週刊READING LIFE vol.335

最も継承に苦労している王位は 《週刊READING LIFE Vol.335『王位継承』》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/12/11 公開

記事 :山田THX将治 (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

事業経営に関するコンサルティングをしていると、思った以上に多くぶつかるのは、事業承継の問題だ。

早い話が、後継者不足なのだ。

 

これは一般論で、間違ってもコンサル先には話せないことだが、後継者が挙(こぞ)って現れない事業所は、先が無いのと同じだ。いわゆる、オワコン化して居る訳だ。

勿論、コンサルタントの立場で、

 

「御社はオワコンです」

 

と、言える訳はない。

代わりに、

 

「後継者が喜んで手を挙げて下さるような、新規事業を作りましょう! 喜んで、協力させて頂きます」

 

と、言う様に私はしている。

少々、いや、かなり苦しい言い訳では有るが。

 

事程左様に、小規模事業所は後継者不足に悩んでいる。

 

 

実は、後継者不足には、二つの日本人的コンセンサスが足枷(あしかせ)に為って居る。

 

一つ目は、日本人独特の“後継者=血縁者”と謂う構図だ。

これは、戦国武将から続く伝統でも在るが、映画『国宝』の大ヒットにみる様に、日本人の多数が“後継者=血縁者”と考えている証拠でもある。

事の善悪を問う気は無いが、これは事業者の子供として生まれた者にとっては、無言のプレッシャーと為って居る。

私もそうだっただけに、『国宝』がヒットする社会は、実に日本的と感じざるを得ない。

 

現在の私は、後継者不足に悩む経営者に対し、止む無く血縁者以外の後継者探しを推奨し、手助けもしているのだ。

好まれては居ない王位を、積極的意志が有る“継承者”では無く、消極的でも意志が残る“承継”可能な者を探すのだ。

 

二つ目の足枷とは、当該事業所が提供する技術やサービスが、他社では不可能な物である必要が有ることだ。

これも言うは易しで、実際の処、一握りの事業所を除いて、しがない技術やサービスを、経営者(往々にして創業者)の人柄と努力で広めて居ると謂っても過言では無かろう。

実に、実に立派なことに間違いない。

 

唯、その事業経営者と謂う王位が、誰もが認め欲しがるものでは無いと言わざるを得ないが。

 

 

では、誰もが認め、羨ましいと思う王位とは何だろう。

それは、スポーツ界の王位であるチャンピオン、それも“世界チャンピオン”でとどめを刺すことだろう。

 

世界チャンピオンなら、誰もが認め、憧れる存在だ。

勿論、後継と為るべく挑戦者は後を絶たない。

 

挑戦者が絶えないと謂うことは、世界チャンピオンという価値が絶えることは無いと謂うことだ。

即ち、世界チャンピオンビジネスは、いつ迄も継承される裏付けが為されて居る訳だ。

 

 

ところがだ。

順調な王位継承を危ぶまれている世界チャンピオンが、唯一日本に居るのだ。

 

その名は、井上尚弥。

ミドルネームに‘モンスター’を持ち、日本ボクシング史上最高傑作と呼ばれて居る、現・世界スーパーバンタム級四団体統一チャンピオンだ。

四団体(WBA・WBC・IBF・WBO)統一チャンピオンと謂うことは、この階級(スーパーバンタム級)には、井上選手以外の王者は存在しない証明なのだ。

 

そればかりではない。この、日本ボクシング史上最高傑作は、パウンド・フォー・パウンドランキング(異なる階級の選手を比較・対比する方法)に於いて、日本人初の1位に輝いたのである。

世界中が、井上尚弥選手を世界一の王者と認めた訳なのだ。

 

更に井上選手は、階級を3回も上げ4階級(ライトフライ級からスーパーバンタム級・実質は5階級)で王者と為って居るのだ。

ボクシングの階級は、僅か2kg弱程度の差しかない。しかし、その差は多変大きいと謂える。

 

一般人に例えるのは少々難しいが、10日間の断食ダイエットをしたとしよう。誰でも、完全に身体を絞り切ることが出来ることだろう。

その絞り切った身体で、更に2kgの減量を試みたら可能だろうか。

プロのボクサーは、それ程の減量を常としているのだ。

 

だから、ボクシングに於いて、階級を一つでも上げると謂うことは、並大抵のことでは無い訳だ。

僅か2kgでも、階級を上げるとスピードは落ちるし、相手のパワーは違って来るし。

それを、5階級に亘って為し遂げている井上尚弥チャンピオンは現在、唯一無二の存在と謂っても過言では無かろう。

 

 

では何故、チャンピオン井上の王位継承が危ぶまれているのか。

 

理由は簡単だ。

井上尚弥チャンピオンが強過ぎ、相手が居ないのだ。骨の有る対戦相手とは、ことごとく勝って仕舞って居るのだ。

 

勿論、井上チャンピオンの王位を継承しようとする者は居る。

しかし、目ぼしい実力を持つ者は、押し並べて絶対王者との対戦を避け、井上選手とは違う階級のチャンピオンを狙って居るのが実情だ。

 

これでは、井上チャンピオンの王位は、順調に継承されるとは言い難い。

勿論、井上尚弥選手もアスリートである以上、体力の衰えが訪れる時が必ず来る。引退する時期だって、必ずやって来る。

永久に王位に留まることは出来ないのだ。

 

 

将来、井上尚弥チャンピオンの次のチャンピオンが、必ず生まれる。

ボクシングは興行、それも巨大なマネーが動く世界だ。王位の空白を、極力無くす様、興行界も務めることだろう。

 

但しこうした、王者引退に伴い誕生した新チャンピオンは、真の継承者感が薄いのは事実だ。

王者を倒して継承した訳ではないからだ。

 

 

しかも、井上尚弥選手の次の王者は、そのテクニックやスピードを継承した訳では無いのだから。

 

 

井上尚弥チャンピオンは今や世界で唯一人、継承者に悩んでいる王者だ。

 

 

もっともその結果、私の様な長年のボクシングファンは、もう暫くの間、日本ボクシング史上最高傑作の圧倒的防衛戦を観ることが叶いそうだ。

 

そして、井上尚弥選手の強さを、語り継ぐ役目は短くて済みそうだ。

 

 

これからも、モンスター井上尚弥チャンピオンから、目が離せない。

 

 

 

 

 

〈著者プロフィール〉

山田THX将治(天狼院・新ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役

幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余

映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を45年に亘り務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る

これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿

ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている

本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」

映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり

Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載

続けて、1970年の大阪万国博覧会の想い出を綴る『2025〈関西万博〉に伝えたい1970〈大阪万博〉』を連載

加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する

更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている

天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion

 

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2025-12-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.335

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