成人式は卒業式
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ムー子(ライティング・ゼミ11月コース)
成人式はあなたにとってどんなものでしたか。
そう聞かれたらあなたはなんて答えるだろうか。
「決意を新たに頑張ろうと思った機会」と答える人や、「久々に地元の友達と会えた楽しい思い出」として残っている人もいるだろう。行かなかったのでよくわからない、という人もいるかもしれない。
私の場合は「卒業式」だった。
私は高校在学時に第一志望の大学に落ちた。
どうしてもそこに行きたかったため浪人することになり、予備校に通って再度受験したがまた落ち、結局第二志望の大学に通うことになった。
行きたかった大学に行けずとても悔しかったが、通うことになった大学では私の興味と適性に合った学科を選択したため、話が合う友人も増え、充実した楽しい大学生活を過ごしていた。
その中で迎えた成人式。
久々に会う友人と会話を楽しみながら歩いていると、ある人物が視界にいた。
私にとっての因縁の相手、T君である。
T君と私は同じ小学校だった。
彼はどの教科も成績優秀で、クラスの中では一番の成績だった。
一方、私はクラスの中でちょうど真ん中くらいの成績だった。
小学校の書道コンクールで、一度T君と私が入賞したときがあった。
彼が金賞、私は金銀銅賞から外れた賞だった。
賞状や景品授与のために、私達は授与式に呼ばれたのだが、彼の表情は終始無表情だった。
嬉しくないのだろうか。それとも「俺は賞を取って当たり前」なのだろうか。
彼に贈られた金色のトロフィーは異様に大きく見え、同時に「ムカつくけど羨ましい」と私は思った。
小学校を通して同じクラスだったことも多くあり、授業中に問題の解き方を巡って言い合いをしたことも何回かある。仲は良くはなかった。
中学生になり、私は成績がかなり落ちた。中学2年生になって塾に行き始めた。
成績はそのおかげで伸びたが、私の志望校は学校の通知表の成績(内申点)が高くないと受からないとされていた。
通知表では苦手科目は10段階中6~8、それをカバーするために得意科目の成績は10段階中の10か9を取ることを目標とされた。
「10」が欲しい。
そう思って頑張ったが、彼はそこでも私に立ちはだかった。
学年でも与えられることが少ない「10」の評価を彼は絶対に離さなかった。
私の得意科目である国語と社会で頑張っても追い抜けなかった。
悔しかったが、彼とは違う志望校だったため、割り切って黙々と試験勉強に励んだ。
そして私は「絶対無理だからやめとけ」と担任に言われた学校に逆転入学することが出来た。
そして高校生活を過ごし、大学受験の季節になった。
第一志望の大学は小論文試験があったので、私は再び塾に通い小論文講座を受けることになった。
授業初日に教室に入って、私は固まってしまった。
なぜかT君が座っている。
典型的な文系の私と違って、彼は理系だったはずだ。
なぜ文系の小論文クラスにいるのか。
嫌な予感がした。小論文試験を行う大学は限られていたため、もしかしたら志望校が同じなのではないか。びくびくしながら、授業をしばらく受けていた。
数日後、予感が的中した。やはり、志望は同じ大学、学科だった。
どうやら理系だった彼は文系に方向転換したようだった。また、受験科目である国語や小論文が苦手のため、克服するために講座を受けることになったようだ。
受験というフィールドで、今まで勝ったことがない相手と戦うことがその瞬間決定してしまった。
どうか、今回はその「勝ち」を私に譲ってほしい。
一度くらい、いいじゃないか。いつもあんた勝ってたじゃん。
私は動揺し、焦り、不安を抱く毎日を過ごした。
私に勝ち目などないんじゃないか。
その気持ちを振り払うかのように、がむしゃらに、自分なりに頑張った。
しかし、成績は思うように伸びなかった。
結局、受験結果は不合格だった。
彼はどうなったんだろう。合格したのだろうか。その時は結局分からなかった。
その次の年も再度チャレンジしたが、不合格だった。
今が聞くチャンスだ。
知りたいけど、知りたくない。
そんな複雑な気持ちだった。
思い切って声を掛けた。
普段全くしたことがない成人式仕様の濃いメイクの私を見て、一瞬誰かわからなかったようだが、あ、と小さい声を漏らした。私が誰か気づいたようだった。
「久しぶり、元気だった?」と聞くと
「うん、まぁ…」と小さく返事をした。
「私のこと覚えてる?小論文一緒に受けてたよな」と聞くと、
「覚えてるよ」と返事をした。
「あの大学の学科、受けたんよな?」と聞くと、
無表情のまま「そうだけど」と答えた。
「今通ってるん?」
その先の返事が怖かった。
「通ってるよ」
無表情だが、余裕のあるあの独特の表情は幼いころから変わらない。
彼の表情を見て、すべてに納得がいった。私の完全な負けだ。
そう思ったと同時に、自分でも信じられなかった言葉が出てきた。
「おめでとう」
心の底からの、本当のお祝いの気持ちだった。
それまで無表情だった彼の表情に一瞬戸惑いが滲んだ表情になった。
「私もそこ受けててん。結局落ちてさ。一浪してまた落ちたんやけどね。あれからT君が受かったか知る機会がなくて、気になっててん。……遅くなったけど、受かってよかったね。本当におめでとう」
今までの経緯を説明しながら、おめでとうの意味を彼に伝えた。
それを聞くと、彼は素直に私の言葉を受け取ってくれた。
「……そうなん、受けてたんや……祝ってくれてありがとう」
幼いころから無表情で変わることがなかった彼の笑顔を初めて見たような気がした。
あの余裕の表情がどこから来るのか、いつも疑問だった。
でも、その時分かったのだ。
彼が戦っていたのは、私や周りの人間ではない。
自身が納得する結果を手にするまで、自分自身と戦っていたのだ。
そしてそれが自信に繋がり、いつも余裕のある表情だったのだ。
受験勉強はかなり過酷である。
必ずしも頑張った分だけ成績に反映されるとは限らない。
自身の実力を上げるためには綿密な学習の計画が必要となってくる。
そして、体調管理に気をつけ、アクシデントを回避しながら当日の試験に臨む。
そのために受験生は自分が何をすべきか、その都度自分と対話をしながら、考えながら勉強することが求められる。これが一番難しい。
だが、彼は幼い時から自分と向き合ってきた。
それができたからこそ、彼は理系から文系に変更したにもかかわらず、自分が苦手な科目でさえも克服し、合格を見事勝ち取ったのだ。その難しさを超えたのだ。
私はどうだっただろう。
勉強は頑張っていたが、人と比べて相対的にできないところを嘆き、ただ焦るばかりだった。特に私は彼に囚われていた。
当時、自分自身にちゃんと向き合っていただろうか。
結局、私は自分に負けていたのだ。私が不合格だった理由はそこだ。
それが分かった瞬間、今までの執着が私の中で嘘のように消え、出てきたのは彼に対する心からの尊敬と本当のお祝いの言葉だった。
嫉妬と羨望が混じったような黒い感情。そこから解き放たれた日。
それが私にとっての成人式であり、卒業式となった。
≪終わり≫
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







