今の時代に、バイキンマンが必要な理由 《週間READING LIFE Vol.325 「リーダーの資質」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/10/3/公開
記事:茶谷香音(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
国民的ヒーロー・アンパンマンの宿敵、バイキンマンは、天才的なリーダーである。
バイキンマンは悪事を働く。
アンパンマンのように、戦闘力が高いようには見えない。むしろ、毎回アンパンマンにボコボコにされる。
正直、人柄は良くないし、失敗は多いし、結構ポンコツなキャラクターだと思う。
それでも、彼には仲間がたくさんいる。ドキンちゃん、かびるんるん……、他にもたくさん。
なぜだろう、と不思議に思った。
ドキンちゃんは、アンパンマンの仲間であるショクパンマンに片思いをしている。それなら、アンパンマン側に寝返ってもおかしくない。それでも、ドキンちゃんはずっと、「バイキンマンの仲間」である。
かびるんるんは、時々バイキンマンと喧嘩する。それでも、最終的には仲直りをして、「バイキンマンの仲間」であり続ける。
アンパンマンに勝てなくても、行っていることが正しくなくても、仲間に見捨てられないバイキンマンの魅力はなんなのか。
もしかすると彼は、「リーダーの資質」を持っているのかもしれない。
リーダーの資質とは何か。
私は幼いころから、リーダーという役割を任せてもらえる機会が多かった。
私の理想のリーダーは、周囲から信頼され、目的や目標を達成に導ける存在だ。だから、責任感があり、周囲からの信頼の厚い人こそ、リーダーの資質があると信じていた。
そんな理想のリーダーに近づくために、私はティアラをかぶり続けてきた。
私は真面目な子どもだった。大人の話はちゃんと聞くし、宿題は毎日必ず提出する。特に頭が良いわけではなかったが、得意の読書感想文で何度か表彰されていたので、周囲から賢いイメージを持たれていたかもしれない。
そのためか、小学生の時は多数決で学級委員に選ばれたり、先生から班長を任されたりした。大学生になって小学校の同級生と再会したときに、「リーダーとか班長とか、色々やっていたよね」と言われたほどだ。
大学生になった今、私は高校生の時に通っていた塾でインターンシップをしている。
大学生のインターンと言っても、任されることは意外と多い。塾生からの相談や質問の対応、電話対応、イベントや授業の運営……。
私は1年生の頃から、営業チームに所属している。
電話での営業から始まり、次第に一人で個別面談を担当するようになった。お客様に、塾の特徴やカリキュラムの説明をする。教わったことのメモを取り、分からないことは社員さんに質問しながら挑戦しているうちに、次第に上手く説明できたと思えることが増えていった。何百万の商品が売れたときの達成感や、誰かの人生の選択に寄り添えたときの喜びはとても大きい。
だから私は、誰よりも営業に積極的に取り組むようになった。
やりがいをもって取り組んでいると、2年生になったタイミングで、社員さんに声をかけられた。
「営業チームのリーダーやってみない? 他の社員も、あなたが適任だって言っているし」
社員さんの仕事を近くで見て学びたい。チームや塾に貢献したい。そんなモチベーションをもって、私は「やります」と即答した。
こうして私は、昔よりも少しだけ重くなったティアラをかぶった。
リーダーになってからも、私は相変わらずやりがいをもって働いていた。最初に取り組んだのは、ブルーオーシャン向けのイベントを企画することだった。ブルーオーシャンとは、未開拓の市場のことである。
新しいイベントをやり、新しい市場からの塾生を獲得したかった。
企画を考えて提案すると、社員さんは、やってみようと言って賛成してくれた。
さっそくインターンの先輩や後輩に連絡を取り、協力を頼んだ。面白そうと言いながら参加してくれた。
他のインターンと協力しながら、他の企画の資料を参考にしたり、社員さんにアドバイスをもらったりして、なんとかイベントを開催することができた。その結果、新しい塾生の獲得に繋がった。
達成感は大きかった。
このイベントの成功は、リーダーとしての自信につながった。
周りを巻き込みながら、目的を達成する。周囲の協力を得ながらも、私が抱いていた理想のリーダー像に一歩近づけた気がした。
イベントが終わると、社員のAさんに言われた。
「イベント良かったね。これからも、新しい施策をどんどんやっていこう。今までやったことがないような、奇抜なアイデアも含めて、営業チームとして挑戦したいことをたくさん提案してほしい」
「わかりました。10個提案して1個採用されるのを目指す勢いで、色々考えてみます」
Aさんは笑いながら「おー、いいね、いいね。お願いね」と言った。少し考える素ぶりを見せてから、「あ、でも……」と続けて言った。
「絶対にやりたいと思ったことは、周りから反対されても、やり遂げたほうがいいよ」
それはそうなんだけど、と思った。
周囲からの賛同を得られなければ、成し遂げられないではないか。周囲の反対を押しのけて一人でイベントを作り上げられるほど、私は偉くない。たかがインターンの学生だ。
そんなことを考えながら、いくつか企画を考え、提案した。無難なアイデアだった。それでも、社員さんは「うーん……」と首を捻った。
結局、一つも実現できなかった。
Aさんはその後も、新たな塾生を獲得するためのイベントをつくることに尽力していた。
Aさんは、大学生の私に、思いついたイベントの企画案を話してくれた。間違いなく需要のあるものだった。ただ、塾のイベントとしては聞いたこともないほどマニアックだ、と思った。
Aさんは、社員が全員集まる大きな会議で、そのイベントを提案した。そしてその結果を、私に伝えてくれた。
「いやぁ、上司に、そのイベントには絶対に人が集まらないって言われちゃったよ」
会議では不評だったようだ。結構良いイベントだと思ったが、やはりボツになるのか……と思った。
するとAさんは、笑いながらこう続けた。
「もう、絶対に、何が何でも成功させてやろうって思ったよ」
え、と思った。
Aさんはイベントの動員目標を会議で宣言し、イベントを実施する許可を得たという。
Aさんは、本気でこのイベントが良いものになると信じていた。だから、上司を説得して、イベント実施に漕ぎつけたのだ。
Aさんはイベントの準備に取り組みながら、よくインターンの大学生にもアイデアを求めた。
「どんな文面のメールを送ったら、高校生が参加したいと思うかな?」
「チラシを作ってみたんだけど、どうだろう?」
次第に、私を含めたインターンの大学生が、一緒になって準備に積極的に取り組むようになっていった。
私は大学で心理学を学んでいるため、イベントの中で、心理学に興味のある高校生に対してその面白さを語りたいと提案した。すると、心理学を学んでいる後輩のインターンが賛同してくれて、一緒に取り組むことになった。
他の社員さんも、大学生が担当する部分のサポートや、アドバイスをしてくれるようになった。
まるで菌が繁殖していくみたいに、Aさんの取り組みは広まっていった。
そして、Aさんはこのイベントをやり遂げた。とても好評で、今でもこの時の企画を参考にしたイベントが続いている。
私は、そんなAさんの姿を見て、以前言われた言葉を思い出した。
「絶対にやりたいと思ったことは、周りから反対されても、やり遂げたほうがいいよ」
ストンと、腑に落ちる感覚を抱いた。
リーダーというのは、Aさんのような存在なのだろう。
私は、「周囲から信頼されるリーダー」という理想像に囚われていた。いつの間にか、「目的を達成するために周囲からの信頼を得る」はずが、「周囲からの信頼を得るために目的を達成する」という考え方に変わってしまっていた。
本当に必要なのは、自分の信念を貫き、目的を達成することで、信頼を新たに獲得し続けることだ。
私は、ずっとティアラに依存していた。
私は真面目だ。だからこれまで、リーダーという役割を大人から与えてもらうことができた。誰かに、ティアラをかぶせてもらっていた。それは学生だから許されていた。でも、自分が提案した企画の良し悪しの判断を他人に委ねるようなリーダーが、社会で求められるはずがない。
これからは、ティアラは通用しない。
リーダーというのは本来、他者から与えられる役割ではなく、自分から獲得していくものである。そのことに気づかなければ、頑張っていれば誰かが評価してくれると思い込む、ティアラシンドロームに陥ってしまう。
そもそも、「リーダーの資質とは何か」という問い自体が間違っていた。リーダーというのは結果論である。
環境問題や経済格差など、答えのない問題で溢れている現代の社会で必要とされているのは、新しいことに果敢に挑戦する人材だ。欧米諸国の背中を追う時代は終わった。
新しいことをやるとき、大抵は周りから反対される。変わり者だと思われるかもしれない。
だから、今の時代のリーダーには、周囲に反対されても自分の掲げた目標をやり遂げる覚悟と気概が必要なのだろう。
周囲から信頼され、真面目で、与えられた目的を達成できる人がリーダーに適任なのではない。自分のやりたいことを貫いた結果、人が集まり、信頼を獲得した人がリーダーなのだろう。
Aさんはよく、口癖のように、「本当にやりたいことじゃないと、絶対に実現できない」と言う。Aさんは、イベントを絶対に成功させたいと言っていた。だから周囲に反対されても、全力で取り組み続けた。その結果、そんなAさんのもとに人が集まり、イベントは実現された。
Aさんこそ、周囲から信頼される、本当のリーダーだった。
だから、バイキンマンは天才的なリーダーなのだ。
彼はきっと、仲間に信頼されたいとか、リーダーになりたいとか、そんなことは微塵も考えていない。
「バイ菌で世界を征服したい」
その一点だけを見つめて、自分のやりたいことにチャレンジし続けているだけである。何度アンパンマンに倒されても、周囲から嫌われても、すぐに立ち直って世界征服への一歩を進めようとする。そして、新しいメカや作戦を生み出し続ける。
そんな彼の姿をみて、同じような目的をもった仲間たちが、バイキンマンの元に集まったのではないか。
私はもう、ティアラをかぶっている場合ではない。バイキンマンのように、周囲の反対を押しのける覚悟を持たなければ。
今の私には、ティアラをかぶったお姫様よりも、バイキンマンの方が輝いて見える。
バイキンマンはきっと、これからもチャレンジを続けるだろう。そしていつか、世界はバイ菌だらけになり、彼は仲間からの信頼をさらに獲得するに違いない。
敗北や周囲の反対に屈せず、信念を貫き続けるバイキンマンこそ、答えのない時代に必要とされるリーダーではないか。
≪終わり≫
◻︎ライタープロフィール
茶谷香音(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
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