週刊READING LIFE vol.332

ツッコミ上手な男が私をシラフに戻してくれない《週刊READING LIFE Vol.332「酔」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/11/20 公開

記事:パナ子 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

さて……、お楽しみといきますか。

 

パート勤務から家に戻ってきて、小学一年生の次男が帰って来るまでのつかの間の休息に、私は録画しておいたお笑い番組を再生した。

 

つい先日放送されたキングオブコント2025。コント師たちが集う大会で、日本一面白いコントを見せたお笑い芸人は誰なのかを競う番組である。

 

子供の寝かしつけなどもあってリアルタイムでの視聴が叶わないため録画しておいたキングオブコントを、いよいよ観られるとあって胸は高鳴った。

 

トップバッターは「ロングコートダディ」というコンビだったが、結果から言うとめちゃくちゃ笑った後に、私は落ちてしまった。

 

恋に。

 

飄々としたクールさに、時折見せる、優しくはにかんだような笑顔がたまらない。ツッコミ役である高身長のすらっとしたメガネに私は激しく胸を揺さぶられてしまった。調べればネタはすべてこのツッコミが書いているらしく、才能があるのにそれを全面に出してこないあたり余裕すら漂っている。それなのにほんのり甘く見せる笑い方が母性本能をくすぐるのだ。

 

あの……いつ頃からご活躍されていらっしゃたんですか?

 

完全なテレビっ子だった私だが、育児やらでなんとなくテレビ視聴の時間が減り、その代わりすき間時間にイヤホンでYouTubeを視聴しながら家事をする事が増えた。

もちろん名前くらいは知っていたが、ネタの方向性とか、コンビの詳細とか何も知らず、ほぼ初見と言ってもいいくらいの状態でキングオブコントを観た私はまんまとロングコートダディの面白さにハマってしまった。

 

そして、満場一致という雰囲気で、このコンビは優勝したのだった。

 

そうなると私の中でも一気にロングコート熱というか、ツッコミ熱が高まっていくのがわかった。完全にツッコミの魅力に酔ってしまったのだ。

 

そこからはもう動画を漁る日々だった。

死ぬほどコンテンツがあふれている今の時代、少し好きになったモノ、人を少し調べれば後から後から温泉が湧き出るようにジャンジャンと情報が出てきて、あっという間にその包囲網に囲まれる。

 

動画の方から「ほ~れほれ、こんなのもあるのよ~。あなたお好きでしょう??」と誘われ、気づけば再生ボタンを押してしまう自分がいる。押したが最後「やだ……こんな一面もあったの……?」と新たな魅力を発見してますます好きになってしまうというシステムなのだ。

 

色々と調べた結果、ツッコミは「センスの方」とか「天才」とか「才能」などという言葉でファンやお笑い芸人仲間によって表現されており、この人を好きになった私までセンスがあるような錯覚を起こすところだった。

 

子供たちの宿題を見終わったあと、子供たちがゲームに興じ始めたのを観て私はしめしめと思う。夕飯の準備をしながらこころゆくまで動画を視聴しようではないか。

 

どれどれとYouTubeをスクロールしていると一つの番組で手が止まった。

「堂前透 ロングコートインタビュー」

もちろん私が急激にハマったロングコートダディのツッコミである。

 

台所で調理をすすめつつ、口元をゆるませ気持ち悪いヘラヘラとした顔で動画を視聴した結果、当然というかさらにツッコミを好きになっただけの主婦が爆誕していた。この世で一番どうでもいい爆誕だ。

 

さらに好きになったのには明確な理由があった。

掘っても掘ってもどこか掘り切れないクールさが一つの「謎」として残ってしまったからだ。興味は出たがよくわからない人やモノを追う時に「もっとちょうだい」という欲望は好きを加速させるのかもしれない。

 

ツッコミの若手時代の苦労話をインタビュアーが掘ろうとするのだが、「うーん……そんな辛いとかいう気持ちはなかった」と、日の目を見なかった時でも焦りなどはなく、ただ淡々と目の前にある仕事に力を入れる毎日だったことを語っていた。

 

人気が出るようになっても飄々とした態度は変わらずで、周りの評価は気にせずに自身の好きなことを追うマイペースさに玄人も素人も惚れていったのではないかと感じられた。

それでいてケラケラとよく笑ったり、大きく口を開けておいしそうに何かを食べる姿なんかを観てツッコミへの好意は右肩上がりに上昇していった。

 

はぁあああああ、仕事がデキて、カワイさもある。

ギャップのある男って、魅力的過ぎる。

その晩、私はツッコミとデートする夢を見たのだった(ありがとう)。

 

しかし、私の純粋な恋心を揺さぶる輩が出てきた。

ボケの男だ。

 

ツッコミのロングインタビューを視聴した数日後、今度はボケのロングインタビューがおすすめに上がってきた。コンビ名で色々検索していたので当たり前だ。

 

ふぅ~ん。

ボケの男ねぇ。

私はツッコミの男が好きなんだけど。

 

なんて思いつつ、ちょっと動画を開いてみて飛び込んできたのは意外な? コメントの数々だった。

「まじで性格いいんだろうな」

「器の大きい人」

「謙虚さと可愛げがある方やな」

 

これらのコメントを読んで、私はボケのロングインタビューも観てみることにした。

結果、ボケはボケでとても人間らしさ満開の魅力を持つ男であることがわかった。

 

中学時代に成績がよかったときの話でわかりやすく鼻の下を伸ばすところも、トラブルに巻き込まれた際に笑って受け流すところも、全体的に人生を謳歌している感じにおおらかさが滲み出ていてとてもよかった。

 

え……ちょっと、待って。

私、どうしよ、もしかしてこれコンビ揃っていい男なんじゃない?

そんなのダメだって、私はもうツッコミの方に心決めたわけだし。

だって、もう、夢のなかでデートまでしたんだよ??

 

今度はメンヘラ中学生みたいな女子が私の中に爆誕してしまったのである。

私は正気か?

四十も半ばで小学生の子供が二人いるお母さんやぞ?

しかし、テレビに出るような芸能人との恋のアレコレを想像することは合法であり、誰かにとがめられるような事でもないじゃないか!

 

「うーん……」

私は本気で考え、悩む。

 

憧れるのは断然ツッコミの方で、背が高くてスラっとしていて、すべてをスマートにこなす感じに私は頬を赤らめ、ぽっとなる。

 

でも、もし、お付き合いをするなら、色々と感情がわかりやすいボケの方がいいのかなって。

きっと私自身がのびのびと出来てリラックスできそうな気がするのだ。

女のこういう直感は案外はずれないものだ。

 

実は過去に似たような経験がある。

結婚する前に付き合っていた元カレが、スマートで飄々としたマイペースなタイプだった。スマートさに惹かれて付き合ったはいいが、私自身まったくスマートさを持ち合わせていなかったため、緊張から自分を出せず、疲れて自滅し、その恋は実らずに終わった。

 

このほろ苦い恋の味から学んだことは、恋は背伸びせず、自身を楽に出せる人が相手の方が幸せを感じやすいということだ。

 

だとすると、ボケのわかりやすく素直でおおらかな性格の方が私にはきっと合っているのだ。

 

……え?

何の話って感じですけど。

すみません、全部妄想の話です。

 

じゃあ、現実の話として、私が最終的に結婚した夫はどうなのか。

何事も計画的にすすめて家族の舵を取るスマートさを見せつつ、性格は温厚で人の話に耳を傾けてくれるタイプであり……

 

え、ちょっと待って! 

これ私が求めてたボケとツッコミのハイブリッドじゃん!!

 

生え際が後退どころか引退しようとしている夫は、一般的にはモテのフィールドには参入しないタイプではあるが、内面ハイブリッドの男を捕まえたという意味では、私はもしかしたら勝ち組なのかもしれない。

 

家族のためにエンヤコラと頑張って働いてくれている夫には、感謝する日々をこれからも過ごすことだろう。

 

とはいえ、である。

じゃあ私のツッコミに対するほの字な気持ちがそう簡単に消え去るかというと、そういうことでもなく。

 

追いかけても追いかけても内面のすべてをさらけ出さない感じが「お願い、もうちょっとだけちょうだい」という欲望の沼に駆られていく。

 

一番あたらしく観た【期間限定】という文字が光る動画では、女装の芸人を刑事役のツッコミがベッドに押し倒すというトンデモ動画で、もちろん私はこれを何回も観た。

 

だって、良すぎるのだ!!

飄々としたタイプが「男」を出すときのあのギャップはいつなんどきも世の女性の理性を吹き飛ばし、心かき乱して、狂わせる何かを持っているのではないかと思う。

 

あの日、キングオブコントを観てネタの面白さに酔いしれ、今はツッコミの男の奥深さに酔っている。

 

掴めそうで掴めない「スマートな男」が私をシラフの戻してくれないのだ。

スマートな男の謎が解き明かされるまで、このフワフワした気持ちはきっと続くだろう

 

❑ライターズプロフィール

パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます! 押忍!

 

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2025-11-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.332

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