師走の誕生日はせっかちが生まれる⁈
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 伊東 綾子(2025年11開講コース)
私はとてもせっかちだ。歩くのも早いし、結論を出すのも早い。考察する時間が極端に少ない。まるで生き急いでいるかのようだ。
これはもう、生まれた時から、いや生まれる前からだったらしい。
師走の夕方、病院へ向かうタクシーの中で、すでに頭が出ていたというのだから。
私が誕生日を伝えると、だいたい決まって「年末の忙しい時に」と返ってくる。12月29日は学校も会社も休みに入っていて、部活や塾もお休み。友だちに会えるかどうかは、こちらが積極的に動くかどうかにかかっている。
田舎がある子は帰省してしまうし、私には帰る田舎がない。
実家の両親は、お正月の行事を何より大切にしていて、年末は大掃除が最優先だった。家中の窓ふき、障子の張り替え、キッチン、トイレ、風呂、各部屋の掃除を徹底的にやる。冬だというのに窓を全開にし、朝からテキパキと動き続ける。
夕方になると今度は台所でおせちの下ごしらえが始まる。父は手先が器用だから、ゆず巻き大根を担当。
そんなはずはないのに、誕生日を盛大に祝ってもらった記憶がない。クリスマスは、ぶら下げた靴下にお菓子が入っていた思い出があるのに。母は家族の誕生日には必ずお赤飯を炊く人だから、きっとお赤飯と近所の不二家のケーキはあったのだろう。
私が家を出てからは「同じ小豆ならお汁粉がいい」とお願いし、お赤飯の代わりにお汁粉を作ってもらっていた。大掃除の合間に、重い鉄の大鍋でコトコトと煮てくれる。私は一杯を実家で食べ、残りは容器に移して持ち帰る。
サンタはいないと分かった頃から、プレゼントはクリスマスと誕生日が一緒になった。でもそれはそれで私にも都合が良い。ちょっと高価なものをねだれるからだ。
誕生日を祝うことに人一倍こだわっていると自覚したのは、つい数年前。
365日のうちの1日で、「特に何もしない」という人が一定数いることに驚いた。私にとって誕生日は、ただ年齢が増える日ではない。誰と過ごすか、何をするかを考えること自体が楽しい。
それは友だちに対しても同じで、今日が誕生日だと知ると必ず「おめでとう」を送る。頭の中にある数人の誕生日は、何年も会っていなくてもメッセージを入れる。年賀状みたいなものだ。最近は、ほんの気持ちのギフトがメールなどで簡単に送れるから便利だ。
自分がしてもらったら嬉しいから、相手が喜ぶ顔を想像して、ついニヤニヤしてしまう。
さて、今年の誕生日は、楽しみにしていた予定が数日前になって狂ってしまった。自分が思っている以上にがっかりしている。ダメージの大きさに、むしろ私のほうが驚いている。仕方がないのは分かっているし、どうにもならないことも理解している。それでも胸の奥に、煙のようなモヤモヤが残り、いつまでたっても消えない。
深呼吸をしたり、身体を動かしたり、忘年会で人と賑やかに過ごしている間は忘れられるのに、ふと一人になるとまたモヤモヤが湧き上がってくる。
当日の朝、オンライン朝活のメンバー五人に、今日が誕生日であること、この一年は自分と向き合ってきたことなどを正直に話した。するとみんながミュートを外して「おめでとう」の言葉と、ハッピーバースデーを歌ってくれた。
胸がいっぱいになり、涙がこぼれた。嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。心の中のつかえがすっと消えて、浄化された気がした。
私は、寂しかったのかもしれない。本当は自分の誕生日を「特別な日」として家族に祝ってほしかったのに、クリスマスのすぐ後だし、お正月の準備もあるし、と子どもなりに察して我慢してきたのだろう。だからこそ、誕生日に過敏に反応するのかもしれない。
せっかちな私が、この日だけはじっくりと味わいたい。
その後、私は大事な人に、誕生日を迎えたことと感謝のメッセージを送った。正直、感謝を伝えるのは恥ずかしいし怖い。今まで照れ隠しで避けてきたから、急にそんなことをしたら「何かあった?」と勘違いさせてしまうかもしれない。
それでも送った。すると数時間後、母から返信のLINEが届いた。
『生まれて来てくれて本当に有難うね。
赤ちゃんの頃からずーっと可愛い可愛いって人気者だったのよ。特に幼稚園の先生方から良くしてもらい、母親としても自慢の娘でした。
私たちは年を重ねて体力が衰えてきました。
これからは(兄)と綾子ちゃんが頼りになります』
ああ、嬉しい。自分が感謝を伝えられたことと、それにちゃんと母が応えてくれたことが嬉しい。またポロポロと涙がこぼれた。
母はよく、私が幼稚園児のころの夢を見るという。母が私に電話をしてくる日は、たいてい私の夢を見た後だ。ちゃんとやっているか、何か悩んでいることはないか、娘が何歳になってもきっと心配なのだろう。
誕生日を誰かに祝ってもらうことは、特別扱いされたいという欲だけではなく、自分の存在を確かめたいのかもしれない。
誰もがせわしない師走の誕生日は、ゆっくり自分を見つめる練習の日にしよう。
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