週刊READING LIFE vol.328

こんなん、あり? の連続。私の人生、失敗だらけ! だからこそ、強くなれる。   《週間READING LIFE Vol.327「あなたは運がいい? それとも悪い?」》 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/16 公開

 

記事 :藤原 宏輝 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「救急車! 誰か、早く呼んでッ!」

遥か遠くで、そんな声がする。

過去に何度か私は、救急車のお世話になった。そのうちの3回は、交通事故に巻き込まれたのだ。

その度に私は「あの道を、通らなければ良かった」とか「なんで、私が」と思っていた。

 

一番ひどかった交通事故は、20代後半の頃。

深夜まで残業した帰り道、真夜中の3時過ぎの出来事。

「きゃーッ! マジ?」と思った瞬間。

居眠り運転の大型トラックが帰宅途中の私の車に、真正面から突っ込んできた。

 

「痛ったぁ!」

何がどうなったのか? 分からないまま、頭がガンガンした。

「終わった、死んだ。もっと早く会社を出ればよかった。あと4日で営業成績のキャンペーンが終わるのに、売上どうしよう」

一気にそんな思いが、走馬灯のように頭を駆け巡った。ような……、

私は、そのまま気を失った。

 

車は原型を留めないほどに大破した。

私は潰れた車の中で、フロントガラスや運転席の粉々になったガラスの破片を身体中に浴びて全身血だらけで、おでこに何かが当たり頭から大量の血を流していたらしい。

 

その後、病院に緊急搬送されて、なんとか一命は取り留めた。

 

それから3ヶ月。

身体のあちこちが打ち身や切り傷で痛くて、脚の付け根と足の甲の2ヶ所は激しく骨折し、車椅子で歩けない日々を過ごした。

 

その事故を目撃した人や家族は「私が生きていた事を‘奇跡’だ」と口を揃えて言っていた。

私は身体の痛みよりも、営業成績の表彰を掛けた大事なキャンペーンが入院中に終わってしまい、表彰対象から漏れた事が、とにかく悔しかった。

 

‘運が悪い’交通事故に遭い、身体中がボロボロになり、大事な仕事が中断した。

しかし私は、ふと気づいた「生かされた」と。

仕事はもちろん大事だが、生命あってこそだ。

 

これは余談だが、交通事故の半年ほど前に偶然入ったばかりの生命保険から、入院保険が退院後に入金された。これは‘運がいい’のか? 

 

 

過去3回の交通事故に巻き込まれた時の事を振り返ると、なぜか? いつも? 

‘運が悪い’のは確かなのだが、私自身が何か焦っていたり、何かをきちんと考え直さなくてはいけない……。そんな、タイミングなのだ。

「なんだか、ストップを強制的にかけられたみたい」

大ケガをして身体中がツラくて、痛い思いをしてまでも、仕事やプライベートなどの出来事に対して、自分自身がいったん立ち止まり、じっくり検討し考え直す必要があり、その事が確かに出来た。

 

‘見て見ぬふり’をしながら突っ走ってきた私にとって、交通事故に遭うという事は決して良い事ではないが、生かされたからこそ、物事をゆっくり考えられる‘貴重な時間’となった。

 

 

そして、これまでの人生を振り返ると、どうしてこんなにも理不尽な出来事が重なるのだろうと思う時がある。

 

交通事故に3回も遭っただけでなく、信じていた人が去ったり、結果的に裏切られたり、目の前の基盤が音を立てて崩れていく。

ときに、それは想像もしていなかった角度から訪れる。

あまりに強烈で‘運が悪い’としか言いようのない出来事、失敗の連続。

 

一つひとつを思い出すたびに、胸がざわつく。

 

長く付き合っていた人がいた。彼を信頼し、未来を描いていた。

しかしある日、青天の霹靂のように事実を知る。

私は彼に頼まれたので、デスクの引き出しを開けてしまった。そのせいで、知らなくても良かった事を知ってしまったのだ。

私と付き合っているはずの彼は、私の知らない間に前妻と復縁し子どもが産まれていた。

 

引き出しから出てきた戸籍抄本を見たその瞬間、私の存在を全否定されたような感覚に襲われた。

時間が止まった。頭の中が真っ白になり、声を出そうとしても喉が塞がってしまった。

私は、何も知らなかった。彼は、バツイチ独身だと信じていた。

寄り添ってきた年月は、いったい何だったのだろう。

そして、私は戸籍抄本を見なかった事にして、彼には何も言わなかった。

その夜、窓の外に映る自分の顔は、驚きと絶望とで歪んでいた。

「どうして、こんなことになるの! 何も気づかず彼を好きだった私は、知らなかったとはいえ、結婚していた人を好きになるなんて‘運が悪い’」

 

 

私の恋愛は、いつもどこかでねじれていた。

「僕には君が必要なんだ」

「お前は俺がいないとダメなんだろ?」

そんな甘い言葉に私は、ついつい振り回されていた。

なぜかいつも、与えるばかりの関係にのめり込んでいった。お金も、時間も、心も、どんどん差し出していた。

尽くすことが愛だと錯覚していたが、それはただの消耗だった。気づいたときには、自分の心が空っぽになっていた。

 

「どうして、私ばかりがこんな酷い目に遭うのっ!」

 

部屋に一人、孤独に耐え泣きまくり、眠れなかった。

誰かを恨みたいわけでも文句を言いたいわけでも、もちろんない。

 

 

「よしっ、今回は今までとは違う!」

 

と思った。新しい彼は、お料理も上手で優しいし、頼り甲斐があるし、これまでとは何かが違っていた。

しかし、私は仕事が忙しかった事もあり、彼に勇気を持って別れを告げた。

すると、その彼は「こんなに大事に思っているのに」

と、どこでどう間違えたのか? グラスやお皿を壁に投げつけ、私は蹴り飛ばされた。そんな日が何日か続き、とうとう私は警察に通報した。

それから彼は、ストーカーと化していき警察がどれだけ注意換気しても、ストーカーを続けた。

彼をストーカーにしてしまったのは私、かもしれない。しかし、彼のストーカー行為が止まるまでは、毎日怖かった。

 

 

どの彼も今は、どこで何をしているのか?

私には関係ないし、分からない。そんな経験も今となっては、笑い話だ。

‘運が悪い’私って男運が悪い。

そう言ってしまえば、簡単だ。けれど実際には、自分が選んだ相手、自分が信じた彼、自分が好きになった人たちだった。

その事実が、何より悲しくて、虚しくて、情けなくて、苦しかった。

 

 

さらに、仕事でも試練は容赦なく襲ってきた。

ある日、信じて任せていた部下が横領していたことが発覚した。

 

「まさか、そんなはずはない」

 

最初は信じられなかった。けれど、通帳に並ぶ数字や証拠の帳簿がすべてを物語っていた。

背筋が凍りつく。私は立ち上がれないほど、冷たい恐怖に飲み込まれた。

 

「これから、どうしよう……。部下を信じていたのに」

 

それだけで終わらなかった、役員にも社員にも裏切られた。

笑顔で会社の将来を共に語るみんなのその横顔を、心から信じていた。

けれどある日、机の上に置かれた退任届と社員2人の退職届を見て、すべてが崩れ落ちた。

信じていたからこそ、裏切られた痛みは鋭かった。

 

「こんな事がどうして続くの? どうして、私ばかりが……。こんなに運が悪いの」

孤独な問いを繰り返しながら落ち込んだ、しかし雇用したのは私自身だ。

 

 

それでも私には、唯一の武器があった。

それは、気持ちを切り替える早さと「出来事をポジティブに捉え直す」という感覚だ。

 

裏切られた恋愛は、愛だ恋だと幻想を抱かず、人の本質を見抜こうとする眼を育ててくれた。

横領や裏切りは、会社の仕組みや人材育成の大切さを学ぶ機会となった。さらに、リーダーとしての孤独を引き受ける覚悟を教えてくれた。

 

 

‘運が悪い’をくぐり抜けてきた今、多く経験したからこそ、‘運が良い’自分に気づく力を得られたのだ。と私は強く確信している。

もちろん、渦中にいる時はそんな余裕など全くない。ただ泣き、怒り、打ちひしがれるしかなかった。

時間が経つにつれて、その痛みの中に「自分が成長する為の材料」があることに気づいた。‘運が悪い’事こそ糧にする。

それが、私の生きる道となった。

 

すると、不思議と‘運が良い’と思える瞬間が増えていき、素敵な人たちに出会えた。

 

 

「人生で一度は自分の城を持て。逃げ道を、とことんなくしてみろ」

父がよく言っていた。この言葉を聞いた時は、意味がよく分からなかった。

けれど、そんな父の強引な後押しがなければ、私は起業していなかっただろう。

体調を崩して入院し会社を退職した事は‘運が悪い’が、起業出来た事は今となっては‘運がいい’と思える。

 

そして気づけば、会社は25年以上も続いている。

決して順風満帆ではなかったけど、その道を歩んだからこそ、多くの人に出会えた。

 

「社長、ありがとう。あの日の結婚式、一生忘れません」

これまでプロデュースさせて頂いた2000組以上のお客様、その笑顔と涙に触れるたび、私は救われた。

‘結婚’という人生最大の節目に立ち会い、その瞬間を形に残し、記憶に刻む。

 

これまでの裏切りや損失よりも、はるかに大きな喜びが、そこにはあった。

 

社員たちも、そうだ。

「社長についていきます、大丈夫です。ここからまた頑張りますから」

横領・退任・退職という裏切りで辛かった日々。

打ちひしがれていた私を、仲間が支えてくれた。人に傷つけられた一方で、多くの人に救われてもきたのだ。

 

 

「生かされたんだ」と気づいた、あの日。

この命を大事にして、一日一日を丁寧に生きようと思った。

呼吸をしている事、言葉を発する事、人と笑い合える事。‘生きていること’ただそれだけで、私は‘運がいい’

それらすべてが、今日まで奇跡の連続だった。だからこそ、今がある。

 

 

私は‘運がいい? それとも悪い?’

あらためて自分に問いかけてみる。

出来事の一つ一つは‘運が悪い’と思える事や失敗だらけに思える。

 

しかし、これまでの‘運が悪い’出来事が今の私に、繋がっている。

こう思えるようになったのは、私を裏切り、去って行った人たちがいてくれたから。

 

こんなふうに思えるようになるまでに、何度も泣いた。

涙のあとには、笑顔がある。

嵐のあとには、青空が広がる。

誰かが‘明けない夜はない’とか‘止まない雨はない’と言っていた。

 

どうやら‘運がいい’と‘運が悪い’は切り離せないようだ。

むしろ色違いの糸で織られていて‘私の人生’を彩ってくれている。

 

そんな今、私の胸の中にあるのは感謝の気持ちだ。

両親のもとに生まれて、こうして育ててもらった事。

父に背中を押されて、起業した事。

お客様の笑顔に触れられる‘ブライダル・プロデユース業’という大好きな仕事に出会えた事。

裏切られても、人を信じられる自分でいられる事。

 

 

しかし、数年前。

人からの裏切りでもなんでもなく、コロナ禍で世界中が静まり返った。

世界中にコロナ感染が拡大し、誰もが経験した事のない世の中になった。

「またか!」と‘運が悪い’と一瞬、私は嘆いた。

「大打撃だ! どうしてここにきて、またこんな目に遭うんだろう」

と悩んだし、かなり落ち込んだ。

 

あまりに仕事が暇なおかげで、友人や社員たちとゆっくりとランチする時間が出来た。

2021年8月。

たまたま入ったそのカフェは、その後の私の人生に大きな影響を与えてくれた。さらに、新しい人たちとの出会いがたくさんあった。

 

その後も「このコロナ禍を、どう乗り越えていくか? なんなら上手く活用してやろう!」

という発想力と行動力で、それまでのブライダルの常識やプロデュースの方法の枠からはみ出て、

『家族婚やフォト婚、お2人様婚、記念日婚、ソロ婚』など。

コロナ禍に沿った形に、どんどん変化させていった。

すると、2021年過去最低だった売上は少しずつ戻り始めた。

 

 

運が悪かったからこそ、私は強くなれた。

運が良かったからこそ、私はここにいる。

 

私の人生は“運が悪い”出来事や失敗の連続だった。

誰にも言えずに泣いたり、眠れなくなったり、何度も「もう終わりにしたい」とか「消えてなくなりたい」と思ったりした。

けれど、不思議なことに倒れることはなかった。

心のどこかで「この経験は必ず私の力になる」と信じ続けていたからだ。

 

今になって思う……。

‘起こった出来事や事件’を良いか? 悪いか? 

と決めてしまう事や、吉凶のラベルを貼りすぎない事が大切!

 

その瞬間は、どう考えても不幸のどん底で悲劇としか思えなかったような事が、後から振り返れば、人生の転機になっている。

 

‘運がいい? それとも悪い?’

それは、自分の受け止め方で変わっていくものなのだ。

だから私は、過去を恨まない。

酷い目に遭った事も裏切られた事も、あの嵐のような日々があり、私を裏切り去って行った人たちがいてくれたからこそ、希望を信じる力が身に付いた。

それら全てが‘今の私’をつくる糧となった。

 

これからもまだまだ私の人生には、嵐も竜巻も台風も大雨も大雪も訪れるだろう。

だけど、私はもう恐れない。

たとえ“運が悪い”と感じても、それを受け止め、飲み込み、やがて‘運がいい’に変えていけると知っているから。そこに意味を、見出していく。

それが私の生き方であり、力の源である。

 

「こんなん、あり?」

私の人生、失敗だらけだった。いや、今もなお、失敗し続けている。

しかし、そんな色々な経験があるからこそ! そんな私は“運がいい!”

 

 

 

 

 

❒ライタープロフィール

藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』

愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。

さらに、大好きな旅行を業務として20年。思い立ったら、世界中どこまでも行く。知らない事は、どんどん知ってみたい。 

と、好奇心旺盛で即行動をする。とにかく何があっても、切り替えが早い。

ブライダル業務の経験を活かして、次の世代に何を繋げていけるのか? 

をいつも模索しています。

2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。

 

 

 

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2025-10-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.328

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