった時は、得意先に目を向けてライバルにも目を光らせて自分の頑張りがそのまま営業結果に繋がりました。

これまでは、マウンドから力強いボールをキャッチャーミットめがけて投げていれば試合に勝つ事が出来ました。

リーダーとなってからは、アメリカンフットボールのクォーターバックの様に味方がぎりぎり追いつける先にコントロールよくボールを投げてキャッチしてもらう事が必要でした。味方の走力やボールの取りやすさを考える事が大切で自分の肩の強さだけではゲームに勝てない事は明らかです。

具体的な指示をしても事情も知らず勝手な事を言っていると思われていたのかもしれません。

それでも役職に対する遠慮から言葉だけは丁寧に答えてくれます、しかし心の中までは分かりませんでした。

結局会社が期待したほどのリーダーとしての活躍は出来なかったようで、数年後の人事異動ではこれまでとは全く違う分野の部署へ行く事になりました。役職も微妙なポジションで人によっては左遷とみる向きもあったと思います。

この経験は私にとってリーダーとは何かを考えるきっかけになりました。

結局年齢が若いという以外に取り柄のない、実力のない部門長だった訳です。

多分実績に固執していた私は結果を出せそうな部下を目に掛け、全員一人一人に向き合う事が足りていませんでした。

また若くして部署長になった事にどこか自惚れがあったと思います、

その事を20人弱の部下や社内外の人から見抜かれていたのでしょう。

会社のリーダーであれば様々な数字による評価軸があり客観的な判断が出来る場合もありますが、そもそも「いいリーダー」とはどんなリーダーでしょうか。

「いいリーダー」のイメージは

 

人を育てる

ぶれない

先頭に立って率先垂範

ビジョンを語る

結果を出す

 

失敗リーダーの私はこんなイメージに自分を近づけたいと思い描いて、他人からそう見えたいという想いだけが先走っていたと思います。

空回りの原因を考えました。

部下にもっとこうして欲しい、頑張ってほしいと思い話している言葉が伝わらないのは何故か?

その時は会社の予算がいかに大切か、未達だとどんな事になるのかと言った言葉ばかり並べていたと思います。

「予算を達成すれば賞与が多くなるよ」と言った甘言も沢山話したと思います。

実力も分からない自信もなさそうな上長者から、経営陣と変わらない飴と鞭の話をいくら聞いたところで響くはずがありません。

何度も書きますが、年齢以外に売り物がない若造です。

結局その数年間は空回りを続けて、その部署を去ることになりました。

 

その数年後に自社の経営者とお話しする機会を得て、悶々としていた当時の事を話しました。

その人は歴代の経営陣の中で、私が唯一信頼をおける人物でした。

その人は明確にこう答えてくれました。

「予算は当社が継続していく上で必要な目標。しかし目的は当社のミッションビジョンの達成です」

それはカッコイイだけの言葉ではなく、本心から言っている事がビシビシと伝わりました。

若造が口先だけで話す言葉とはまるで違いました。

その人は国内外問わず会社の拠点を訪問し、社内役職も国籍も問わず誰もが本音で話せる集会を何年にも渡り継続していました。

その時の話をしてくれました。

 

その活動を始めたきっかけは、風通しが悪い会社の風土を変えたいと決心したから

うまくいくかどうか正直分からなかったけど、会社を変えられると信じたからその活動を続けた

最初の頃はなかなか心を開いてくれず徒労に終わったことも多かった

それでも繰り返し続けることで本気が伝わり、数年経った頃からやっと本音が聞けるようになった

 

私も何度かその集会に参加する機会がありました。

その時聞いた言葉と私が部下に語った言葉は何が違ったのか。

年齢や経験だけではありません。

根本的に違うものがありました。

 

何故会社の風土を変えたいのか

その根底にある自分の想いは何なのか

 

きっとその事を考え抜いたのだと思います。

その人は「ミッションビジョンの実現」を本気で願っていました。

ミッションビジョンは会社の羅針盤で存在意義です。

わずか一行で表現される短い言葉です。

ともすれば綺麗なお題目と思われても仕方ありません。

でもその短い言葉の意味をとことん考え抜き、実現のために必要な事は何か。

その為には部署や役職の上下に関係なく話をしあえる企業風土の改革が必要だという結論に達したのです。

その為にうまくいくかどうかも分からない集会を何年も続けて、想いを少しずつ伝えていったのです。

しかし集会はあくまで方法に過ぎません。

その人の考えはこうでした。

 

自分の想い(WHY):ミッションビジョンの実現

どのように(HOW):企業風土の改革

何をする(WHAT):全拠点での集会

 

私も企業風土改革に取り組む姿勢、長い時間をかけて集会を実施している事に感銘はしていました。

しかし私が一番心を打たれたのは、その人が本気でミッションビジョン実現をしたいという想いです。

もちろんWHATが伴っているからですが、人はHOWやWHATに感心することはあってもWHYに共感出来ないと一緒に協同出来ないものなのです。

私が失敗リーダーだった時は、HOWやWHATばかりを考え伝えていただけでした。

一番肝心なWHYに向き合う事が出来ていませんでした。

そんな私に部下や得意先の共感を得られる筈はなかったのです。

 

あの人にあって僕になかったものがもう一つ。

それは遠い先を見続ける事です。

今ではその人も私もその会社を退職しています。

その後その会社はそれなりの業績を残していると耳にしますが、部門の壁や上下関係は劇的には変わっていないそうです。

しかしその人が蒔いてきた種は、きっといつか芽を出し成長する事を信じています。

 

この文章を締めくくるにあたり、そのミッションビジョンを披露する事が相応しいのでしょうが企業名を特定される危惧がありますので、ご容赦下さい。

 

《終わり》

 

 

ライタープロフィール

宮藤紳(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ

大学卒業後就職した企業に継続勤務。令和6年8月に定年退職。

現在セカンドキャリア準備の一環としてライターズ俱楽部受講生になる。

 

 

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2025-10-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.325

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