人生を変える体験をする書店とは?──『国宝』のその先へ、御園座で見た“血と家と藝”
*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2025/10/20/公開
記事:前田 さやか(ハイパフォーマンスライティング記事 インフィニティーリーディング体験記)
あれは嘘ではなかった。
理由は明らかだ。
インフィニティ∞リーディング(読書会)が、人生の潤滑油になり始めていたから。
今週も天狼院書店の読書会を、私は車の中で聞いていた。水曜日のリアルタイムでは拝聴できず、翌日聞いている。いつもは帰宅の車の中。しかし今回は違う。御園座(みそのざ:名古屋の歌舞伎座)へ向かう車中で聞いていた。
実は八代目尾上菊五郎の襲名披露を見に行く予定だった。きっかけは2ヶ月くらい前のこと。読書会で「国宝」が扱われたことで私の歯車は動き始めた。
『国宝』の読書会レポートはこちら(天狼院書店公式サイト)
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歯車は動き出すと、不思議なことが起こるものだ。たまたま御園座近くを通った時、ポスターが目に入った。
「これって! まさか『国宝』で渡辺謙がやってた襲名式?」
八代目尾上菊五郎襲名披露式の文字が目に飛び込んできた。
『国宝』は吉田修一が歌舞伎を黒衣として現場を経験して、書き上げた小説。映画は大ヒットしている。
「現実で“あの瞬間”が見られるなら行きたい」と思った。
その後の読書会では『血と家と藝』が取り上げられた。
『血と家と藝』の紹介記事はこちら(天狼院書店note)
そこに書かれていたのは、名跡を継ぐということがどれほど苛烈で、どれほど崇高なものかということだった。
血――芸を宿す肉体の系譜。
家――看板を守る社会的責任。
藝――すべてを超えて磨き抜かれる表現の魂。
それら三つの均衡を保ちながら生きるのが、歌舞伎役者の宿命だという。『国宝』で描かれていた世界は、まぎれもなく現実だった。
歌舞伎の歴史をたどると、役者の短命や天災により血筋が途絶えることもしばしばで、養子を迎えて家を守ってきたという。現代は寿命が延び、ようやく“血”が“家”を継げるようになった。
歌舞伎界には“江戸三座”と呼ばれる家系がある
「成田屋=市川團十郎」
「高麗屋=松本白鸚・幸四郎」
「音羽屋=尾上菊五郎」
特に菊五郎は“江戸の粋”を体現した名跡とされているそうだ。
三浦店主は言っていた。
「尾上菊五郎を菊之助が襲名するってすごいことなんだって。今それが行われているからね」
知識が増えると人間は変わる。興味が増え、行動量が増えていく。そして人生の歯車が、どんどん回っていく。インフィニティ∞リーディングは、私の心のエンジンオイルになっていた。
数ヶ月前まで歌舞伎に全く興味がなかった私が、いま御園座へ向かっている。
人生が動き出すと、人間関係も動き出すらしい。
襲名披露に誘ってくれた方は、前の職場の先輩Aさん。再会した時に話をした。
「『国宝』面白かったよね?」
「見ました! 本物の歌舞伎を見たくなって」
「本当に!? 私、歌舞伎大好きなの。一緒に行こうよ。菊五郎の襲名式。席取ってあげるね」
その一言が現実を変えた。
歌舞伎を見にいく当日。久々に小綺麗な服を着た。
ピリッと閉まる気持ち。興奮が抑えられない感じだった。
車に乗りこみ、いざ御園座へ。車の中で流れるのは、今週のインフィニティ∞リーディングだ。私にとって脳を刺激する時間になっている。
店主は色々な視点で話をする。
「やっぱり『国宝』がすごかったんだ。歌舞伎を知らない人でもわかるように描いてたからね。『宝島』とそこが違ったのか」
今回のお題は『宝島』。
実は国宝と重なる点が多いと言う。直木賞を取った小説で、『国宝』と同じくらい有名な監督が映画化した。しかし店主は首を傾げていた。
「映画はあんまり騒がれてないよね。小説も直木賞の割に売れてなさそう。なんでなんだ?」
『国宝』と『宝島』の違いを突き詰めていった。
結果見えてきたのは、『国宝』は芸を極める人間の美を描き、『宝島』は社会の現実を描いた。共に作品としては素晴らしいが、人の心に響く点で差が出たようだ。
全国・通信【10/22(水)19:00~】人生を変える、究極の読書体験「インフィニティ∞リーディング/INFINITY ∞ READING」TYPE S 10月課題本『宝島』
『国宝』が多くの人へ与えた影響は計り知れない。
映画を見た人は1000万人。本は120万部を突破している。
私は社会現象の波に乗って、本物を見に行く。これ以上胸熱なことってあるだろうか。
御園座へ到着し、観覧席に行くと満席だった。

私が見にいったのは夕方の部。昼の部もあり、演目が異なる。
Aさんが言った。
「今日はありがとう。昼の部行ったんだけど口上がなかったから、夕方の部も来られてよかったの」
「でも昼の部は『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』がありましたね!」
「そうそう、鐘の上に尾上家の親子が乗ってたよ。面白かったあ!」
すると知らない方が、会話に入り込んできた。
「昼の部行かれたんですか? 映画の影響で昼の部は大人気ですよ。チケット取れませんでした。歌舞伎のチケット取れないなんて今までなかったのに」
私は改めて、映画の影響に驚いた。
演目が始まる。
歌声、三味線の音から始まり俳優が出てくる。
「これがリアルな歌舞伎か!」
江戸時代から続く芸能を見られている。私は嬉しくてたまらなくなった。
口上の舞台では、音羽屋の有名俳優がずらりと並んだ。その迫力は圧巻だった。新菊五郎と新菊之助の親子が揃って挨拶をした。
菊五郎を名乗るとは、江戸文化の継承者・象徴の一人になるということ。また菊五郎家は、立役(男の役)も女方(女の役)も演じる「兼ね役(かねやく)」の名門。まさに二刀流が当たり前の立場だ。しかも代々の菊五郎は舞踊、怪談物、時代物と幅広いあらゆるジャンルを極める芸域の広さで知られている。菊五郎を継ぐとは、“万能の芸”を証明した者だけが許される名跡なのだ。
「血と家と藝」が交錯する瞬間を目の当たりにして、胸が震えた。
そして私は、天狼院に深く感謝していた。インフィニティ∞リーディングで歌舞伎を深掘りしたから、自分はここにいる。
知識は人生を豊かにするのだ。知識があると物事の見方は大きく変わる。あらゆる角度から感じられる。
私は観劇しながら、ふと思った。
「ああ、天狼院書店が言っていたことは嘘ではなかった! 本当に“人生を変える体験”をしている」
口上が終わり、休憩を挟む。
続く演目は『鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)』。
義賊として知られる鼠小僧が、悪徳商人から金を盗み、貧しい人々に分け与える――洒脱で人情味あふれる江戸のヒーロー物語だ。
笑いあり、涙あり、そして立ち回りの迫力。
実は私が興味を持ったのは、新菊之助の演技だ。
まだ11歳の少年とは思えない、堂々とした振る舞い。父菊五郎と舞台で演じる姿を見て思った。
確実に伝統芸能は受け継がれている。
江戸文化が守られているのは、継承が続いているからだ。
演目が終わって、幕が引かれた時。一緒に来た方に、つい言ってしまった。
「また歌舞伎見たいです!」
「本当に! 見ようよ。また誘うね」
インフィニティ∞リーディングで学んだ知識が、現実の体験をこんなにも豊かにするとは思わなかった。知っていると、世界の見え方が変わる。感じ取れる層が増える。
本で学んだことが現場で血肉になる――それが読書の醍醐味だ。
『血と家と藝』が語っていた“継承”は、決して過去の言葉ではない。
その火を見届けた私の中で、人生の歯車が更に回り始めていた。
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《終わり》
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