【*天狼院のゼミ/7月〜開講コース】

浅草と上野でアメリカ人の新婚さんの2人が気付かせてくれたこと 

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/16 公開

記事 : 愛野美奈(ライティング・ゼミ7月)

 

 

おもに欧米からの個人ツアーを担当する通訳ガイドをしている。私がよくアサインされるのがご家族連れと新婚さんだ。三世代での来日も増え、お客様は幼児から80代まで。専用車か公共交通機関で半日から一日一緒にまわる。

 

お客様には必ず日本が初めてかどうかを聞く。初めての場合、半年、一年以上前に予約が入っていることが多く、とても楽しみにしている。春に担当した初来日のアメリカの20代の新婚のお二人。たくさんの動画サイトを見て日本の美しい場所をあちこちリサーチしていたそうで、奥様は美しい風景写真の撮影をしたい、旦那様は食べ歩きが趣味。そして二人とも日本の食に興味があり、甘い物が大好きだとう言う。

 

まずは定番の浅草にお連れし雷門前で記念撮影。人の多さに驚きつつも仲見世を歩き始めるとみな目が輝き出す。

 

「この風景はYouTube で見ました! 本当にこんなにたくさん、美味しそうなものばかりが並んでいてどうしよう、全部食べてみたい」

「全ての食べ物が美しく、並べ方も美しいです」

 

興奮気味のお二人を人気のイチゴ大福、お団子、人形焼のお店などに案内する。どこもショーケースを嬉しそうに眺めてカメラを構える。そして、初めてのイチゴ大福。一口食べて、さらに目を見開いて「おいしい」と感動する。イチゴの品種がアメリカのものと違い日本のものは柔らかく甘くジューシーなのだそう。初めてのあんこもチョコのような色だけれど優しい甘さだと言う人が多い。

 

奥様は一眼レフも持ってきていて、浅草では提灯をかなり気に入り、雷門の赤い大きなものから参道に並んだ小さなものまで何枚も撮影していた。日本人にとって、紙の赤提灯も、イチゴ大福も見慣れたものであるけれど、カメラ片手に美しい被写体探しが好きな奥様は形も色も文字すら「美しい」を連発しながら、撮れた画像を嬉しそうに何度も見せてくれる。その無邪気に感動する姿に私の方が感動していた。そこに映るのは、当たり前に思うものに、期待と憧れが加わった確かに「美しい」風景だ。

 

この二人はもちろん新婚ゆえにラブラブでありどこにいても何を見ても幸せなのもあるだろう。でももしかすると目線の先にはキラキラに加工された動画で見た脳内イメージを搭載しているので、何でも美しく見えてしまうのかと思うくらい喜んでいる。

次は何かしら? というワクワクの期待顔を見ながら、この期待を裏切れない、がっかりさせたくないと毎度思う。謎のプレッシャーに押され、私はガイド魂が出てきて、次の場所もベストタイミングで美しいもの美味しい物を楽しめることを祈り、笑顔の裏で、頭はフル回転だ。ただリサーチしてもどうにもならないのがお天気で、イマイチだったツアーのほとんどは、雨がひどい日だった。それとリサーチしたお店が臨時休業。代替のお店があまり、いやかなり美味しくない、きれいでないなどの失敗もある。それでも初体験ゆえに美味しいと言って喜んでくれると救われる。そんなこともあり次も和風建築の素敵な和食屋さんをリサーチしていた。

しかしながら、この二人は私の過去データからの心配をよそに、どこに行っても美しいもの美味しい物を見つけ出す。それはこちらが見慣れていたり、意図しないものだったりする。次は上野公園でのお花見だ。神社の赤い鳥居でまた撮影タイムをして進むと、タイミング良く上野東照宮の参道はお花見シーズンのカラフルな提灯が飾られていた。そして、この日は晴れていてあたたかく、なんと満開に。また参道にはたくさんの屋台が並び、いい匂いがして賑やかなお祭りムードだった。参道に入った瞬間から二人の表情はさらに明るくなり屋台へと吸い込まれた。

 

「これは、たこ焼き、焼きそば、唐揚げ、もつ煮込み、りんご飴、そしてビール、日本酒」と一通り空腹の二人に食べ物の説明をする。日本の屋台グルメに興味津々だ。リサーチした和風の雰囲気のいいレストランも案内はしたけれど、ランチはここでしたいという二人。

「こういう所で一度食べてみたかったのです!」

「どれも美味しそう。焼きそばと日本酒とあのシチューみたいなのもいいですね」

意外な選択とは思った。ここでちょうどツアー終了時刻がきた。帰りの地下鉄の乗り方をご案内していたら、風が吹いてきて、大量の桜吹雪が舞った。本当にまるで映画のワンシーンの中にいるようだと急いでカメラをかまえる奥様。確かに並んだ提灯と桜並木の花びらが幻想的で、その下で見とれる幸せな若い二人が映画の主人公のように私にも見えた。

 

「とてもタイミングがいいですね。お二人の結婚をフラワーシャワーで祝福されているようですよね。この後も日本旅を楽しんでくださいね」私からもおめでとうと伝えたら、最高の笑顔をもらった。こういう心が高揚する景色に遭遇するお客様もいる。期待以上ができたときガイドをしていて良かったなと思うし、彼らのフォーカスするものを見て見慣れた物や景色にある「美しさ」に気付かせてもらうことがある。

高級な和食屋さんもいいけれど、この花吹雪の中なら屋台ランチはかなり素敵かもしれない。ワンカップともつ煮込みでできあがって大声になってきた酔っ払いの一団。それすらこの二人は映画のワンシーンみたいだと思って、一緒に乾杯するかもしれない。

〈おわり〉

 

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