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友人はつくるのではなくできるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

 

 

記事: 木藤奈音(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

 

「友だちになりたいと思える人に会えへんのは、結局自分がしょうもない人てことやろ?」

 大学時代の同級生に、新しい友人ができないことを愚痴ったときに言われました。うっ……。

 

 社会人になって数年経った当時、自分の世界がどんどん小さくなり始めていると感じていました。激務の業界に転職、上京。学生時代の友人とのつながりも薄くなり、職場と自宅の往復の毎日が続きました。たまの週末も仕事か疲れてグッタリ。このままでは仕事をとったら何も残らない人になってしまう! と、危機感を感じていたのです。

 知り合いを増やそうと、あれこれ交流会やオフ会に顔を出してみるのですが、なかなか次に繋がりません。

例えば。

 もと同僚に誘われた食事会では、実はネットワークビジネスの集いで、健康診断の数値がアレで治った、というプレゼンがいきなり始まりドン引き……。

 知り合いのスクール経営者に誘われた交流会は、事業機会を探す人ばかりで、ビジネスを持たない自分はスルーされ……。

 外資系のホームパーティに誘われたものの、英語のコメディ番組を理解することができず酔い潰れ醜態をさらし……。

 いつも「この場から逃げ出したい」と感じるばかりだったのです。自分には社交の才能は全くないのだなと思い知らされていたのでした。

 同級生に数年ぶりに再会したのは、そんなタイミングでした。

 彼女は激変していました。学生時代はカジュアルな服中心だったのが、アルマーニを上品に着こなしていました。仕事も変えたそうです。学生時代から住んでいた閑静な住宅街を去り、都心のサービスアパートメントに引っ越していました。

『ちょっと思うところあって、今までの自分の生活をリセットやねん』

 そう語る彼女の近況は、詳しくは書けないもののとてもドラマチックに聞こえました。そんな彼女に相談すれば、現状を変えるヒントがもらえると思いました。私が悩みを一通り話し終えたあと、彼女はこう言いました。

「友だちほしいって、どんな関係性をイメージしてるん?」

「……それは、たとえば、いろんなことを話せるとか、一緒に遊びにいったりとか、悩みの相談をしたりとか」

「いい大人にとって、そういう存在は家族や恋人やね。そんな人、単発の場でよう見つからんわ」

「だから、たくさん打席にたってバットを振っているんだよ」

 かけるべき言葉を探すこと、数分。彼女は大きな瞳をまっすぐ向けて言いました。

「ナオナオ(私のことをいつもこう呼ぶ)は、才能がある人なのに、自分とは違う誰かになろうとしてへん? しょうもない人にはしょうもない人しか寄ってけへんで。友だちになりたいと思える人に会えへんのは、結局自分がしょうもない人てことやろ?」

「う、うん……」

 よっぽど私が納得いかないという顔をしていたでしょう。彼女は続けます。

「うまくいかへんときは、私やったら一度撤退やな。自分を見つめて、自分の人生に集中して、それから神仏に祈るわ」

 でも、そんなことしたら、全然世界が広がらない。そういいかけて口を閉じました。

 

 彼女と別れて帰宅する途中、あの言葉がぐるぐると再生されます。

 とても辛辣で、正直傷つきました。けれども、学生時代からの付き合いです。彼女が私のことを考えてくれたからこそ、率直にアドバイスしてくれたことは十分伝わりました。ここまでリスクをとってくれる友人なんて、なかなかいません。

 電車には会社の同僚と思しきグループがいました。まだ入社間もない学生気分を残した顔。同期会の帰りといったところでしょうか。みんな楽しそうに見えました。

 他の座席を見渡すと、女性3人が揃いの紙袋をもっておしゃべり。映画か観劇の帰りでしょうか。

 誰かと他愛ないことでおしゃべりしたいなあ。ぼんやりとそんなことを思いました。

 そのとき、着信音がなり、アプリにメッセージが入りました。開いてみると、もと同僚です。

『ひさしぶりー。また、みんなでゴハン食べようという話が出ているよ。今度はステキな一軒家を借り切って、ホームパーティ。女性だけだから遠慮は無用よ。ゲストをお呼びして、女性の心身や仲間を構築するために役立つ話をしてもらう予定』

 しばらく、チャットの画面を眺めていました。これまで何度も訪れた「何か、違う」という感覚。講話のテーマ『仲間を構築するために役立つ話』は、今の私に必要なはずなのに、なぜだか心が動かないのです。

『自分とは違う誰かになろうとしてへん?』

 私は、何になろうとしていたのでしょうか。どうしたかったのでしょうか。

 たくさんの「友だち」に囲まれて、他人に大切にされる自分になりたかった?

 社交の場でスマートにふるまえる自分になりたかった?

 残念ながら、どれも素の自分とは程遠く思えました。一瞬だけそうなれたとしても、すぐにメッキははがれるでしょう。そんな姿は、自分とはいえません。

 こうチャットを返しました。

『ごめんね。今は自分に集中したい時期なので、遠慮しときます。盛会を祈ってます!』

 友人づくりは撤退です。次はどうしましょうか。私は手帳を開きました。以前作成した「やりたいことリスト」を眺め続けました。

 

 あれから約10年たちました。いろんなライフイベントを経て、いい年になりました。

 現在、友人をつくろうとはしていません。人脈づくりを目的とする会合には何年も出ていません。 

 あんなに悩んでいたのに、いつの間にか解決していたのです。家族や親せき絡みでやることが増えたせいもありますが、趣味や武道の仲間、社外研修での同期生など、人との出会いに恵まれたことにあります。

 あれから、友人づくりを脇に置き、自分がやりたいこと、やるべきことに取り組みました。趣味のイベントや武道の稽古にちゃんと参加し、仲間と交流することから始めました。社交の場では相変わらずうまく振舞えませんが、イベントや稽古を楽しみ上達することができるので苦になりません。

 人との関係で気を付けたことは、最初の段階で他人をジャッジしないようにしました。適度な距離感を保ち、共通の話題を中心に話をするようにしました。もともと目的をもって参加するコミュニティなので、共通の話題はいくらでも思いつきます。そして、あいさつと丁寧な態度をこころがけ、可能な限り顔を出すようにしました。こうして、ゆっくり時間をかけて、構えずにおしゃべりする相手を増やしていきました。

 「友人をつくりたい」と考えなくなりました。

 むしろ、「友人をつくることはできない」とさえ考えるようになりました。

 自分は大勢の中で、初対面の人と素早く打ち解けることはできません。けれども、自分がその場を心から楽しみ、誠実に取り組んでいると、いつの間にか「友人ができている」のです。

 人間関係は、花を育てるのに似ているのかもしれません。今の私の状態が満開の花なのか、つぼみなのかはわかりません。けれども、人間関係とはコツコツ時間をかけて積み上げていくものだと、ようやく思えるようになりました。私はまだ水を遣ります。明後日には、旅行のお土産をもって、いつもの道場に行く予定です。

≪終わり≫

 

 

 

 

 

 

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