試食に負ける女の逆襲──『影響力の武器』とアリストテレスが変えた私の買い物人生
*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:前田 さやか(ハイパフォーマンス・ライティング)
私は良すぎる鴨だった。
絶対に店員から、「ちょろい女」と思われていたはず。
でもこれからは違う。私は生まれ変わる。
今週も天狼院書店のインフィニティ∞リーディングへ参加していた。
このイベントは、読書会といっても“視点のアップグレード講座”。
AIと読書を掛け合わせて、本の更に先にあるものを探す会だ。
かれこれ私は、20回近く参加してきた。本を読んで、自分が変わるきっかけをもらっている。
でも気づくと、知らない世界へいつも送り込まれる。
だから終わると、怖さと楽しさの両方を感じてしまう。
出会ってしまった『影響力の武器』──人はなぜ無意識にYESと言うのか
パソコンの画面を開いて、Facebookにアクセスした。私はいつも動画配信で参加をしている。
ふと画面を見る。
すると店主の机には、「影響力の武器」と書かれた本が置かれていた。
全く知らない。
私は聞いたことすらなかった。
しかし読書会が始まると、店主は言う。
「この本、僕だいぶ昔に読んだんだよね。初版は1984年だよ。それから20回重版しているって。めちゃすごくない?」
私は驚いた。世界的に有名な書籍だったのだ。
画面を止めて、著者や本の概要をAIに聞いてみた。
知らないことはAIに聞く習慣は、インフィニティ∞リーディングで身についた技。AIは何でも、一瞬で教えてくれる。今や欠かせない相棒だ。
課題本の著者は、社会心理学者ロバート・チャルディーニ。
彼は「なぜ人は望まないのに“YES”と言ってしまうのか」を40年以上研究してきた“影響力の世界的権威”。
大学教授として実験を重ねる一方、自らセールスマンや募金活動の現場に潜入し、人を動かす技術の“本物”を観察したことで知られている。
その成果が『影響力の武器』だ。
本書では、日常の“あるある”を、心理学の視点からわかりやすく解き明かしている。説得の技術としてビジネスで応用される一方、「流されないための防具」としても役立つ一冊。人間の心理の弱点を知ることで、買い物も人間関係も少しクリアに見えてくるはず。
私は読みながら考えた。
これはビジネス書の技術本ということ……?
さらに店主が言った。
「この本の内容は言うと恥ずかしい。持っているって言うのが、エロ本並みに恥ずかしい。教科書の答え持っているヤツと同じだよ」
ビジネスマンが持っていると恥ずかしい本?
私にはまだ、ピンと来なかった。
しかし店主の一言で、私は思わず赤面した。
北海道展で私はすべて罠に落ちていた──7つの原則の実例と赤面ポイント
「これこれ。7つの原則がめっちゃ大事なんだって。返報性ってまさに試食コーナーじゃん。食べると、つい買っちゃうよなあ! コレに書かれてることあるあるなんだって」
私は心の中で叫んだ。
「マジであるあるだ!」
7つの原則を聞けば聞くほど、恥ずかしくなった。
私の消費パターンは、彼の法則に全てハマっている。
7つの原則とは一体何か?
知らない方のために簡単に説明する。
“人はなぜ無意識にYESと言ってしまうのか”を説明する、人間の心理の基本ルールをまとめたものだった。
「7つの法則」の内容と具体例を挙げてみる。
1,返報性(Reciprocity)
何かしてもらうと「お返ししなきゃ」と感じてしまう心理。
→ 試食・無料サンプル・おまけに弱くなる。
2,コミットメントと一貫性(Commitment & Consistency)
一度「YES」と言うと、その後も一貫した行動を取りたくなる。
→ 小さなお願いから大きな購入へつなげられやすい
3,社会的証明(Social Proof)
多くの人が選んでいるものを「正しい」と思ってしまう。
→ 行列や売上No.1、SNSの話題に惹かれる。
4,好意(Liking)
好きな人・感じの良い人からの提案に従いやすい。
→ 愛想の良い店員に心を許しがち。
5,権威(Authority)
専門家・有名人・メディアの推薦を信じやすい。
→ 「テレビで紹介」「医師推奨」の言葉に弱い。
6,希少性(Scarcity)
手に入りにくいものほど価値が高く見えてしまう。
→ 限定品・残りわずか・本日限り、に焦って買ってしまう。
7,ユニティ(Unity)
「仲間意識」や「同じカテゴリーの人」には協力しやすい。
→ 地元同士、同じ趣味、同じコミュニティの“応援買い”。
では、私自身がどう罠に落ちていたかを思い返してみた。
すると以前から不思議に思っていたことの答えまで出てきた。
“私はなぜ百貨店の催事に行くと買いすぎるのか?”
例えば試食をすると、私は100%その品を買ってしまう。
答えは『1、返報性の法則』だった。
「食べさせてもらったら、何か買わないといけない」という心理が、私の中に働いていたから。
さらに売り手は、必ず次の手を出してくる。そしてまんまと罠にハマる私。
「今なら3個買うと4個目無料です」
「じゃあ、3個ください」
これは『2、コミットメントと一貫性の法則』だ。
心の中では“冷凍庫にスペースないのに”と思いながら、つい買ってしまう。
あとは壁にマツコデラックスが美味しそうに食べている姿の張り紙。
そして「あのマツコが絶賛しました!」と書かれているのを読む。
すると恐ろしいことに——
気づけば“買いたい!”の気持ちが、急に湧いていた。簡単に『5、権威』で、私は釣られていたのだ。
これまでどれだけ人生で、7つの法則の罠に落ちてきたのだろうか。
恐ろしくなった。
さらに考えてみると、仕事でもそうだ!
親しくなったことを理由に、ついその会社の商品を使う。これは好意の罠。
世の中罠だらけ。
そして私はいい鴨。
相手からしたら、「ちょろい女だなあ」と思っていたのだろう。
でも相手の手の内を知った今なら、対策はできる! あとは、私が変わるだけだ。
それでも変われる私へ──買いすぎ防止リストとアリストテレスの「修辞学」
だけど対策といっても、何をしたらいい?
少し悩んで、ついAIに聞いてみた。
AIはこんなおバカな質問にも、やっぱり丁寧に対応してくれる。
ありがたいリストまで出してくれた。
“7つの影響力の原則を踏まえた、買いすぎ防止リスト”
各原則ごとに、すぐ使える心理的・行動的な対処法だけをまとめた。
1. 返報性(試食をもらったら買わなきゃ……)
心理の落とし穴:無料でもらう=返さなきゃという無意識の義務感
対処法
・「ありがとう」で完結させる(義務は発生しない)
・試食を最初から受け取らない
・「これは宣伝コスト」と割り切る
2. コミットメントと一貫性(小さなYesに縛られる)
心理の落とし穴:手に取る=興味がある自分 → 買いたくなる
対処法
・「見るだけ」でも安易に手に取らない
・途中で気が変わってもOK
・「一度外に出て頭を冷やす」クールダウン時間を作る
3. 社会的証明(行列・テレビ紹介に弱い)
心理の落とし穴:「みんな買っている=正しい」
対処法
・「自分が欲しい理由」を1つ言語化してみる
・行列は“演出”の可能性ありと理解しておく
・賛否両方の情報がそろうまで決めない
4. 好意(感じの良い店員さんに心を許す)
心理の落とし穴:人が好き=商品も良いと錯覚
対処法
・「無愛想な人に売られても買うか?」と自問
・その場のノリで決めず、一旦離れる
・商品と人柄は完全に切り離して考える
5. 権威(テレビ・専門家・受賞歴に弱い)
心理の落とし穴:「専門家が良いと言うなら間違いない」
対処法
・「その権威は本物か?」と一度立ち止まる
・具体的な根拠があるか確認
6. 希少性(期間限定・残り○点の焦り)
心理の落とし穴:「今逃すと二度と手に入らない」
対処法
・「本当に今ここで必要か?」と考える
・時間制限を外して冷静さを取り戻す
7. ユニティ(同郷・同じ趣味・共通点をアピールされる)
心理の落とし穴:仲間意識が芽生え、断りづらくなる
対処法
・「応援したい」気持ちと購入理由を分ける
・共通点は販売トークの一つと割り切る
・応援したいなら“少額の別商品”など予算を決めておく
私は思わず考え込んだ。
一つ一つの原則とその対策を知っていれば、イベントを楽しみながら、後悔のない買い物ができる人になれるはず。
必要なのは、一歩立ち止まる習慣。自分を冷静に保つかが勝負だ。
インフィニティ∞リーディングは終盤に差し掛かろうとしていた。
店主は興奮して叫んだ。
私は思わず息を呑んだ。
「アリストテレスの「修辞学」で、既に言われていたんだって!」
古代ギリシャ時代の話だ。
驚くしかない。そんな昔にビジネスを考える人がいた?
実はアリストテレスは、人に納得してもらうための“構造”や“伝え方”を、3つにまとめていたのだ。
● エトス(信頼) 話し手の人格や信頼性が説得力を生む。
● パトス(感情) 相手の感情に訴えかけると心が動く。
● ロゴス(論理) 筋の通った説明が納得につながる。
この3つは現代のコピーライティング、マーケティング、プレゼン、にまで活きている。しかもNetflixやAppleが使っているらしい。パトス→ロゴス→行動への導線で、人は動いていると言うのだ。
確かに私はNetflixを開くと、もう後に引けない。
おすすめが出てくるし、見終われば次のエピソードが自然に流れてくる。
古代ギリシャ時代から考えられた、マーケティング技術は抜け目がなかった。
世界の有名企業も、この法則を巧みに使って近づいてくる。
そして無言のうちに、行動させてくる。
自分の心理を、社会に操られている怖さを感じた。
インフィニティ∞リーディングが終わり、私はゆっくり息を吐いた。
そして改めて胸に刻んだ。
社会は罠だらけ。
笑顔で近づく人、試食のおばちゃん、マツコの写真。
どれも、私を油断させる罠かもしれない。
そう思うと、少し世界の見え方が変わった。
本当に今、私に必要なのか?
いつも冷静になろう。
私はもっと賢い消費者でありたいと、心から思っていた。
《終わり》
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