【*天狼院のゼミ/7月〜開講コース】

絵とともに生きる ― 孤立のなかの自由な感性 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:嘉藤恵(ライティング・ゼミ7月コース)

 

静かな場所から始まる問い

「最近のニュース、見た?」
そう聞かれても、私はたいてい首をかしげるだけです。テレビも新聞もほとんど見ません。SNSの情報も、ざっと流し読みする程度。
世の中の動きに疎いと言われても、正直なところ、それで困ることはあまりありません。

けれど、そんな生き方をしていると、ときどき世界の外側にいるような感覚になります。会話の輪に入っても、どこか噛み合わない。誰かと話しても、なぜか心の奥に風が通り抜けていくような寂しさを覚える。
それでも、私の中には確かな“居場所”があります。
――それが、絵を描く時間です。

筆を手にすると、外の喧騒がすっと遠のいて、心が静まります。キャンバスに色を重ねるうちに、自分の中に眠っていた感情が形を取り始める。そこには、他人の評価も、流行も、常識もありません。ただ、私と世界のあいだに生まれる“対話”だけがあるのです。

孤立の中で見つけた自由

絵を描くようになってから、私は「孤独」と「自由」はとても近いところにあるのだと知りました。
人と違うことを恐れていた頃は、絵の中にもどこか“正解”を探していました。けれど、描けば描くほど、それが無意味なことだと気づいていったのです。

あるとき、美術館で印象派の画家の絵を見ていました。筆のタッチが荒く、構図も不自然。けれど、その一枚に、息づくような生命を感じた瞬間、心の奥で小さな声が聞こえた気がしました。
――「あなたの絵にも、あなたの呼吸があるはずだよ」と。

それから私は、上手に描こうとするのをやめ、自分の“感じ方”を信じるようになりました。人がどう思うかより、自分の心が動くかどうかを大事にする。
この世界には、答えのない美しさがたくさんあります。
空の色も、風の音も、人の表情も、その瞬間ごとに違う。だから、同じものを描こうとしても、いつもどこか違ってしまう。けれど、その“違い”こそが、私の自由の証なのだと思います。

社会の中の「違い」との距離感

私たちが生きる日本社会では、「みんな一緒」が心地よい空気として流れています。協調性は美徳とされ、波風を立てないことが“良い人”の条件のように扱われる。
けれどその一方で、個性や感性を大切にしたいと思う人も増えています。

外国人の友人と話していて気づいたことがあります。彼らは、自分の意見をはっきり言うことを恐れません。議論が白熱しても、終われば笑顔で握手を交わす。意見がぶつかることを“対立”ではなく、“対話”として受け止める。
それは、私にとって新鮮な文化体験でした。

日本では、意見が違うと“分断”に感じてしまうことが多いですよね。でも本来、違いは壁ではなく、世界を広げる窓のようなものかもしれません。
絵画の世界も同じです。色が違うからこそ、絵に深みが生まれる。赤と青、光と影、静寂と動き――そのすべてが混ざり合って、ひとつの作品を形づくる。
人間関係も、社会も、きっと同じように成り立っているのだと思います。

違いを抱きしめながら生きる

孤独に感じる瞬間もあります。けれど、その孤独の中でしか見えないものがある。
絵を描いていると、自分の中の「光と影」がよく見えます。人に見せたくない感情、言葉にならない痛み――それらを絵の具に溶かしていくと、いつの間にか心が少し軽くなっている。
創作は、内なる浄化のようなものかもしれません。

絵を通して学んだのは、「世界はひとつの色では描けない」ということです。
自分と違う価値観、文化、考え方。最初は戸惑っても、そこに触れることで、世界の色彩が増えていく。
もし誰かと意見が合わなくても、それは心の温度が違うだけ。冷たいから悪いのではなく、ただ温度が違うだけ。そう思えるようになってから、人との関わりがずっと楽になりました。

最近では、少しずつ「他者の中に自分を見つける」ようになりました。
異なる考え方や生き方に出会うたびに、「ああ、自分の中にもそういう一面があるな」と気づく。
それは、まるで絵を描くときに、新しい色を混ぜるような感覚です。最初は濁って見えても、時間がたてば味わい深い色に変わる。人生も、そんなふうにして彩られていくのだと思います。

心の奥の静けさへ

人は誰でも、自分の中に“ひとつのキャンバス”を持っているのかもしれません。
日々の出来事、出会い、葛藤、喜び――そのすべてが絵の具のように重なって、人生という一枚の絵を描いていく。
その絵が他人からどう見えるかより、自分がどんな気持ちで描いているかの方が、ずっと大切です。

絵を描くことは、私にとって「生き方の練習」でもあります。
孤立の中に自由を見出し、違いの中に美しさを見出す。
もしこの文章を読んでいるあなたが、今ちょっと生きづらさを感じているなら、どうか思い出してほしいのです。
――世界のどこかに、あなたと同じように静かに色を重ねている人がいるということを。

私たちはみな、異なる色をもって生まれてきた絵描きなのです。
だからこそ、比べずに、自分の色を大切に。
孤独の中にも、自由な感性の光は確かに存在しています。
その光が、あなたの中にも静かに息づいていますように。

 

≪終わり≫

 

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